高校生、戦国を生き抜く

神谷アキ

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2、居候が3人

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「それでなんだが、お願いがあるんだ。俺たちをこの宿に泊めて欲しい。ただ、金が足りないから払えるようになるまで待って欲しいんだ」


 もともとあまり部屋数は多くないのに、ただで泊めてくれるのか。これだと踏み倒しをする人の典型的な決まり文句に聞こえる。
 お兄さんの反応を伺っていると、意外な言葉を口にした。


「ああ、べつにいいぜ」

「いいんですか!?」


 あまりにあっさり承諾してくれて動揺してしまった。俺たちが部屋を使うとその分収入が減ってしまうのに。


「俺たちは鉄に恩があるしな。少し宿代をただにするくらいはいいさ」

「え、鉄何したの?」


 尾張にいた時に何かしたのだろうか。俄然興味が湧いてしまった。ワクワクした表情で待っていると、俺の顔を見たお兄さんは軽く笑ってその時のことを話してくれた。


「1年前、俺と鉄は宿屋の息子と普通のお客さんって関係だったんだ。少し長めに泊まっている奴だなって印象しかなかった。けどな、ある夜に酔った宿泊客が乱闘騒ぎを起こしたんだ。備品を投げたり壊したりして。こっちからしたら最悪だろう?」

「は、はは……」


 本来なら災難でしたね、とか大変でしたねって声をかけるべきなのかもしれない。でも、俺は引きつった笑い声しか上がららなかった。

 だって、斎賀の宿に泊まろうとしたときに人が襲って来て部屋めちゃくちゃだったもん。そこまでじゃなかったけど、部屋に血もついちゃっていたし。壁なんか刀のかすったような跡まであったよ。
 そこを出てくるときなんて、どの宿泊客も宿の人も遠巻きに見るだけで何もいってこなかった。


 (宿の人に謝って出て来ればよかったな……。)


 あの部屋は当分使い物にならないはずだ。遠い目をして回想しながら話を聞く。


「どうやって止めようか悩んでいると、そこに鉄が出てきたんだ。乱闘している部屋に行くと、その人たちを静かにさせてくれた。お礼をしようとしたら、うるさくて眠れなかったから黙らしただけってさ。そこからよくしゃべるようになったんだ」

「あー、徹夜の依頼で疲れてる時に騒いでたな。うるさかったわりには弱っちい奴らだったよ」


 鉄からしたらうるさい人たちを黙らしただけで、お兄さんからしたら立派な人助けだったのか。でも、そのおかげで今助かってるから鉄に感謝しないと。


「ということで、部屋に案内するぞ。あと、お金が払えるようになるまでってどうするんだ?」


 部屋に向かって歩きながらお兄さんの質問に答える。
 俺としては、チャーハンを作って売ろうと思っていること。でも鉄はあまり賛成してくれないことなどを話した。
 すると、お兄さんが魅力的な提案をしてくれた。


「じゃあさ、この宿の道具と材料使っていいから作って見ろよ。本当に他の人が言ったようにおいしかったらここの道具を貸してやる」

「ほんとですか!」

「いいのか?」

「ああ、興味あるしな。じゃあこのまま行くか」


 台所に入ると、やっぱりお城よりは狭いけどお婆ちゃんとお爺ちゃんの家よりは道具が多い。認めてもらうためにも気合入れて作るか!

 まずはパラパラ食感を作るための下準備をする。ここが結構大事だ。お店だと火力を強くしてできるけど、この時代は火の調節は難しい。

 だから、料理の前に玄米を水洗いする。そうするとよりパラパラ食感に近づくってキッチンのバイト仲間に教わった。

 フライパンのかわりに鍋に切った野菜、玄米を入れる。村では普通だったけど、お城は白い米で美味しかったなぁ。それに卵を入れたいけど、ここだと新鮮な卵なんてほぼ手に入らないだろうし。
 手早く炒めて、後は調味料をちょこっと付け足せば完成だ。


「できた!」

「思ったより簡単そうだ」

「これは玄米を焼いたのか?」

「少し違うな。ま、いいから食べてみてよ」


 3人分にわけてチャーハンをよそる。食べてみると、ほぼ野菜と玄米だけでもしっかりした味がある。
 2人の反応を見ても成功のようだ。


「これはうまいな」

「敏之が言っていただけはある」


 鉄! 俺があんなに言ったのは信じてなかったのか!? あんなに説明したのに、と少しむくれているとお兄さんがお箸を置いた。


「予想以上だった。この、ちゃあはんだっけ? 明日からでいいなら道具を貸すよ。売るための簡単な台とかは用意してやる。あとは自分たちでなんとかしな」

「やった! ありがとうございます! 鉄、これでもう嫌とは言わせないからな!」


 得意料理でお金が稼げることが嬉しい。台まで貸してくれるとは。明日からだけど、初めてここに来てから仕事といえるものを見つけた。


「よし、じゃあ詳しいことは部屋で決めるぞ! 鉄とお兄さんも早く!」


 テンションが上がって早く早くと2人を急かす。俺はこの時、すっかり追手のことを忘れてはしゃいでいた。


ーーーーーーーーーー


 斎賀の宿で、2人の人影が話し合っていた。


「宿に向けた刺客がやられたそうだな」

「ああ。3人ともやられていたが、命に別状はなかった」

「田辺真人がいない時に踏み込んだが、あの忍びが思いの外強かったと報告していたな。相手はほぼかすり傷だ」

「我らのことを知られては困る。無事に八津左からの追手と思わせることは出来たのだよな?」

「そのはずだ。証拠に、城に戻らずに八津左と反対の方角に行ったのが目撃されている」

「あの2人がいない今が絶好の機会だ。これで二郎丸様を次期当主にできる」

「敏之様への刺客は?」

「すでに依頼してある。あの失敗した依頼はないと評判の南部だ」

「なんと、南部に守られていたお方を南部で終わらせるとは。なんとも皮肉なものだ」


 夜の不気味な静かさの中、2人の笑い声だけがその場に響いていた。
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