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2、居候が3人
37、職人のおじさんside
しおりを挟む珍しく真剣な表情で頼み事をして去っていったあいつを見送る。
普段はダラダラとおしゃべりだけをして帰っていくから、あんなに真剣な表情は見たことがなかった。そう思いながら横に立っている坊主を見る。どう見たって厄介ごとだ。
どこかで擦ったのか所々汚れてはいるが、明らかに新品の服だ。あいつはお城に住んでいると言っていたから、この子もお偉いさんの子供なのだろう。
「何があったのかは聞かねぇが、仕事はしてもらうぜ。とりあえず中に入れ」
「わかった」
不安そうな顔をしつつも気丈な振る舞いをする坊主を見る。人に見られないとなると、外に出さないで掃除や片付けをやらせるのが1番か。はぁーとため息をつきながら頭をガシガシとかく。
わしはこんなことを頼んできたあいつと、初めて会ったときのことを思い返した。
第一印象は、とにかく変な奴だと思った。
奇妙な格好をしてたびたび聞いたことない言葉を話す。何も無いところに立っていたが、その時は変わり者が仕事をサボっていると思っていたから全く気にもしていなかった。
今のような関係になったのは数ヶ月経ってからだ。いつものように休憩がてら街を歩いていると、服装は違うが見知った顔があった。
わしが驚いて声をかけるとあっちも気づいて少しの間だけ立ち話をした。
すっかり忘れていたが、もし会ったら服のことを聞きたかったのだ。まさかまた会うことがあるなんてな。せっかくだからと自分の工房に連れて行き、そこでも話が弾んで頭から服のことは消えていた。
そして、あいつがたまに工房に来るようになってからの話だ。その日は誰か知り合いと歩いてきたらしく、新顔がいた。ぴしっと服を着てどことなく品のある佇まいだった。
いつものように中に入れようとしてふと気付く。何年か前に見たことがある顔だ。その時はまだ今よりも小さくお父さんの横にちょこんと座っていた記憶がある。
斎賀で工芸品を作っている職人を呼びつけ、お殿様が価値を認めてくれた時のことだ。
気づいた瞬間、あいつに問いかけた。この人と知り合いなのか、と。するとなんでもないことのように言ってきたのだ。
「俺、敏之と一緒に住んでいるんだ。っていっても毎日2時間くらいしか仕事が無いから、ほぼ敏之の部屋とかでおしゃべりしたり縁側で寝てたりするんだけど」
「し、城に住んでいるのか?」
「うん。あれ俺さっきお城って言ったっけ?」
なんだこれは。最初は奇妙な服を着てたし、いつも仕事をさぼってわしの所へ来ていると思っていたが違うのか? なぜお城に住んでいる? しかも次期ご当主様を呼び捨てにして。
わしは今まで真人と接してきた自分の態度を思い出し、慌てて今できるお詫びの品を献上しようとした。
だが、いらないと言って受け取ろうとしないうえに今まで通りの接し方でいいと言った。あの2人の態度から斎賀家の家臣という関係でもなさそうだし、正体が謎だ。
衝撃を受けながらもここに来る頻度はかわらず、月に2、3回ほどの割合で会っていた。
「なんかさー、茶器とかって作っていないの? 物によってはすごい価値が出ていたはずだけど」
ある時、仕事をしながら話を聞いていたわしにあいつがそう言った。俺は似たようなものを作ってはいるが、茶器は少ししか作ったことがない。あの時は聞き流していたが、少し経ってから余った材料を使って作ってみた。
どんなに試しといっても、職人が作るからには全て売り物を作る気持ちでなくてはいけない。
それが職人として、物をつくる誇りだからだ。1度作り出してしまうと、納得のいくものができるまでいくつも作ってしまった。
置き場所に困って工房に放置していると、通りがかりの商人がやってきた。外から工芸品が見えたんだと。
話を聞いてみると、どうも買いたいのはいつも作っているものではなくて茶器のようだ。何回も作り直したから自信作ではあるが、売れるとは思ってもみなかった。
本当にいいのかと商人に確認していると、俺が売り渋っていると思ったのか法外な値段をつけてくる。
よくわからないままその時は売ってしまったが、後日また同じ商人が来た。
「あなたの作った茶器が繊細で品があると評判だったのです。また作ったら私に売ってもらえますか?」
なんと作った茶器に人気が出たらしく、俺と今後も取引をしたいらしい。話を聞くと尾張からやってきたそうだ。
織田何とかって言うお武家様は今話題に事欠かないようだし、景気がいいんだろう。
あいつはこれを見越していたのか?……いや、ふだん水を飲んで「ふいー」と言っているやつがこれを見越していたとは到底思えん。
だが、あいつ……真人の言ったことのおかげで生活が楽になったのも事実だ。
今回は今までの礼にちょっくら助けてやるか。
「おい、坊主のしっているあいつはどんなやつなんだ?」
城に住んでいると言う普段のあいつについて聞きながら、片付けの仕方を教えることにした。
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