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2、居候が3人
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町の中を駆け回り、空いている宿を1つ見つけた。あまり混んでいると、他のお客さんと鉢合わせしたときに顔を覚えられてしまうかもしれない。
鉄は城下町にたくさん行っているからね。武士に尋ねられたら、ほとんどの人は答えてしまうだろうし。
だからできるだけ宿泊客の少ないところを探して泊まった。
「はあ、やっと一息つける」
「追っ手は来てる?」
「いや、多分来ていない。しばらくここでじっとしていた方がいいだろう」
畳の上に足を投げ出して座る。でも、これからどうしよう。捕まると思って、何も持たずに逃げ出してきた。完全に無一文だ。
「鉄、お金はある?」
「この宿に3日は泊まれるくらいの金はある。だが、逃げているばかりだといずれ捕まる。あと気付いているか? 今回重孝と一緒に出てきた時点で、本当に重孝を連れ去ったことになるぞ」
「は?」
鉄の言葉を聞いて、顔からサーと血の気が引く。そうじゃん、お城を出たとき、重孝は鉄にかかえられていたんだよね? 立派な連れ去りじゃん!
イヤーッと、まるでどこかの絵画のような顔をする。一応確認のために、重孝に聞いた。
「重孝、本音で答えていいからな。もしかして、家族もいるし八津左に戻りたかった?」
そう聞くと、ぶんぶんと頭を振る。良かった、俺が無理やり連れてきたわけじゃなかった。
「俺、ここが楽しいしもう少しいたい。勉強は嫌だけどちゃんと算学はやってるもん。ちゃんと帰るから、今はまだ帰りたくない」
「よく言った重孝!」
もし家臣の人たちが捕まえにきても、今の言葉を話してもらえれば連れ去り罪人ではなくなるよね? 頭をワシワシ撫でながら考える。
「逃げてばかりだと捕まるんなら、こっちから何か仕掛けないといけないの?」
「ああ。こいつはこんなでも次期当主だからな。全力で取り返しにくるだろうぜ」
「うっわぁ……。勝てる?」
「微妙だな。戦えるのが俺しかいないのがきつい。それに、重孝がケガをしてしまったら大変だ」
「どこか安全な場所ないかな……。あ、前にお世話になってたお婆ちゃんとお爺ちゃんの家があるけど……。もしそこが見つかっても、あの2人は逃げれないし巻き込んじゃうのは嫌だ……」
「信用できるところとなると……」
「あっ! 職人のおじさん!」
「誰かいるのか?」
「うん、ときどき城下町に来た時による場所があるんだ。工芸の職人さんで、あの人は信用できる。ただ、巻き込んでしまうことが心配なんだけど……」
「じゃあ、そこはお前ら2人でいけ。相手は3人組をさがしているはずだ。それに、何度か行っているお前なら、不思議に思われないだろう。そこで重孝を匿ってもらえ。俺たちはしばらくこの宿に泊まる。そうすれば、狙われるのも多分こちらだ」
狙われるのは嫌だけど、重孝を安全なところに避難させる方が大事だ。それに、その方が動きやすい。
「わかった。早速行ってくる」
「ああ、気を付けろよ」
「重孝、いい? 今から行く人たちは信用できる」
鉄に頷きかえし、最後にもう1回重孝に聞く。不安だろうに、しっかりと頷いてくれた。
「じゃあ鉄も気をつけてな」
手を振って送り出す鉄を見てから、工芸のおじさんのところへ行く。この間に2人で設定を決める。
「なあ、本名はまずいから重孝から2文字を取って、しげって名前にしよう。あと、俺とは親戚な」
「わかった。どんな人だ?」
「威勢のいいおじさん。でも、何かあっても守ってくれると思う」
そんなことを話すうちに、おじさんの作業場に着いた。表にはいないから奥にいるのかな。
「おじさーん、いる?」
「なんだー?」
呼びかけると、返事が帰ってきた。よかった、居るみたいだ。少したつと、汚れているが作業着らしきものを着て出てきた。
「お、久しぶりじゃねーか。新顔がいるな」
「うん、今回はおじさんにお願いがあって」
「なんだ? 珍しいな」
お願いと聞いてガッハッハと笑っている。笑う要素なんてあっただろうか。
「手伝いはなんでもするから、この子をここに置いて欲しいんだ。名前は、しげ。俺の親戚なんだ」
「急だな。それにしげなんて珍しいな」
確かに急だ。それに、名前もさっき適当に決めたから……。誰かのあだ名とかにいそうだよな。
「いろいろあって、しばらくここに置いて欲しい。あと、できるだけ人前には出さないで」
真剣な表情でそういうと、おじさんの顔が変わった。しげの頭を押さえて、一緒にお願いする。
「ほら、しげもお願いしろ」
「お願いします」
おじさんはじっと俺たちを見ていたが、ニッと笑うと俺の肩を組んだ。
「なんだ、訳ありか? いいぜ、お前さんにゃ稼がせてもらってるからな。ほら、そっちの坊主こっちに来い」
「稼ぐ?」
「いいからいいから。お前さんはここにいなくていいのかい?」
「うん、もう1人いるから。あともう1つあって、もし誰かにしげのことを聞かれても何も喋らないで。ただ、敏之と名乗る人が来たらこの質問して。俺の大好物でご飯にかけて食べるものはって。チーズって答えられる人は、信用できる」
「ん? なんだ、敏之ってやつでご飯にかける好物はちーずって答える奴は信用できるんだな? わかった、任しとけ」
「ありがとう、おじさん! しげもちゃんということを聞けよ!」
走りながらそう言い残して去っていく。あの様子なら大丈夫そうだ。早く鉄のところに帰らないと。
誰かついてくる人がいないかを確認しながら、宿に走って行った。
鉄は城下町にたくさん行っているからね。武士に尋ねられたら、ほとんどの人は答えてしまうだろうし。
だからできるだけ宿泊客の少ないところを探して泊まった。
「はあ、やっと一息つける」
「追っ手は来てる?」
「いや、多分来ていない。しばらくここでじっとしていた方がいいだろう」
畳の上に足を投げ出して座る。でも、これからどうしよう。捕まると思って、何も持たずに逃げ出してきた。完全に無一文だ。
「鉄、お金はある?」
「この宿に3日は泊まれるくらいの金はある。だが、逃げているばかりだといずれ捕まる。あと気付いているか? 今回重孝と一緒に出てきた時点で、本当に重孝を連れ去ったことになるぞ」
「は?」
鉄の言葉を聞いて、顔からサーと血の気が引く。そうじゃん、お城を出たとき、重孝は鉄にかかえられていたんだよね? 立派な連れ去りじゃん!
イヤーッと、まるでどこかの絵画のような顔をする。一応確認のために、重孝に聞いた。
「重孝、本音で答えていいからな。もしかして、家族もいるし八津左に戻りたかった?」
そう聞くと、ぶんぶんと頭を振る。良かった、俺が無理やり連れてきたわけじゃなかった。
「俺、ここが楽しいしもう少しいたい。勉強は嫌だけどちゃんと算学はやってるもん。ちゃんと帰るから、今はまだ帰りたくない」
「よく言った重孝!」
もし家臣の人たちが捕まえにきても、今の言葉を話してもらえれば連れ去り罪人ではなくなるよね? 頭をワシワシ撫でながら考える。
「逃げてばかりだと捕まるんなら、こっちから何か仕掛けないといけないの?」
「ああ。こいつはこんなでも次期当主だからな。全力で取り返しにくるだろうぜ」
「うっわぁ……。勝てる?」
「微妙だな。戦えるのが俺しかいないのがきつい。それに、重孝がケガをしてしまったら大変だ」
「どこか安全な場所ないかな……。あ、前にお世話になってたお婆ちゃんとお爺ちゃんの家があるけど……。もしそこが見つかっても、あの2人は逃げれないし巻き込んじゃうのは嫌だ……」
「信用できるところとなると……」
「あっ! 職人のおじさん!」
「誰かいるのか?」
「うん、ときどき城下町に来た時による場所があるんだ。工芸の職人さんで、あの人は信用できる。ただ、巻き込んでしまうことが心配なんだけど……」
「じゃあ、そこはお前ら2人でいけ。相手は3人組をさがしているはずだ。それに、何度か行っているお前なら、不思議に思われないだろう。そこで重孝を匿ってもらえ。俺たちはしばらくこの宿に泊まる。そうすれば、狙われるのも多分こちらだ」
狙われるのは嫌だけど、重孝を安全なところに避難させる方が大事だ。それに、その方が動きやすい。
「わかった。早速行ってくる」
「ああ、気を付けろよ」
「重孝、いい? 今から行く人たちは信用できる」
鉄に頷きかえし、最後にもう1回重孝に聞く。不安だろうに、しっかりと頷いてくれた。
「じゃあ鉄も気をつけてな」
手を振って送り出す鉄を見てから、工芸のおじさんのところへ行く。この間に2人で設定を決める。
「なあ、本名はまずいから重孝から2文字を取って、しげって名前にしよう。あと、俺とは親戚な」
「わかった。どんな人だ?」
「威勢のいいおじさん。でも、何かあっても守ってくれると思う」
そんなことを話すうちに、おじさんの作業場に着いた。表にはいないから奥にいるのかな。
「おじさーん、いる?」
「なんだー?」
呼びかけると、返事が帰ってきた。よかった、居るみたいだ。少したつと、汚れているが作業着らしきものを着て出てきた。
「お、久しぶりじゃねーか。新顔がいるな」
「うん、今回はおじさんにお願いがあって」
「なんだ? 珍しいな」
お願いと聞いてガッハッハと笑っている。笑う要素なんてあっただろうか。
「手伝いはなんでもするから、この子をここに置いて欲しいんだ。名前は、しげ。俺の親戚なんだ」
「急だな。それにしげなんて珍しいな」
確かに急だ。それに、名前もさっき適当に決めたから……。誰かのあだ名とかにいそうだよな。
「いろいろあって、しばらくここに置いて欲しい。あと、できるだけ人前には出さないで」
真剣な表情でそういうと、おじさんの顔が変わった。しげの頭を押さえて、一緒にお願いする。
「ほら、しげもお願いしろ」
「お願いします」
おじさんはじっと俺たちを見ていたが、ニッと笑うと俺の肩を組んだ。
「なんだ、訳ありか? いいぜ、お前さんにゃ稼がせてもらってるからな。ほら、そっちの坊主こっちに来い」
「稼ぐ?」
「いいからいいから。お前さんはここにいなくていいのかい?」
「うん、もう1人いるから。あともう1つあって、もし誰かにしげのことを聞かれても何も喋らないで。ただ、敏之と名乗る人が来たらこの質問して。俺の大好物でご飯にかけて食べるものはって。チーズって答えられる人は、信用できる」
「ん? なんだ、敏之ってやつでご飯にかける好物はちーずって答える奴は信用できるんだな? わかった、任しとけ」
「ありがとう、おじさん! しげもちゃんということを聞けよ!」
走りながらそう言い残して去っていく。あの様子なら大丈夫そうだ。早く鉄のところに帰らないと。
誰かついてくる人がいないかを確認しながら、宿に走って行った。
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