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2、居候が3人
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しおりを挟む俺が鉄の言葉に笑っている頃、城の一室では言い争いが起きていた。
「なぜあそこでしっかり仕留めなかったのだ! これでは、敏之様の名声がさらに上がってしまうではないか! ただでさえ、かなりの高待遇を受けたのだ。鉄砲の技術などほとんどの大名でさえ知らぬと言うのに!」
「申し訳ありません、宣教師の一団が城の門を出るときに矢を放ち、その中の誰かが怪我をすればいいと思ったのですが、避けられてしまったのです!」
「お主の腕前の問題ではなく?」
「はい、本来なら真人殿に化する軌道でした。ですが最近ここに居座っている南部の忍びが、邪魔をしたのです。矢が届く前に地面に伏せて避けられてしまいました」
男は歯をギリギリと言わせながら悔しそうにそう言った。そう、当たるはずだったのだ。
目の前の男が言うように、もし宣教師を怪我させてしまえば敏之様お1人の責任で終わるはずがない。必ず斎賀家全体に被害が及ぶ。だから、敏之様とよく一緒にいる真人殿を狙ったのだ。
敏之様の戦力をそいで、我々の有利にことが進むように。しかし急に出てきた男に邪魔をされてしまい、腹立たしくて仕方がなかった。苛立ちを抑えられないでいると目の前の男がボソリと呟いた。
「あの男……、南部の忍といったか。消すか?」
つぶやかれた言葉に顔を上げ、返事をする。
「はい。我らの障害となり得るものには、それが最適かと」
「そうか。ではその準備を進めろ」
「はっ」
頭を下げながら、男はニヤリと顔をゆがめた。
ーーーーーーーーーー
「ねぇみんなが来たらすぐになくなっちゃうじゃん! 出てってよ!」
「そんなこと言うなって。で、これがちーずとやらを使って出来たものか」
「あ、こら重孝! つまみ食いするな!」
俺は手にお皿を抱えて、俺のものを食べる隙をうかがっている猛獣から料理を守っている。
早く食べないと固まって伸びなくなってしまうのにこいつらは!
「なくなったらもらいに行けばいいだろ?」
「俺はせっかく作ったこれをがっつり食べたかったの!」
今日は、ムーバさんからもらったチーズを使って、卵かけご飯ならぬチーズかけご飯を作ったのだ。チーズを焼いてトロッさせたら、ご飯に乗せる。上にかける醤油を探してたら、溜り醤油というのを見つけてかけたら完成。
簡単なのに美味しくて最高の一品だ。誰にも見つからないように部屋に戻って食べようとしていたら、なんと部屋に二郎丸と重孝がいたのだ。
こいつらはもうすっかり仲良くなり、いつでもどこでも一緒にいる。
2人は遊びに来たなんて言っていたが、タイミングが悪すぎた。俺が持っている料理を見て興味を示し、好奇心がすごくてひと口ずつ味見させたらもっとよこせと言われ、慌てて取り上げたのだ。
ギャーギャー騒いでいるとそれに気づいた鉄と、鉄と一緒にいたらしい敏之もやってきた。俺は早く食べたいのに!
「まーひーとー、それ食べたい! みんなで分ければいいだろ?」
「そんなもったいないことできるか! 何もいじっていない塊があるからそこから持っていけよ!」
「俺はそれが食べたいんだ!」
俺たち3人のやりとりに、鉄と敏之がぼそぼそと話している。
「こいつ、おとなげないな。子どもたちに意地でも食わせようとしないぞ」
「珍しい真人がみれていいじゃないか」
クスクス笑いながら敏之が答える。悪口なら俺に聞こえるように話すなよ! まったく!
「あー、わかったよ! みんなで分ければいいんでしょ、分ければ」
「よっしゃ!」
「最初からそうすればいいと言っている」
なぜ上から目線で言われるのかがわからないが、いつも部屋の外に控えている小姓さんに人数分のお皿を持ってきてもらうように伝える。
幸と言うべきなのか、そうではないのか、俺は1人でたくさん食べようと思って作ってきたので量だけはある。5人で割ってもお碗一杯より少し少なめ程度には残る。
持ってきてもらったお皿によそり、最後に溜り醤油をかけて皆に配る。では、一足先にいただきます。
パクリ、と一口含むとチーズの濃厚でコクのあるうまみとわずかに感じるしょっぱさがとてもおいしい。醤油の味に少し違和感があるけど、俺が求めていたものはこれだ!
「うんまぁ」
あまりの感激につい口から言葉がもれる。周りをみると、敏之は興味深そうに味わって食べ、他の3人は勢いよく口にかき込んでいた。
「こんな不思議なものがあるとは……」
「これ牛の乳をしぼったやつからできるんだよ」
「そうなのか?」
「うん。ねね、これさポルトガルと貿易して取り寄せられない?」
宣教師の人たちは、ずっと1カ所にとどまっているわけではないと聞いた。ムーバさん達がいなくなっても、これは確保しなければならない。今のうちにこのおいしさを敏之に伝えて、南蛮貿易にこれも追加してくれないだろうか?
「でも、何かを取り寄せるにはその分別の何かを売り、まず財を作らねばならない。私たちの領地では、日の本を飛び越えて外の国まで持っていけるような売り物は存在しないよ」
「えー、そこをなんとか……」
「でもそれができるんだったら、これはぜひ取り寄せたいね。見た目が悪いけど、すごく癖になる味だ」
「でしょ? 絶対これは取り寄せるべきだって」
「お、じゃあ取り寄せられるようになったら金平糖もよろしく。俺あれ食べたいんだよな」
「少しならもらったやつがあるから食べる?」
「いいのか!? やっぱり持つべき友は若様だぜ!」
調子の良い鉄を横目で見ながら、おかわりを要求してくる子供2人に言い負け、2度目のチーズかけご飯を作りに厨房へ向かった。
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