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1、戦国時代へ
25、敏之+斎賀軍side
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どうにかして真人を救出できないかと考えていると、伝令がやってきた。
「羽川軍が撤退していきます! 追いますか?」
「なに! 撤退だと!?」
「まだ援軍が来ていない状況で深追いするのは危険だ。撤退するなら話しが早い」
「でもなぜ急に……。罠ではないか?」
「ひとまず深追いは無しだと伝えろ」
「はっ」
羽川軍の撤退理由がわからない。明らかに優勢だったはずだ。何か予期せぬことが起こったか、はたまた何か別の目的を達成したのか……。
「父上、真人が矢を受けてまだそこらに転がされているかもしれません。兵がいなくなったのなら探してきます」
「拙者もお供します」
真人を探しに行こうとすると平尾も来るようだ。仕方がなかったとはいえ目の前で助けられなかったことを気にしているのだろう。
「わかった。早く馬を準備して来い」
「はっ!」
私も自分の馬を引き寄せ、背にまたがる。平尾が戻ってきたところで真人のいた場所に向かった。
「本当にここなのか?」
「はい。そのはずでございますが……」
馬を降り、2人で手分けをして探すが真人が見つからない。総大将を襲った仲間として連れて行かれたのか。
「おそらく真人は連れて行かれたのだろう。しかし総大将を奇襲したやつをなぜその場で殺さずに連れて行ったのか……」
「ですが、田辺殿が連れて行かれたということは生きているということです。八津左に行ったあとはどうなるか分かりませんが……」
「そうだ。真人は生きている。なあ平尾、初日から真人は羽川の兵たちに狙われていた。本人は否定していたが、私よりも真人を選んで襲っていた気がする。そして今回の撤退。何か引っかかると思わないか?」
「話を聞くと、まるで最初から狙いは田辺殿だったように聞こえますな」
「そうだ。でもなぜ?」
「……もしや自国を栄えさせるために? しかし田辺殿は顔を知られていないはず……」
「……平尾、城に戻ったらすぐに真人を救出する手筈を考えるぞ。なぜ拐われたかは後にする」
「承知しました」
あれから城に戻ってきた。今は城に戻ってから2回目の会議に参加している。
「今回また集まってもらったのは、八津左のことだ。先日、八津左も関所を取り払ったと情報が入った」
「八津左が?」
『だが一体どうして……」
「まさか田辺殿が何か伝えたのでは?」
「こちら側のことが全て筒抜けになってしまいますぞ!」
「それはない。真人には斎賀のことに関することはほぼ伝えていない。話すのは元からある自分の知識だけだ」
私がそう言うと、真人を疑っていた家臣達が口ごもる。それをみた父上が口を挟んだ。
「しかしあやつが教えたにしては、ちとおかしい。今関所を廃止して八津左の治安は乱れている。野盗がうろつき、商人なんぞ来るどころが出て行っているらしい」
「ほう、それは……」
「どうした、じい」
感嘆したような声を上げたじいに顔を向ける。何かわかったのか?
「田辺殿はこれを狙っていたのでは……? 八津左は治安の悪化により国力が乱れ、八津左を出てきた商人はもう一つの関所のない国、ここ斎賀にくる。八津左の国力を落として斎賀の力にする。まさしく、あの御仁がしそうなことではないか?」
「おお、それは!」
「あの地にいても斎賀のために」
「なんと志のすばらしい人か……」
これを聞いて私は父上に向き直る。
「父上、真人の救出は必ず斎賀のためになります! ぜひとも、お力添えいただけませぬか?」
平伏し、真人を助けるための助力を請う。しかし、帰ってきたのは質問だった。
「敏之、お前は今まで同世代の友がいなかった。あやつに出会ったことは敏之にとってもいい刺激になったと思っている。だが、公私を混合してはいかん。お前はたった1人しかいない友を助けたいのか? それとも、この斎賀に役立つ人材だから助けたいのか?」
自分のためか斎賀のためか。少し考えたあと、思い浮かんだことを口にした。
「両方でございます。今までの成果からわかるように、城下町をここまで活性化させたのは紛れもなく真人の力です。また、唯一の友としても見捨てる気はありません。自惚れかもしれませぬが、私が同じ目にあったとき真人は必ず助けてくれると信じておりますので」
「ふっ、ふっはっは! そうか! あやつはそこまでの価値があるか! よかろう、手助けをしてやる」
「ありがとうございます」
強く言いすぎたか? まあそれでもいい。真人は当主と知らぬうちから、あの態度だった。まるで同じ身分の友と話す気軽さで話しかけてくる。周りの成り上がり願望の強い人間とは大違いだ。しかも当主と知っても態度が変わらず、二郎丸や瀬奈にまで同じように扱った。
二郎丸や瀬奈も真人には懐いている。瀬奈なんて人見知りなはずが、たまに縁側で一緒に寝ているし、二郎丸は文句を言いつつ算学を学んでいる。
真人は知らないが、二郎丸に算学の師がいないのはどの師の言うことも聞かなかったからだ。授業は出ずに、出たとしても聞いていない。斎賀の息子だからと注意できないで増長していたのだ。
そこで、地位なんて関係なく二郎丸を叱れる存在が真人だった。さらに予想外だったが、算学は知っている上に、私たちの知らない他の高度な知識を多く知っており、雑談さえ身になるのだとか。二郎丸も楽しげだ。
助力してもらえることに安堵してしると、小姓が会議中にも関わらず、障子を開けた。
「た、田辺殿が戻って参りました! ただ、妙なことになっていまして門の前で騒動が起きています!」
「自力で帰ってこれたのか!?」
私が待ちきれずに飛び出すと、平尾もついてきた。そして門の前につくと、知らない2人組と門番が揉めていて、それを真人が仲裁していた。
「なんて人騒がせな……」
声は届かないが、友に一言。
「無事でよかった」
「羽川軍が撤退していきます! 追いますか?」
「なに! 撤退だと!?」
「まだ援軍が来ていない状況で深追いするのは危険だ。撤退するなら話しが早い」
「でもなぜ急に……。罠ではないか?」
「ひとまず深追いは無しだと伝えろ」
「はっ」
羽川軍の撤退理由がわからない。明らかに優勢だったはずだ。何か予期せぬことが起こったか、はたまた何か別の目的を達成したのか……。
「父上、真人が矢を受けてまだそこらに転がされているかもしれません。兵がいなくなったのなら探してきます」
「拙者もお供します」
真人を探しに行こうとすると平尾も来るようだ。仕方がなかったとはいえ目の前で助けられなかったことを気にしているのだろう。
「わかった。早く馬を準備して来い」
「はっ!」
私も自分の馬を引き寄せ、背にまたがる。平尾が戻ってきたところで真人のいた場所に向かった。
「本当にここなのか?」
「はい。そのはずでございますが……」
馬を降り、2人で手分けをして探すが真人が見つからない。総大将を襲った仲間として連れて行かれたのか。
「おそらく真人は連れて行かれたのだろう。しかし総大将を奇襲したやつをなぜその場で殺さずに連れて行ったのか……」
「ですが、田辺殿が連れて行かれたということは生きているということです。八津左に行ったあとはどうなるか分かりませんが……」
「そうだ。真人は生きている。なあ平尾、初日から真人は羽川の兵たちに狙われていた。本人は否定していたが、私よりも真人を選んで襲っていた気がする。そして今回の撤退。何か引っかかると思わないか?」
「話を聞くと、まるで最初から狙いは田辺殿だったように聞こえますな」
「そうだ。でもなぜ?」
「……もしや自国を栄えさせるために? しかし田辺殿は顔を知られていないはず……」
「……平尾、城に戻ったらすぐに真人を救出する手筈を考えるぞ。なぜ拐われたかは後にする」
「承知しました」
あれから城に戻ってきた。今は城に戻ってから2回目の会議に参加している。
「今回また集まってもらったのは、八津左のことだ。先日、八津左も関所を取り払ったと情報が入った」
「八津左が?」
『だが一体どうして……」
「まさか田辺殿が何か伝えたのでは?」
「こちら側のことが全て筒抜けになってしまいますぞ!」
「それはない。真人には斎賀のことに関することはほぼ伝えていない。話すのは元からある自分の知識だけだ」
私がそう言うと、真人を疑っていた家臣達が口ごもる。それをみた父上が口を挟んだ。
「しかしあやつが教えたにしては、ちとおかしい。今関所を廃止して八津左の治安は乱れている。野盗がうろつき、商人なんぞ来るどころが出て行っているらしい」
「ほう、それは……」
「どうした、じい」
感嘆したような声を上げたじいに顔を向ける。何かわかったのか?
「田辺殿はこれを狙っていたのでは……? 八津左は治安の悪化により国力が乱れ、八津左を出てきた商人はもう一つの関所のない国、ここ斎賀にくる。八津左の国力を落として斎賀の力にする。まさしく、あの御仁がしそうなことではないか?」
「おお、それは!」
「あの地にいても斎賀のために」
「なんと志のすばらしい人か……」
これを聞いて私は父上に向き直る。
「父上、真人の救出は必ず斎賀のためになります! ぜひとも、お力添えいただけませぬか?」
平伏し、真人を助けるための助力を請う。しかし、帰ってきたのは質問だった。
「敏之、お前は今まで同世代の友がいなかった。あやつに出会ったことは敏之にとってもいい刺激になったと思っている。だが、公私を混合してはいかん。お前はたった1人しかいない友を助けたいのか? それとも、この斎賀に役立つ人材だから助けたいのか?」
自分のためか斎賀のためか。少し考えたあと、思い浮かんだことを口にした。
「両方でございます。今までの成果からわかるように、城下町をここまで活性化させたのは紛れもなく真人の力です。また、唯一の友としても見捨てる気はありません。自惚れかもしれませぬが、私が同じ目にあったとき真人は必ず助けてくれると信じておりますので」
「ふっ、ふっはっは! そうか! あやつはそこまでの価値があるか! よかろう、手助けをしてやる」
「ありがとうございます」
強く言いすぎたか? まあそれでもいい。真人は当主と知らぬうちから、あの態度だった。まるで同じ身分の友と話す気軽さで話しかけてくる。周りの成り上がり願望の強い人間とは大違いだ。しかも当主と知っても態度が変わらず、二郎丸や瀬奈にまで同じように扱った。
二郎丸や瀬奈も真人には懐いている。瀬奈なんて人見知りなはずが、たまに縁側で一緒に寝ているし、二郎丸は文句を言いつつ算学を学んでいる。
真人は知らないが、二郎丸に算学の師がいないのはどの師の言うことも聞かなかったからだ。授業は出ずに、出たとしても聞いていない。斎賀の息子だからと注意できないで増長していたのだ。
そこで、地位なんて関係なく二郎丸を叱れる存在が真人だった。さらに予想外だったが、算学は知っている上に、私たちの知らない他の高度な知識を多く知っており、雑談さえ身になるのだとか。二郎丸も楽しげだ。
助力してもらえることに安堵してしると、小姓が会議中にも関わらず、障子を開けた。
「た、田辺殿が戻って参りました! ただ、妙なことになっていまして門の前で騒動が起きています!」
「自力で帰ってこれたのか!?」
私が待ちきれずに飛び出すと、平尾もついてきた。そして門の前につくと、知らない2人組と門番が揉めていて、それを真人が仲裁していた。
「なんて人騒がせな……」
声は届かないが、友に一言。
「無事でよかった」
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