高校生、戦国を生き抜く

神谷アキ

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1、戦国時代へ

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 外に出ると、建物の影に連れて行かれた。


「おい、斎賀の家の者なんだってな」

「若様と毒味もさせずにお食事なされたそうではないか」

「まさか、そうして若様を懐柔しようと?」

「斎賀の密偵じゃ!」

「成敗せねば!」

「何勝手なこと言ってるだよ! そもそも拐ってきたのはお前達だろ!」

 ガッ!

 勝手にあれこれ言われたと思ったらお腹を蹴られた。一瞬息が出来なくなる。なんて理不尽な。


「カハッ」

「こいつ弱いぞ。当主様の機嫌が悪かったのも元はといえばこいつのせいだ。やっちまえ」

 ガッ! ゴンッと足で蹴られる。反撃したくても人数が多くて出来ない。鼻血も出てきた。


「はっ、ざまあねえーな!」

「まあ、こいつは斎賀の情報を吐かせるために拷問があるだろ」

「拷問!?」

「そうだ。持ってる情報は吐かせなければな」

「おい、どうせなら今、斎賀の情報をしゃべれば俺たちに褒賞があるんじゃ!?」

「たしかに。おい、何をしてもいいから喋らせるぞ!」


 まずいことになった。しかも拷問? そんなことされるの? そもそも初めて話した時に平尾さんが言ってたように、俺なにも情報持ってないのに!
 ああ、そう考えるとあの作戦の人選は正しかったな。敵に捕まっても大丈夫なやつ。まさしく俺だ。

 少し諦めモードに入りかけた時、声が聞こえた。


「そこでなにをしている! 屋敷内での私闘は厳禁だぞ!」

「くそっ。あと少しだったのに」

「行くぞ!」


 リンチをした5人組が逃げていく。止めてくれたお礼を言おうと顔を上げたが、見えた顔につい別の言葉が出てしまった。


「重孝……」

「……真人。お前は斎賀の人間だったのか? 肩の傷も本当は俺達の兵士に斬られたのか? なぜ俺になにも話さなかったんだ?」

「もしかして話を聞いていたのか?」


 目を涙で溢れさせながら質問してくる。俺が話さなかったせいだよな。


「そうだ。矢を受けて気絶したあとに拐われてここにきたんだ。逆に敵のところにいて今まで何もされないことがおかしかったんだ」

「じゃあなんで俺と一緒にいたんだよ! だって次期当主だって話したじゃないか! 俺を恨むはずだろ!」


 ついに泣き出してしまった。ヒック! としゃくり上げる重孝を抱きしめる。


「だってお前は俺に何もしてないだろ? したと言えばおしゃべりをして一緒にご飯を食べたくらいだ。どこにも恨む理由なんてないんだ」

「……真人のところに遊びに行こうとしたら止められて……。悪いことをして牢屋に入れられたって聞いたから、それを父上に言ったら忘れろって……。もう会えないのかと思っていたら声が聞こえてこっちに来たんだ」

「そうだったのか……。何も話さずにいてごめんな」


 抱きしめたまま頭をぽんぽんと叩く。すると奥の茂みの方を指さした。


「こっち。抜け道がある」

「重孝……。でも、そしたらお前は……」

「大丈夫。今の人たちしか見てないし、私闘は禁じているから自分からは話さない」

「そうか。でもいいのか?」

「うん……。父上のすることは正しいって信じてて、斎賀の兵は卑怯な手を使うから信じるなって言われてきた。でも、俺からは真人が卑怯な人に見えないし、今は父上のがそう見える……。どちらを信じればいいかわからなくなってきた」

「じゃあさ、お前もここ抜け出して自分の目で斎賀を見たら?」


 誰かが話に入ってきてバッと重孝を背後へ隠す。現れたのは、牢にいるはずの鉄だった。


「鉄! なんで……」

「牢番に5人がやりすぎてバレたら、お前の首が飛ぶぞって言ったら鍵を開けてくれたわ。俺なら忍びの道具で逃げ出したって言えば問題ないと言ってな。真人がやばいかもと思って助けに来たけど心配は無用だったかな」

「……その牢番でいいの?」


 嬉しかったが、その牢番でここは大丈夫なのかと心配になってしまった。


「で、さっきのはどう言うこと?」

「そこの若様は自分が何を信じたらいいのかわからないっていっていたじゃないか。だったら真人に斎賀に連れて行ってもらって自分で確かめたらいいじゃないか。どうせこれ以上羽川に嫌われたところで罰は変わらねーよ」

「そんなことできるわけ……! こいつは次の当主だぞ? しかもそれって斎賀が重孝を人質に取るようなもんじゃないか!」

「そこでお前だろ? 羽川で助けてくれたから、世間には人質と思われても実際は客人扱いにしろって。斎賀にとっても自分から羽川を脅す種が来てくれるなんて、おいしいと思うけどな」

「でもだからって!」

「斎賀に行く」

「重孝!?」

「面白そうだから俺も着いてくな」


 鉄と言い合っていると、重孝がそういった。しかも鉄もついてくるなんて言ってる。


「重孝、本気か!? 敵陣に1人で行くようなもんなんだぞ!」

「でも、自分の目で見て確かめたい。当主になってもこのままじゃ駄目な気がする」


 そう言い切って、顔を上げる。2人の言葉にうろうろしていると鉄が言った。


「じゃあ決まりだな。3人でここを抜け出して斎賀に行くぞ」


 そうして、重孝の先導のもと、この屋敷を抜け出した。
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