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1、戦国時代へ
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しおりを挟む少しだけこれから、俺が戦国時代に来てからのことを振り返りたいと思う。
まず、農民になった。朝は日の出で起きて、夜は暗くなってきたら寝る。……なんて健康的な早寝早起きだ。
その時の仕事の思い出は、必死に息を止めながら畑に肥料を撒いたことだ。肺活量が鍛えられたよね。まあ、これは少し経ったら堆肥に変わったけど。晴れの日でも雨の日でも変わらない生活サイクルだった。
そしてご飯。畑で収穫したての野菜は生で食べるととても美味しかった。
でも俺が料理をしたら、お婆ちゃんに原型がわからないくらい細かく刻まれて何ちゃってチャーハンの具になった。
次に敏之と出会った。お菓子が美味しくて、会うのが待ち遠しかったよねホント。あ、もちろんこれだけが会いたかった理由じゃないよ。
さらに驚いたことに、成り行きでお城に住むことになった。二郎丸に侵入者から居候へ昇格
させてもらった。
ご飯食べて、敏之とおしゃべりをして、二郎丸に算数を教える。たまに縁側で昼寝をして、いつの間にか来ていた瀬奈と戯れる。
正直ここが人生の絶頂期だったかもしれない。食っちゃ寝生活のなんと自由なことか。心配事は1つだけだった。仕事をしない人がいつ追い出されるのかということ。
最近の1番の出来事としては、はじめて戦に出たことかな。
1日目は、雄叫びを上げて向かってくる人から逃げて敏之に助けを求め、2日目は敵陣に潜入した。
なんとハラハラドキドキした刺激的な生活を送っているのだろうか。
お城で過ごした時間だけが至福だった……。
そして現在。
俺は布団に寝かせられている。小姓さんに手厚い看護をしてもらい、偉い人にでもなった気分だ。
周りに敵しかいない状況じゃなかったらな。障子の前に起きてからずっと人影が見えるよ。監視?
ここまで来ればお分かりだろうか。俺はなんと拐われてしまった様である。見舞いにきたのかは知らないが、羽川家の当主がペラペラと喋ってくれた。こんな感じに。
「ほっほ。侵入者がそなただったとはの。なんと運のいいことか。まさか自分から来てくれるとは。そなた、戦場で自分がやけに狙われていると思わなかったのか? 今回の戦は領地も欲しいが、斎賀を豊かにしたという噂の人物を連れ帰ることも目的だったのよ」
「……どういうことですか」
「とぼけるでない。少し前から、斎賀は収穫量が増え、人も増えた。商人が行き来するようになり、工芸品の値打ちも高まった。どれもこれも武士でもない1人の男のおかげらしいではないか。忍者を雇って調べさせたら、それは全てそなたがしたことと情報が入った」
「……俺じゃない」
「本当は戦で斎賀の城が手薄になったときにさらう予定だったが、その手間が省けたのよ。だから兵を引き返して八津左に戻ってきたのだ」
(戦は終わったということか? でも話だけ聞くと今回の戦は俺を連れ去るためってこと!?)
……お父さん、お母さん。俺は誘拐犯にどうして誘拐されたのか聞かされています。勘違いもすごいです。110番プリーズ。
「人が多く入ったのだって、お殿様が関所を廃止するって言ったからだし、工芸品は全く身に覚えがないです。知り合いのおじさんとおしゃべりしただけですし……」
そう、俺は城下町を散策中に、戦国時代で初めて出会った人と再会したのだ。職人のおじさんも俺を見てびっくりしていたがそこから話は弾んだ。お城に住んでいると言ったら、工芸品を献上されそうになったけどね。
そこから何回か訪れておしゃべりしているんだ。おじさん、色々な話を知っていておもしろくて。
勘違いも甚だしいが、熱があるらしく反論する元気がなかった。見舞いに来たら静かにしろよと思いながら4日間ほど寝込んでいた。
そして5日目。なんだかデジャヴというのかな? この光景どこかで見たことがある。
障子からチラッと顔を覗かせては、俺と目が合うとすぐに顔が引っ込む。ヤンチャそうな男の子だ。身なりが良いので、羽川家の誰かの子供だろう。
知らないふりをしてもじっと観察してくるから、こっちから声をかける。
「そこで何してるの? 部屋に入ってきたら?」
そういうと一瞬だけビクッとしたが、バレたとわかると堂々と部屋に入ってきた。
「さっきから俺のこと見てるよね? お名前は?」
そう聞くと、どこかで予想していた答えが返ってきた。
「羽川家、次期当主の羽川左衛門重孝(はねかわ さえもん しげたか)だ! みんな俺に頭を下げるんだぞ!」
これを聞いて俺は思った。二郎丸より厄介なやつが来たと。
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