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1、戦国時代へ
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しおりを挟むあの日から、自分に何が出来るのか色々と考えてはいるものの何も思いつかない。
今日も今日とて、次郎丸に算数を教えたあとは自室に閉じこもっている。お金はもらっていないけど、2時間だけ仕事して他はニートの居候状態。
戦国時代に来てまでニートって……。トホホと寂しく笑っていると、小姓さんが俺を呼びにきた。
「大広間にて軍議が行われます。田辺殿もご出席なされますよう」
「え、俺が軍議に? なんで?」
「敏政様のご意向です」
「お殿様の?」
なんで俺が、と思うが屋敷でお殿様の言うことは絶対だ。急いで服を整え、小姓さんに大広間に連れて行ってもらう。
「田辺殿のご到着です」
「うむ、来たか」
俺が最後らしく、また一斉に視線を浴びる。うぅ、これ苦手なんだよな。なんでお前がいるんだって視線。どこのどいつかもわからない居候だし、当たり前かもしれないけど。ただ幸いなことに、1番端の末席だったから、両側から見られなくてすむ。あの時はこわかったなぁ。
初めてここに来た時のことを思い出していると、上座の方に敏之を見つけた。ちらっと俺の方を見たから、手を振ろうとしたけどすぐにまた前を向いてしまった。
あれ? 敏之が冷たい。しかしよく見ると、今までにない真剣な表情をしている。周りの人達も真剣な表情でお殿様の言葉を待っている。
(これは何かあったな)
俺も少し気を引き締めて座り直す。するとお殿様がよく張る声で話し始めた。
「今日ここに集まってもらったのは他でもない。八津左のことだ」
「八津左め……。また性懲りもなく」
(やつさ?)
「殿! いかが致しましょう!?」
「だが今回は五千もの兵を集めたと聞くぞ」
「なに! 五千だと!?」
「嘘じゃ! 多めに吹聴しているだけだ!!」
(兵? 五千? 何が起こっているんだ?)
「あのぅ、すみません。皆さん何のことを話しているんですか?」
意を決して隣に座っている人に尋ねてみる。質問すると驚きの答えが返ってきた。
「いつも儂等の領地を狙ってたびたび兵を仕掛けてくるんじゃが、今回は兵の数が多く大規模な戦になりそうなのじゃ」
「そんな頻繁に仕掛けてくるんですか?」
「うむ。八津左より斎賀の方が裕福だからの。ここの土地を欲しがって今までに何度も戦をしかけてきている。しかし、今回はあやつらも本気になったらしい」
「やつさって領地のことか。なぜ今になって……」
「あーそれはね、斎賀が以前よりも発展したからだよ」
隣の人と話をしていると、その人のさらに横から誰かが話に入ってきた。
「発展?」
「そう、少し前から斎賀にどんどん新しい技術が入ってきてね。急に領内が豊かになってきたんだよ」
「え? そうなんですか?」
「そうそう、なんでも関所を廃止したことで商人がたくさん入ってきて色々な物が流通し始めたんだって。関所を廃止するなんて思い切ったことするよね」
へぇ。関所を廃止したんだ。そういえば敏之とも話したな。信長の楽市・楽座の効果。びっくりしてたけど、やっぱり他の人も同じこと考えるんだ。
感心しながら聞いていると、その人が気になることを言ってきた。
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