高校生、戦国を生き抜く

神谷アキ

文字の大きさ
上 下
8 / 53
1、戦国時代へ

8

しおりを挟む

「ねえ、おうまさんやって! おうまさん!」


 俺はさっきからこの女の子に言われて馬になりきっている。キャッキャッと楽しそうにはしゃぐ子供は、敏之の妹だそうだ。

 村の子供に好評だったからやってみたけど、女の子でも気に入ったらしい。

 将来はおてんばな女の子になりそうだ。


「ひっっんて……」
 

 声がしてふと横を見ると、敏之は隣で腹を抱えて笑っている。そんなに可笑しかったか?


「ひひっんって……ひひーんだってっ!!」


 ……さっきの俺のことだ。通された部屋に小さな女の子が来たんだけど、モジモジしてて近寄ってこなかったんだよね。

 だから女の子を抱き上げ背中に乗せてあげた。そして「ひひーん」と馬の鳴き声を真似て声を出し部屋の中を移動した。
 
 女の子は最初は驚いてたみたいけど、楽しかったらしく今も声を出して笑っている。


(それにしてもこの子の着物綺麗だな。敏之の親ってえらい人?)


「まえー! 次はみぎー!」


 考え込んでしまっていたのか、かわいらしい髪飾りを揺らしながら進行方向を伝えてくる。小さな手でパシパシと背中を叩かれても、可愛いだけだ。


「瀬奈、はなしておやり。そろそろ疲れてきただろう。梅はどうしたの?」


「わかんない!おにいちゃまの声がしたから来たの」


 笑いも収まったのか、敏之が話しかけてくる。


(梅って誰だろう。ていうか瀬奈って名前なのか)


 ろくに名前も知らず遊んでいたと今更気づいた。
ちょうどその時、


「失礼いたします。敏政様が敏之様とお連れの方をお呼びです」


 障子の向こうから声が聞こえた。背中から瀬奈を下ろし、敏之に続いて部屋を出る。

 すると、小姓らしき人と少しふっくらした女の人がいた。


「瀬奈様!」

「楽しかった!」


 そう言って女の人に駆け寄っていく瀬奈。


「だれ?」

「瀬奈の乳母である梅だ」

「これは敏之様。瀬奈様と遊んでいただき、ありがとうございます」


 頭を下げながら敏之に礼を言うが、


「いやいや、瀬奈の相手は私ではなくこちらの真人がしていた」

「そうなのですね。真人様、ありがとうございます」

「いやいや、とんでもないです!」


 急に話しかけられ、さらに丁寧に頭を下げられて恐縮しながら答えた。


「私達は呼ばれているから、瀬奈をよろしく頼む。では行こう」

「はい。失礼いたします」

「またあそんでね!」

「また今度な」


 最後にそう言って瀬奈の頭をなで、敏之の後を付いていく。俺まで呼ばれたって一体何なんだ。


 小姓も俺たちを先導しながら、チラチラと見てくる。服装だって制服は着てないからおかしくないはずだし、変なところはないはずだ。


「こちらでございます」


 たどり着いたらしく、障子の横で2人の人が控えている。


「敏之様たちがお見えです!」


 その声と同時に障子が開かれたが、目の前の光景に思わず絶句してしまった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

最後に言い残した事は

白羽鳥(扇つくも)
ファンタジー
 どうして、こんな事になったんだろう……  断頭台の上で、元王妃リテラシーは呆然と己を罵倒する民衆を見下ろしていた。世界中から尊敬を集めていた宰相である父の暗殺。全てが狂い出したのはそこから……いや、もっと前だったかもしれない。  本日、リテラシーは公開処刑される。家族ぐるみで悪魔崇拝を行っていたという謂れなき罪のために王妃の位を剥奪され、邪悪な魔女として。 「最後に、言い残した事はあるか?」  かつての夫だった若き国王の言葉に、リテラシーは父から教えられていた『呪文』を発する。 ※ファンタジーです。ややグロ表現注意。 ※「小説家になろう」にも掲載。

あなたの子ですが、内緒で育てます

椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」  突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。  夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。  私は強くなることを決意する。 「この子は私が育てます!」  お腹にいる子供は王の子。  王の子だけが不思議な力を持つ。  私は育った子供を連れて王宮へ戻る。  ――そして、私を追い出したことを後悔してください。 ※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ ※他サイト様でも掲載しております。 ※hotランキング1位&エールありがとうございます!

初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話

ラララキヲ
恋愛
 長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。  初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。  しかし寝室に居た妻は……  希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──  一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……── <【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました> ◇テンプレ浮気クソ男女。 ◇軽い触れ合い表現があるのでR15に ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾は察して下さい… ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

冤罪を掛けられて大切な家族から見捨てられた

ああああ
恋愛
優は大切にしていた妹の友達に冤罪を掛けられてしまう。 そして冤罪が判明して戻ってきたが

【完結】貴方達から離れたら思った以上に幸せです!

なか
恋愛
「君の妹を正妻にしたい。ナターリアは側室になり、僕を支えてくれ」  信じられない要求を口にした夫のヴィクターは、私の妹を抱きしめる。  私の両親も同様に、妹のために受け入れろと口を揃えた。 「お願いお姉様、私だってヴィクター様を愛したいの」 「ナターリア。姉として受け入れてあげなさい」 「そうよ、貴方はお姉ちゃんなのよ」  妹と両親が、好き勝手に私を責める。  昔からこうだった……妹を庇護する両親により、私の人生は全て妹のために捧げていた。  まるで、妹の召使のような半生だった。  ようやくヴィクターと結婚して、解放されたと思っていたのに。  彼を愛して、支え続けてきたのに…… 「ナターリア。これからは妹と一緒に幸せになろう」  夫である貴方が私を裏切っておきながら、そんな言葉を吐くのなら。  もう、いいです。 「それなら、私が出て行きます」  …… 「「「……え?」」」  予想をしていなかったのか、皆が固まっている。  でも、もう私の考えは変わらない。  撤回はしない、決意は固めた。  私はここから逃げ出して、自由を得てみせる。  だから皆さん、もう関わらないでくださいね。    ◇◇◇◇◇◇  設定はゆるめです。  読んでくださると嬉しいです。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

処理中です...