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第四章 祈りを繋ぐ道
第三十八話 その爪と牙は誰が為に
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雷鳴が轟き、金色の光と銀色の光が、アルジェントとグロームの拳が正面からぶつかり合って、風を巻き起こした。
拳をぶつけ合った。ただそれだけの事で衝撃波が生まれ、硝子の大地を震わせ、ひび割れさせる。
一合で周囲に多大な影響を及ぼす二人の姿を、リリィは座り込んだまま、じっと見つめていた。
「ーー勝って、アル君」
祈るような声の呟きを聞いて、アルジェントの心に火がつく。
アルジェントは分かっていた。リリィが傷だらけなのは、自分がリリィを傷付けて、リリィが自分を守る為に命懸けで戦っていたからだと。
死すら恐れず、決して倒れず、深く傷付いても自分を見捨てなかったリリィの為にできる事は何だ? とアルジェントは自分自身に問う。答えは決まっている勝つ事だ。勝って、リリィを助ける事だ。
ーーもう倒れない。もう自分を見失わない。必ず
「必ず勝つ」
アルジェントはリリィに応えるようにそう言うと、グロームの頭部を狙い、腰を回転させながら左拳を打つ。
グロームは身体を後ろに逸らす事でアルジェントの左拳を躱すが、アルジェントはすかさず前に踏み込んで、グロームの腹に雷の速度で拳を撃ち出す。雷速の拳はグロームの腹筋に突き刺さり、グロームの身体は大きく後ろに飛んだ。
「い、ってぇな。はは、強ぇじゃねぇか」
鈍痛が走る腹を押さえ、グロームが嬉しげにそう言うと
「うぅあっ‼︎」
アルジェントは飛んでグロームに接近し、前宙の勢いを乗せて、脳天に踵を打ち下ろす。
グロームは片腕でアルジェントの踵落としを防ぎ、腕を払ってアルジェントを引き離す。
回転しながら着地したアルジェントとの距離を一瞬で無にして、狂気じみた笑みをその顔に貼り付けて、グロームは頭部を狙って拳を繰り出した。
当たればその部位が確実に破壊される一撃を、アルジェントは全神経を集中させ、ぎりぎりで回避する。
一度目の戦いの時よりも、アルジェントはグロームの動きを捉えられていた。何とか、かろうじてだが、グロームの攻撃を避ける事ができた。
続けて放たれた拳と回し蹴りも、紙一重で避け、反撃で頭突きを食らわせる。
「ははっ」
額から血を流しながらも笑って、グロームは深い切り傷が刻まれているアルジェントの右肩に手刀を振り下ろす。
雷を纏ったグロームの手刀は、鉱石を豆腐のように容易く切断する。名だたる名刀と並ぶ切れ味を持つ手刀を、アルジェントは半歩後ろに下がって躱し、鞭のような蹴りでグロームの顔を打ち、吹き飛ばした。
「見える」
感覚が研ぎ澄まされ、集中力が極限まで高まっている。それと同時に、殺意と食欲もふつふつと湧き上がっているのをアルジェントは感じていた。
アルジェントの中の獣が、再び顔を覗かせようとしている。
アルジェントは完全に獣を抑え込めていた訳ではなかった。半分だけ、無理矢理に獣を抑え込み、かろうじて自我を保っている状態だった。
いつまた獣に意識を乗っ取られてもおかしくない、限りなく不安定な状態だが、獣を押さえる枷が、縛る鎖が、半分外れ、千切れかかっている事で、獣化していないにも関わらず、普段獣化する時よりも獣の力を引き出す事に成功し、アルジェントはグロームに対抗できていた。
かつて大事な人を傷付け、それ以来、恐れ、忌み嫌ってきた力に命を繋がれている事に、アルジェントは何とも言えない心境になるが、グロームに勝てる可能性がある力があるとすれば、それは忌み嫌う獣の力だけだ。
それならばアルジェントは強すぎる獣に負けぬよう、力の限りを尽くして抗い、その力を振るう。
「今だけは、言う事を聞け」
胸に拳を当てて、自分に言い聞かせるように言うアルジェントを見ながら、グロームは手を開いたり閉じたりを三度繰り返した後に、掌をじっと見つめる。
アルジェントとの撃ち合いの中で、グロームはある違和感を感じていた。
「身体が重ぇな。それに何だか全体的に少しずつ力が削ぎ落とされてる感じがしやがる」
グロームは確かに感じていた。
身体の重さと、あらゆる力が低下していく感覚を。
それは決して気のせいなどではない。グロームの身体には、ある魔法が原因で異変が起きていた。
「強い倦怠感に、能力低下、闇属性魔法の効果だな。あぁ、そういえばあの竜人、風属性と闇属性の先天性二属性混合魔法の使い手だったか」
リリィの『暗黒の嵐』は風属性と闇属性、二つの属性を兼ね備えた魔力だ。
風属性の魔法には、主に風で対象を斬り裂いたり、押し潰したりするものが多い。対して闇属性の魔法には、主に単純に闇の力で攻撃するものと、対象を蝕み弱体化させるものが多い。
グロームがリリィを見ると、リリィは笑った。確定だ。
「お前の仕業か」
「そうだよ。浄闇の業風には、対象の魔力、身体能力、身体強度と、体力を徐々に下げる効果が、ある」
「闇属性魔法に特有な効果が複数、中々いい魔法じゃねぇか。だが、戦いに支障が出る程の効果はねぇみたいだな」
「すぐには、効果は出ないけど、多分、効果が、大きく現れる前に、アル君が、君を倒すよ」
アルジェントが勝つ。
リリィがそう断言して間もなく、グロームの頬にアルジェントの肘打ちが叩き込まれた。
「おうっ⁉︎」
不意の攻撃に驚き、よろめくグローム。
前を向くと、既にアルジェントが眼前に近付いていて、拳を放とうとしていた。
「おぉおっ‼」
雄叫びと共に放たれたアルジェントの拳は、グロームの鼻を強く打ち、グロームは鼻血を流しながら仰反り、天を仰いで笑う。
「面白い」
ただ一言、そう呟いてグロームは鼻血を拭い、姿勢を元に戻して、前蹴りでアルジェントの胴を穿とうとする。
槍のような蹴りを、アルジェントは全神経を集中して凝視し、ぎりぎりの所で回避する。
何とか避けれたと、そう思ってすぐに顔の近くに風圧を感じて、目だけで横を見ると、裏拳が迫ってきていた。
拳を目視し、頬に掠った瞬間に、アルジェントは身を低くする。裏拳は空を切った。だが、それで終わった訳ではない。綱渡りはまだ続いている。
屈んだアルジェントの顔に、グロームの右膝が迫る。雷を纏った膝蹴りは、高い熱と打撃力を兼ね備えた殺人級の一撃だ。当たり所が悪ければ死ぬ。顔に当たれば、骨が砕け、陥没するだろう。
絶対に避けなければいけない一撃に対して、アルジェントが取った行動は回避、ではなく、牙を立てる事だった。
「ぐおぅるぁっっ‼」
「だと⁉」
グロームの膝にアルジェントの鋭い牙が突き刺さる。
血の味を舌で感じながら、アルジェントは噛みつく力を強め、紅い双眸に禍々しい光を灯す。
焦がれていた味。病みつきになって、離れがたくて、何度も何度も味わいたくなる至高の味を、舌で、命で感じてーーーー違う。
「ぐぅらっ‼」
アルジェントはグロームの膝の肉を喰い千切り、折れた数本の歯と共に地面に吐き出し、グロームから距離を取る。
血に染まる口元を袖で拭って、アルジェントは拳を強く握りしめ、胸に当てる。
獣に負けかけた。戦略的思考によってではなく、本能で噛みつき、血肉を貪ろうとした。その事に動揺するアルジェントに
「美味かったか⁉ 俺の血は‼ 肉は‼ 狼野郎‼」
自身の血肉の味の感想を問いかけながら、グロームは突進する。
右膝の肉を喰い千切られたにも関わらず、その速度は微塵も落ちていない。それどころか痛みを感じてる素振りすらない。
「痛覚がないのか?」
「な訳あるかボケェ‼ きちんと痛ぇよ‼ だが、こんなもん膝を擦りむいたのと大して変わんねぇ。言ったろ? 俺もお前と同じだ」
言葉を区切り、間合いを詰めて、アルジェントの顎を拳で突き上げる。
もろに顎を打たれ、脳を揺らされてふらつくアルジェントに、グロームは胸を叩きながら笑って
「殺さなきゃ止まらねぇよ。どんだけ殴られようが、蹴られようが、血を流そうか、死ぬまで戦い続ける。止めたきゃ殺せ。俺は殺すには、狼になるしかねぇぞ?」
狼になれと挑発する。
アルジェントは挑発を無視して、流れるような蹴りでグロームの首を狙う。
「今のお前は強ぇ」
流麗な蹴りを、グロームは見ずに片手で受け止め、受け止めたのとは反対の腕で足を掴んで、アルジェントを遠くに投げ飛ばす。
投げ飛ばされながら、空中で体勢を整えてアルジェントは着地し、グロームに注意を向けるが、グロームは一歩も動いておらず、魔法を発動する様子も無かった。
「だが、もしも今また狼になれば、お前はもっと、さっき狼になった時よりも強くなる。お前、普通の獣人より獣の血が濃いんだろ?」
「どうして、それを・・・」
「戦ってりゃ分かる。普通の獣人は、完全獣化しても、あそこまで力が跳ね上がる事はねぇ。何より、完全獣化して理性を失って、ただの狼になってたのがいい証拠だ。なぁ、狼になれよ。今も必死に血に抗ってんだろ? つれぇだろ?」
「つらくはない」
「嘘吐いてんじゃねぇよ‼」
アルジェントの答えを大気が震える程に大きな声で否定して、グロームはアルジェントに近付き、その右肩に打撃を入れる。
「ぐっ・・・‼」
右肩に拳が突き刺さり、顔を強張らせるアルジェントの首をグロームは掴み、身体を持ち上げる。
首が潰れそうになる程の凄まじい力で首を絞められ、アルジェントは息をする事も、声を出す事もできなくなる。
苦しみに表情を歪めるアルジェントの顔を見て、グロームは愉快そうに笑う。
「ほら、つれぇんだろ? 苦しいだろ? 自分を抑え込むのはよぉ。お前はな、人じゃねぇ、狼なんだよ。血に飢え、他の命を求めてやまない悪獣。それが本当のお前だ」
「ち、がう・・・」
「違くねぇよ。だってお前、さっき俺に噛みついてきたじゃねぇか」
少し前に取った行動を根拠に、自分の本質は獣であると指摘され、アルジェントは何も言えなくなる。
返す言葉を失ったアルジェントに、グロームは更に畳みかける。
「あの時、俺の肉を喰い千切った後のお前の顔には、まだ足りないって、そう書いてあったぜ?」
「そんな、事」
「ある。隠さなくていい。俺とお前の本質は同じだ。てめぇの欲望のままに暴れ回りてぇ獣。お前は上品に取り繕ってるみたいだが、俺はそんな事しねぇ。その方が楽だし、楽しく生きれるからな」
グロームは自分の欲求に極めて忠実だ。
自身の戦闘本能の赴くままに、暴れたいと思った時に暴れ、戦いと思った相手と戦う。そうして数え切れない程の強者とぶつかり合い、命のやり取りの中で生きてる実感を得て、愉悦の時に浸り続けてきた。
対してアルジェントは、欲望のままに、自分の為に戦ってきたグロームとは対照的に、常に誰かの為に戦ってきた。
大切な者の為、仲間の為、他人の為に戦う事は、素晴らしい事だと多くの人は思うだろう。だが、グロームはそうは思わない。
「お前は窮屈そうな生き方してるよな、本当によ。自分以外の奴の為にしか戦わないなんて、俺だったらそんな生き方は絶対にしねぇ。そんな退屈でつまらねぇ生き方してたら、息苦しくて死んじまう」
誰かの為に戦い続ける生き方は面白くないと、そう断言する。
一体その生き方に何の得があるのか、その生き方の何が楽しいのか、何の意味があるのか、グロームには本気で理解できなかった。
「俺は常に俺の為に戦ってる。お前もそうしろよ。獣の血を受け入れ、本能を、欲望を解放しろ。その方がお前は強くなれるぜ?」
「う、ぐぐ、く・・・」
「獣の血が濃い獣人はな、血を受け入れるととんでもなく強くなるんだ。血を完全に受け入れろ‼ 取り繕うのをやめちまえ‼ お前は狼だ‼ ただの獣なんだよ‼ その爪と牙は、他者を蹂躙し、傷付ける為のもんだ‼︎」
「ち、がう・・・‼」
声を張り上げ、アルジェントはグロームの肘に膝蹴りを打ち込む。
本気の膝蹴りを打ち込まれ、肘の関節が反対側に曲がり、グロームが手を離した途端に、アルジェントはグロームの首筋に噛みつき、その肉を喰い千切り、ごくりと音を立てて飲み込んだ。
「ほらな」
「ーーーーっ‼」
耳元で笑みを含んだ声が聞こえて、アルジェントは咄嗟にグロームから離れる。
「僕は、何を・・・」
口に手を当てて、アルジェントは混乱する。
考えてそうした訳ではない。無意識に、気付かぬ内に噛みついていた。自分でもその事が信じられず、狼狽えるアルジェントを見ながら、グロームは逆に曲がった肘を自力で元に戻し、血に染まる首を手で押さえて、ほらな? と言いたげな笑みを浮かべる。
「お前は狼だ。認めろよ」
「違う、僕はーー・・・」
「認めねぇなら認めさせてやるよ」
首の傷に触れた手を払い、血を地面に飛ばして笑みを消し、グロームは雷の速さで矢のような飛び蹴りをアルジェントの胸に突き刺す。
蹴りを受けた瞬間に、アルジェントは後ろに飛んで可能な限り衝撃を殺すが、ダメージまでは殺せず膝をつく。
「がはっ、あがっ、はぁ・・・」
肩を上下させながらアルジェントが前を見ると、グロームはその場から一歩も動かずアルジェントを見つめていた。
アルジェントが狼になるのを待っているのだろう。獣の血が抑えきれない程に強まっている今狼になれば、グロームに勝つ事ができるかもしれない。
しかし、その選択をしてしまえば、今度は戻ってこれないかもしれない。自我を永遠に失う事になるかもしれない。そうなれば、きっと、アルジェントはもう二度と
「皆には、ステラには会えない」
それはアルジェントにとって死以上の苦痛だ。
だから、アルジェントは何があろうと、絶対に狼になったりはしない。
「決めたんだ。僕は、僕のままで、大切なものを、守ってみせると。狼には、なりはしないと」
「・・・そうか」
頑として狼になろうとしないアルジェント。その決意が固い事をグロームは悟り、そして
「説得で心に訴えかけるのはやめだ。柄じゃねぇしな。生存本能の方に訴えかける事にする」
アルジェントの足元から雷の剣を飛び出させて、アルジェントの腹を貫いた。
「がはっ‼」
血を吐いて、アルジェントは倒れる。
貫かれた腹からはとめどなく血が流れて、瞬く間に血溜まりが生まれ、アルジェントは動けなくなる。傷と痛みが大きいという事もあるが、それ以上に
「うぅ、うぅうぅうううう・・・‼」
身体の内側で暴れ出しそうになる何かを抑えるのに必死になっているからだ。
奥歯を割れそうな程に強く噛み締めて、拳を握りしめるアルジェントを離れた所から見つめ、グロームは空に手を掲げる。
「死にそうになりゃ、理性よりも生存本能が勝って、否が応でも狼になるだろ。そうすれば俺はもっと強いお前と戦える」
「う、ぐぐぐ・・・」
「俺は強い奴と戦いてぇんだ。余計なもんがお前を弱くしてんなら、全部捨てちまえ。捨てられねぇなら、俺が捨てさせてやるよ」
いつの間にか空を覆っていた暗雲から、ゴロゴロと、低く、よく響く雷鳴が聞こえた直後、雷光が瞬き、雷の雨が降り注いだ。
雷の豪雨は常夜の『プリエール』を照らし、硝子の大地を焼き焦がし、無慈悲に蹂躙する。
文字通りの雷雨に打たれれば、アルジェントは更なる傷を負い、理性で獣の血の暴走を抑える余裕などなくなる。これで
「本当に楽しめ・・・ん?」
雷と雷の隙間を、何かが走っているのが見えて、グロームは目を凝らす。すると次々と落ちる雷の間を、リリィを背中に乗せて、縫うように四足走行するアルジェントの姿が見えた。
「ちっ、まだ他人の為に動くか。そうじゃねぇ。そうじゃねぇんだよ。俺がお前に求めてるもんは。強さを見せろって、そう言ってんだ。それは強さじゃねぇ、弱さだ」
自分の内に潜む獣を無理矢理抑え込んで、仲間を救う事を第一に考え行動するアルジェントを見て、グロームは苛立ちを募らせる。
「気に食わねぇ。俺と同じ雷。俺と同じ獣のお前が、良い子ちゃんぶりやがって。その竜人が足枷になってんなら、壊してやるよ」
「ーーっ、させるか」
雷の集中豪雨の中にいながら、グロームの呟きを聞き取ったアルジェントは、速度のギアを数段階上げて、雷の雨が降る範囲からの脱出を試みる。
普段の最高速度を遥かに上回る速度が出て、この時ばかりは獣の血が濃くて助かったなんて事を考えていた時、アルジェントの口の端から夥しい量の血がこぼれた。
「あはっ、は、うぅ・・・‼」
身体の至る所が危険信号を発している。これ以上動けば死ぬと叫んでいるのが聞こえる。
でも、それでも止まる訳にはいかない。今止まれば、雷の雨に打たれて、リリィも、アルジェント自身も死ぬ。動き続けたら死ぬ。動かなくても死ぬ。どちらにせよ死ぬなら、最期まで動き続けて、リリィを守って死ぬ、とアルジェントがそう考えた時、雷の雨が止んだ。
「え?」
突然攻撃が止まって、思わず呆けた声を漏らした直後、アルジェントの左の脹脛を空から降ってきた雷の剣が貫き、刺すような痛みが走った。
「ぎっ‼」
激しい痛みにアルジェントは声を上げて倒れ、アルジェントの背中に乗っていたリリィの身体は前に投げ出される。
「アル、君・・・」
消え入りそうな声で自分の名前を呼ぶリリィに、アルジェントが倒れたまま手を伸ばすと、その手を雷の剣が貫いた。
「そんなにも、仲間が大切か?」
雷の剣を持つ男、グロームがアルジェントを見下ろして問いかける。
アルジェントは問いかけに答えず、雷の剣で刺されたのとは逆の手をリリィに伸ばすが、リリィに届く前にグロームに踏みつけられる。
「答えろ。仲間が大切かって、そう聞いてるんだ」
「当たり、前だ」
リリィを見ながらそう答えたアルジェントにグロームは何も言わず、足から手をどかして雷剣を突き刺して地面に手を縫い付ける。するとリリィの方を見て
「本気を出さない奴に本気を出させるには怒らせるしかない。お前みたいな奴を怒らせるには、これが一番だ」
リリィに雷の剣を突き付けた。
これからグロームが何をするつもりなのか、それを理解して、アルジェントは戦慄する。
「やめろ‼ リリィちゃんに手を出すな‼」
「お前が狼にならないのは、こいつがいるからだろ? お前は俺と戦いながら、ずっとこいつの事を気にしてやがる。それじゃ本気を出す事なんて、狼になる事なんてできないだろ?」
いいか?
「俺は戦った後ずっとお前を見てた。拳を交えて、もしかしたら、こいつは強くなるかもしれねぇって思ったからな。そしたらお前は狼になって、期待通り強くなった。俺はもう一度あの時のお前と、いや、あの時以上に強くなったお前と戦いてぇんだよ」
「そんな事の為に、リリィちゃんを、手にかける、つもりか?」
「あぁ、そうだ」
あっさりとリリィを殺す意思があると認めたグロームに、アルジェントは強い殺意を覚えて、右足を除いた四肢の雷剣を抜こうと足掻くが、深く突き刺さっていて抜く事ができない。
獣のように低く唸りながら、瞳孔が開ききった紅瞳で自身を睨むアルジェントにグロームは
「お前が恐れてるのは、お前自身の爪と牙でこいつに傷を付ける事だ。それなら俺がこいつを殺して、お前の恐れを消してやる。だから、今度こそ本気を出せ。狼野郎」
そう言って、グロームは雷剣をリリィの首に振り下ろした。
狼になるのが恐い。
狼になると自分を見失って、誰彼構わず傷付けてしまうから。
一番最初に傷付けたのは、僕を救ってくれた憧れの人。次に傷付けたのは誰よりも信頼していた友達。その次は大切な人の大切な人。その次は大事な仲間。
守りたいと思った人達を傷付けてばかりの狼を、僕は決して好きにはなれないし、許す事はできない。叶うならば消してしまいたいとすら思うが、それもできない。
僕は狼で、狼は僕だから。
血肉に飢え、命を欲する凶悪な狼は、僕が生きている限り僕に付いて回る。きっとこの先離れる事などできはしないだろう。
決して協力的ではなく、むしろ利己的な狼は、僕を含めたあらゆる命を喰らう事を望んでいる。
グロームの言う通り、僕の本質は欲望のままに暴れ回る狼なのだろう。否定したくても、もう否定する事はできない。何度も誰かに牙を立てておいて、そうではないと言い張るのは無理がある。
狼も僕だって事を認めるよ。
狼は僕じゃないなんて、見ない振りをするのはもうやめる。
これからは狼と向き合って、戦い続けてやる。
もう二度と、狼には負けない。
狼にも、グロームにも勝って、リリィちゃんを助けてみせる。
『ありがとう。助けて、くれて』
絶対に、死なせない。
「守ってみせる」
グロームが振り下ろした雷剣が、リリィの首を刎ねる直前に、アルジェントは獣化して四肢を逞しい黒狼のものに変える。
獣の血がより濃くなり、飛びそうになる理性を何とか繋ぎ止め、アルジェントは両腕を上げて雷剣を引き抜く。
無理に腕を上げた事で、腕の関節が外れるが、一旦無視する。
倒れたまま身体を捻り、仰向けになって足と腹筋の力のみで起き上がって、振り向きざまにグロームの顔を足背で蹴り飛ばして怯ませ、リリィの斬首を阻止する。
「ふっ‼︎」
再びグロームが雷剣を振り下ろす前に、アルジェントはグロームに体当たりして、グロームを突き飛ばすと同時に右肩を嵌める。
次に左肩を右手で嵌めて、両手と左脹脛に刺さっていた雷剣を抜き、アルジェントはグロームを見据える。
グロームはアルジェントの蹴りを受けて、鼻から流れた血を乱暴に拭って、爛々と目を光らせるアルジェントを見て、くくくと笑う。
「半分は狼になれたか狼野郎。もう半分も受け入れてたら、完璧だったんだがなぁ」
「僕は狼を、獣の血を受け入れるつもりはない」
「強情だなお前は」
「強情にもなるさ。僕が僕の中の狼を受け入れた所為で、獣の血に呑まれた所為で傷付いた人達がいる。同じ事を繰り返さない為にも、僕は狼と戦い続けると決めたんだ」
「今にも負けそうなのにか?」
アルジェントの言葉を聞いて、グロームは嘲笑する。
アルジェントの手は震えていて、目は血走り、口からは唾液が溢れていた。
人型の時でさえグロームに二度も噛み付き、獣の血の影響を強く受け、狼に負けそうになっていたのだ。半獣化して獣の血を解放し、狼を表に出せば、より自我を保つ事が困難になるのは当然の事だ。
「もう一度言うぞ。つれぇだろ? 自分を抑え込むのはよ。良いんだぜ? 自分を解放しても。お前がこの竜人を殺しても、俺が殺った事にすればいい。口裏は合わせてやるからよ。こんな状況だ。言わなきゃ誰も分からね」
「うちのマスターは鋭いんだ。半端な嘘は一瞬で見抜かれる。たとえそうでなかったとしても、僕は迂闊に獣の血を全て解放して、狼になるつもりはない。僕はまだ全力の狼に勝てる程強くはない。今は半分の力の狼と渡り合うだけで精一杯だ」
グロームが持ちかけてきた後ろ暗い交渉を即座に断り、袖で口元を拭ってアルジェントは、あくまで狼になるつもりはないと告げる。その答えを聞いて、グロームはアルジェントに失望の眼差しを向ける。
「がっかりだ。全力を見せずに死ぬ事を選ぶなんざよ」
「これから命を懸けるつもりだが、死ぬつもりはない。それと、どうしても僕の本気を見たいなら、見せてやる。僕の本気の雷を」
「へぇ、本気の雷ねぇ。そいつは楽しみだ。狼になる事を拒否したんだ。その雷とやらが中途半端なものだったら、楽には死なせねぇからな」
アルジェントとグローム、二人はそれぞれ金と銀の雷を身体から発して、瞬時に間合いを詰める。
グロームは雷剣を、アルジェントは爪を振るって、互いの首を斬り飛ばそうとする。
それぞれの首に雷剣が掠り、爪が僅かに刺さった瞬間に、二人同時に蹴りを放って、二人共吹き飛んだ。
腹を押さえて両者は睨み合い、グロームが先に行動を起こす。
手に持った雷剣を槍投げの容量で投擲し、アルジェントの背後に回り込み、その頭を殴り飛ばそうとする。
前門の雷剣、後門の雷精。どちらに対処しても無事では済まない状況で、アルジェントは後ろを向いてグロームの拳を右腕で防ぎ、投擲された雷剣を左手で受け止め、ダメージを最小限に押さえた。
拳を受け止めた右腕の骨は砕け、左手にはまたしても雷剣が突き刺さるが、問題無い。痛みを無視すれば動かせる。腕はまだ、両方使える。
「うるぁっ‼︎」
雷剣が刺さった左手で掌底を放ち、アルジェントはグロームの顔を貫こうとする。
グロームの攻撃を利用し、逆にグロームに大きな傷を与えようとして、しかし、雷剣はグロームの顔に届く前に消えて、アルジェントはグロームに手首を掴まれる。
唖然とするアルジェントに、グロームは手首を掴む力を強めながら
「俺の作ったもんだ。消したくなりゃいつでも消せるに決まってんだろ」
そう答えて、渾身の力でアルジェントの顔を殴り、殴られたアルジェントは二転三転しながら飛ばされる。
首が飛んだと錯覚する程の衝撃を受けて、意識が朦朧として、アルジェントの口から再び唾液が溢れてくる。
食ってしまえ、食い殺せ、腹が減っただろう? と、自分の声で囁くのが、アルジェントの耳に聞こえてくる。
アルジェントの中の狼が再び顔を出そうとしている。アルジェントに成り代わり、目の前の敵を食い殺そうとしている。
ーーその方が楽だろう? そうすれば、楽にあいつに勝てるぞ。
誘惑に惑わされそうになる。狼に負けそうになる。全てを投げ出して、終わらせたくなる衝動に駆られる。だが
「もう何度も、誓っては破ってを、繰り返してしまっている。これ以上誓いを破る訳には、いかないんだ」
狼にならないと誓った。
勝って、リリィを助けると誓った。
アルジェントは誰かを守ると何度も誓いを立てては、結局は守れず、誰かに傷を刻み続けてを繰り返してきた。
ステラに、ルシフに、マリに、リリィに、それ以外にも多くの者に、アルジェントは消えない傷を刻み続けてきた。
『魔神の庭』のメンバーはアルジェントの事を強いと思っているが、アルジェント自身は自分を強いとは思わない。
まだまだ弱く、未熟で、理想には程遠い。
大切なものを全て守れる強さ。ステラの隣に立つに相応しい王子という理想には。
その理想に少しでも近付く為には、まずは目の前の壁を、狼の力に頼らず、自分自身の力で越えなければならない。
「ーー僕のままで、勝ちたいんだ。狼には譲れない」
もう一人の自分にそう言い聞かせて、アルジェントは自分で自分の舌を噛み千切った。
「ーーっ、ぶ、ぐぶ‼︎」
鋭い牙で自分の舌を噛み千切り、アルジェントの口から赤黒い血と舌の一部、そして濁った苦鳴が吐き出される。
「はぁ、はぁ・・・あぁっ・・・‼︎」
強い痛みで狼が顔を出しそうになるのが押さえられ、意識が覚醒する。
心なしか頭がすっきりして、視界が明瞭になった気もする。
雑念も振り払う事ができた。
攻めるなら、今だ。
「おぉおぅあぁああぁああっっ‼︎」
喉の奥から叫びながらアルジェントはグロームに向かっていく。
銀色の雷と化して自分に向かってくるアルジェントを、グロームは捉える事ができず、獣拳で顔面を殴られて、地面を跳ねながら遥か彼方に飛んでいく。
飛んでいったグロームを追って、アルジェントも飛び、追いついた所で胸倉を掴んで寄せて、もう一発雷の力と獣の力が合わさった拳を顔面にお見舞いし、更に遠くにグロームを殴り飛ばす。
「何だ? 奴の拳が、急に重く。いや、違ぇな。俺が弱くなってやがんのか」
リリィの浄闇の業風によって、グロームの魔力、身体能力、身体強度、体力は半分以下に下がっていた。
最初の内は大して影響を受けていなかったが、時間経過によって効果が少しずつ増大し、グロームも気付かぬ内に、それらの力が半分以下に下がっていた。
「俺がめちゃくちゃ弱くなって、あいつがめちゃくちゃ強くなってる訳だ。丁度いいハンデじゃねぇか」
飛び起きて、グロームは首を鳴らし、アルジェントと見つめ合う。
次の撃ち合いで勝敗が決まるであろう事を、両者は確信していた。理由も、根拠もない。だが、心でそう感じていた。
だから、狼と精霊は、その拳に己の全てを乗せる。
目の前の相手を、打ち負かす為に。
「うぉおぉおおぉおらぁっっ‼︎」
「はぁああぁあぁああぁっっ‼︎」
咆哮を轟かせ、アルジェントとグロームは同時に飛び出した。
互いの距離が無くなるのは一瞬だった。
三度目の戦いの始まりを再演するかのように、両雄は拳をぶつけ合い、そしてーー・・・
「普段の俺がこうなる位の力を持ってくれてたら、もっと楽しめたろうになぁ」
グロームの右拳が粉々に砕けて、朱に染まる。
砕けて、褐色から血の色に変わった拳は、見ている方が痛くなるような状態だが、当のグロームの表情にはやはり変化はない。
それどころか、グロームは第二撃で壊れた拳を使って、アルジェントの顔を勢いよく殴りつけた。
傷だらけの拳による殴打を受けたアルジェントは、危うく倒れそうになるが、何とか踏ん張り、獣拳でグロームの顔を殴り返し、上段蹴りで顎を打ち抜いて反撃する。
「舌噛んだ。ってぇなぁ、クソが」
口の端から血を流しながら悪態を吐いて、グロームが前を見ると、アルジェントが追撃で雷を纏った獣拳を放とうとしていた。
先程よりも速度も重さも増した獣拳を、グロームは間一髪の所で躱し、カウンターで掌底を打って、アルジェントの喉を潰した。
「ごふっ・・・‼︎」
喉を潰され、アルジェントは血泡を溢し、息苦しさを覚えると共に、何度目か分からない意識を失いそうになる危機に陥る。
どうにかして意識を失わないようにしなければと、目を見開き、胸に爪を立てていると、脇腹に強い衝撃が走り、アルジェントは軽々と吹き飛んだ。
「良い感じに入ったな」
足を上げながら、跳ねながら飛んでいくアルジェントを見て、グロームはそう呟く。
衝撃の原因は、グロームが放った後ろ回し蹴りだった。
筋力と遠心力を存分に利用した強力な蹴りが、アルジェントの脇腹に直撃し、筋肉と、その下にある臓器に重大な破壊をもたらしつつ、アルジェントを吹き飛ばした。
それだけの傷を負ったにも関わらず、アルジェントはすぐに立ち上がり、再びグロームに立ち向かおうとするが
「そら食らえ」
グロームは逆袈裟の手刀を振るうと共に、雷の刃を飛ばして、アルジェントの胴を斬る。
大量の血が身体から噴き出て、許容量を超えた痛みに視界が真っ赤になり、身体から力が抜けて、アルジェントはまた倒れそうになるが
『絶対、助ける』
リリィとの約束を思い出し、両足に力を込めて、しっかりと立つ。
もう約束を、誓いを破って、誰かを傷付けたくはない。
アルジェントは傷に触れて、血に濡れた掌を空に向けると、掌から輝く銀糸の龍のような雷を飛ばす。
雷が空に届いた時、空に辺り一帯を覆う、雷でできた巨大な魔法陣が描き出された。
「あれから落とすのが、お前の最強の雷か。どれだけのもんか楽しみだな」
グロームは魔法陣を無視して、アルジェントへと飛びかかる。
魔法陣が完成した時点で、アルジェントが雷を落とす準備は完了している。魔法陣を壊して、雷が落ちるのを阻止する事もできない。
だから、先にアルジェントを殺して、雷を食らった後にまた別の獲物、ライゼなどを狙おうかと考えて、グロームはアルジェントの胸を手刀で貫こうとしたーーその時、世界が白銀色の閃光に満たされた。
極光の中にいる。
肉体を、魂を、心を、焼き尽くし、跡形もなく消そうとする、眩く激しい光の中に、グロームはいた。
否、これは光ではない。雷だ。
アルジェントが空の魔法陣から落とした雷の中にいる。絶え間なく響く雷鳴と、身体中が痺れる感覚で、グロームはそれが分かった。
ーー絶界の霹靂。
アルジェントが行使する魔法の中で最強にして最大の、自他、敵味方共に滅ぼす究極の諸刃の剣だ。
魔法陣から広範囲かつ高密度の落雷を、敵を討つまで絶え間なく振らせ続けるこの技は、強い光と音で敵から外界を認識する術を奪う。それは雷の大精霊グロームとて例外ではない。
鼓膜を破壊する爆音の天鼓と、瞳を焦がす雷光の所為で、周囲の状況を認識する事ができず、グロームは動けずにいた。
爆音と光の世界で視覚と聴覚は役に立たない。その世界で役に立つ五感は嗅覚だけだ。
音と光の中にあっても、匂いは消えない。
戦いの中で、綱渡りの打ち合いの中で、何度も嗅いだ血の匂いを、アルジェントは覚えている。
血の匂いを辿って、アルジェントはグロームに駆け寄り、グロームはアルジェントの接近を野生の勘で察知して動いた。
アルジェントは左の爪に残りの魔力で放出した銀色の雷を纏い、グロームは右腕の肘から先に、金色の雷で作り出した剣を装着して、互いに飛び出し、それぞれの武器を振るう。
先にその武器を相手に届かせたのは
「俺の勝ちだ」
グロームの方だった。
金雷の神剣が、アルジェントの胸を穿通し、アルジェントの胸と口から血が流れ落ちるが、銀色の雷に焼かれて、血は一瞬で蒸発する。
確かな手応えを感じ、グロームが勝利を確信した直後、鳴り止まぬ轟音の中で、ほんの一瞬だけ甲高い破壊音が響いて、グロームの腕が蹴り上げられた。
その時、グロームの目が雷の世界に慣れ始めたのか、ぼんやりとだが、目の前にいる狼の輪郭が見えるようになった。
足を上げた姿勢のアルジェントの胸には、金雷の剣が刺さったままだった。それを見てグロームは理解した。
アルジェントは胸筋に力を込めた状態で、自分の腕を蹴り上げ、雷の大剣を折って、身動きを取れるようにしたのだと。
だが、それを理解した所でもう遅い。
アルジェントは上げた足を振り下ろし、必死の形相で、雷鳴にも負けない声量の叫び声を轟かせて、大きく前に踏み込んだ。
ーーアルジェント=ヴォルフローザ。その爪と牙は誰が為にある?
アルジェントは自問自答し、ステラ、リオ、リリィ、ローザ、ユナ、マリ、ライゼ、それ以外にもたくさんの顔を思い浮かべる。
それらの顔を心の中に、瞳の裏側に映して、アルジェントは自問自答の答えを導く。
ーーこの爪と牙は、僕が巡り会えた大切な人達の為にある。その人達を守り抜いて、失わないようにする為にある‼︎
答えを出した次の瞬間、アルジェントは自分が落とした雷を押し除けて前に進み、銀雷の獣爪でグロームの腹を斬り裂いた。
斬られた腹から、血肉をぶち撒けながらグロームはゆっくりと倒れていく。
その最中、満足げな顔をして、グロームは静かに呟いた。
「ーー今のは痺れたな」
グロームが地面に背をつけると、その途端に雷は降り止んだ。
アルジェントは膝をついて、空を見上げる。
銀色の光の残滓が舞う空は、幻想的で、とても美しかった。まるで花火が散った後の空みたいだ、なんて事を思いながら、アルジェントは空に手を伸ばした後に、力尽きてうつ伏せに倒れた。
『紅瞳』アルジェント=ヴォルフローザと、雷の大精霊グローム。
狼と精霊の、熾烈極まる血戦の幕は下ろされた。
拳をぶつけ合った。ただそれだけの事で衝撃波が生まれ、硝子の大地を震わせ、ひび割れさせる。
一合で周囲に多大な影響を及ぼす二人の姿を、リリィは座り込んだまま、じっと見つめていた。
「ーー勝って、アル君」
祈るような声の呟きを聞いて、アルジェントの心に火がつく。
アルジェントは分かっていた。リリィが傷だらけなのは、自分がリリィを傷付けて、リリィが自分を守る為に命懸けで戦っていたからだと。
死すら恐れず、決して倒れず、深く傷付いても自分を見捨てなかったリリィの為にできる事は何だ? とアルジェントは自分自身に問う。答えは決まっている勝つ事だ。勝って、リリィを助ける事だ。
ーーもう倒れない。もう自分を見失わない。必ず
「必ず勝つ」
アルジェントはリリィに応えるようにそう言うと、グロームの頭部を狙い、腰を回転させながら左拳を打つ。
グロームは身体を後ろに逸らす事でアルジェントの左拳を躱すが、アルジェントはすかさず前に踏み込んで、グロームの腹に雷の速度で拳を撃ち出す。雷速の拳はグロームの腹筋に突き刺さり、グロームの身体は大きく後ろに飛んだ。
「い、ってぇな。はは、強ぇじゃねぇか」
鈍痛が走る腹を押さえ、グロームが嬉しげにそう言うと
「うぅあっ‼︎」
アルジェントは飛んでグロームに接近し、前宙の勢いを乗せて、脳天に踵を打ち下ろす。
グロームは片腕でアルジェントの踵落としを防ぎ、腕を払ってアルジェントを引き離す。
回転しながら着地したアルジェントとの距離を一瞬で無にして、狂気じみた笑みをその顔に貼り付けて、グロームは頭部を狙って拳を繰り出した。
当たればその部位が確実に破壊される一撃を、アルジェントは全神経を集中させ、ぎりぎりで回避する。
一度目の戦いの時よりも、アルジェントはグロームの動きを捉えられていた。何とか、かろうじてだが、グロームの攻撃を避ける事ができた。
続けて放たれた拳と回し蹴りも、紙一重で避け、反撃で頭突きを食らわせる。
「ははっ」
額から血を流しながらも笑って、グロームは深い切り傷が刻まれているアルジェントの右肩に手刀を振り下ろす。
雷を纏ったグロームの手刀は、鉱石を豆腐のように容易く切断する。名だたる名刀と並ぶ切れ味を持つ手刀を、アルジェントは半歩後ろに下がって躱し、鞭のような蹴りでグロームの顔を打ち、吹き飛ばした。
「見える」
感覚が研ぎ澄まされ、集中力が極限まで高まっている。それと同時に、殺意と食欲もふつふつと湧き上がっているのをアルジェントは感じていた。
アルジェントの中の獣が、再び顔を覗かせようとしている。
アルジェントは完全に獣を抑え込めていた訳ではなかった。半分だけ、無理矢理に獣を抑え込み、かろうじて自我を保っている状態だった。
いつまた獣に意識を乗っ取られてもおかしくない、限りなく不安定な状態だが、獣を押さえる枷が、縛る鎖が、半分外れ、千切れかかっている事で、獣化していないにも関わらず、普段獣化する時よりも獣の力を引き出す事に成功し、アルジェントはグロームに対抗できていた。
かつて大事な人を傷付け、それ以来、恐れ、忌み嫌ってきた力に命を繋がれている事に、アルジェントは何とも言えない心境になるが、グロームに勝てる可能性がある力があるとすれば、それは忌み嫌う獣の力だけだ。
それならばアルジェントは強すぎる獣に負けぬよう、力の限りを尽くして抗い、その力を振るう。
「今だけは、言う事を聞け」
胸に拳を当てて、自分に言い聞かせるように言うアルジェントを見ながら、グロームは手を開いたり閉じたりを三度繰り返した後に、掌をじっと見つめる。
アルジェントとの撃ち合いの中で、グロームはある違和感を感じていた。
「身体が重ぇな。それに何だか全体的に少しずつ力が削ぎ落とされてる感じがしやがる」
グロームは確かに感じていた。
身体の重さと、あらゆる力が低下していく感覚を。
それは決して気のせいなどではない。グロームの身体には、ある魔法が原因で異変が起きていた。
「強い倦怠感に、能力低下、闇属性魔法の効果だな。あぁ、そういえばあの竜人、風属性と闇属性の先天性二属性混合魔法の使い手だったか」
リリィの『暗黒の嵐』は風属性と闇属性、二つの属性を兼ね備えた魔力だ。
風属性の魔法には、主に風で対象を斬り裂いたり、押し潰したりするものが多い。対して闇属性の魔法には、主に単純に闇の力で攻撃するものと、対象を蝕み弱体化させるものが多い。
グロームがリリィを見ると、リリィは笑った。確定だ。
「お前の仕業か」
「そうだよ。浄闇の業風には、対象の魔力、身体能力、身体強度と、体力を徐々に下げる効果が、ある」
「闇属性魔法に特有な効果が複数、中々いい魔法じゃねぇか。だが、戦いに支障が出る程の効果はねぇみたいだな」
「すぐには、効果は出ないけど、多分、効果が、大きく現れる前に、アル君が、君を倒すよ」
アルジェントが勝つ。
リリィがそう断言して間もなく、グロームの頬にアルジェントの肘打ちが叩き込まれた。
「おうっ⁉︎」
不意の攻撃に驚き、よろめくグローム。
前を向くと、既にアルジェントが眼前に近付いていて、拳を放とうとしていた。
「おぉおっ‼」
雄叫びと共に放たれたアルジェントの拳は、グロームの鼻を強く打ち、グロームは鼻血を流しながら仰反り、天を仰いで笑う。
「面白い」
ただ一言、そう呟いてグロームは鼻血を拭い、姿勢を元に戻して、前蹴りでアルジェントの胴を穿とうとする。
槍のような蹴りを、アルジェントは全神経を集中して凝視し、ぎりぎりの所で回避する。
何とか避けれたと、そう思ってすぐに顔の近くに風圧を感じて、目だけで横を見ると、裏拳が迫ってきていた。
拳を目視し、頬に掠った瞬間に、アルジェントは身を低くする。裏拳は空を切った。だが、それで終わった訳ではない。綱渡りはまだ続いている。
屈んだアルジェントの顔に、グロームの右膝が迫る。雷を纏った膝蹴りは、高い熱と打撃力を兼ね備えた殺人級の一撃だ。当たり所が悪ければ死ぬ。顔に当たれば、骨が砕け、陥没するだろう。
絶対に避けなければいけない一撃に対して、アルジェントが取った行動は回避、ではなく、牙を立てる事だった。
「ぐおぅるぁっっ‼」
「だと⁉」
グロームの膝にアルジェントの鋭い牙が突き刺さる。
血の味を舌で感じながら、アルジェントは噛みつく力を強め、紅い双眸に禍々しい光を灯す。
焦がれていた味。病みつきになって、離れがたくて、何度も何度も味わいたくなる至高の味を、舌で、命で感じてーーーー違う。
「ぐぅらっ‼」
アルジェントはグロームの膝の肉を喰い千切り、折れた数本の歯と共に地面に吐き出し、グロームから距離を取る。
血に染まる口元を袖で拭って、アルジェントは拳を強く握りしめ、胸に当てる。
獣に負けかけた。戦略的思考によってではなく、本能で噛みつき、血肉を貪ろうとした。その事に動揺するアルジェントに
「美味かったか⁉ 俺の血は‼ 肉は‼ 狼野郎‼」
自身の血肉の味の感想を問いかけながら、グロームは突進する。
右膝の肉を喰い千切られたにも関わらず、その速度は微塵も落ちていない。それどころか痛みを感じてる素振りすらない。
「痛覚がないのか?」
「な訳あるかボケェ‼ きちんと痛ぇよ‼ だが、こんなもん膝を擦りむいたのと大して変わんねぇ。言ったろ? 俺もお前と同じだ」
言葉を区切り、間合いを詰めて、アルジェントの顎を拳で突き上げる。
もろに顎を打たれ、脳を揺らされてふらつくアルジェントに、グロームは胸を叩きながら笑って
「殺さなきゃ止まらねぇよ。どんだけ殴られようが、蹴られようが、血を流そうか、死ぬまで戦い続ける。止めたきゃ殺せ。俺は殺すには、狼になるしかねぇぞ?」
狼になれと挑発する。
アルジェントは挑発を無視して、流れるような蹴りでグロームの首を狙う。
「今のお前は強ぇ」
流麗な蹴りを、グロームは見ずに片手で受け止め、受け止めたのとは反対の腕で足を掴んで、アルジェントを遠くに投げ飛ばす。
投げ飛ばされながら、空中で体勢を整えてアルジェントは着地し、グロームに注意を向けるが、グロームは一歩も動いておらず、魔法を発動する様子も無かった。
「だが、もしも今また狼になれば、お前はもっと、さっき狼になった時よりも強くなる。お前、普通の獣人より獣の血が濃いんだろ?」
「どうして、それを・・・」
「戦ってりゃ分かる。普通の獣人は、完全獣化しても、あそこまで力が跳ね上がる事はねぇ。何より、完全獣化して理性を失って、ただの狼になってたのがいい証拠だ。なぁ、狼になれよ。今も必死に血に抗ってんだろ? つれぇだろ?」
「つらくはない」
「嘘吐いてんじゃねぇよ‼」
アルジェントの答えを大気が震える程に大きな声で否定して、グロームはアルジェントに近付き、その右肩に打撃を入れる。
「ぐっ・・・‼」
右肩に拳が突き刺さり、顔を強張らせるアルジェントの首をグロームは掴み、身体を持ち上げる。
首が潰れそうになる程の凄まじい力で首を絞められ、アルジェントは息をする事も、声を出す事もできなくなる。
苦しみに表情を歪めるアルジェントの顔を見て、グロームは愉快そうに笑う。
「ほら、つれぇんだろ? 苦しいだろ? 自分を抑え込むのはよぉ。お前はな、人じゃねぇ、狼なんだよ。血に飢え、他の命を求めてやまない悪獣。それが本当のお前だ」
「ち、がう・・・」
「違くねぇよ。だってお前、さっき俺に噛みついてきたじゃねぇか」
少し前に取った行動を根拠に、自分の本質は獣であると指摘され、アルジェントは何も言えなくなる。
返す言葉を失ったアルジェントに、グロームは更に畳みかける。
「あの時、俺の肉を喰い千切った後のお前の顔には、まだ足りないって、そう書いてあったぜ?」
「そんな、事」
「ある。隠さなくていい。俺とお前の本質は同じだ。てめぇの欲望のままに暴れ回りてぇ獣。お前は上品に取り繕ってるみたいだが、俺はそんな事しねぇ。その方が楽だし、楽しく生きれるからな」
グロームは自分の欲求に極めて忠実だ。
自身の戦闘本能の赴くままに、暴れたいと思った時に暴れ、戦いと思った相手と戦う。そうして数え切れない程の強者とぶつかり合い、命のやり取りの中で生きてる実感を得て、愉悦の時に浸り続けてきた。
対してアルジェントは、欲望のままに、自分の為に戦ってきたグロームとは対照的に、常に誰かの為に戦ってきた。
大切な者の為、仲間の為、他人の為に戦う事は、素晴らしい事だと多くの人は思うだろう。だが、グロームはそうは思わない。
「お前は窮屈そうな生き方してるよな、本当によ。自分以外の奴の為にしか戦わないなんて、俺だったらそんな生き方は絶対にしねぇ。そんな退屈でつまらねぇ生き方してたら、息苦しくて死んじまう」
誰かの為に戦い続ける生き方は面白くないと、そう断言する。
一体その生き方に何の得があるのか、その生き方の何が楽しいのか、何の意味があるのか、グロームには本気で理解できなかった。
「俺は常に俺の為に戦ってる。お前もそうしろよ。獣の血を受け入れ、本能を、欲望を解放しろ。その方がお前は強くなれるぜ?」
「う、ぐぐ、く・・・」
「獣の血が濃い獣人はな、血を受け入れるととんでもなく強くなるんだ。血を完全に受け入れろ‼ 取り繕うのをやめちまえ‼ お前は狼だ‼ ただの獣なんだよ‼ その爪と牙は、他者を蹂躙し、傷付ける為のもんだ‼︎」
「ち、がう・・・‼」
声を張り上げ、アルジェントはグロームの肘に膝蹴りを打ち込む。
本気の膝蹴りを打ち込まれ、肘の関節が反対側に曲がり、グロームが手を離した途端に、アルジェントはグロームの首筋に噛みつき、その肉を喰い千切り、ごくりと音を立てて飲み込んだ。
「ほらな」
「ーーーーっ‼」
耳元で笑みを含んだ声が聞こえて、アルジェントは咄嗟にグロームから離れる。
「僕は、何を・・・」
口に手を当てて、アルジェントは混乱する。
考えてそうした訳ではない。無意識に、気付かぬ内に噛みついていた。自分でもその事が信じられず、狼狽えるアルジェントを見ながら、グロームは逆に曲がった肘を自力で元に戻し、血に染まる首を手で押さえて、ほらな? と言いたげな笑みを浮かべる。
「お前は狼だ。認めろよ」
「違う、僕はーー・・・」
「認めねぇなら認めさせてやるよ」
首の傷に触れた手を払い、血を地面に飛ばして笑みを消し、グロームは雷の速さで矢のような飛び蹴りをアルジェントの胸に突き刺す。
蹴りを受けた瞬間に、アルジェントは後ろに飛んで可能な限り衝撃を殺すが、ダメージまでは殺せず膝をつく。
「がはっ、あがっ、はぁ・・・」
肩を上下させながらアルジェントが前を見ると、グロームはその場から一歩も動かずアルジェントを見つめていた。
アルジェントが狼になるのを待っているのだろう。獣の血が抑えきれない程に強まっている今狼になれば、グロームに勝つ事ができるかもしれない。
しかし、その選択をしてしまえば、今度は戻ってこれないかもしれない。自我を永遠に失う事になるかもしれない。そうなれば、きっと、アルジェントはもう二度と
「皆には、ステラには会えない」
それはアルジェントにとって死以上の苦痛だ。
だから、アルジェントは何があろうと、絶対に狼になったりはしない。
「決めたんだ。僕は、僕のままで、大切なものを、守ってみせると。狼には、なりはしないと」
「・・・そうか」
頑として狼になろうとしないアルジェント。その決意が固い事をグロームは悟り、そして
「説得で心に訴えかけるのはやめだ。柄じゃねぇしな。生存本能の方に訴えかける事にする」
アルジェントの足元から雷の剣を飛び出させて、アルジェントの腹を貫いた。
「がはっ‼」
血を吐いて、アルジェントは倒れる。
貫かれた腹からはとめどなく血が流れて、瞬く間に血溜まりが生まれ、アルジェントは動けなくなる。傷と痛みが大きいという事もあるが、それ以上に
「うぅ、うぅうぅうううう・・・‼」
身体の内側で暴れ出しそうになる何かを抑えるのに必死になっているからだ。
奥歯を割れそうな程に強く噛み締めて、拳を握りしめるアルジェントを離れた所から見つめ、グロームは空に手を掲げる。
「死にそうになりゃ、理性よりも生存本能が勝って、否が応でも狼になるだろ。そうすれば俺はもっと強いお前と戦える」
「う、ぐぐぐ・・・」
「俺は強い奴と戦いてぇんだ。余計なもんがお前を弱くしてんなら、全部捨てちまえ。捨てられねぇなら、俺が捨てさせてやるよ」
いつの間にか空を覆っていた暗雲から、ゴロゴロと、低く、よく響く雷鳴が聞こえた直後、雷光が瞬き、雷の雨が降り注いだ。
雷の豪雨は常夜の『プリエール』を照らし、硝子の大地を焼き焦がし、無慈悲に蹂躙する。
文字通りの雷雨に打たれれば、アルジェントは更なる傷を負い、理性で獣の血の暴走を抑える余裕などなくなる。これで
「本当に楽しめ・・・ん?」
雷と雷の隙間を、何かが走っているのが見えて、グロームは目を凝らす。すると次々と落ちる雷の間を、リリィを背中に乗せて、縫うように四足走行するアルジェントの姿が見えた。
「ちっ、まだ他人の為に動くか。そうじゃねぇ。そうじゃねぇんだよ。俺がお前に求めてるもんは。強さを見せろって、そう言ってんだ。それは強さじゃねぇ、弱さだ」
自分の内に潜む獣を無理矢理抑え込んで、仲間を救う事を第一に考え行動するアルジェントを見て、グロームは苛立ちを募らせる。
「気に食わねぇ。俺と同じ雷。俺と同じ獣のお前が、良い子ちゃんぶりやがって。その竜人が足枷になってんなら、壊してやるよ」
「ーーっ、させるか」
雷の集中豪雨の中にいながら、グロームの呟きを聞き取ったアルジェントは、速度のギアを数段階上げて、雷の雨が降る範囲からの脱出を試みる。
普段の最高速度を遥かに上回る速度が出て、この時ばかりは獣の血が濃くて助かったなんて事を考えていた時、アルジェントの口の端から夥しい量の血がこぼれた。
「あはっ、は、うぅ・・・‼」
身体の至る所が危険信号を発している。これ以上動けば死ぬと叫んでいるのが聞こえる。
でも、それでも止まる訳にはいかない。今止まれば、雷の雨に打たれて、リリィも、アルジェント自身も死ぬ。動き続けたら死ぬ。動かなくても死ぬ。どちらにせよ死ぬなら、最期まで動き続けて、リリィを守って死ぬ、とアルジェントがそう考えた時、雷の雨が止んだ。
「え?」
突然攻撃が止まって、思わず呆けた声を漏らした直後、アルジェントの左の脹脛を空から降ってきた雷の剣が貫き、刺すような痛みが走った。
「ぎっ‼」
激しい痛みにアルジェントは声を上げて倒れ、アルジェントの背中に乗っていたリリィの身体は前に投げ出される。
「アル、君・・・」
消え入りそうな声で自分の名前を呼ぶリリィに、アルジェントが倒れたまま手を伸ばすと、その手を雷の剣が貫いた。
「そんなにも、仲間が大切か?」
雷の剣を持つ男、グロームがアルジェントを見下ろして問いかける。
アルジェントは問いかけに答えず、雷の剣で刺されたのとは逆の手をリリィに伸ばすが、リリィに届く前にグロームに踏みつけられる。
「答えろ。仲間が大切かって、そう聞いてるんだ」
「当たり、前だ」
リリィを見ながらそう答えたアルジェントにグロームは何も言わず、足から手をどかして雷剣を突き刺して地面に手を縫い付ける。するとリリィの方を見て
「本気を出さない奴に本気を出させるには怒らせるしかない。お前みたいな奴を怒らせるには、これが一番だ」
リリィに雷の剣を突き付けた。
これからグロームが何をするつもりなのか、それを理解して、アルジェントは戦慄する。
「やめろ‼ リリィちゃんに手を出すな‼」
「お前が狼にならないのは、こいつがいるからだろ? お前は俺と戦いながら、ずっとこいつの事を気にしてやがる。それじゃ本気を出す事なんて、狼になる事なんてできないだろ?」
いいか?
「俺は戦った後ずっとお前を見てた。拳を交えて、もしかしたら、こいつは強くなるかもしれねぇって思ったからな。そしたらお前は狼になって、期待通り強くなった。俺はもう一度あの時のお前と、いや、あの時以上に強くなったお前と戦いてぇんだよ」
「そんな事の為に、リリィちゃんを、手にかける、つもりか?」
「あぁ、そうだ」
あっさりとリリィを殺す意思があると認めたグロームに、アルジェントは強い殺意を覚えて、右足を除いた四肢の雷剣を抜こうと足掻くが、深く突き刺さっていて抜く事ができない。
獣のように低く唸りながら、瞳孔が開ききった紅瞳で自身を睨むアルジェントにグロームは
「お前が恐れてるのは、お前自身の爪と牙でこいつに傷を付ける事だ。それなら俺がこいつを殺して、お前の恐れを消してやる。だから、今度こそ本気を出せ。狼野郎」
そう言って、グロームは雷剣をリリィの首に振り下ろした。
狼になるのが恐い。
狼になると自分を見失って、誰彼構わず傷付けてしまうから。
一番最初に傷付けたのは、僕を救ってくれた憧れの人。次に傷付けたのは誰よりも信頼していた友達。その次は大切な人の大切な人。その次は大事な仲間。
守りたいと思った人達を傷付けてばかりの狼を、僕は決して好きにはなれないし、許す事はできない。叶うならば消してしまいたいとすら思うが、それもできない。
僕は狼で、狼は僕だから。
血肉に飢え、命を欲する凶悪な狼は、僕が生きている限り僕に付いて回る。きっとこの先離れる事などできはしないだろう。
決して協力的ではなく、むしろ利己的な狼は、僕を含めたあらゆる命を喰らう事を望んでいる。
グロームの言う通り、僕の本質は欲望のままに暴れ回る狼なのだろう。否定したくても、もう否定する事はできない。何度も誰かに牙を立てておいて、そうではないと言い張るのは無理がある。
狼も僕だって事を認めるよ。
狼は僕じゃないなんて、見ない振りをするのはもうやめる。
これからは狼と向き合って、戦い続けてやる。
もう二度と、狼には負けない。
狼にも、グロームにも勝って、リリィちゃんを助けてみせる。
『ありがとう。助けて、くれて』
絶対に、死なせない。
「守ってみせる」
グロームが振り下ろした雷剣が、リリィの首を刎ねる直前に、アルジェントは獣化して四肢を逞しい黒狼のものに変える。
獣の血がより濃くなり、飛びそうになる理性を何とか繋ぎ止め、アルジェントは両腕を上げて雷剣を引き抜く。
無理に腕を上げた事で、腕の関節が外れるが、一旦無視する。
倒れたまま身体を捻り、仰向けになって足と腹筋の力のみで起き上がって、振り向きざまにグロームの顔を足背で蹴り飛ばして怯ませ、リリィの斬首を阻止する。
「ふっ‼︎」
再びグロームが雷剣を振り下ろす前に、アルジェントはグロームに体当たりして、グロームを突き飛ばすと同時に右肩を嵌める。
次に左肩を右手で嵌めて、両手と左脹脛に刺さっていた雷剣を抜き、アルジェントはグロームを見据える。
グロームはアルジェントの蹴りを受けて、鼻から流れた血を乱暴に拭って、爛々と目を光らせるアルジェントを見て、くくくと笑う。
「半分は狼になれたか狼野郎。もう半分も受け入れてたら、完璧だったんだがなぁ」
「僕は狼を、獣の血を受け入れるつもりはない」
「強情だなお前は」
「強情にもなるさ。僕が僕の中の狼を受け入れた所為で、獣の血に呑まれた所為で傷付いた人達がいる。同じ事を繰り返さない為にも、僕は狼と戦い続けると決めたんだ」
「今にも負けそうなのにか?」
アルジェントの言葉を聞いて、グロームは嘲笑する。
アルジェントの手は震えていて、目は血走り、口からは唾液が溢れていた。
人型の時でさえグロームに二度も噛み付き、獣の血の影響を強く受け、狼に負けそうになっていたのだ。半獣化して獣の血を解放し、狼を表に出せば、より自我を保つ事が困難になるのは当然の事だ。
「もう一度言うぞ。つれぇだろ? 自分を抑え込むのはよ。良いんだぜ? 自分を解放しても。お前がこの竜人を殺しても、俺が殺った事にすればいい。口裏は合わせてやるからよ。こんな状況だ。言わなきゃ誰も分からね」
「うちのマスターは鋭いんだ。半端な嘘は一瞬で見抜かれる。たとえそうでなかったとしても、僕は迂闊に獣の血を全て解放して、狼になるつもりはない。僕はまだ全力の狼に勝てる程強くはない。今は半分の力の狼と渡り合うだけで精一杯だ」
グロームが持ちかけてきた後ろ暗い交渉を即座に断り、袖で口元を拭ってアルジェントは、あくまで狼になるつもりはないと告げる。その答えを聞いて、グロームはアルジェントに失望の眼差しを向ける。
「がっかりだ。全力を見せずに死ぬ事を選ぶなんざよ」
「これから命を懸けるつもりだが、死ぬつもりはない。それと、どうしても僕の本気を見たいなら、見せてやる。僕の本気の雷を」
「へぇ、本気の雷ねぇ。そいつは楽しみだ。狼になる事を拒否したんだ。その雷とやらが中途半端なものだったら、楽には死なせねぇからな」
アルジェントとグローム、二人はそれぞれ金と銀の雷を身体から発して、瞬時に間合いを詰める。
グロームは雷剣を、アルジェントは爪を振るって、互いの首を斬り飛ばそうとする。
それぞれの首に雷剣が掠り、爪が僅かに刺さった瞬間に、二人同時に蹴りを放って、二人共吹き飛んだ。
腹を押さえて両者は睨み合い、グロームが先に行動を起こす。
手に持った雷剣を槍投げの容量で投擲し、アルジェントの背後に回り込み、その頭を殴り飛ばそうとする。
前門の雷剣、後門の雷精。どちらに対処しても無事では済まない状況で、アルジェントは後ろを向いてグロームの拳を右腕で防ぎ、投擲された雷剣を左手で受け止め、ダメージを最小限に押さえた。
拳を受け止めた右腕の骨は砕け、左手にはまたしても雷剣が突き刺さるが、問題無い。痛みを無視すれば動かせる。腕はまだ、両方使える。
「うるぁっ‼︎」
雷剣が刺さった左手で掌底を放ち、アルジェントはグロームの顔を貫こうとする。
グロームの攻撃を利用し、逆にグロームに大きな傷を与えようとして、しかし、雷剣はグロームの顔に届く前に消えて、アルジェントはグロームに手首を掴まれる。
唖然とするアルジェントに、グロームは手首を掴む力を強めながら
「俺の作ったもんだ。消したくなりゃいつでも消せるに決まってんだろ」
そう答えて、渾身の力でアルジェントの顔を殴り、殴られたアルジェントは二転三転しながら飛ばされる。
首が飛んだと錯覚する程の衝撃を受けて、意識が朦朧として、アルジェントの口から再び唾液が溢れてくる。
食ってしまえ、食い殺せ、腹が減っただろう? と、自分の声で囁くのが、アルジェントの耳に聞こえてくる。
アルジェントの中の狼が再び顔を出そうとしている。アルジェントに成り代わり、目の前の敵を食い殺そうとしている。
ーーその方が楽だろう? そうすれば、楽にあいつに勝てるぞ。
誘惑に惑わされそうになる。狼に負けそうになる。全てを投げ出して、終わらせたくなる衝動に駆られる。だが
「もう何度も、誓っては破ってを、繰り返してしまっている。これ以上誓いを破る訳には、いかないんだ」
狼にならないと誓った。
勝って、リリィを助けると誓った。
アルジェントは誰かを守ると何度も誓いを立てては、結局は守れず、誰かに傷を刻み続けてを繰り返してきた。
ステラに、ルシフに、マリに、リリィに、それ以外にも多くの者に、アルジェントは消えない傷を刻み続けてきた。
『魔神の庭』のメンバーはアルジェントの事を強いと思っているが、アルジェント自身は自分を強いとは思わない。
まだまだ弱く、未熟で、理想には程遠い。
大切なものを全て守れる強さ。ステラの隣に立つに相応しい王子という理想には。
その理想に少しでも近付く為には、まずは目の前の壁を、狼の力に頼らず、自分自身の力で越えなければならない。
「ーー僕のままで、勝ちたいんだ。狼には譲れない」
もう一人の自分にそう言い聞かせて、アルジェントは自分で自分の舌を噛み千切った。
「ーーっ、ぶ、ぐぶ‼︎」
鋭い牙で自分の舌を噛み千切り、アルジェントの口から赤黒い血と舌の一部、そして濁った苦鳴が吐き出される。
「はぁ、はぁ・・・あぁっ・・・‼︎」
強い痛みで狼が顔を出しそうになるのが押さえられ、意識が覚醒する。
心なしか頭がすっきりして、視界が明瞭になった気もする。
雑念も振り払う事ができた。
攻めるなら、今だ。
「おぉおぅあぁああぁああっっ‼︎」
喉の奥から叫びながらアルジェントはグロームに向かっていく。
銀色の雷と化して自分に向かってくるアルジェントを、グロームは捉える事ができず、獣拳で顔面を殴られて、地面を跳ねながら遥か彼方に飛んでいく。
飛んでいったグロームを追って、アルジェントも飛び、追いついた所で胸倉を掴んで寄せて、もう一発雷の力と獣の力が合わさった拳を顔面にお見舞いし、更に遠くにグロームを殴り飛ばす。
「何だ? 奴の拳が、急に重く。いや、違ぇな。俺が弱くなってやがんのか」
リリィの浄闇の業風によって、グロームの魔力、身体能力、身体強度、体力は半分以下に下がっていた。
最初の内は大して影響を受けていなかったが、時間経過によって効果が少しずつ増大し、グロームも気付かぬ内に、それらの力が半分以下に下がっていた。
「俺がめちゃくちゃ弱くなって、あいつがめちゃくちゃ強くなってる訳だ。丁度いいハンデじゃねぇか」
飛び起きて、グロームは首を鳴らし、アルジェントと見つめ合う。
次の撃ち合いで勝敗が決まるであろう事を、両者は確信していた。理由も、根拠もない。だが、心でそう感じていた。
だから、狼と精霊は、その拳に己の全てを乗せる。
目の前の相手を、打ち負かす為に。
「うぉおぉおおぉおらぁっっ‼︎」
「はぁああぁあぁああぁっっ‼︎」
咆哮を轟かせ、アルジェントとグロームは同時に飛び出した。
互いの距離が無くなるのは一瞬だった。
三度目の戦いの始まりを再演するかのように、両雄は拳をぶつけ合い、そしてーー・・・
「普段の俺がこうなる位の力を持ってくれてたら、もっと楽しめたろうになぁ」
グロームの右拳が粉々に砕けて、朱に染まる。
砕けて、褐色から血の色に変わった拳は、見ている方が痛くなるような状態だが、当のグロームの表情にはやはり変化はない。
それどころか、グロームは第二撃で壊れた拳を使って、アルジェントの顔を勢いよく殴りつけた。
傷だらけの拳による殴打を受けたアルジェントは、危うく倒れそうになるが、何とか踏ん張り、獣拳でグロームの顔を殴り返し、上段蹴りで顎を打ち抜いて反撃する。
「舌噛んだ。ってぇなぁ、クソが」
口の端から血を流しながら悪態を吐いて、グロームが前を見ると、アルジェントが追撃で雷を纏った獣拳を放とうとしていた。
先程よりも速度も重さも増した獣拳を、グロームは間一髪の所で躱し、カウンターで掌底を打って、アルジェントの喉を潰した。
「ごふっ・・・‼︎」
喉を潰され、アルジェントは血泡を溢し、息苦しさを覚えると共に、何度目か分からない意識を失いそうになる危機に陥る。
どうにかして意識を失わないようにしなければと、目を見開き、胸に爪を立てていると、脇腹に強い衝撃が走り、アルジェントは軽々と吹き飛んだ。
「良い感じに入ったな」
足を上げながら、跳ねながら飛んでいくアルジェントを見て、グロームはそう呟く。
衝撃の原因は、グロームが放った後ろ回し蹴りだった。
筋力と遠心力を存分に利用した強力な蹴りが、アルジェントの脇腹に直撃し、筋肉と、その下にある臓器に重大な破壊をもたらしつつ、アルジェントを吹き飛ばした。
それだけの傷を負ったにも関わらず、アルジェントはすぐに立ち上がり、再びグロームに立ち向かおうとするが
「そら食らえ」
グロームは逆袈裟の手刀を振るうと共に、雷の刃を飛ばして、アルジェントの胴を斬る。
大量の血が身体から噴き出て、許容量を超えた痛みに視界が真っ赤になり、身体から力が抜けて、アルジェントはまた倒れそうになるが
『絶対、助ける』
リリィとの約束を思い出し、両足に力を込めて、しっかりと立つ。
もう約束を、誓いを破って、誰かを傷付けたくはない。
アルジェントは傷に触れて、血に濡れた掌を空に向けると、掌から輝く銀糸の龍のような雷を飛ばす。
雷が空に届いた時、空に辺り一帯を覆う、雷でできた巨大な魔法陣が描き出された。
「あれから落とすのが、お前の最強の雷か。どれだけのもんか楽しみだな」
グロームは魔法陣を無視して、アルジェントへと飛びかかる。
魔法陣が完成した時点で、アルジェントが雷を落とす準備は完了している。魔法陣を壊して、雷が落ちるのを阻止する事もできない。
だから、先にアルジェントを殺して、雷を食らった後にまた別の獲物、ライゼなどを狙おうかと考えて、グロームはアルジェントの胸を手刀で貫こうとしたーーその時、世界が白銀色の閃光に満たされた。
極光の中にいる。
肉体を、魂を、心を、焼き尽くし、跡形もなく消そうとする、眩く激しい光の中に、グロームはいた。
否、これは光ではない。雷だ。
アルジェントが空の魔法陣から落とした雷の中にいる。絶え間なく響く雷鳴と、身体中が痺れる感覚で、グロームはそれが分かった。
ーー絶界の霹靂。
アルジェントが行使する魔法の中で最強にして最大の、自他、敵味方共に滅ぼす究極の諸刃の剣だ。
魔法陣から広範囲かつ高密度の落雷を、敵を討つまで絶え間なく振らせ続けるこの技は、強い光と音で敵から外界を認識する術を奪う。それは雷の大精霊グロームとて例外ではない。
鼓膜を破壊する爆音の天鼓と、瞳を焦がす雷光の所為で、周囲の状況を認識する事ができず、グロームは動けずにいた。
爆音と光の世界で視覚と聴覚は役に立たない。その世界で役に立つ五感は嗅覚だけだ。
音と光の中にあっても、匂いは消えない。
戦いの中で、綱渡りの打ち合いの中で、何度も嗅いだ血の匂いを、アルジェントは覚えている。
血の匂いを辿って、アルジェントはグロームに駆け寄り、グロームはアルジェントの接近を野生の勘で察知して動いた。
アルジェントは左の爪に残りの魔力で放出した銀色の雷を纏い、グロームは右腕の肘から先に、金色の雷で作り出した剣を装着して、互いに飛び出し、それぞれの武器を振るう。
先にその武器を相手に届かせたのは
「俺の勝ちだ」
グロームの方だった。
金雷の神剣が、アルジェントの胸を穿通し、アルジェントの胸と口から血が流れ落ちるが、銀色の雷に焼かれて、血は一瞬で蒸発する。
確かな手応えを感じ、グロームが勝利を確信した直後、鳴り止まぬ轟音の中で、ほんの一瞬だけ甲高い破壊音が響いて、グロームの腕が蹴り上げられた。
その時、グロームの目が雷の世界に慣れ始めたのか、ぼんやりとだが、目の前にいる狼の輪郭が見えるようになった。
足を上げた姿勢のアルジェントの胸には、金雷の剣が刺さったままだった。それを見てグロームは理解した。
アルジェントは胸筋に力を込めた状態で、自分の腕を蹴り上げ、雷の大剣を折って、身動きを取れるようにしたのだと。
だが、それを理解した所でもう遅い。
アルジェントは上げた足を振り下ろし、必死の形相で、雷鳴にも負けない声量の叫び声を轟かせて、大きく前に踏み込んだ。
ーーアルジェント=ヴォルフローザ。その爪と牙は誰が為にある?
アルジェントは自問自答し、ステラ、リオ、リリィ、ローザ、ユナ、マリ、ライゼ、それ以外にもたくさんの顔を思い浮かべる。
それらの顔を心の中に、瞳の裏側に映して、アルジェントは自問自答の答えを導く。
ーーこの爪と牙は、僕が巡り会えた大切な人達の為にある。その人達を守り抜いて、失わないようにする為にある‼︎
答えを出した次の瞬間、アルジェントは自分が落とした雷を押し除けて前に進み、銀雷の獣爪でグロームの腹を斬り裂いた。
斬られた腹から、血肉をぶち撒けながらグロームはゆっくりと倒れていく。
その最中、満足げな顔をして、グロームは静かに呟いた。
「ーー今のは痺れたな」
グロームが地面に背をつけると、その途端に雷は降り止んだ。
アルジェントは膝をついて、空を見上げる。
銀色の光の残滓が舞う空は、幻想的で、とても美しかった。まるで花火が散った後の空みたいだ、なんて事を思いながら、アルジェントは空に手を伸ばした後に、力尽きてうつ伏せに倒れた。
『紅瞳』アルジェント=ヴォルフローザと、雷の大精霊グローム。
狼と精霊の、熾烈極まる血戦の幕は下ろされた。
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