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第四章 祈りを繋ぐ道
第七話 小さな星
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「紅血限界突破」
目を閉じ、両拳を握り締め、ステラは魔力を解放する。
身体から赤いオーラを放ち、四肢に逞しく立派な甲冑を纏い、輝く金髪は燃えるような赤髪へと変わり始める。髪の色の変化が終わり、見開かれたステラの水晶色の瞳は、外界の光を反射し煌めく、宝石のような緋色へと変わっていた。
「これで、あなたの魔法を打ち破る」
「紅血限界突破・・・確かに今までと違うようだが、一体何が違うんだ?」
「今から見せます」
気怠げに棒を担ぐジークフリートに短く答えて、ステラは一瞬でジークフリートの眼前に迫る。
―――速いな。
昨日との速度の違いにジークフリートは目を見張る。
確かに昨日とは違うらしい。だが、それでも対応できない速度ではないうえに、また力押し。
力押しでジークフリートの『竜皮』を破る事は出来ない。どれだけ速い攻撃だろうとそれは変わらない。
結果は昨日と同じだ。
自身の防御力に確固たる自信を持つジークフリートは、ステラが拳を構えても動かない。
―――どんな一撃でも必ず受けて見せる。
これまでだってそうしてきた。
ありとあらゆる攻撃を、この『竜皮』の力で受け切ってきた。たかだか少女の一撃に崩れる壁じゃ―――・・・
「はあぁあああっ‼」
ステラが放つ渾身の一撃を、ジークフリートは避けずに受け止めた。ただし、自分の身体ではなく、手の内にある棒を使って。
ほとんど反射的な自分の行動に、ジークフリートは混乱する。
今、自分はステラの攻撃を自身の身体ではなく棒で弾いた。
ステラの攻撃によって真っ二つに折れた棒の破片が宙に舞うのを見て、ジークフリートは自身の行動を再確認し、その意味を理解する。
反射的な回避、受け流しは、これまでの戦いで培われた戦闘勘、野生の本能がその攻撃が危険だと判断して、肉体が脳の命令を受ける前に取った行動。つまりは、ジークフリートの本能が、今のステラの攻撃を危険だと判断したという事だ。
―――あり得ない‼
それだけの力がステラにある筈が無い。昨日自身に手も足も出なかった少女が、いきなりそれだけの力を手に入れられる訳がない。一体どうして
「―――っ、これは・・・」
ジークフリートはステラの拳、その一撃によってへし折られた棒の割れた部分を見てある事に気付く。
―――棒が発火している?
急ごしらえの武器の変化にジークフリートが気付くのと、ステラがジークフリートの拳を振り抜いたのはほぼ同時。ステラの拳が直撃する前に、ジークフリートは腹に『竜皮』の力を集中させる。その一秒後、ステラの拳はジークフリートの腹に直撃し、ジークフリートは奥歯を噛む。
「ぐっ‼」
「うううううぅおああああああっ‼」
踏ん張りがきかず、ジークフリートは吹き飛ばされ、後方の木の幹に激突する。
ジークフリートが尻をついて、木にもたれかかると、衝撃に耐えきれなかった木が音を立てて倒れる。
背中には傷は無い。服をめくって腹の部分を確認するが、腹にも傷は無い。だが、尋常じゃない程に熱い。
「紅血限界突破。そうゆう事か・・・」
なるほど、よく考えたなと、ジークフリートは微笑する。
「食らって分かったぞ、紅血限界突破。お前の身体の中の血の温度を上げて、お前の身体能力を限界まで引き出す技だろ?」
「えぇ、そうです。ルベライトさん、『海鳴騎士団』の副団長の言葉と、ちょっとしたハプニングから思いついた力です」
『いかに硬い壁だろうが、いかに強靭な肉体だろうが、熱を防ぐ事は出来ない』
『エクラン』でアルジェントと戦った時、ルベライトがそう言っていたのを、リリィがクッキー作りに失敗し鉄板を溶かしていたのを見て思い出した。
硬い壁も、強靭な肉体も、熱は防げない、この言葉を体現するかのように、ルベライトはアルジェントの身体に、硬い岩を、熱を通し、溶かして戦っていた。もし、その言葉と熱の力が本物なら、『竜皮』を打ち破る事が出来るのではないか。そう思って考えた、熱を最大限に活かす力の仕組みは
「『紅血の協奏曲』の所有者の血管は丈夫だ。普通の人間では耐えられない負荷にも耐えられる。中でどれだけ熱い血が流れていても破れはしないだろう。蒸発して不足した血液は他の臓器で造血して補えばいい」
熱で蒸発し消えていく血液を、他の臓器が造血器官の役割を果たせば、失血は免れる。しかし
「それだけでは高温の血液に臓器が焼かれお前は死ぬ。そうなっていないのは、『紅血の協奏曲』のもう一つの特性、瀕死の時にのみ働く自己修復によるものなんだろ? 高温の血液で焼かれる内臓を、自己修復の特性で治し続ける。自分の能力をよく理解した戦法と言えるが、どれだけ持つんだ? その状態。消費魔力は莫大な筈、そう長くはもつまい」
ジークフリートが言う通り、紅血限界突破の消費魔力は絶大だ。
ステラの魔力量ではもって三分が限界。三分以内に決着を着けなければ、魔力を使い果たし勝ち目が無くなる。
「その前にあなたに傷を付けてみせる」
「そうか。なら、俺も全力で抗おう」
両手の手の内に剣を召喚し、ジークフリートは構える。
本物の鋼で作られた本物の武器。
その辺にあっただけの棒で今のステラを倒す事は出来ない。『竜殺しの英雄』は、初めてステラを戦える相手だと認識した。
右手の剣を逆手に持ち替え、ジークフリートステラに向かって跳び、それに反応してステラも飛び出す。銀色の鋼と紅い拳がぶつかり、衝撃で木々が揺れる。単純な力は互角。
長く戦えないという条件は互いに同じ。経験、技術、感性、力以外の要素で相手に勝る方が勝つ。
「はっ‼︎」
熱を纏った拳が、ジークフリートの頬を掠める。
脆い部分に当たれば間違いなく傷が付くであろう攻撃、油断は一切出来ない。
―――攻めるか。
早々に決着を着けようと、ジークフリートはステラへと踏み込み、剣を振るう。
「――――ぐ‼」
速攻の先制攻撃、初撃の剣閃を食らわせ、ジークフリートは次撃の前蹴りでステラを吹き飛ばし、ステラを斬りつけた剣を見る。
折れても溶けてもいない。木を燃やせても鋼を溶かすだけの熱量がステラに無い事を確認し、ジークフリートはステラとの距離を一瞬で詰め、ステラの左腕を斬りつける。
「くっ‼」
「よく反応したな」
自身の左腕を目掛けて放たれた剣閃を、咄嗟に甲冑で覆われている部分で受け止めたステラにジークフリートが感心したように呟くと、ステラはジークフリートの腹を殴打する。
「ぐっ、強いな」
「ふんっ‼」
苦痛に顔を歪めるジークフリートの顔面を、ステラは思い切り殴りつける。手ごたえは感じるが、傷は付かない。
紅血限界突破の効果持続時間は残り二分を切った。二分後までにどうにかできなければジークフリートに傷を付ける手段は無くなる。攻めあぐねている時間は無い。
「うおぉおおおぉおおおっ‼」
ステラは何度もジークフリートに攻撃する。
殴打、脚撃、肘鉄、頭突き、アッパー、その全てがジークフリートに直撃するが、昨日と同じように傷は出来ない。
しかし、昨日とは違い、ジークフリートの表情に余裕は無い。
少しでも気を緩めて『竜皮』の力の比率を間違えれば、身体に傷が付いてしまう。そうなれば自分はステラを弟子に取る事になる。
―――それが絶対に嫌かと言われれば、そうではなくなってきたが、こいつの輝きは
「はあぁああああああああああっ‼」
―――こいつの輝きは、本当に俺が見届けるに足る光なのか?
成長速度と発想力は申し分無い。ただそれだけだ。
ただ強いだけじゃ、輝いてるとは言えない。強さ以外の何か、きらりと光るもの。それが見えない限り
「俺はお前を弟子とは認めない」
ステラの拳を受け流し、ジークフリートはステラの右腕に剣を刺し、左足を踏みつけ
「残念だったな」
華麗な、水の様に流れる剣がステラの鎖骨を突き、そのまま左肩を斬り上げた。
斬られた血管、切り裂かれた部分から熱せられた血が噴き出す。
足がふらつき、ステラは後ろに倒れそうになる。その隙をジークフリートは見逃さなかった。倒れそうになったステラの胸に、目にも止まらぬ速度の突きを放つ。
正確に、寸分の狂いもなく急所を貫く一撃。ステラを貫いた突きの勢いは止まらず、数メートル離れた木の幹に剣が突き刺さりようやく止まる。
「かはっ‼」
口から血を吐き、手足からだらんと力が抜け、ステラは動かなくなる。
あれだけの出血に加え胸を貫かれたのだから当然だ。動ける方がおかしい。
「今回は中々良い線いってたぞ。俺に真剣を使わせるとはな。六等星の中でも、比較的五等星に近い輝きをお前は持っていたらしい。生憎、その程度の輝きでお前を弟子にしてやる事は出来んが」
そう言いながらジークフリートはポケットの中を漁り、一本の小さな薬瓶を取り出す。
「回復用のポーションだ。自作だが大概の傷は治る。一度仕事で腕を落としたが、くっつけてこいつをかけたらすぐに治った」
ステラの胸から剣を引き抜き、ポーションをかけようとした時、ステラの蹴りがジークフリートのみぞおちに入った。
予想外の攻撃にジークフリートは膝をつき、ステラを見上げる。その胸には傷は無かった。肩にも、右腕にも、どこにも傷は無い。
「『紅血の協奏曲』の自己修復能力、体内全域を治癒を行っているから、傷の回復はもう少し遅くなると思っていたんだがな」
『紅血の協奏曲』の自己修復能力をジークフリートは完全に侮っていた。
その結果として反撃を食らってしまった訳だが、それ以前に何かがおかしい。
手の内が軽い。鋼の重さを手の内に感じない。剣を見ると、柄から先、刀身が溶けて無くなっていた。
「鋼が、溶けて・・・」
―――嘘だ。鋼を溶かす事は出来なかった筈・・・・っ‼
ステラが立つ地面、草が燃えている。驚きの前に他の草に燃え移るのではないか、そんな不安がジークフリートの胸を満たすが、燃えた草が一瞬で灰になり不安は杞憂に終わる。
「血の温度が上がっているのか? 鋼を溶かし、立っている草を一瞬で灰にする程に」
ジークフリートはステラを見る。
ステラの身体から噴き出す赤い蒸気は勢いを増し、赤髪と緋色の瞳は更に輝き、鮮やかになっている。
間違いない。熱が上がっている。時間が経てば経つ程熱が上がる。その分強さも増すだろうが
「う、ぐぅ、うっ、うぐぐ・・・・」
ステラの顔は苦悶に満ちている。
自己修復能力が常に発動中とはいえ、内臓が常に焼かれ、血液が沸騰している事に変わりはないのだ。
下手したら無事では済まない、死んだっておかしくない。肉体への負荷と痛みは想像を絶するものになっている筈だ。
自分という薪に、覚悟という名の炎を投じて命を燃やす力。紅血限界突破。
「面白い。そこまでして弟子になりたいか」
命を削ってまで自分に向かってくる意志を見せたステラに、ジークフリートは笑う。
笑って、命を削るステラに本当の全力で答える事を決め、五重の魔法陣を右手の掌に展開し、一本の剣を召喚する。
刃の長さが百四十センチもある、装飾が少ない白銀の長剣。
どこの武器屋にもありそうな剣を大きくしただけに見えるその剣は、普通の剣には無い荘厳なオーラを放っている。
「これは『グラム』、俺の父シグムントが俺に託した名剣だ。名は『怒り』を意味する」
名剣『グラム』。
かつて神が作り、『邪竜』ファフニールを葬ったといわれる伝説の剣。
史実上ではジークフリートが『グラム』を振るったという記録は少ないが、ジークフリートは『グラム』を振るった戦いでは必ず勝利している。
『グラム』を召喚したという事は、ジークフリートが本気になった証拠だ。
紅血限界突破の効果持続時間は残り四十五秒。
「斬り裂け」
ステラが動き出した瞬間、ジークフリートがグラムを斜めに斬り上げ、斬撃が飛ぶ。
波動のような斬撃がステラに向かって飛び、ステラはそれを横に跳んで避ける。獲物へと命中しなかった斬撃はそのまま延長線上に飛び、木々を薙ぎ倒し森林を蹂躙する。
「ーーっ嘘でしょ? これが、剣の威力?」
「まだまだいくぞ」
驚くステラに、ジークフリートは上に跳びグラムを構える。
研ぎ澄まされた闘気、数多の戦いを乗り越えてきた者のみが持つ覇気を、ジークフリートは全身から放つ。
竜を殺した一撃が、来る。
「銀閃斬」
大振りの薙ぎと共に放たれた巨大な鎌鼬が、ステラもろとも周囲の地面を吹き飛ばす。緑の大地をごっそり削る破壊の衝撃、剣の常識を超えた一撃に巻き込まれ、ステラは血塗れになって宙を舞う。
「あ、が―――」
時間が無い。
宙に浮いてる暇など無いのに
―――身体が、動かな、い・・・・
指一本、ピクリとも動かす事ができない。これで終わり、また負けた。また、また、勝つ事はできな
『これが、私の新しい戦い方、あなたに認めてもらう為の力です』
―――そうよ。認めさせると決めた筈じゃない。強くなれない? 『魔王』に勝つ事ができない? 勝てる。強くなって、勝ってみせる。その為に、ジークフリートさんに・・・‼
「ぐぐ・・・うっ‼」
空中で身体を起こし、ステラは空を蹴ってジークフリートに接近し拳を振り下ろす。
紅い拳をジークフリートはグラムの白銀の刃で受け、ステラの腹を蹴り上げる。
「あはっ―――‼」
「しっ‼」
ステラを蹴り上げた姿勢のまま、ジークフリートはステラの脇腹に後ろ回し蹴りを食らわせ、吹き飛んだステラに『グラム』を縦に振るって斬撃を飛ばす。ステラは急いで地面に足を着き、飛んできた斬撃を腕で受け止める。
「ぐぎぎぎぎぎ・・・‼」
圧力を伴う斬撃に、ステラは必死に耐える。
少しでも踏ん張りが弱まれば斬撃の餌食になる。次また『グラム』の斬撃をまともに食らえば、時間切れの前に負けが確定する。
「『グラム』の斬撃を耐えるか。これならどうだ?銀時雨」
縦、横、斜め、あらゆる方向にグラムを振って、無数の斬撃をステラに飛ばす。
一つ受け止めるだけでやっとの斬撃が複数、とても受けきれない。受けきれないなら、消すしかない。
「紅波炸裂‼︎」
押し寄せる斬撃の嵐を、身体から熱の波動を放って周囲の草木ごと掻き消す。
オーバーヒートしている身体の熱を更に高める荒業。反動は大きい。胸を押さえ、肩を上下させ息を荒げるステラを見れば明らかだ。
「はぁ、はぁ・・・」
紅血限界突破の効果持続時間、残り二十秒。
「ふぅ・・・次で最後だ」
「えぇ」
互いに構え、相手を見据える。
いつの間にかジークフリートの息も上がっている。
どちらも次が最後の攻撃になるだろう。それで勝負が決まる。
一秒後、二人は同時に前に飛び出し、ジークフリートが『グラム』を大きく薙ぎ払う。
「銀閃斬‼︎」
銀色の斬撃がステラに向けて放たれ、そこから発生した初撃よりも大きく強力な鎌鼬が、周囲の木々もろともステラを消し飛ばさんとする。
ーーさぁ、どうする? さっきみたいに掻き消す事も、避ける事も出来ないぞ。食らって負けるか、それでも立つか。どちらにせよ、時間切れでお前の負けだ。
「くっーー‼︎」
紅血限界突破の効果持続時間、残り十秒。
ーー泣いても笑っても、あと少しで勝負は決まる。
チャンスは今日限りじゃない。『プリエール』解放までは時間がある。
けど、そんな考え方で傷を付けられる程、ジークフリート=レイライトは低い壁じゃない。認めさせるつもりなら、全てをぶつけろ。
「・・・もう時間か」
ステラの髪が、赤髪から金髪へと戻り、蒸気が消える。
時間切れか、ジークフリートは一瞬そう思ったが、次の瞬間ステラに起きた変化に目を見開いた。
ステラの左腕から、爆発的な蒸気が噴き出し、甲冑が激しい光を放った。星と見紛う程の、強い緋色の光。
「そうか、全ての熱を左腕に集中させたのか・・・銀閃斬を打ち破り、俺に傷を付ける為に・・・‼︎」
「はぁあぁあぁあぁあ‼︎」
鎌鼬とステラの左拳が激突する。
紅血限界突破の効果持続時間、残り五秒。
ーー時間切れだ。
ジークフリートが勝利を確信した瞬間、ステラは目が大きく見開き、拳を振り抜き鎌鼬を掻き消した。
「何っーー⁉︎」
「うぅっ・・・‼︎」
驚くジークフリートの懐に潜り込んで、ステラは拳を振りかぶり
「おぉりぁあぁあぁあぁああぁあ‼︎」
顔面に渾身の一撃を叩き込み、ジークフリートを吹き飛ばす。
紅血限界突破の持続時間、残りゼロ秒。ステラの変化は完全に消え、いつものステラへと戻る。その左腕が、身体中の熱を全て集めた事により火傷を負った事を除いて。
「はぁ・・・はぁ・・・うっ、あ・・・」
足がふらつき、ステラは地面にうつ伏せに倒れる。
魔力も、体力も残っていない。文字通り死力を尽くした。ジークフリートに傷が付いていれば、ステラは
「ぐっ、くぐ・・・」
吹き飛ばされたジークフリートが、ゆっくりとステラに近付いてくる。
倒れたまま、ステラはジークフリートを見上げるが、その顔は見えない。
「傷は・・・」
ステラが問うと、ステラの目の前に、赤い水が落ちてきた。その後ジークフリートは溜息を吐いて
「歯が二、三本折れて、口の中が切れた。傷が付いた。約束通り、弟子入りを認めよう」
諦めたように、けれど、どこか少しだけ嬉しそうな声音でそう言った。
「本当、ですか・・・?」
「あぁ、不本意ではあるがな。ライちゃんとも約束したからな。俺は約束は破らない」
だから
「これから厳しくしごいてやる。覚悟しておけ、って・・・」
寝息を立てるステラを見て、ジークフリートはやれやれと頭をかく。
「まさか、こんな小娘を弟子にする日が来るとはなぁ。ライちゃん、結局お前の言う通りになったな」
回復用のポーションをステラに使いながら、ジークフリートはライゼが来た時の事を思い返す。
二日前、ジークフリート宅にて。
「・・・どうしてもというなら、条件がある。ステラを弟子にするかどうかは、俺なりの試験を受けさせて、その結果で決める」
「具体的にはどうゆう試験にするつもりなんだい?」
「俺に傷を付けたら合格、弟子入りを認める」
ジークフリートがさらっと出した難題に、ライゼはへぇと言うだけで、特に目立った反応を見せない。
「あっさりした反応だな。いくらなんでもそれはとか、無茶振りにも程があるとか言わないのか?」
「別に? 簡単な条件ではなさそうだけど、ステラちゃんならどうにかするから問題無いよ」
空のグラスに酒を注ぐライゼをジークフリートは不思議そうに見つめる。
「どうしてそこまで信頼する? ルージュの娘だからか?」
「違うよ。僕が彼女を信頼するのは、彼女の心が強いから、彼女が誰よりも優しいから、色々な理由があるけど、実は」
「実は?」
「なんとなくなんだよね。なんとなく、理由は無いけど信じられる。そんな雰囲気を持ってるんだよ、ステラちゃんは」
なんとなく。
人をよく見て分析するライゼからは考えられない言葉に、ジークフリートは眉間を押さえる。
「なんとなく、そんなあやふやな理由で・・・」
「人を信じる理由なんてそんなものだよ」
「はぁ、まぁなんでもいいが。試験でステラが怪我をしても、俺は責任を取らないからな」
「それも含めて大丈夫だよ。ちゃんと分かってる」
なぁ、ライちゃん。
あの時の言葉、お前は最初からこうなると分かっていたのか?
ステラが俺の弟子になる事も、俺がステラの成長を楽しみに思うようになる事も。
今はまだ未熟な六等星がこれから輝く一等星になって、それを見届けるのは自分。空の向こうにある届かない星ではなく、触れられる距離にある新星が大きくなっていくのを近くで見る事が出来る。
成る程、確かに面白そうだ。
宇宙人を探すのも悪くはなかったが、しばらくは目の前の小さな星が、この先何色の星になるのかを観察するのも、悪くはないかもな。
「修行は何をするんですか?」
目覚めたステラは、開口一番ジークフリートにそう尋ねた。
熱心な娘だ。どうかご指導ご鞭撻の程宜しくお願いしますの前にそれかと思いながら、切り株に座るジークフリートは頭をかく。
「修行は明日からだ」
「明日から? 今日からじゃないんですか?」
「明日からだ。言っとくが別に面倒臭いからじゃないぞ。辺りを見てみろ」
ジークフリートの言う通りにステラは周りを見渡し、言葉を失った。
百パーセント木で作られていたジークフリートの家が、辺りに生えていた木々が、跡形もなく破壊され、薙ぎ倒されていた。
「えっ・・・と? え? な? え? なんで?」
「なんでって、俺とお前の戦いの余波でこうなったんだ」
「嘘・・・」
「嘘じゃない、現実だ。はぁ、俺の家は後でどうにかするとして、大変なのは斬り倒された木の処理だな。俺とお前の戦いが原因なんだから、お前にもこの後作業を手伝ってもらうぞ」
「はい・・・」
ジークフリートの家を壊してしまった事、自然をめちゃくちゃにしてしまった罪悪感を感じながら、ステラは申し訳なさそうに返事をする。
「俺とお前で作業すれば五、六時間で終わるだろう」
「はい。頑張ります・・・」
「そう落ち込むな。俺の家の中には大したものは何も無い。倒れた木は木材に加工して人の役に立てればいい。それより、お前にはいくつか話しておかなければいけない事がある」
「なんですか?」
首を傾げるステラに、ジークフリートは目を伏せて、深く息を吐いてから実はと
「俺には、昔程の力は無い。俺はもうすぐ消える星なんだ」
「もうすぐ、消える星?」
「俺の伝説は知ってるよな。『邪竜』ファフニールを『グラム』一本で倒し、『竜殺しの英雄』と呼ばれるようになった。実に三百年前の話だ。『戦乙女の歌』・・・あれ以外にも俺の伝説は様々な文書に残っていて、その中には俺が竜を倒して長寿を得ただの、竜人になっただの、様々な事が書かれているが、全部間違いだ。俺は長寿なんて得ていないし、竜人にもなっていない。正真正銘ただの人間だ」
「ただの人間? でも、あなたは三百年以上生きているじゃないですか・・・」
「あぁ、それはこいつによるものだ」
戸惑うステラに、ジークフリートは右腕の袖をめくって二の腕を見せる。そこには、無数の注射跡があった。口元を押さえるステラに、ジークフリートは
「数十種類の魔法薬を身体に打ち込み、無理に延命してる。二百数十年の間、ずっとな」
なんでもない事のように言いながら袖を元に戻すと、視線をステラに合わせる。
「二百数十年も延命してる理由は色々あるが、修行には関係無いから機会があれば話す。何が言いたいかというと、俺の身体は既にぼろぼろだ。傷を付けられた言い訳をしたい訳じゃないが、昔みたいに長くは動けない」
ジークフリートの延命の事実を聞き、ステラは戦いの最中の事を思い出す。
ジークフリートは『グラム』を使い始めて少しした時、息を上げていた。大きなダメージを食らっていないにも関わらず。あれは、延命の副作用、体力の衰えによるものだったのだ。
ーーそれであの強さで、死力尽くして傷一つ付けるのがやっとって・・・なんだかヘコむわね。
「組手の類はできないが、やれる修行は山程ある。そこで、お前に二つ程技を授けようと思うんだが、ここでも言いたい事がある」
「なんでしょう?」
「武器を上手く扱いたいという願い、あれは諦めろ」
「え?」
当初の目標をばっさり無理だと切り捨てられ、ステラは唖然とする。
「諦めろって、どうゆう・・・」
「お前に武器を扱う才能が微塵も無いとは言わない。鍛錬すれば達人の域に達し、戦いで通用する程の腕を得るかもしれない。数年後にはな。剣でも弓でも槍でも、武芸というのはそう簡単に身に付くものじゃない。プリエール解放は一カ月を切っている。それまでに武器の扱いを上手くするというのは、現実的じゃない」
「そうですか・・・」
「そうだ。だが、残りの時間で死ぬ気で修行すれば、技を二つ覚えるのは不可能ではない」
「一体、どんな技なんですか?」
「俺がファフニールと戦う時実際に使った技だ。この技は、対人、対人外どちらにも有効な上、技術さえあれば魔力消費ほぼゼロで使う事ができる」
その名も
「『穿剣』と『武心』、この二つの技をお前に授ける」
明日からな。
それから五時間後。
斬り倒された木の処理が終わり、ステラは屋敷へと帰ってきた。
後からステラが知った事だが、戦いの余波で『モルガナ』に被害が及ばぬよう、ジークフリートは事前に『モルガナ』の院長と子供達に避難してもらい、『モルガナ』そのものが壊れた時の為にミミックスライムを買い溜めしていたらしい。
結局『モルガナ』には何一つ被害は無く、代わりに子供達がミミックスライムで遊ぶようになったとか。ジークフリートへの弟子入りが上手くいき、明日から本格的に修行が始まる。
ーーやっと強くなれる。『穿剣』と『武心』、一体どんな技なんだろう? 対人、対人外どちらにも有効な魔力無しでも使える技・・・すごく気になる。
「考えてもわからないし、考えるのやめよう」
明日になればジークフリートが教えてくれる。
考えるより明日を待つ方が早い。屋敷の入り口の前に着き、ステラが扉を開けると
「保湿剤かぁ~・・・へぇ凄ぉ~い・・・でも、僕は別にいらないかなぁ~・・・僕の肌は手入れしなくてもしっとりもちもちだし~・・・」
「水臭い事言うんじゃないよぉ。折角作ったんだぁ。やるって言ってんだから大人しく受け取りなぁ」
ライゼと、本来ならここに居ない筈の魔女、ペトロニーラが何やら話をしていた。
ペトロニーラが壺のような物をライゼの顔に押し当てニヤニヤしている。
「怪しい物は入ってないさぁ。健康に最大限気を使った魔女特性保湿剤、もらって損は無いよぉ」
「嫌だよっ。君達魔女は軟膏に粉末状の人骨やら子供の頭やら雌の鼠やら気味の悪い物ばかり入れるそうじゃないか」
「大丈夫だよぉ。別に髪の毛や蝙蝠の血なんて入れちゃいなぃ」
「入れてなかったらそうゆう事言わない」
「あの、何してるんですか・・・」
不穏な言葉が飛び交うやり取りにステラが口を挟むと、二人は同時にステラに振り向く。
「お帰りステラちゃん。どうだった? レイちゃんの弟子になる事は出来た?」
「はい。なんとか。本格的な修行は明日からだそうです」
「そっか。それはよかった。彼の元で修行すれば必ず強くなれる。精進するんだよ」
「えぇ。ところで、何でペトロニーラがここにいるの? ライゼさんと知り合いなの?」
ステラの冷やかな視線を受け、ペトロニーラは笑みを浮かべる。
「知り合いというか、元同僚さぁ。百年以上前に王国専属魔導師として一緒に働いてたぁ。滅多に話す機会は無かったけどねぇ」
「あぁ、そういえば二人共ルドルフの護衛をやった事があったんだったわね。で、何しに来たの?」
「あぁ、そうだった。保湿剤の押し売りをしてる場合じゃなかったぁ。実はねぇ、マリをプリエールに向かう間まで、うちで預からせて貰おうと思ってここに来たんだぁ」
目を閉じ、両拳を握り締め、ステラは魔力を解放する。
身体から赤いオーラを放ち、四肢に逞しく立派な甲冑を纏い、輝く金髪は燃えるような赤髪へと変わり始める。髪の色の変化が終わり、見開かれたステラの水晶色の瞳は、外界の光を反射し煌めく、宝石のような緋色へと変わっていた。
「これで、あなたの魔法を打ち破る」
「紅血限界突破・・・確かに今までと違うようだが、一体何が違うんだ?」
「今から見せます」
気怠げに棒を担ぐジークフリートに短く答えて、ステラは一瞬でジークフリートの眼前に迫る。
―――速いな。
昨日との速度の違いにジークフリートは目を見張る。
確かに昨日とは違うらしい。だが、それでも対応できない速度ではないうえに、また力押し。
力押しでジークフリートの『竜皮』を破る事は出来ない。どれだけ速い攻撃だろうとそれは変わらない。
結果は昨日と同じだ。
自身の防御力に確固たる自信を持つジークフリートは、ステラが拳を構えても動かない。
―――どんな一撃でも必ず受けて見せる。
これまでだってそうしてきた。
ありとあらゆる攻撃を、この『竜皮』の力で受け切ってきた。たかだか少女の一撃に崩れる壁じゃ―――・・・
「はあぁあああっ‼」
ステラが放つ渾身の一撃を、ジークフリートは避けずに受け止めた。ただし、自分の身体ではなく、手の内にある棒を使って。
ほとんど反射的な自分の行動に、ジークフリートは混乱する。
今、自分はステラの攻撃を自身の身体ではなく棒で弾いた。
ステラの攻撃によって真っ二つに折れた棒の破片が宙に舞うのを見て、ジークフリートは自身の行動を再確認し、その意味を理解する。
反射的な回避、受け流しは、これまでの戦いで培われた戦闘勘、野生の本能がその攻撃が危険だと判断して、肉体が脳の命令を受ける前に取った行動。つまりは、ジークフリートの本能が、今のステラの攻撃を危険だと判断したという事だ。
―――あり得ない‼
それだけの力がステラにある筈が無い。昨日自身に手も足も出なかった少女が、いきなりそれだけの力を手に入れられる訳がない。一体どうして
「―――っ、これは・・・」
ジークフリートはステラの拳、その一撃によってへし折られた棒の割れた部分を見てある事に気付く。
―――棒が発火している?
急ごしらえの武器の変化にジークフリートが気付くのと、ステラがジークフリートの拳を振り抜いたのはほぼ同時。ステラの拳が直撃する前に、ジークフリートは腹に『竜皮』の力を集中させる。その一秒後、ステラの拳はジークフリートの腹に直撃し、ジークフリートは奥歯を噛む。
「ぐっ‼」
「うううううぅおああああああっ‼」
踏ん張りがきかず、ジークフリートは吹き飛ばされ、後方の木の幹に激突する。
ジークフリートが尻をついて、木にもたれかかると、衝撃に耐えきれなかった木が音を立てて倒れる。
背中には傷は無い。服をめくって腹の部分を確認するが、腹にも傷は無い。だが、尋常じゃない程に熱い。
「紅血限界突破。そうゆう事か・・・」
なるほど、よく考えたなと、ジークフリートは微笑する。
「食らって分かったぞ、紅血限界突破。お前の身体の中の血の温度を上げて、お前の身体能力を限界まで引き出す技だろ?」
「えぇ、そうです。ルベライトさん、『海鳴騎士団』の副団長の言葉と、ちょっとしたハプニングから思いついた力です」
『いかに硬い壁だろうが、いかに強靭な肉体だろうが、熱を防ぐ事は出来ない』
『エクラン』でアルジェントと戦った時、ルベライトがそう言っていたのを、リリィがクッキー作りに失敗し鉄板を溶かしていたのを見て思い出した。
硬い壁も、強靭な肉体も、熱は防げない、この言葉を体現するかのように、ルベライトはアルジェントの身体に、硬い岩を、熱を通し、溶かして戦っていた。もし、その言葉と熱の力が本物なら、『竜皮』を打ち破る事が出来るのではないか。そう思って考えた、熱を最大限に活かす力の仕組みは
「『紅血の協奏曲』の所有者の血管は丈夫だ。普通の人間では耐えられない負荷にも耐えられる。中でどれだけ熱い血が流れていても破れはしないだろう。蒸発して不足した血液は他の臓器で造血して補えばいい」
熱で蒸発し消えていく血液を、他の臓器が造血器官の役割を果たせば、失血は免れる。しかし
「それだけでは高温の血液に臓器が焼かれお前は死ぬ。そうなっていないのは、『紅血の協奏曲』のもう一つの特性、瀕死の時にのみ働く自己修復によるものなんだろ? 高温の血液で焼かれる内臓を、自己修復の特性で治し続ける。自分の能力をよく理解した戦法と言えるが、どれだけ持つんだ? その状態。消費魔力は莫大な筈、そう長くはもつまい」
ジークフリートが言う通り、紅血限界突破の消費魔力は絶大だ。
ステラの魔力量ではもって三分が限界。三分以内に決着を着けなければ、魔力を使い果たし勝ち目が無くなる。
「その前にあなたに傷を付けてみせる」
「そうか。なら、俺も全力で抗おう」
両手の手の内に剣を召喚し、ジークフリートは構える。
本物の鋼で作られた本物の武器。
その辺にあっただけの棒で今のステラを倒す事は出来ない。『竜殺しの英雄』は、初めてステラを戦える相手だと認識した。
右手の剣を逆手に持ち替え、ジークフリートステラに向かって跳び、それに反応してステラも飛び出す。銀色の鋼と紅い拳がぶつかり、衝撃で木々が揺れる。単純な力は互角。
長く戦えないという条件は互いに同じ。経験、技術、感性、力以外の要素で相手に勝る方が勝つ。
「はっ‼︎」
熱を纏った拳が、ジークフリートの頬を掠める。
脆い部分に当たれば間違いなく傷が付くであろう攻撃、油断は一切出来ない。
―――攻めるか。
早々に決着を着けようと、ジークフリートはステラへと踏み込み、剣を振るう。
「――――ぐ‼」
速攻の先制攻撃、初撃の剣閃を食らわせ、ジークフリートは次撃の前蹴りでステラを吹き飛ばし、ステラを斬りつけた剣を見る。
折れても溶けてもいない。木を燃やせても鋼を溶かすだけの熱量がステラに無い事を確認し、ジークフリートはステラとの距離を一瞬で詰め、ステラの左腕を斬りつける。
「くっ‼」
「よく反応したな」
自身の左腕を目掛けて放たれた剣閃を、咄嗟に甲冑で覆われている部分で受け止めたステラにジークフリートが感心したように呟くと、ステラはジークフリートの腹を殴打する。
「ぐっ、強いな」
「ふんっ‼」
苦痛に顔を歪めるジークフリートの顔面を、ステラは思い切り殴りつける。手ごたえは感じるが、傷は付かない。
紅血限界突破の効果持続時間は残り二分を切った。二分後までにどうにかできなければジークフリートに傷を付ける手段は無くなる。攻めあぐねている時間は無い。
「うおぉおおおぉおおおっ‼」
ステラは何度もジークフリートに攻撃する。
殴打、脚撃、肘鉄、頭突き、アッパー、その全てがジークフリートに直撃するが、昨日と同じように傷は出来ない。
しかし、昨日とは違い、ジークフリートの表情に余裕は無い。
少しでも気を緩めて『竜皮』の力の比率を間違えれば、身体に傷が付いてしまう。そうなれば自分はステラを弟子に取る事になる。
―――それが絶対に嫌かと言われれば、そうではなくなってきたが、こいつの輝きは
「はあぁああああああああああっ‼」
―――こいつの輝きは、本当に俺が見届けるに足る光なのか?
成長速度と発想力は申し分無い。ただそれだけだ。
ただ強いだけじゃ、輝いてるとは言えない。強さ以外の何か、きらりと光るもの。それが見えない限り
「俺はお前を弟子とは認めない」
ステラの拳を受け流し、ジークフリートはステラの右腕に剣を刺し、左足を踏みつけ
「残念だったな」
華麗な、水の様に流れる剣がステラの鎖骨を突き、そのまま左肩を斬り上げた。
斬られた血管、切り裂かれた部分から熱せられた血が噴き出す。
足がふらつき、ステラは後ろに倒れそうになる。その隙をジークフリートは見逃さなかった。倒れそうになったステラの胸に、目にも止まらぬ速度の突きを放つ。
正確に、寸分の狂いもなく急所を貫く一撃。ステラを貫いた突きの勢いは止まらず、数メートル離れた木の幹に剣が突き刺さりようやく止まる。
「かはっ‼」
口から血を吐き、手足からだらんと力が抜け、ステラは動かなくなる。
あれだけの出血に加え胸を貫かれたのだから当然だ。動ける方がおかしい。
「今回は中々良い線いってたぞ。俺に真剣を使わせるとはな。六等星の中でも、比較的五等星に近い輝きをお前は持っていたらしい。生憎、その程度の輝きでお前を弟子にしてやる事は出来んが」
そう言いながらジークフリートはポケットの中を漁り、一本の小さな薬瓶を取り出す。
「回復用のポーションだ。自作だが大概の傷は治る。一度仕事で腕を落としたが、くっつけてこいつをかけたらすぐに治った」
ステラの胸から剣を引き抜き、ポーションをかけようとした時、ステラの蹴りがジークフリートのみぞおちに入った。
予想外の攻撃にジークフリートは膝をつき、ステラを見上げる。その胸には傷は無かった。肩にも、右腕にも、どこにも傷は無い。
「『紅血の協奏曲』の自己修復能力、体内全域を治癒を行っているから、傷の回復はもう少し遅くなると思っていたんだがな」
『紅血の協奏曲』の自己修復能力をジークフリートは完全に侮っていた。
その結果として反撃を食らってしまった訳だが、それ以前に何かがおかしい。
手の内が軽い。鋼の重さを手の内に感じない。剣を見ると、柄から先、刀身が溶けて無くなっていた。
「鋼が、溶けて・・・」
―――嘘だ。鋼を溶かす事は出来なかった筈・・・・っ‼
ステラが立つ地面、草が燃えている。驚きの前に他の草に燃え移るのではないか、そんな不安がジークフリートの胸を満たすが、燃えた草が一瞬で灰になり不安は杞憂に終わる。
「血の温度が上がっているのか? 鋼を溶かし、立っている草を一瞬で灰にする程に」
ジークフリートはステラを見る。
ステラの身体から噴き出す赤い蒸気は勢いを増し、赤髪と緋色の瞳は更に輝き、鮮やかになっている。
間違いない。熱が上がっている。時間が経てば経つ程熱が上がる。その分強さも増すだろうが
「う、ぐぅ、うっ、うぐぐ・・・・」
ステラの顔は苦悶に満ちている。
自己修復能力が常に発動中とはいえ、内臓が常に焼かれ、血液が沸騰している事に変わりはないのだ。
下手したら無事では済まない、死んだっておかしくない。肉体への負荷と痛みは想像を絶するものになっている筈だ。
自分という薪に、覚悟という名の炎を投じて命を燃やす力。紅血限界突破。
「面白い。そこまでして弟子になりたいか」
命を削ってまで自分に向かってくる意志を見せたステラに、ジークフリートは笑う。
笑って、命を削るステラに本当の全力で答える事を決め、五重の魔法陣を右手の掌に展開し、一本の剣を召喚する。
刃の長さが百四十センチもある、装飾が少ない白銀の長剣。
どこの武器屋にもありそうな剣を大きくしただけに見えるその剣は、普通の剣には無い荘厳なオーラを放っている。
「これは『グラム』、俺の父シグムントが俺に託した名剣だ。名は『怒り』を意味する」
名剣『グラム』。
かつて神が作り、『邪竜』ファフニールを葬ったといわれる伝説の剣。
史実上ではジークフリートが『グラム』を振るったという記録は少ないが、ジークフリートは『グラム』を振るった戦いでは必ず勝利している。
『グラム』を召喚したという事は、ジークフリートが本気になった証拠だ。
紅血限界突破の効果持続時間は残り四十五秒。
「斬り裂け」
ステラが動き出した瞬間、ジークフリートがグラムを斜めに斬り上げ、斬撃が飛ぶ。
波動のような斬撃がステラに向かって飛び、ステラはそれを横に跳んで避ける。獲物へと命中しなかった斬撃はそのまま延長線上に飛び、木々を薙ぎ倒し森林を蹂躙する。
「ーーっ嘘でしょ? これが、剣の威力?」
「まだまだいくぞ」
驚くステラに、ジークフリートは上に跳びグラムを構える。
研ぎ澄まされた闘気、数多の戦いを乗り越えてきた者のみが持つ覇気を、ジークフリートは全身から放つ。
竜を殺した一撃が、来る。
「銀閃斬」
大振りの薙ぎと共に放たれた巨大な鎌鼬が、ステラもろとも周囲の地面を吹き飛ばす。緑の大地をごっそり削る破壊の衝撃、剣の常識を超えた一撃に巻き込まれ、ステラは血塗れになって宙を舞う。
「あ、が―――」
時間が無い。
宙に浮いてる暇など無いのに
―――身体が、動かな、い・・・・
指一本、ピクリとも動かす事ができない。これで終わり、また負けた。また、また、勝つ事はできな
『これが、私の新しい戦い方、あなたに認めてもらう為の力です』
―――そうよ。認めさせると決めた筈じゃない。強くなれない? 『魔王』に勝つ事ができない? 勝てる。強くなって、勝ってみせる。その為に、ジークフリートさんに・・・‼
「ぐぐ・・・うっ‼」
空中で身体を起こし、ステラは空を蹴ってジークフリートに接近し拳を振り下ろす。
紅い拳をジークフリートはグラムの白銀の刃で受け、ステラの腹を蹴り上げる。
「あはっ―――‼」
「しっ‼」
ステラを蹴り上げた姿勢のまま、ジークフリートはステラの脇腹に後ろ回し蹴りを食らわせ、吹き飛んだステラに『グラム』を縦に振るって斬撃を飛ばす。ステラは急いで地面に足を着き、飛んできた斬撃を腕で受け止める。
「ぐぎぎぎぎぎ・・・‼」
圧力を伴う斬撃に、ステラは必死に耐える。
少しでも踏ん張りが弱まれば斬撃の餌食になる。次また『グラム』の斬撃をまともに食らえば、時間切れの前に負けが確定する。
「『グラム』の斬撃を耐えるか。これならどうだ?銀時雨」
縦、横、斜め、あらゆる方向にグラムを振って、無数の斬撃をステラに飛ばす。
一つ受け止めるだけでやっとの斬撃が複数、とても受けきれない。受けきれないなら、消すしかない。
「紅波炸裂‼︎」
押し寄せる斬撃の嵐を、身体から熱の波動を放って周囲の草木ごと掻き消す。
オーバーヒートしている身体の熱を更に高める荒業。反動は大きい。胸を押さえ、肩を上下させ息を荒げるステラを見れば明らかだ。
「はぁ、はぁ・・・」
紅血限界突破の効果持続時間、残り二十秒。
「ふぅ・・・次で最後だ」
「えぇ」
互いに構え、相手を見据える。
いつの間にかジークフリートの息も上がっている。
どちらも次が最後の攻撃になるだろう。それで勝負が決まる。
一秒後、二人は同時に前に飛び出し、ジークフリートが『グラム』を大きく薙ぎ払う。
「銀閃斬‼︎」
銀色の斬撃がステラに向けて放たれ、そこから発生した初撃よりも大きく強力な鎌鼬が、周囲の木々もろともステラを消し飛ばさんとする。
ーーさぁ、どうする? さっきみたいに掻き消す事も、避ける事も出来ないぞ。食らって負けるか、それでも立つか。どちらにせよ、時間切れでお前の負けだ。
「くっーー‼︎」
紅血限界突破の効果持続時間、残り十秒。
ーー泣いても笑っても、あと少しで勝負は決まる。
チャンスは今日限りじゃない。『プリエール』解放までは時間がある。
けど、そんな考え方で傷を付けられる程、ジークフリート=レイライトは低い壁じゃない。認めさせるつもりなら、全てをぶつけろ。
「・・・もう時間か」
ステラの髪が、赤髪から金髪へと戻り、蒸気が消える。
時間切れか、ジークフリートは一瞬そう思ったが、次の瞬間ステラに起きた変化に目を見開いた。
ステラの左腕から、爆発的な蒸気が噴き出し、甲冑が激しい光を放った。星と見紛う程の、強い緋色の光。
「そうか、全ての熱を左腕に集中させたのか・・・銀閃斬を打ち破り、俺に傷を付ける為に・・・‼︎」
「はぁあぁあぁあぁあ‼︎」
鎌鼬とステラの左拳が激突する。
紅血限界突破の効果持続時間、残り五秒。
ーー時間切れだ。
ジークフリートが勝利を確信した瞬間、ステラは目が大きく見開き、拳を振り抜き鎌鼬を掻き消した。
「何っーー⁉︎」
「うぅっ・・・‼︎」
驚くジークフリートの懐に潜り込んで、ステラは拳を振りかぶり
「おぉりぁあぁあぁあぁああぁあ‼︎」
顔面に渾身の一撃を叩き込み、ジークフリートを吹き飛ばす。
紅血限界突破の持続時間、残りゼロ秒。ステラの変化は完全に消え、いつものステラへと戻る。その左腕が、身体中の熱を全て集めた事により火傷を負った事を除いて。
「はぁ・・・はぁ・・・うっ、あ・・・」
足がふらつき、ステラは地面にうつ伏せに倒れる。
魔力も、体力も残っていない。文字通り死力を尽くした。ジークフリートに傷が付いていれば、ステラは
「ぐっ、くぐ・・・」
吹き飛ばされたジークフリートが、ゆっくりとステラに近付いてくる。
倒れたまま、ステラはジークフリートを見上げるが、その顔は見えない。
「傷は・・・」
ステラが問うと、ステラの目の前に、赤い水が落ちてきた。その後ジークフリートは溜息を吐いて
「歯が二、三本折れて、口の中が切れた。傷が付いた。約束通り、弟子入りを認めよう」
諦めたように、けれど、どこか少しだけ嬉しそうな声音でそう言った。
「本当、ですか・・・?」
「あぁ、不本意ではあるがな。ライちゃんとも約束したからな。俺は約束は破らない」
だから
「これから厳しくしごいてやる。覚悟しておけ、って・・・」
寝息を立てるステラを見て、ジークフリートはやれやれと頭をかく。
「まさか、こんな小娘を弟子にする日が来るとはなぁ。ライちゃん、結局お前の言う通りになったな」
回復用のポーションをステラに使いながら、ジークフリートはライゼが来た時の事を思い返す。
二日前、ジークフリート宅にて。
「・・・どうしてもというなら、条件がある。ステラを弟子にするかどうかは、俺なりの試験を受けさせて、その結果で決める」
「具体的にはどうゆう試験にするつもりなんだい?」
「俺に傷を付けたら合格、弟子入りを認める」
ジークフリートがさらっと出した難題に、ライゼはへぇと言うだけで、特に目立った反応を見せない。
「あっさりした反応だな。いくらなんでもそれはとか、無茶振りにも程があるとか言わないのか?」
「別に? 簡単な条件ではなさそうだけど、ステラちゃんならどうにかするから問題無いよ」
空のグラスに酒を注ぐライゼをジークフリートは不思議そうに見つめる。
「どうしてそこまで信頼する? ルージュの娘だからか?」
「違うよ。僕が彼女を信頼するのは、彼女の心が強いから、彼女が誰よりも優しいから、色々な理由があるけど、実は」
「実は?」
「なんとなくなんだよね。なんとなく、理由は無いけど信じられる。そんな雰囲気を持ってるんだよ、ステラちゃんは」
なんとなく。
人をよく見て分析するライゼからは考えられない言葉に、ジークフリートは眉間を押さえる。
「なんとなく、そんなあやふやな理由で・・・」
「人を信じる理由なんてそんなものだよ」
「はぁ、まぁなんでもいいが。試験でステラが怪我をしても、俺は責任を取らないからな」
「それも含めて大丈夫だよ。ちゃんと分かってる」
なぁ、ライちゃん。
あの時の言葉、お前は最初からこうなると分かっていたのか?
ステラが俺の弟子になる事も、俺がステラの成長を楽しみに思うようになる事も。
今はまだ未熟な六等星がこれから輝く一等星になって、それを見届けるのは自分。空の向こうにある届かない星ではなく、触れられる距離にある新星が大きくなっていくのを近くで見る事が出来る。
成る程、確かに面白そうだ。
宇宙人を探すのも悪くはなかったが、しばらくは目の前の小さな星が、この先何色の星になるのかを観察するのも、悪くはないかもな。
「修行は何をするんですか?」
目覚めたステラは、開口一番ジークフリートにそう尋ねた。
熱心な娘だ。どうかご指導ご鞭撻の程宜しくお願いしますの前にそれかと思いながら、切り株に座るジークフリートは頭をかく。
「修行は明日からだ」
「明日から? 今日からじゃないんですか?」
「明日からだ。言っとくが別に面倒臭いからじゃないぞ。辺りを見てみろ」
ジークフリートの言う通りにステラは周りを見渡し、言葉を失った。
百パーセント木で作られていたジークフリートの家が、辺りに生えていた木々が、跡形もなく破壊され、薙ぎ倒されていた。
「えっ・・・と? え? な? え? なんで?」
「なんでって、俺とお前の戦いの余波でこうなったんだ」
「嘘・・・」
「嘘じゃない、現実だ。はぁ、俺の家は後でどうにかするとして、大変なのは斬り倒された木の処理だな。俺とお前の戦いが原因なんだから、お前にもこの後作業を手伝ってもらうぞ」
「はい・・・」
ジークフリートの家を壊してしまった事、自然をめちゃくちゃにしてしまった罪悪感を感じながら、ステラは申し訳なさそうに返事をする。
「俺とお前で作業すれば五、六時間で終わるだろう」
「はい。頑張ります・・・」
「そう落ち込むな。俺の家の中には大したものは何も無い。倒れた木は木材に加工して人の役に立てればいい。それより、お前にはいくつか話しておかなければいけない事がある」
「なんですか?」
首を傾げるステラに、ジークフリートは目を伏せて、深く息を吐いてから実はと
「俺には、昔程の力は無い。俺はもうすぐ消える星なんだ」
「もうすぐ、消える星?」
「俺の伝説は知ってるよな。『邪竜』ファフニールを『グラム』一本で倒し、『竜殺しの英雄』と呼ばれるようになった。実に三百年前の話だ。『戦乙女の歌』・・・あれ以外にも俺の伝説は様々な文書に残っていて、その中には俺が竜を倒して長寿を得ただの、竜人になっただの、様々な事が書かれているが、全部間違いだ。俺は長寿なんて得ていないし、竜人にもなっていない。正真正銘ただの人間だ」
「ただの人間? でも、あなたは三百年以上生きているじゃないですか・・・」
「あぁ、それはこいつによるものだ」
戸惑うステラに、ジークフリートは右腕の袖をめくって二の腕を見せる。そこには、無数の注射跡があった。口元を押さえるステラに、ジークフリートは
「数十種類の魔法薬を身体に打ち込み、無理に延命してる。二百数十年の間、ずっとな」
なんでもない事のように言いながら袖を元に戻すと、視線をステラに合わせる。
「二百数十年も延命してる理由は色々あるが、修行には関係無いから機会があれば話す。何が言いたいかというと、俺の身体は既にぼろぼろだ。傷を付けられた言い訳をしたい訳じゃないが、昔みたいに長くは動けない」
ジークフリートの延命の事実を聞き、ステラは戦いの最中の事を思い出す。
ジークフリートは『グラム』を使い始めて少しした時、息を上げていた。大きなダメージを食らっていないにも関わらず。あれは、延命の副作用、体力の衰えによるものだったのだ。
ーーそれであの強さで、死力尽くして傷一つ付けるのがやっとって・・・なんだかヘコむわね。
「組手の類はできないが、やれる修行は山程ある。そこで、お前に二つ程技を授けようと思うんだが、ここでも言いたい事がある」
「なんでしょう?」
「武器を上手く扱いたいという願い、あれは諦めろ」
「え?」
当初の目標をばっさり無理だと切り捨てられ、ステラは唖然とする。
「諦めろって、どうゆう・・・」
「お前に武器を扱う才能が微塵も無いとは言わない。鍛錬すれば達人の域に達し、戦いで通用する程の腕を得るかもしれない。数年後にはな。剣でも弓でも槍でも、武芸というのはそう簡単に身に付くものじゃない。プリエール解放は一カ月を切っている。それまでに武器の扱いを上手くするというのは、現実的じゃない」
「そうですか・・・」
「そうだ。だが、残りの時間で死ぬ気で修行すれば、技を二つ覚えるのは不可能ではない」
「一体、どんな技なんですか?」
「俺がファフニールと戦う時実際に使った技だ。この技は、対人、対人外どちらにも有効な上、技術さえあれば魔力消費ほぼゼロで使う事ができる」
その名も
「『穿剣』と『武心』、この二つの技をお前に授ける」
明日からな。
それから五時間後。
斬り倒された木の処理が終わり、ステラは屋敷へと帰ってきた。
後からステラが知った事だが、戦いの余波で『モルガナ』に被害が及ばぬよう、ジークフリートは事前に『モルガナ』の院長と子供達に避難してもらい、『モルガナ』そのものが壊れた時の為にミミックスライムを買い溜めしていたらしい。
結局『モルガナ』には何一つ被害は無く、代わりに子供達がミミックスライムで遊ぶようになったとか。ジークフリートへの弟子入りが上手くいき、明日から本格的に修行が始まる。
ーーやっと強くなれる。『穿剣』と『武心』、一体どんな技なんだろう? 対人、対人外どちらにも有効な魔力無しでも使える技・・・すごく気になる。
「考えてもわからないし、考えるのやめよう」
明日になればジークフリートが教えてくれる。
考えるより明日を待つ方が早い。屋敷の入り口の前に着き、ステラが扉を開けると
「保湿剤かぁ~・・・へぇ凄ぉ~い・・・でも、僕は別にいらないかなぁ~・・・僕の肌は手入れしなくてもしっとりもちもちだし~・・・」
「水臭い事言うんじゃないよぉ。折角作ったんだぁ。やるって言ってんだから大人しく受け取りなぁ」
ライゼと、本来ならここに居ない筈の魔女、ペトロニーラが何やら話をしていた。
ペトロニーラが壺のような物をライゼの顔に押し当てニヤニヤしている。
「怪しい物は入ってないさぁ。健康に最大限気を使った魔女特性保湿剤、もらって損は無いよぉ」
「嫌だよっ。君達魔女は軟膏に粉末状の人骨やら子供の頭やら雌の鼠やら気味の悪い物ばかり入れるそうじゃないか」
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