お伽の夢想曲

月島鏡

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第ニ章 舞い降りた月

第二話 流れ星に願いを

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 ニャニャ捜索の翌日の早朝の事。
 屋敷の門を男はくぐり抜け辺りを見回す。誰もいない事を確認し男は安堵すると、よし、と小さく呟いて走ってどこかへと消えていった。
 その日、ライゼ=クロスハートは失踪した。








「ライゼさんが」

「いなくなったんですか?」

 屋敷の広間、リオに言われた内容をステラとマリは復唱する。リオがあぁ、と頷いて

「食堂に来なかったから屋敷の中を一通り探したんだが、見つからなくてな」

「依頼に行ったとかじゃないんですか?」

 マリがそう聞くと、リオは首を横に振って

「いや無い、それは無い、絶対に無い。もしそうだったら腹を切る」

 そこまで言うか、とステラは心の中で呟き、苦笑いを浮かべるマリを無視してリオは続ける。

「あいつにはまだやってない仕事をやってもらわねぇと困る。今日中にぶっ殺、ここに連れて来てこい」

 今ぶっ殺せって言おうとしたのは気のせいだろうか?
 ナチュラルにマスター殺害を依頼しようとしていたのは気のせいだろうか?

「とにかく頼んだぞ。必ず今日中に連れて来い」

「仕方ないわね」

「はいっ‼︎」

 そして、あのクソマスター後でしばく、と言い残し広間を出て行ったリオを見送った後、ステラがマリの方を向いて

「さて、どうしましょうか?」

「どうしようね」

「ライゼさんを探せって言われても、私ライゼさんが行きそうな場所とか好きなもの分からないんだけど・・・」

 ライゼ=クロスハート。
 『魔神の庭』のギルドマスターにしてギルド屈指の実力者。しかし、その振る舞いや言動は予測不能で掴み所が無く、何を考えているか分からない、それがステラが抱くライゼへの印象だ。
 好みや趣味、普段何をしているか、細かな事をステラは何も知らない。故に、ライゼの居場所の予測は難しい。だからまずは

「知ってそうな人に聞く、それが一番確実ね」

「知ってそうな人って?」

「それは」




「ライゼが行きそうな場所?」

「そうよ、ユナなら何か心当たりあると思ったんだけど、どうかしら?」

 広間から庭園へ向かった先にいたユナにステラが尋ねると、ユナが腕を組んで考え込む。すると、ユナはそうね、と呟いて

「可能性があるとしたら書店か大図書館かしら。あいつはああ見えて本が好きだから」

「大図書館?」

「『レーヴ』最大規模の図書館『シャルル書架』。蔵書数は無限、魔導書グリムグリモワールを蔵書している唯一の図書館よ」

「蔵書数無限? どうゆう事?」

「余りに規模が大きすぎて、未だに正確な蔵書数を把握出来ていないのよ。面積がレーブ内最大面積を誇る『リデル共和国』の十倍もあるから。」

「えっ、ちょっと待って、じゃあそこにライゼさんがいたら」

「探すのは不可能ね。でも、多分『シャルル書架』にはいないわよ。数時間で向かうには距離が遠すぎる。いるとしたらやっぱり近くの書店だと思うわ」

 『レーヴ』内最大面積を誇る国の十倍の面積の図書館にいる可能性が消えてステラはほっとする。
 しかし、まだライゼの居場所が分かった訳ではない。状況が変わった訳ではないのだ。

「なんとなくだけど、多分まだ近くにいると思うわ。」

「なんでそう思うんですか?」

 マリがそう言うと、だって、とユナ

「前もこんな事あったから。その時は『トラオム』にいたわ。きっと今回も同じよ」

「そうなんだ。ありがとね、ユナ。じゃあ探してくるわ」

「ありがとうございました。行ってきまーす」

「えぇ、行ってらっしゃい」

 走り去っていったステラとマリを見送って、ユナは、はぁ、と溜息を吐く。そして空を見上げながら

「ライゼ、早くしないと見つかるわよ。全く、悪い事してる訳じゃないのに、どうしてコソコソするんだか」

 そんなんだから追われる羽目になるのよと、今追われる身となっている男の事を思いながら、小さく呟いた






 ユナの言う通り、『トラオム』へと来たステラとマリは、まずはトラオム中の書店を探し回る事にした。

「さて、ライゼさんを探すわよ。まずは書店を一通り探して、それで見つからなかったらトラオムの中をしらみつぶしに回るわよ」

「うんっ!」

「どこの書店を探しましょうか。地図によるとこの近くに一つあって、離れた所にもう一つあるらしいけど・・・」

「じゃあまず近くから探そ」

「そうね、じゃあ行きましょう」

 そうして、ライゼの捜索が始まった。
 二人は近くにある書店に入り、中を見回る。
 木製の本棚と童話や小説、哲学書等、多岐に渡るジャンルの本に囲まれた店の中には、数人の客と店主がいるのみでライゼの姿は見えない。
 どうやらハズレの様だ。ステラがマリを連れて書店から出て行こうとすると、マリが何かを抱えながら駆け寄ってくる。

「ステラちゃん!ステラちゃん‼︎見て見て‼︎面白そうな本見つけた‼︎」

「どうしたの、マリがテンション上がるなんて珍しいわね」

「いいから、これ読んでみて‼︎ほら‼︎」

 マリが本を開き、それを横からステラが覗く。
 そこに書かれている内容はこうだ

『あなたの前に花が咲いている、それは何本?』

「何これ? 花? え?」

「色んな問題があって答えによってその人の性格とか色々な事が分かるんだって」

「へー、そんな本があるのね。じゃあ・・・五本」

「五本ね、えーっとこの問題で分かる事は・・・えっ⁉︎」

 目を見開き、マリは固まる。一体何が書いてあるのかと本を見てみると、そこには

『この問題で分かる事、あなたがこれから付き合う人の人数です』

 と書かれていた。マリは本を閉じ、ステラを涙目で睨みつける。

「ステラちゃんの浮気者‼︎」

「えぇ⁉︎いやいやいや、そんな事言われても‼︎」

「ステラちゃんの馬鹿‼︎馬鹿‼︎馬鹿‼︎馬鹿‼︎五人なんてあり得ない‼︎最低っ‼︎」

「たかがクイズでしょうが‼︎それにその言い方やめてちょうだい‼︎周りから視線向けられてるから‼︎」

 辺りからざわざわと何かを話す声が聞こえてくる。
 話題を変えなければ、そう思いステラがマリの手から本を取り

「別の問題やりましょ。ね?」

「分かった」

 適当にページを開き、そこに書かれている問題を見る、すると今度は

『犬と猫、飼うならどっち?』

 と書かれていた。おそらく普通の問題だろう。犬と猫から恋愛系の問題になるとは考えにくい。

「ステラちゃんはどっち?」

「猫、かしら。猫好きだし」

 そう言って、ステラが答えの書いてあるページをめくった次の瞬間、先程考えた事が即座に覆された。そこには

『犬を選んだあなたは男性、猫を選んだあなたは女性と付き合います』

 と、書かれていた。

「まーーー‼︎」

「ス、ステ、ラちゃん? え? 嘘? え?」

「ち、違う‼︎これはクイズ‼︎別に女の子と付き合う気は……‼︎」

「あー、良かったー、私も範囲内か」

「そ、そう‼︎だから、って、え?」

「え? 私女の子だよ。私もステラちゃんのストライクゾーンに入っているんじゃないの?」

 ーーあぁ、なるほど、そうゆう事になるんですね。
 はてさて一体どうしたものかと、ステラは悩む。相手が幼女ジェシカなら笑い話にもできるが、今度はマリかと。
 何故、自分は女子ばかりからアプローチを受けるのか、そしてこの場合どうするのが正解なのか、ステラが必死に思案しているとマリがふふっ、と笑って

「冗談だよ、冗談っ。少しからかっただけ」

 と悪戯っぽく笑いながら言ってきた。
 あぁ、なんだ冗談か、とステラが胸を撫で下ろしたのも束の間、でも、とマリは

「ステラちゃんが好きなのは本当だよ。それに今日は折角のおでかけなんだし、楽しもうよ、ね?」

 目を輝かせて、顔を近付けながらそう言ってくる。楽しそうなマリを見て、ステラはしょうがないわね、と。

「二人きりで出かけるのも初めてだし、どうせライゼさんもすぐ見つからないだろうし。楽しみましょうか」

「うんっ‼︎」

 そして、ステラとマリは書店を出て、歩き出した。








 ステラとマリが書店を出たのと同じ頃に、『魔神の庭』の屋敷には誰もいなくなっていた。
 ただ一人、取り残されたローザを除いて。

「・・・暇だなぁ」

 庭園に机と椅子を用意し、一人で紅茶を飲みながらローザは呟く。

「皆、何してるんだろうなぁ。マスター、見つかったかなぁ・・・」

 ローザが取り残される事になった原因は、数分前のリオの発言だ。







「お前ら、今日暇か?」

「暇だよー。どうかしたの?」

 屋敷の広間に残っているメンバーを全員集め、リオが尋ねる。
 何故、そんな事を聞くのか、と誰かが言う前にリオは言う。

「ライゼのアホがまた失踪した。暇な奴には探すのを手伝ってもらいたい」

「どうして? マスターがいなくなるなんていつもの事じゃ」

「あの馬鹿に『モルガナ襲撃』の報告書を書かせろと、国からしつこく言われてる。そろそろ提出しないとまずいらしい」

「え? マスターまだ報告書書いてないの?」

「あぁ、こればかりはいつもみたいにアルジェントが代行するのではなく、ライゼ本人が行わなければいけないらしい。だから」

「だから手伝って欲しい。ステラ様とマリちゃんだけじゃ荷が重い。そうゆう事だね?」

 自分の言葉を遮って言ったアルジェントにリオは頷いて

「あぁ、そうゆう事だ。だからあのアホを探すのを手伝って欲しい。頼めるか?」

「仕方ないわね、手伝うわ」

「リオ君の頼みならもちろんだよ‼︎」

「良いよ、手伝ってあげよう」

「じゃあ僕も」

「お前は留守番な」

「え?」





 ローザが能力的にギルドの守備に適してるのはローザ自身理解している。
 留守番を指名されたのも分からなくはない。分からなくはない、が

「別に僕じゃなくても良くない?」

 ローザが一番適しているイコール他のメンバーにはできないという訳ではない。
 他のメンバーでもやろうと思えばギルドの守備はできるのだ。アルジェントだって、リオだって、リリィだってできる。それなのにどうして毎回ギルドの守備をするのは自分なのか。

「僕も行きたかったなー。マスター探したかったなー。皆と一緒に行きたかったなー」

 そんな呟きは、誰が返すでもなく虚空に消える。
 紅茶を飲み干すと、ローザは花に水やりする為に立ち上がって、庭園に向かう。

「慰めてもらおう。また置いてかれたって」





 ライゼ捜索から一時間程経ち、ステラとマリは出店が立ち並ぶ市場を歩いていた。
 その一つを見て、マリが目を輝かせる。

「ステラちゃん‼︎ステラちゃん‼︎あれ何⁉︎美味しそう‼︎」

 はしゃぎながらステラの肩を叩くマリに、ステラは振り返り、マリが指差す方を見る。

「あれ? あぁ、クレープね。食べる?」

「うん、食べるっ‼︎」

「分かった。ちょっと待ってて」

 出店でクレープを買ってマリの所に戻り、はい、とステラはマリにクレープを手渡す。
 味は色々なものがあった為、無難にイチゴとバナナがのクレープを選んだ。するとマリが顔をぱぁっと明るくして

「ありがとうステラちゃん、いただきまーす」

 はむっ、とクレープを一口食べる。
 何度か咀嚼すると美味しそうに目を細めてから、美味しいっ‼︎と感激の声を上げる。

「はいっ、ステラちゃんも」

「私も?」

「うん、美味しいから二人で一緒に食べよ」

「そ、ありがとね。じゃあいただきます」

 マリが手に持つクレープに顔を近付け、バナナと生クリームを口に入れると、ステラの口の中にバナナと生クリームの甘みが広がる。

「美味しいっ‼︎」

「でしょ⁉︎ほら、早く食べよっ‼︎」

「えぇ」

 その後も順調にライゼの捜索の名を借りたお出かけは進んでいった。

「ステラちゃんあれあれ‼︎」

 今度は道端で玉乗りしながらジャグリングをするピエロを見つける。

「あぁ、大道芸人ね。凄いわね」

「わー、玉に乗りながらあんなに・・・わっ、飛んだ⁉︎えぇ⁉︎逆立ちした⁉︎」

「本当に凄いわね、同じ人間なのかしら」

 一通りパフォーマンスを終えて、大道芸人が一礼すると辺りで見ていた観客が一斉に拍手をする。ステラとマリも拍手し、その場を後にする。

「凄かったわねー。あ、あれって・・・」

 人が並んでる建物の近くで、ステラは立ち止まる。
 その後ろからマリが、あぁ、と

「劇場だね。なんの劇やってるのかな? 見に行ってみようよ」

「そうね、見に行きましょうか」

「うんっ」

 劇場に入ると劇が始まった。
 劇の内容はある王国のお姫様に恋をした海賊が、数々の困難を乗り越え、お姫様の国を支配する魔王を倒し、お姫様と結ばれるというものだった。

「これからもずっと傍にいてくれますか?」

「あぁ、約束だ。ずっとお前の傍にいる」

 海賊がお姫様と結ばれ、二人が口づけをして劇は幕を下ろした。
 良い劇だったと感動に包まれながら、ステラは劇場を出ようとしてマリの方を向くと、マリが肩を震わせていた。

「うっ、うぅ、うぅ・・・」

 目から大粒の涙を流して号泣していた。

「マ、マリ⁉︎ど、どうしたの⁉︎」

「だってぇ、凄い良い話だったからぁ・・・うぅ、うわぁぁあぁーーーん‼︎」

 凄い泣いてる。
 ステラがゲルグから助け出した時の数倍は泣いているんじゃないだろうか。

「いやぁ、本当に良い劇だったよねぇ。ラストのシーンなんて特に。あぁ、涙出てきちゃった。ステラちゃんハンカチ持ってる?」

「あぁ、はい」

 後ろから声を掛けてきたライゼに、ステラはハンカチを渡す。そしてマリの背をさすりながらライゼと共に劇場を出た。

「大丈夫?」

「大丈夫。うぅ・・・」

「そう、じゃあそろそろ真面目にライゼさんを探さないとまずいわね。一体どこに、ん?」

「・・・あ」

 後ろを振り向いたステラにつられて、マリも後ろを振り向くと、そこには件の探し人がいた。

「やぁ、ステラちゃん、マリちゃ」

「いたぁあぁあぁああぁあぁあぁあっ‼︎」

 ライゼが何かを言う前に、ステラは拳で、マリは杖でライゼを殴り飛ばした。

「痛い‼︎何するの⁉︎いきなり酷いじゃないか‼︎」

「あっ、ごめんなさい‼︎ステラちゃんにつられてつい‼︎」

「動けなくしないと捕まえられないと思って。」

「逃げるつもりはないよ。もうやりたい事はやったしね。日も暮れてきたしそろそろ帰ろっか。皆待ってるだろうしね」

 笑みを含んだ声で立ち上がりながらそう言ったライゼに、ステラは首を傾げる。
 確かに皆待っているだろう。仕事をしないライゼが仕事をしに帰ってくるのを。
 帰れば仕事をさせられ、リオやユナに小言を言われる事も、ライゼは分かっている筈だ。なのに、何故余裕の表情を浮かべているのかステラは分からないまま、ライゼについて行き、屋敷の前に辿り着いた。








「こっちだよ、こっち」

 ライゼに連れられてステラとマリは庭園へ向かう。
 一体何をするつもりなのか、そう思いながらライゼについて行くと、次の瞬間

「ステラちゃん、マリちゃん、おめでとう‼︎」

 『魔神の庭』の全メンバーがクラッカーを鳴らしながらそう言ってきた。

「え?」

 あまりにも突然の出来事に、言葉が出ずにいると、ライゼがふっふっふ、と笑い

「どう? びっくりした?」

「え、その、えっと、これは一体」

「サプライズパーティーだ」

 戸惑うステラに、ライゼではなくリオが答える。

「お前らが『魔神の庭』に入った時、ばたばたしていて歓迎パーティーが出来なかったからな。今日一気にやる事にしたらしい」

「企画したのはマスター、準備をしたのもマスターです」

 アルジェントがライゼの方を見ながら言うと、そうだよ、とライゼ

「君達にバレないようこっそり準備するのはかなり大変だったよ。料理の材料自体は朝に終わったんだけど、小道具の準備の方に手間取ってね」

「言ってくれたら手伝ったんですが」

 そう言うアルジェントにライゼは手を振って

「駄目駄目、サプライズっていうのは直前まで誰にも分からないから面白いんだから。それに君達には普段頑張ってもらってるからね。こういうイベント位は僕が頑張るよ」

「イベント位は、だと? 誰よりもイベント大好きな奴が何を」

「だって、この世界にあるイベントは楽しいものばかりじゃないか。全力になって当然だろう? まぁ、そんな事より始めようか」

 リリィがステラとマリにジュースが入ったコップを渡すと、ライゼがグラスを掲げて

「遅くなってしまったけれど、ステラちゃん、マリちゃんの『魔神の庭』加入を祝して、乾杯‼︎」

「カンパーイ‼︎」

 コップやグラスがぶつかる音と共に、パーティーは始まった。




「これは‼︎」

「凄く美味しい‼︎」

 庭園に置かれた長机の上に置かれた料理の内一つを口にして、ステラとマリは絶賛する。
 いつもの食事も味付けはかなり整っているのだが、今日は特に味に力を入れているのが分かった。
 きっとサプライズパーティーと聞いて、リオが気合いを入れて作ってくれたのだろう。ステラが感謝の念と美味しいという念を込めてリオに親指を立てると、一瞬こっちを見て目を逸らした。照れ隠しだろう。

「ステラ様、楽しんでいただけていますか?」

 後ろから声を掛けられ、ステラが振り向くと、アルジェントが立っていた。

「えぇ、楽しいわよ。ありがとね、アルジェントも準備してくれたんでしょ?」

「はい、この後出てくるケーキを作るのを、あっ、噂をすれば」

 アルジェントが向いた方をステラが向くと、とてつもなく大きい、ウェディングケーキの三倍程のサイズがあるケーキをローザが運んできた。
 よく見ると、ケーキの飾り付けに三十センチ程の人形が二体乗せられている。

「ねぇ、アルジェント、あの人形、もしかして私とマリ?」

「えぇ、かなり自信があったのですが、似てませんでした?」

「いや、凄く似てる。あなたよくあんなに上手く作れるわね。あれって食べられるの? 飾れたりしないかしら」

「チョコでできているので、今日中に食べていただけると助かります。人形が欲しければ、またいつでも作りますので」

 申し訳なさそうに言うアルジェントの言葉を聞いて、ステラは少しだけ残念だなと思ったが、そんな気持ちを振り払う様にケーキにフォークをさして、一口食べる。そして、衝撃に言葉を失った。

「なにこれ‼︎あまっ‼︎美味しい‼︎あの時食べたケーキより美味しくなってる‼︎」

「そんなに美味しいの?食べてみよーっと。あっ、本当だ‼︎アル君が前作ったのより美味しくなってる‼︎」

 舌鼓を打つステラとリリィに、アルジェントはドヤ顔を浮かべる。その次の瞬間、空に轟音と共に光の花が咲いた。

「うわぁ・・・‼︎」

「これって・・・」

「花火、ですね。この時期には祭りは特にありません、つまり」

「どう⁉︎綺麗だろう、僕特製改造花火‼︎」

「改造?」

「うん。まぁ、改造っていってもほとんどは色と形のバリエーションを増やして光の明るさを少し強くしただけで、特別に手を加えた花火は一つだけなんだけど、どう? 綺麗でしょ?」

「はい、とても」

「そうだろう、そうだろう‼︎でも、僕特製改造花火はまだまだこんなものじゃない、これからが本番さ。ほら‼︎」

 ライゼが空を指差すと、ハート形、クローバー形、星形、様々な形をした色とりどりの花火が次々と夜空に花開く。その美しさに全員が目を取られている中、ライゼは、にっ、と笑って

「さぁ、次が本番だ‼︎願い事を三回唱えるんだ‼︎」

「願い事?」

 直後、火球が空に上がったかと思うと、火球は弾けて、流れ星の様に空を流れた。

「おぉ・・・‼︎」

「綺麗‼︎」

「流星花火。火は地面に落ちる前に消える様になっていて安全でとても綺麗な僕特製の花火だ。ほら、皆早く願い事言って、早く早く‼︎」

 ライゼが早口でまくしたてると、全員が手を合わせて、願い事を唱える。

「リオ君を弄る、リオ君を弄る、リオ君を弄る」

「リオ君と結婚、リオ君と結婚、リオ君と結婚」

「筋肉、筋肉、筋肉」

「留守番の回数減りますように、留守番の回数減りますように、留守番の回数減りますように」

「身長伸びろ、身長伸びろ、身長伸びろ」

 必死に願い事を唱えるメンバーを見て、なんだか微笑ましい気持ちになっているとマリがステラの肩を叩いて

「ステラちゃん、早く唱えないと、流れ星消えちゃうよ!」

「あっ、しまった、ってあんたもでしょ‼︎早く唱えるわよ‼︎」

 ステラはそう言って、マリと同時に願いを唱える。

「マリと一緒にいられますように、マリと一緒にいられますように、マリと一緒にいられますように‼︎」

「ステラちゃんと一緒にいられますように、ステラちゃんと一緒にいられますように、ステラちゃんと一緒にいられますように‼︎」

 願い事を唱えて、ステラとマリは互いの顔を見つめ合う。ニ人共同じ事を考えていた事、なんだかおかしくなって

「ふふっ、あはははっ」

「へへ、えへへ」

 ステラとマリは小さく笑った。
 それから流れ星が消えた後も、夜が明けるまでパーティーは続いた。
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