ペンギンのティーティーのお話

スズキヒサシ

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ペンギンのティーティーのお話

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 ある日、南極の真っ白な氷原ひょうげんで、小さなペンギンの子どもがひとりぼっちで遊んでいました。
 名前はティーティー。
 ティーティーは好奇心いっぱい。
 いつも兄弟たちと一緒に冒険をしていたのですが、今日は歩きまわっているうちに迷子になってしまったようです。

「あれ? みんな、どこにいるの?」

 ティーティーが周りを見渡しても、どこにもペンギンのれが見えません。
 氷原は広くて、白い雪と氷が広がるばかり。
 どっちの方角に進んだらいいのかわかりません。

 すると、近くに茶色いオットセイの群れがいるのが見えました。
 ティーティーは泳いで行って、オットセイにたずねました。

「こんにちは。ぼく、ティーティーといいます。迷子になっちゃったみたいなんです。ペンギンの群れを見かけませんでしたか?」

 オットセイたちは仲間同士で声をかけ合いました。
 でも、誰もペンギンの群れを見ていませんでした。
 その中の一匹がティーティーに話しかけてきました。

「わたしはクルル。いっしょに探してあげるわ。群れがいたところはどんな場所だったの?」

 ティーティーは覚えている限りで場所を説明しましたが、南極は広くて真っ白で、どこも似たような景色なのです。

「う~ん、それじゃあ、とりあえずこの辺りの岩場や海岸を探しましょう。きっと見つかるわよ」

 優しいオットセイのクルルのおかげで、ティーティーは群れに戻れるかもしれないと思いました。

 ティーティーとクルルは、氷の間を泳ぎ始めました。
 クルルは南極の海をよく知っていて、流れの速い場所や、危険なクレバス(氷の裂け目)、高い波からもティーティーを守ってくれました。
 氷の上ではティーティーもクルルもお腹で軽快にすべって移動しました。
 とても楽しくて、ティーティーはクルルが大好きになりました。

 南極では太陽はあっという間に沈んでしまいます。
 段々、暗くなってきましたが、ペンギンの群れは一向に見つかりませんでした。
 ティーティーは次第に疲れてきましたが、クルルのはげましによってがんばりました。

「ティーティー、あきらめないで。きっと群れは見つかるわ」

 クルルはやさしく言いました。
 すっかり夜になったので、ティーティーはクルルと寄りそって小さな氷の上で眠りました。
 朝になると、また群れを探して泳ぎだします。

 しかし、突然遠くの海から水しぶきが上がり、黒い影がせまってくるのが見えました。

「シャチだわ・・・!」

 クルルが泳ぎをやめて言いました。
 ティーティーの心臓は早鐘はやがねのように打ち始めました。

「ティーティー、急いで隠れなきゃ!」

 クルルはティーティーを鼻で押して、近くの氷に乗ると身を潜めました。
 しかし、シャチはすでに二匹の存在に気づいていました。
 巨大な体が海面から飛び出し、鋭い目で周囲を見回しています。

「ああ、どうしよう・・・・・・」

 ティーティーは不安で声を震わせました。

「ティーティー、わたしが引きつけるから、その間に逃げて!」

 クルルは決意の表情を浮かべました。
 まだ子どものティーティーでは、シャチに追いつかれてしまいます。

「でも、クルル・・・・・・」

 ティーティーが言いかけましたが、クルルはすでにシャチの方に向かって飛び出していました。
 勇敢に泳ぎ出すクルルにシャチが目を奪われ、そのすきにティーティーは反対方向へと全速力で泳ぎだします。

「クルル、どうか無事でいて」

 ティーティーは涙をこらえながら泳ぎ続けました。
 クルルが時間をかせいでくれたおかげで、ティーティーはなんとかシャチの追撃ついげきを逃れることができました。
 その場でじっとしていると、しばらくしてシャチの鳴き声が聞こえてきました。
 どうやらエサを食べそこなってくやしくてえているようです。
 クルルが逃げ切れたとわかり、ティーティーはホッとしました。
 しかし、もうクルルの姿は見えなくなっていました。

「クルル、ありがとう。また会おうね」

 ティーティーは元気を出して、群れを探し続けることにしました。
 クルルの勇気と友情を胸に、再び氷の間を泳ぎ始めます。

 すると、またもや大きな黒い影が目の前に現れました。
 シャチかと思って驚いたティーティーに、歌うようなやさしい声が届きました。

「やあ、こんにちは、小さな小さなペンギンさん。こんなところで何をしてるんだい?」

「こんにちは、ぼくはティーティー。群れとはぐれてしまったんだ」

 ティーティーは涙をこらえながら答えました。

「クルルというオットセイが助けてくれたけど、シャチに襲われて・・・・・・」

 クジラは深くうなずきました。

「それは大変だったね。わたしはネモ。じゃあ、今度はわたしが君を助けるよ。いっしょに群れを探そう」

 ネモはティーティーを背中に乗せ、広い海を進み始めました。
 ネモのひと 搔きは大きな波になって、グングンと海を進んで行きます。
 泳ぎながら、ネモは海の仲間たちにペンギンの群れの場所をたずねました。

 昼になり、夕方になり、それでもティーティーとネモがペンギンの群れを探して海を進むと、次第に日が沈み、暗闇が広がり始めました。
 寒さが増し、風もビュービュー吹いてきました。
 しかし、ネモの背中に乗っているティーティーは、ネモのおしゃべりや歌に勇気づけられて、希望を失わずにいました。

「もう少しで見つかるかな?」

 ティーティーは不安そうにつぶやきました。

「大丈夫だよ、ティーティー。暗くなっても星が出てくるから、きっと何か手がかりが見つかるさ」

 ネモがはげましてくれます。
 夜空が次第に星で埋めつくされていきました。
 満天の星空は、氷の海や、氷原を美しく照らし出しました。
 ティーティーはその美しさに一瞬見とれてしまいました。

「ネモ、見て! あんなにたくさんの星が・・・!」

 ティーティーは感動の声を上げました。

「本当に綺麗だね。流れ星も見えるかもしれないよ」

 ネモも空を見上げました。
 しばらくすると、一本の流れ星が夜空を横切りました。
 それはまるで、暗闇を切り裂く光の道しるべのようでした。
 ティーティーとネモはその瞬間、流れ星を追って目をらしました。

「ティーティー、あれを見ろ!」

 ネモが興奮気味に声を上げました。
 流れ星が落ちた場所の近くに、小さな黒い点々が動いているのが見えます。
 ティーティーは目をぱちぱちさせ、

「あれは、ペンギンの群れだ!」

 と、大きな声で叫びました。
 喜びと興奮で胸がいっぱいになり、ネモの背中でぴょんとね上がりました。

「よかったね、ティーティー。さあ、急いで向かおう」

 ネモはスピードを上げて、群れの方向へと進みました。
 近づくにつれて、ティーティーの心臓はますます高鳴りました。
 群れのペンギンたちも、その姿に気づいて声を上げ始めました。
 みんなは、ティーティーが無事に戻ってきたことを知り、大歓声を上げました。

「ティーティーが帰ってきた!」

 仲間たちはティーティーを迎え入れました。
 その中にはお父さんペンギンとお母さんペンギンもいます。
 兄弟たちも手を叩いて跳ねています。
 ティーティーは嬉し涙を浮かべながら、群れの中に飛び込みました。
 すると、そこに会いたかったオットセイのクルルの姿もありました。

「クルル! よかった。無事だったんだね」
「ティーティー、あなたこそ!」

 クルルはシャチから逃げた後、このペンギンの群れを見つけて、ティーティーが戻ってくるのを待っていたのです。
 ティーティーは嬉しくて涙をポロポロこぼしました。
 見ていたネモも頭の上から盛大な噴水ふんすいを出してお祝いします。
 ティーティーは改めてネモに感謝の気持ちをこめて言いました。

「ネモ、本当にありがとう。君がいなかったら、ぼくはここまで来れなかったよ」

 ネモは大きな右目でウインクしました。

「君が勇敢だったからこそ、ここまで来れたんだよ、ティーティー。仲間たちと一緒にいられることは、何よりも嬉しいことだ」

 ティーティーは群れの中からネモに手を振りました。

「ネモ、君のことは決して忘れないよ」

 ネモはその場で一度、大きくジャンプすると、ゆっくりと海の中へと戻っていきました。

 その夜は、みんなは大盛り上がりのお魚パーティをしました。
 もちろん、一人でいなくなったので、お父さんペンギンとお母さんペンギンには、こってり叱られてしまいましたが、家族にギュッとされて眠るのは、何よりも幸せだとティーティーは思いました。


おわり
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感想 2

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みんなの感想(2件)

きりと瑠紅 (きりと☆るく)

突っ込むところは幾つかありますが、読みやすく、頭に入りやすい表現で、個人的には好きです。

スズキヒサシ
2024.08.22 スズキヒサシ

感想ありがとうございます。自分でも突っ込みどころがあるなぁと思いつつ、なんとか最後まで書いてみました。子どもでも読めるようにと文体も試行錯誤中です。読んでくださってありがとうございました。

解除
四季
2024.08.16 四季

童話らしさがとても魅力的でした。
素敵な作品をありがとうございます。(^ー^)

スズキヒサシ
2024.08.16 スズキヒサシ

ありがとうございます。とても暑い日が続いているので、涼しい南極のお話を書いてみました。楽しんでいただけたら幸いです。

解除

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