2 / 2
後編
しおりを挟む残された右のくつしたは、悲しくなって泣き出しました。
「どうしよう、左くんが~~! うええ~ん」
くつしたたちは生まれてこのかた、離れたことがなかったのです。
自分で動くことはできないので、もう二度と会えないかもしれません。
右のくつしたが、エンエンと泣いている間、家の中ではロッキーがうろうろと落ちつかなげに歩いていました。
ロッキーもくつしたを取り戻したかったからです。
でも家から出ることはできません。
「ぐるるるる(あのねこ、ぼくのくつしたを~)」
ロッキーはワンワンと吠えたてました。
そのとき、庭にまたお客さんがやって来ました。
ねこよりも小さなまるい背中の生き物です。
「ちゅちゅ!」
茶色いねずみです。
ねずみは、何かおいしそうものがあるかもしれないと、庭の中をすばやく歩き回りました。
かなちゃんのお父さんが育てているプチトマトを見つけ、器用に枝に登ると、ぶちっ!
ちぎり取ってもぐもぐもぐ。
「ちゅっちゅ(なんておいしいトマト)!」
あまりに小さくすばしっこかったので、ロッキーはしばらくねずみに気がつきませんでした。
ねずみはプチトマトを食べ終えると、また庭をかけ回ります。
ふと、植木鉢の上にいる片方だけのくつしたに気がつきました。
「ちゅちゅ~(なにかしら)?」
小さな手で、ひょひょいと鉢に登ったねずみは、くつしたに触りました。
ふわふわで少し毛羽立っていて、なんてちょうどいい寝袋でしょう。
「ちゅちゅちゅー(これはいいものだわ)」
ねずみはくつしたを引っ張りました。
「ひあぁぁぁ! やめて~!」
右のくつしたは叫びました。
でもねずみには聞こえません。
ぐいぐい引っ張って、ついに地面に落としてしまいました。
ようやく窓のところにいたロッキーも気がつきました。
「わんわんわん(ああ、もう片方のくつしたも)!」
これまた、あっという間に右のくつしたはねずみに連れ去られてしまったのです。
さて、ねこはというと、左のくつしたをしっぽにはめて、意気揚々と歩いていました。
なんておしゃれなんでしょう。
高く上げたしっぽに、ご機嫌な顔。
ところがーーー。
「カアカア(なんだありゃ)?」
大きな真っ黒のからすです。
電信柱の上から、しっぽを立てて歩いているねこを見つけたのです。
「ククック(いいこと考えたぞ)」
からすは一直線にねこのところへ飛んでいくと、足の爪でヒョイとくつしたをつかみました。
「にゃっ!?」
「カーアカーア!」
からかうように鳴くと、からすはねこからくつしたを横取りして飛び去りました。
ねこは怒ってぴょんぴょん飛びましたが、やがて立てていたしっぽを折り曲げると、とぼとぼと帰っていきました。
さて、右のくつしたです。
ねずみは自分より大きなくつしたをくわえて、すばしっこく路地を走っていました。
ときどき立ち止まって辺りをうかがいます。
ねこやいぬ、にんげんといった敵を警戒しているのです。
古い物置小屋の下の数センチの穴につくと、くつしたをぐいぐい引っ張って入っていきます。
「ちゅ~ちゅ~(ママだ)」
「ちちち(ほんとうだ~)」
「ちっちっ(なにか持ってるよ)」
穴の中には、とても小さな小さなねずみたちが三匹。
くつしたを持ってきたお母さんねずみを歓迎しています。
お母さんねずみはくつしたを広げて言いました。
「ちゅちゅっちゅ(さあ、ここに入ってごらんなさい)」
こねずみたちは我先にと押し合いへし合い。
くつしたに入っていくと、やわらかくてあったかくて、なんて気持ちいいんだろうと喜びました。
これがあれば冬になっても大丈夫そうです。
でもちょっと小さいかもしれません。
こねずみでいっぱいで、お母さんは入れなかったからです。
右のくつしたはというと、なんとも複雑な気持ちになっていました。
掃除に使われて捨てられるはずだったのに、このボロボロのくつしたをまだ喜んでくれるのです。
「んむむ、ぼくはここにいた方がいいのかも」
ただ、気がかりなのは、ねこに連れられていった左のくつしたです。
左のくつしたは空高く、からすにつかまれてピューと飛びながら叫んでいました。
「おい、いい加減下ろしてくれよ。目がまわるよ~」
からすは嫌がらせが成功してほくそ笑んでいましたが、くつしたには興味がなかったので、しばらくしてポイっと捨ててしまいました。
「うわ~~」
空から落とされたくつしたは、真っ逆さま。
よく見ると真下は、なんとため池です。
「ああ、もうダメだ」
くつしたは泳げないのです。
万事休すと思ったら、突然強い風が吹いてきました。
左のくつしたは、舞い上がって、ひらひらひらり。
どこかの暗い路地の裏側、古い物置小屋の前に落ちました。
「ちゅちゅっ(あ、ママ見て)」
「ちゅ~ちゅ~(もう一つ寝袋が落ちてきたよ)」
ねずみの親子の巣の前でした。
お母さんねずみは左のくつしたも巣の中に引っ張り込みました。
「あ! 左くん」
「右くんじゃないか!」
左右のくつしたたちは大喜び。
もう二度と会えないと思っていたのに、また再会できたのです。
そして、くつしたたちはねずみたちに重宝されて、冬の間みんなで楽しく過ごしたのです。
おわり
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
0
この作品は感想を受け付けておりません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる