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幽霊の囁く城 part4
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扉には鍵がかかっていなかったらしい。
大きな樫材の両開きの扉をジョーが押し開けて入って行った後、全員が続くと、そこは広いホールになっていた。
正面に扇型に湾曲した立派な階段があり、上階へと伸びている。
妾はクラウゼンに抱き上げられたまま暗いホールを見渡した。
なんだか見覚えがあるような・・・・・・?
もちろんここに来たのは初めてじゃ。
しかも城の造りなどどこも多少は似通っているので、気のせいかもしれない。
背後の玄関扉が開いているおかげで周囲が確認できるほどには明るいが、奥まった場所は真っ暗で闇に覆われている。
「え、ええっと、あの声はどこからしたのかしら?」
前方のジョーが振り返った。
さすがのジョーも不気味な雰囲気に少し顔が引き攣っている。
「二階じゃないか?」
シェン君が階段の方を見るが、上階はさらに暗く、明かりがないととても探索できそうにない。
妾はクラウゼンに下ろしてもらって人差し指を立てると魔法で火を灯した。
「バーミリオン殿下、まさか歩き回るおつもりじゃないでしょうね」
シュミットがじろりと見下ろしてきたが、妾はわざとらしくため息をついた。
「もう入ってしもうたんじゃぞ。悲鳴を上げた者を見つけるしかあるまい」
「ですが・・・・・・」
「それにおぬしがおるではないか。帝国の騎士が二人もいて、何か良からぬことが起こるとでも? 妾は心配などしておらぬぞ」
自分の騎士を信じていることを伝えると、シュミットは大きく胸を張って頷いた。
「も、もちろんです。我々は何があろうと殿下をお守りします」
「じゃあ決まりじゃな」
「えっ? 何がですか?」
妾はシュミットに命じた。
「妾はシュミットと、ジョーはクラウゼンと、シェン君はサイファと悲鳴の主を探すのじゃ」
シュミットが慌てて首を振った。
「いやいやいや、ちょっとお待ちください。皆が別れてこの城を歩き回るのは得策ではありません」
「なぜじゃ? 全員固まっておったら時間がかかるじゃろ?」
「そうですが危ないですよ」
「おぬしがいるから危なくないのではないか?」
「そ、それは・・・・・・そうですけど」
シュミットがゴニョゴニョと口の中で文句を言ったが、妾は聞かなかった。
三組に別れて出発する。
ジョーが右手に、シェン君が上階に行ったので、妾はシュミットを連れて階段左手から奥へと続く廊下へ向かった。
こちらも真っ暗で、妾の手元の火を灯している場所だけがぼんやりと明るい。
シュミットも魔法を使えるが、炎系ではないため明かりを灯すのは苦手のようじゃ。
二人で廊下を進んで行く。
いくつかの壊れた扉の前を通った。
「どうやら襲撃に遭ったようですね」
破損具合を見たシュミットが言った。
「うむ。叩き割られておるようじゃ」
妾も同意した。
ホロウバステオン城が栄華を極めたのは百年以上前のことだ。
かつてこの領地を皇帝から任されていたのはザリ家という貴族だった。
その家系が失墜したのと同じくして、この城も放置され、そのまま廃墟となっていったらしい。
宿屋の料理人がそう言っておった。
シュミットは扉の一つを開いてカビ臭い室内に目を凝らした。
「何があったにせよ、これだけの規模の城を廃れるがままにするのは驚きですね」
「そうじゃな。噂のせいにしても、もったいないのぉ」
ホロウバステオン城には不吉な噂があり、幽霊城とも揶揄されている。
改修して住もうという酔狂な人物はいないのだろう。
「もう少し帝都に近ければ住みたいぐらいですよ」
シュミットが笑いながら言った。
「うちは子どもがいるし、今の家は手狭ですから」
帝都の住宅事情には詳しくないが、確かに密集したところに大勢が住んでいるので一軒一軒が狭いと聞いたことがある。
妾には関係ないが。
むしろ宮が広すぎるし部屋も多すぎるぐらいじゃ。
立場が違うと問題も違ってくるというやつか。
シュミットと共に困ったものだなぁと歩いていると、突然、数メートル手前の床をサササッと何かが通り過ぎた。
「わっ!」
シュミットが声を上げたので、妾もビクッとした。
むしろ声の方に驚いた。
妾の目には虫のように見えたので、そこまで驚くことか? と思ったのじゃ。
「大きな声を出すでない!」
「す、すみません。誰かが通ったように見えたもので」
「えっ? 誰か? そんな大きくなかったぞ。せいぜい三センチくらいの虫に見えたが」
「ええっ!? わ、わたしには人影に見えましたよ?」
お互いに顔を見合って首を傾げた。
「確かめてみよう」
「ですが、本当に人影だったら危ないですよ」
「妾にはちょっと大きな虫に見えたからのぉ」
虫が去って行ったのは廊下の十字路だった。
妾たちは左手に曲がり、さらに暗い方へと進んで行った。
その後ろからまた別の足音が近づいて来ていることも知らずーーー。
大きな樫材の両開きの扉をジョーが押し開けて入って行った後、全員が続くと、そこは広いホールになっていた。
正面に扇型に湾曲した立派な階段があり、上階へと伸びている。
妾はクラウゼンに抱き上げられたまま暗いホールを見渡した。
なんだか見覚えがあるような・・・・・・?
もちろんここに来たのは初めてじゃ。
しかも城の造りなどどこも多少は似通っているので、気のせいかもしれない。
背後の玄関扉が開いているおかげで周囲が確認できるほどには明るいが、奥まった場所は真っ暗で闇に覆われている。
「え、ええっと、あの声はどこからしたのかしら?」
前方のジョーが振り返った。
さすがのジョーも不気味な雰囲気に少し顔が引き攣っている。
「二階じゃないか?」
シェン君が階段の方を見るが、上階はさらに暗く、明かりがないととても探索できそうにない。
妾はクラウゼンに下ろしてもらって人差し指を立てると魔法で火を灯した。
「バーミリオン殿下、まさか歩き回るおつもりじゃないでしょうね」
シュミットがじろりと見下ろしてきたが、妾はわざとらしくため息をついた。
「もう入ってしもうたんじゃぞ。悲鳴を上げた者を見つけるしかあるまい」
「ですが・・・・・・」
「それにおぬしがおるではないか。帝国の騎士が二人もいて、何か良からぬことが起こるとでも? 妾は心配などしておらぬぞ」
自分の騎士を信じていることを伝えると、シュミットは大きく胸を張って頷いた。
「も、もちろんです。我々は何があろうと殿下をお守りします」
「じゃあ決まりじゃな」
「えっ? 何がですか?」
妾はシュミットに命じた。
「妾はシュミットと、ジョーはクラウゼンと、シェン君はサイファと悲鳴の主を探すのじゃ」
シュミットが慌てて首を振った。
「いやいやいや、ちょっとお待ちください。皆が別れてこの城を歩き回るのは得策ではありません」
「なぜじゃ? 全員固まっておったら時間がかかるじゃろ?」
「そうですが危ないですよ」
「おぬしがいるから危なくないのではないか?」
「そ、それは・・・・・・そうですけど」
シュミットがゴニョゴニョと口の中で文句を言ったが、妾は聞かなかった。
三組に別れて出発する。
ジョーが右手に、シェン君が上階に行ったので、妾はシュミットを連れて階段左手から奥へと続く廊下へ向かった。
こちらも真っ暗で、妾の手元の火を灯している場所だけがぼんやりと明るい。
シュミットも魔法を使えるが、炎系ではないため明かりを灯すのは苦手のようじゃ。
二人で廊下を進んで行く。
いくつかの壊れた扉の前を通った。
「どうやら襲撃に遭ったようですね」
破損具合を見たシュミットが言った。
「うむ。叩き割られておるようじゃ」
妾も同意した。
ホロウバステオン城が栄華を極めたのは百年以上前のことだ。
かつてこの領地を皇帝から任されていたのはザリ家という貴族だった。
その家系が失墜したのと同じくして、この城も放置され、そのまま廃墟となっていったらしい。
宿屋の料理人がそう言っておった。
シュミットは扉の一つを開いてカビ臭い室内に目を凝らした。
「何があったにせよ、これだけの規模の城を廃れるがままにするのは驚きですね」
「そうじゃな。噂のせいにしても、もったいないのぉ」
ホロウバステオン城には不吉な噂があり、幽霊城とも揶揄されている。
改修して住もうという酔狂な人物はいないのだろう。
「もう少し帝都に近ければ住みたいぐらいですよ」
シュミットが笑いながら言った。
「うちは子どもがいるし、今の家は手狭ですから」
帝都の住宅事情には詳しくないが、確かに密集したところに大勢が住んでいるので一軒一軒が狭いと聞いたことがある。
妾には関係ないが。
むしろ宮が広すぎるし部屋も多すぎるぐらいじゃ。
立場が違うと問題も違ってくるというやつか。
シュミットと共に困ったものだなぁと歩いていると、突然、数メートル手前の床をサササッと何かが通り過ぎた。
「わっ!」
シュミットが声を上げたので、妾もビクッとした。
むしろ声の方に驚いた。
妾の目には虫のように見えたので、そこまで驚くことか? と思ったのじゃ。
「大きな声を出すでない!」
「す、すみません。誰かが通ったように見えたもので」
「えっ? 誰か? そんな大きくなかったぞ。せいぜい三センチくらいの虫に見えたが」
「ええっ!? わ、わたしには人影に見えましたよ?」
お互いに顔を見合って首を傾げた。
「確かめてみよう」
「ですが、本当に人影だったら危ないですよ」
「妾にはちょっと大きな虫に見えたからのぉ」
虫が去って行ったのは廊下の十字路だった。
妾たちは左手に曲がり、さらに暗い方へと進んで行った。
その後ろからまた別の足音が近づいて来ていることも知らずーーー。
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