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夢の続き
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次に目を開いたとき、そこはベッドだった。
頭がかち割れそうにズキズキする。
全身が燃えるように熱い。
体が重くて起き上がれない。
まるで誰かに押さえつけられているようじゃ。
部屋の中には人の気配があった。
慌ただしく何人かがベッドの周りをうろついている。
「早く早く!」
「もっと氷を持ってきてちょうだい」
ヤンヤンとミンミンの声だとわかって、妾はホッとした。
二人が側にいるのなら何の心配もない。
安心した妾は再び目を閉じ、意識を手放した。
最初に気づいたのは水音だった。
ポタリ、ポタリ、とゆっくりと落ちている。
暗い視界に目が慣れてきて、自分のいる場所が長い廊下だとわかる。
またあの場所じゃ。
妾はゾッとして身震いした。
夢なら早く覚めてほしい。
またあの男になっているのか?
『こうする他なかった・・・・・・』
誰にともなく発せられた言葉が静まった闇に消える。
男は廊下を歩いている。
腕の先から水音が聞こえた。
ポタ、ポタ、と水滴が落ちている。
その手に握っている物が重い。
あ、あの剣じゃ!
一組の男女を殺した剣を抜き身で持ったまま、男は廊下の先の階段を下りて行く。
ああ、そっちには行きとうない。
妾、そっちはイヤじゃ!
階段は扇形に湾曲して階下に続いていた。
下の階は灯りが点いていて、ぼんやりとオレンジ色に染まっている。
『これでよかったはずだ。そう、これで・・・・・・』
階段の中ほどまで下りたとき、妾の目に異様な光景が広がってきた。
階下のホールには夥しい数の人間が倒れていた。
男も女も、老人も若者も、重なり合うように転がっている。
鼻をつく異臭がした。
絨毯に血と吐瀉物が飛び散っている。
すでに乾き始めた血もあり、それらの死体は随分前からあったように思えた。
妾は目を背けたかったが、男が許さなかった。
男はまじまじとそれらを眺め続けた。
苦悶の表情を浮かべて死んだ人たち。
辺りには彼らの苦痛と怨みが漂っている気がする。
服装を見ると、どうやらこの邸の者たちらしい。
執事、小姓、料理人などの使用人たちと、何人かの身なりの良い若者たち。
『成した。おれは成しました。偉大なる唯一の女王陛下。どうかこの供物をお受け取り下さい。悪徳の輪廻を断ち切り、貴方様の許で永久不滅の余生をお与え下さいますようーーー』
ぶつぶつ小声で唱える男の独り言は意味不明だった。
しばらく死体の山を観察した後、男は胸ポケットから小瓶を取り出した。
なぜ自分が男になっているのか、こやつが誰なのか、何もわからないまま、妾はその瓶の中身をぐいと飲み干した。
どろりとした液体が喉を流れ落ちる。
それは毒薬だった。
喉の奥が液体によって焼け焦げ、食道から胃へと到達する前に激痛で男は前のめりに倒れた。
痛い痛い痛い痛いッ!!
男の痛みが妾にも伝わり、絨毯の上でのたうち回る。
声も出せず涙を流しながら、男は数分もの間、苦しみ、やがて死に絶えた。
不思議なことに、妾はまだそこにいた。
男を頭上から見下ろしていた。
幽体離脱?
いやでも元から妾、こやつではないしのぅ。
男が死んでも夢から覚めないのを不思議に思っていると、パサパサと軽い葉擦れのような音が聞こえてきた。
窓の外から近づいてきたそれは、邸にあるすべての窓という窓から入り込んできた。
蝶々?
真っ黒な大きな蝶が何百、何千と窓から入ってきて、男の死体の上に群がってくる。
蝶は他の死体の山をも覆い尽くし、一つの集合体のように不気味に蠢いている。
何なんじゃ、これは?
何千もの翅をパタパタさせる音が、耳を穿つほどにうるさい。
一匹の黒い蝶をじっと見た妾は、ふと気づいた。
翅の紋様を見たことがあるとーーー。
これは、部室で見た魔法陣に似てないか?
ホラ研の部室の床に会長が描いた黒魔術の魔法陣だ。
異界との扉を開けるための魔法陣だったが、それと似たようなものが、この黒い蝶の翅にもある。
この蝶、もしかして異界から来た・・・・・・とか?
まさかそんなバカな、と自分の考えを否定しようとしたときだった。
一匹の蝶が羽ばたき、それに続いてすべての蝶が浮上した。
黒い蝶は渦を巻いてひとかたまりになると、入ってきたとき同様、暴風のような音を立てて窓から出て行った。
乾いた血と汚物の跡が絨毯に染みついていたが、死体は肉も骨片一つさえ残っていなかった。
ただ、男の死体のあった場所にだけ、小さな魔法陣が描かれていた。
魔法陣の中心から黒い煙がかすかに上がっている。
蝶が去った窓から生暖かい風が吹き込んできて、煙はすぐに流れて消えてしまった。
だが、妾は恐ろしくて動けなかった。
一瞬、煙は確かに吸血蛾の女王の姿を形作っていた。
頭がかち割れそうにズキズキする。
全身が燃えるように熱い。
体が重くて起き上がれない。
まるで誰かに押さえつけられているようじゃ。
部屋の中には人の気配があった。
慌ただしく何人かがベッドの周りをうろついている。
「早く早く!」
「もっと氷を持ってきてちょうだい」
ヤンヤンとミンミンの声だとわかって、妾はホッとした。
二人が側にいるのなら何の心配もない。
安心した妾は再び目を閉じ、意識を手放した。
最初に気づいたのは水音だった。
ポタリ、ポタリ、とゆっくりと落ちている。
暗い視界に目が慣れてきて、自分のいる場所が長い廊下だとわかる。
またあの場所じゃ。
妾はゾッとして身震いした。
夢なら早く覚めてほしい。
またあの男になっているのか?
『こうする他なかった・・・・・・』
誰にともなく発せられた言葉が静まった闇に消える。
男は廊下を歩いている。
腕の先から水音が聞こえた。
ポタ、ポタ、と水滴が落ちている。
その手に握っている物が重い。
あ、あの剣じゃ!
一組の男女を殺した剣を抜き身で持ったまま、男は廊下の先の階段を下りて行く。
ああ、そっちには行きとうない。
妾、そっちはイヤじゃ!
階段は扇形に湾曲して階下に続いていた。
下の階は灯りが点いていて、ぼんやりとオレンジ色に染まっている。
『これでよかったはずだ。そう、これで・・・・・・』
階段の中ほどまで下りたとき、妾の目に異様な光景が広がってきた。
階下のホールには夥しい数の人間が倒れていた。
男も女も、老人も若者も、重なり合うように転がっている。
鼻をつく異臭がした。
絨毯に血と吐瀉物が飛び散っている。
すでに乾き始めた血もあり、それらの死体は随分前からあったように思えた。
妾は目を背けたかったが、男が許さなかった。
男はまじまじとそれらを眺め続けた。
苦悶の表情を浮かべて死んだ人たち。
辺りには彼らの苦痛と怨みが漂っている気がする。
服装を見ると、どうやらこの邸の者たちらしい。
執事、小姓、料理人などの使用人たちと、何人かの身なりの良い若者たち。
『成した。おれは成しました。偉大なる唯一の女王陛下。どうかこの供物をお受け取り下さい。悪徳の輪廻を断ち切り、貴方様の許で永久不滅の余生をお与え下さいますようーーー』
ぶつぶつ小声で唱える男の独り言は意味不明だった。
しばらく死体の山を観察した後、男は胸ポケットから小瓶を取り出した。
なぜ自分が男になっているのか、こやつが誰なのか、何もわからないまま、妾はその瓶の中身をぐいと飲み干した。
どろりとした液体が喉を流れ落ちる。
それは毒薬だった。
喉の奥が液体によって焼け焦げ、食道から胃へと到達する前に激痛で男は前のめりに倒れた。
痛い痛い痛い痛いッ!!
男の痛みが妾にも伝わり、絨毯の上でのたうち回る。
声も出せず涙を流しながら、男は数分もの間、苦しみ、やがて死に絶えた。
不思議なことに、妾はまだそこにいた。
男を頭上から見下ろしていた。
幽体離脱?
いやでも元から妾、こやつではないしのぅ。
男が死んでも夢から覚めないのを不思議に思っていると、パサパサと軽い葉擦れのような音が聞こえてきた。
窓の外から近づいてきたそれは、邸にあるすべての窓という窓から入り込んできた。
蝶々?
真っ黒な大きな蝶が何百、何千と窓から入ってきて、男の死体の上に群がってくる。
蝶は他の死体の山をも覆い尽くし、一つの集合体のように不気味に蠢いている。
何なんじゃ、これは?
何千もの翅をパタパタさせる音が、耳を穿つほどにうるさい。
一匹の黒い蝶をじっと見た妾は、ふと気づいた。
翅の紋様を見たことがあるとーーー。
これは、部室で見た魔法陣に似てないか?
ホラ研の部室の床に会長が描いた黒魔術の魔法陣だ。
異界との扉を開けるための魔法陣だったが、それと似たようなものが、この黒い蝶の翅にもある。
この蝶、もしかして異界から来た・・・・・・とか?
まさかそんなバカな、と自分の考えを否定しようとしたときだった。
一匹の蝶が羽ばたき、それに続いてすべての蝶が浮上した。
黒い蝶は渦を巻いてひとかたまりになると、入ってきたとき同様、暴風のような音を立てて窓から出て行った。
乾いた血と汚物の跡が絨毯に染みついていたが、死体は肉も骨片一つさえ残っていなかった。
ただ、男の死体のあった場所にだけ、小さな魔法陣が描かれていた。
魔法陣の中心から黒い煙がかすかに上がっている。
蝶が去った窓から生暖かい風が吹き込んできて、煙はすぐに流れて消えてしまった。
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