不吉な九番目の子だろうと、妾が次代のドラゴニア皇帝に決まっておろう!

スズキヒサシ

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いい湯っだっな〜ぁ!?

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 シェン君が妾の部屋に様子を見に来たのは、午後から出かけることができるかの確認でもあったらしい。
 妾はすっかり忘れていたが、今日から三日間、ヘデス王国の北にある大きな湖のほとりに滞在する予定だったのじゃ。

「やだ、なんて顔してんのよ!」

 第一声、ジョーに言われたが、昼には顔の腫れは大分マシになっていた。

「ママったら、あんなに分からず屋だとは思わなかったわ。バーミリオンも相手しちゃダメよ。あんなの放っておきましょ!」

 ジョーは母親と毎日、妾のことでケンカしているが、どっちも折れる気がないので、今日からの北の湖への旅行はちょうどいい冷却期間になりそうだった。
 やかたの者たちも険悪な雰囲気にうんざりしていたじゃろう。
 妾もしばらく母上と伯母上のことを考えるのはやめておくことにする。

 馬車で三時間ほどの移動で、妾たちは湖の畔にある別荘に着いた。
 レイキャン湖と名のついた湖だが、周囲に町はなく数家族が暮らす小さな村が一つあるだけだ。
 その村から山側に少し上がった場所に別荘がある。
 別荘の屋根にはこんもりと白い帽子を被せたように、大量の雪が積もっていた。
 軒先にぶら下がる氷柱つららをシェン君が掴んでポッキリ折った。

「大きいし、すごく尖ってるな。武器になりそう」

 一緒にいたサイファも珍しそうに頷いている。

「春先に落ちてきて危ないのよね」

 ジョーは何の感慨もないのか、つまらなそうに言った。
 妾はというと、もこもこのコートを着て帽子まで被っておるのに寒くて鼻がもげそうじゃった。
 白竜も龍人族も寒さに強くてうらやましい。
 ヤンヤンとミンミンも早く別荘に入りたいのか、その場で小刻みに足踏みしていた。

 別荘は木造の二階建てで、こじんまりとしたものだった。
 温泉があると聞いていたので、妾はさっそく入りたかったのじゃが、ジョーとシェン君が先に夕食を食べようと言うので我慢した。
 実は馬車も寒かったので、おしりも太ももも氷のように冷たかったのじゃ。
 服を貫通する冷気、足も冷え冷え。
 足の先がかゆいのは、もしやじゃなかろうな。
 しもやけなんて、幼児の頃以来なった記憶がないぞ。
 足をもぞもぞしながら夕食を楽しむと、ようやく妾は温泉に突撃した。
 すでに陽も暮れて外は真っ暗じゃ。
 お風呂は内風呂と外風呂があるらしいから、ヤンヤンとミンミンと共に準備して向かう。

「ふんぬふ~ふふ~ん」

 鼻歌まじりにスキップしながら到着すると、脱衣所には誰もいなかった。

「では先に内風呂で洗いましょう」

 ミンミンに服を脱がせてもらい、ヤンヤンも自分の服を手早く脱ぐ。
 手慣れた二人の侍女に任せて、妾はあっという間に綺麗になった。

「じゃあ、妾は外の露天風呂に行くからの」

 今度は自分を洗い始めたヤンヤンとミンミンを置いて、先に外へ出て行く。
 芯まで凍った体を温めないと眠れない気がするのじゃ。
 露天風呂は高い木製の柵で囲われ、外から見えないようになっている。
 石タイルの床の先に直径十メートルはある岩石の輪がもくもくと立ち昇る湯気を透かして見えた。

「初めての温泉じゃ~~!」

 妾は駆け寄ってお湯の中に飛び込んだ。
 もちろん良い子は真似しちゃダメだぞ。
 妾は皇女だから許される・・・・・・はずじゃ。
 しかし、なぜか怒声が聞こえてきた。

「おいッ! 何すんだ!!」

 聞き覚えのある声じゃ。
 しかし、気温差があるせいか、辺りは一面湯気で真っ白なので、相手がよく見えない。
 とりあえず飛び込んだ無礼を詫びる。

「すまぬ。つい嬉しくて・・・・・・」

 先着がいるとは思わなかったと告げると、なぜか相手が押し黙ってしまった。
 その時、一陣の風がびゅーと吹きつけてきた。
 湯気が片側に押し流され、少し視界が開ける。
 岩の湯船の左端に一人座って目を丸くしている人物がいた。

「なんだ、シェン君ではないか」

 妾は驚いて損をしたと小さな胸を撫で下ろす。
 が、シェン君は茹でだこのように真っ赤な顔で妾を指差し、口をパクパクさせている。
 やがて、ようやく声が出たらしく掠れた声で言った。

「お、おまえ・・・・・・なんでここに。いや、それよりま、前を・・・・・・前を隠せ!」
「前?」

 そのままシェン君はぶくぶく泡を吹きながら、頭を湯船に隠してしまった。

「何をそんなにびっくりして・・・・・・?」

 妾はシェン君に手を伸ばそうとして、水に濡れた自分の腕に気づいた。
 そして、全裸であることにもーーー。

「・・・・・・ふぎゃあああァァ!!」

 露天風呂に響き渡る悲鳴。
 そして、内風呂から慌てて駆け寄る二人の侍女。

「どうしましたか、ひめ様!!」
「滑って転んだんですか!?」

 もちろん二人も真っ裸じゃ。

「こっちに来てはダメじゃ!」

 妾は叫んだ。
 ボンキュッボーンなヤンヤンとミンミンの裸体をシェン君に見られたくないのじゃ。
 しかし二人は妾を守ることを第一としているので、当然駆け寄ってきた。
 さらに悪いことに、左手からガラガラと戸が開く音がして、そこからも一人が飛び込んできた。
 そんなところになぜ戸がある!?

「シェン王子、今女性の悲鳴が!!」

 妾はまだ立ち尽くしていた。
 そして、湯気はまったくもって仕事をしてくれなかった。
 なかなか良い腹筋をしたサイファが現れ、全員が裸体で出くわすという珍事が発生。

「きゃあああぁァァ!!」
「いや~~ん、嘘でしょうッ!!」

 ヤンヤンとミンミンの悲鳴。

「うっ・・・・・・す、すみません、」

 後ずさりながら、なぜか謝るサイファ。
 湯船にまだ頭を付けているシェン君。
 仁王立ちで硬直する妾。
 もはや混沌とした状況になってしまった。
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