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ハリネズミ元気になる
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「ひどい顔ですね」
寝起きの妾を見たミンミンが驚いて言った。
「他に言いようがあるじゃろう」
「ええっと、では、目が腫れあがったオバケみたいですね」
「・・・・・・」
そう、妾は泣きながら寝てしまった。
それで顔がパンパンになってしもうた。
でも別にいいんじゃ。
顔が腫れようが目が半開きだろうが、妾の顔なんて誰も気にしないからの。
と、思っていたがーーー。
「な、なんだよ、その顔!!」
妾の部屋にやって来たシェン君が後ずさった。
昨日の夕食も今朝の朝食にも行かなかったので心配して来てくれたのじゃ。
「き、昨日のお茶会で殴られたのか?」
とんでもない勘違いをしておる。
まあ、物理でなく心理的に殴られたようなものか。
「妾、ちょっと落ち込んでしもうた」
「お、おう・・・・・・」
ヤンヤンに冷たいタオルを渡されて顔を冷やしながら、妾は昨日あったことをかいつまんでシェン君に話した。
「ん~~、つまりジョーのおばさんは妹が病気になったのは皇帝とおまえのせいだと思ってるわけか」
「うむ」
「なんだそれ」
呆れたようにシェン君が座っていた椅子の背もたれを後ろに傾ける。
天井を見上げながら何か考えていたが、やがて椅子を戻して向かいに座る妾を見た。
「おれはアラガンの龍人族だから的外れかもしれないけどさ。帝国の竜族と違って、アラガンの王族は五才頃からツノが生えてくるんだ」
確かにシェン君には黒くて立派な二本のツノがある。
「ツノって生えてくる時、めちゃくちゃ痛いんだよ」
「? 何の話じゃ?」
「いいから聞けって。最初は頭が割れて死ぬんじゃないかってぐらい痛いわけ。血もいっぱい出て、それが何週間も続いて、しかも二本だから二倍痛いし」
「ふむ」
「しかも一気に生えるわけじゃなくて、何年もかけて伸びるから、それが年に何度も痛むんだよ。でさ、痛くて寝込んだりして、子どもだから周りのやつに泣きつくんだけど、みんな喜ぶだけでわかってもらえないんだよ」
シェン君は皮肉笑いを浮かべて誰かの真似をした。
「『素晴らしいツノでよかったですね~』『お父上も自慢でしょう』とか言ってさ。黙れっつうの」
「・・・・・・」
「王族の中でも血が濃い男しかツノは生えないから、母親ですらおれが痛くて泣いてんのに満面の笑顔なんだぜ。ツノなんか生えなくていいと何万回も思ったよ。でもさ、この痛い思いをしてるのが誰かのせいだなんておれは一度も思ったことなくて、王族に生まれたからには受け入れるべきことだと徐々に観念したんだ」
なんとなく言いたいことがわかってきた。
「おれはツノがあって自分の国ですら目立つし、浮いた存在だ。帝国でも学園のやつらには入学当初、嫌な思いもさせられた。けど、それはおれを産んだ母親のせいでも父親のせいでもないし、もちろんおれのせいでもない。そんなことでイチャモンつけてくるやつが悪い」
「イチャモン・・・・・・」
「そうだよ。ジョーのおばさんがおまえに責任転嫁してるだけだ。おまえには何の責任もないよ。まあ、話を聞く限り、皇帝にはいろいろと責任ありそうだけどさ」
それは妾もずっと疑問に思っていた。
なぜ父上は九番目の子をわざわざ産ませたのか。
呪われた子を作る必要があったとは思えぬ。
父上が母上を心底好いていて、どうしても子どもが欲しかった。
それも考えてみたが、それなら母上に面会しないのはなぜなのか。
父上なら母上が拒否しても強引に会うことができる。
だって皇帝じゃからな。
「妾、考えすぎてツノが生えそうじゃ」
頭が痛くなってきた。
「おい、頭痛の代わりにツノミームを使うな」
「手紙の件もひどすぎるじゃろう。あんな偽の手紙を送るなんて」
「それは理由がわかるけどな」
シェン君は見当がつくのかそう言った。
妾も頷く。
母上を装って出された手紙。
ヘデス王国から連れ帰った王女が体調を崩したのを隠そうとした。
ヘデス王国との関係を悪化させないためじゃろう。
やり方が杜撰なので、おそらく父上ではなく母上の宮の者が勝手にしたと思われる。
結局はバレてヘデス王国の者には悪印象になってしまったがの。
「全部、悪い方に転がってるのじゃ。母上が父上に会わなかったら、帝国に連れて行かれなかったら、子どもを産まなかったら・・・・・・」
「そしたらおまえ、生まれてないぞ」
「九番目の子なんて生まれない方がよかったんじゃ」
「なんでそうなるんだよ」
シェン君が妾を鋭い目で睨んだ。
「九番目だろうが十番目だろうが、生まれた方がいいだろ。おまえが生まれないとおれたち出会えないんだぜ」
ちょっと胸がキュッとしたんじゃが、聞き流そう。
そうしよう。
「で、でも、母上が犠牲に・・・・・・」
「そこからして間違ってるんじゃないか。おまえの母親は自分で選んで産んだと思う」
「えっ?」
「子どもを産むのは母親だろ。こういうこと言いたかないけど、死ぬほど嫌なら逃げることができたはずだぜ」
「逃げれないじゃろ」
「逃げれるよ。白竜の王女なんだから竜化したらいい」
それは、できるのか?
竜化してヘデス王国まで飛べば逃げれるかもしれぬ。
でもその後は?
戦争になったら?
母上は優しいから、そんな無責任なことできなかったはずじゃ。
「おい、勘違いするなよ。たとえ自己犠牲の精神だろうと、決断したらそれがそいつの人生になるんだ。おまえのせいなんかじゃない。何もおまえのせいじゃない。生まれたことも、呪いも、自分で選んだことじゃないことは、おまえのせいじゃない」
夜のように真っ黒な眼で、まっすぐにシェンが言った。
あまりに毅然と言われたので、妾は呼吸をするのも忘れて彼を見返していた。
「じゃ、じゃあ・・・・・・妾はどうしたらいいんじゃ?」
たくさんの人が妾を呪われた子だと蔑んでいる。
心の芯が揺れているのを感じる。
グラグラして不安定な塀の上に立っているみたいじゃ。
「最初に話した通りだろ」
「さいしょ?」
「そう。おまえの呪いを解いて、母親を元気にしたいんだろ。そうしようぜ」
「そ、そうじゃった」
「おれも手伝うからさ。それ以外のことは気にすんな。呪いが解けたらジョーのおばさんも気分良くなって仲良くしてくれるかもしれないしさ」
「うむ」
そんな簡単にはいかないとわかっていたが、妾は元気が出てきて、にっこり笑った。
シェン君がそれを見て急に横を向くと「顔パツンパツンだな」と、唐突にいじわるなことを言った。
ちょっと嬉しかったのに、なんですぐ台無しにするんじゃ!
寝起きの妾を見たミンミンが驚いて言った。
「他に言いようがあるじゃろう」
「ええっと、では、目が腫れあがったオバケみたいですね」
「・・・・・・」
そう、妾は泣きながら寝てしまった。
それで顔がパンパンになってしもうた。
でも別にいいんじゃ。
顔が腫れようが目が半開きだろうが、妾の顔なんて誰も気にしないからの。
と、思っていたがーーー。
「な、なんだよ、その顔!!」
妾の部屋にやって来たシェン君が後ずさった。
昨日の夕食も今朝の朝食にも行かなかったので心配して来てくれたのじゃ。
「き、昨日のお茶会で殴られたのか?」
とんでもない勘違いをしておる。
まあ、物理でなく心理的に殴られたようなものか。
「妾、ちょっと落ち込んでしもうた」
「お、おう・・・・・・」
ヤンヤンに冷たいタオルを渡されて顔を冷やしながら、妾は昨日あったことをかいつまんでシェン君に話した。
「ん~~、つまりジョーのおばさんは妹が病気になったのは皇帝とおまえのせいだと思ってるわけか」
「うむ」
「なんだそれ」
呆れたようにシェン君が座っていた椅子の背もたれを後ろに傾ける。
天井を見上げながら何か考えていたが、やがて椅子を戻して向かいに座る妾を見た。
「おれはアラガンの龍人族だから的外れかもしれないけどさ。帝国の竜族と違って、アラガンの王族は五才頃からツノが生えてくるんだ」
確かにシェン君には黒くて立派な二本のツノがある。
「ツノって生えてくる時、めちゃくちゃ痛いんだよ」
「? 何の話じゃ?」
「いいから聞けって。最初は頭が割れて死ぬんじゃないかってぐらい痛いわけ。血もいっぱい出て、それが何週間も続いて、しかも二本だから二倍痛いし」
「ふむ」
「しかも一気に生えるわけじゃなくて、何年もかけて伸びるから、それが年に何度も痛むんだよ。でさ、痛くて寝込んだりして、子どもだから周りのやつに泣きつくんだけど、みんな喜ぶだけでわかってもらえないんだよ」
シェン君は皮肉笑いを浮かべて誰かの真似をした。
「『素晴らしいツノでよかったですね~』『お父上も自慢でしょう』とか言ってさ。黙れっつうの」
「・・・・・・」
「王族の中でも血が濃い男しかツノは生えないから、母親ですらおれが痛くて泣いてんのに満面の笑顔なんだぜ。ツノなんか生えなくていいと何万回も思ったよ。でもさ、この痛い思いをしてるのが誰かのせいだなんておれは一度も思ったことなくて、王族に生まれたからには受け入れるべきことだと徐々に観念したんだ」
なんとなく言いたいことがわかってきた。
「おれはツノがあって自分の国ですら目立つし、浮いた存在だ。帝国でも学園のやつらには入学当初、嫌な思いもさせられた。けど、それはおれを産んだ母親のせいでも父親のせいでもないし、もちろんおれのせいでもない。そんなことでイチャモンつけてくるやつが悪い」
「イチャモン・・・・・・」
「そうだよ。ジョーのおばさんがおまえに責任転嫁してるだけだ。おまえには何の責任もないよ。まあ、話を聞く限り、皇帝にはいろいろと責任ありそうだけどさ」
それは妾もずっと疑問に思っていた。
なぜ父上は九番目の子をわざわざ産ませたのか。
呪われた子を作る必要があったとは思えぬ。
父上が母上を心底好いていて、どうしても子どもが欲しかった。
それも考えてみたが、それなら母上に面会しないのはなぜなのか。
父上なら母上が拒否しても強引に会うことができる。
だって皇帝じゃからな。
「妾、考えすぎてツノが生えそうじゃ」
頭が痛くなってきた。
「おい、頭痛の代わりにツノミームを使うな」
「手紙の件もひどすぎるじゃろう。あんな偽の手紙を送るなんて」
「それは理由がわかるけどな」
シェン君は見当がつくのかそう言った。
妾も頷く。
母上を装って出された手紙。
ヘデス王国から連れ帰った王女が体調を崩したのを隠そうとした。
ヘデス王国との関係を悪化させないためじゃろう。
やり方が杜撰なので、おそらく父上ではなく母上の宮の者が勝手にしたと思われる。
結局はバレてヘデス王国の者には悪印象になってしまったがの。
「全部、悪い方に転がってるのじゃ。母上が父上に会わなかったら、帝国に連れて行かれなかったら、子どもを産まなかったら・・・・・・」
「そしたらおまえ、生まれてないぞ」
「九番目の子なんて生まれない方がよかったんじゃ」
「なんでそうなるんだよ」
シェン君が妾を鋭い目で睨んだ。
「九番目だろうが十番目だろうが、生まれた方がいいだろ。おまえが生まれないとおれたち出会えないんだぜ」
ちょっと胸がキュッとしたんじゃが、聞き流そう。
そうしよう。
「で、でも、母上が犠牲に・・・・・・」
「そこからして間違ってるんじゃないか。おまえの母親は自分で選んで産んだと思う」
「えっ?」
「子どもを産むのは母親だろ。こういうこと言いたかないけど、死ぬほど嫌なら逃げることができたはずだぜ」
「逃げれないじゃろ」
「逃げれるよ。白竜の王女なんだから竜化したらいい」
それは、できるのか?
竜化してヘデス王国まで飛べば逃げれるかもしれぬ。
でもその後は?
戦争になったら?
母上は優しいから、そんな無責任なことできなかったはずじゃ。
「おい、勘違いするなよ。たとえ自己犠牲の精神だろうと、決断したらそれがそいつの人生になるんだ。おまえのせいなんかじゃない。何もおまえのせいじゃない。生まれたことも、呪いも、自分で選んだことじゃないことは、おまえのせいじゃない」
夜のように真っ黒な眼で、まっすぐにシェンが言った。
あまりに毅然と言われたので、妾は呼吸をするのも忘れて彼を見返していた。
「じゃ、じゃあ・・・・・・妾はどうしたらいいんじゃ?」
たくさんの人が妾を呪われた子だと蔑んでいる。
心の芯が揺れているのを感じる。
グラグラして不安定な塀の上に立っているみたいじゃ。
「最初に話した通りだろ」
「さいしょ?」
「そう。おまえの呪いを解いて、母親を元気にしたいんだろ。そうしようぜ」
「そ、そうじゃった」
「おれも手伝うからさ。それ以外のことは気にすんな。呪いが解けたらジョーのおばさんも気分良くなって仲良くしてくれるかもしれないしさ」
「うむ」
そんな簡単にはいかないとわかっていたが、妾は元気が出てきて、にっこり笑った。
シェン君がそれを見て急に横を向くと「顔パツンパツンだな」と、唐突にいじわるなことを言った。
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