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雪国でハリネズミになる part2

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 頭の中で色々な言葉が一瞬にして飛びった。
『母上は元気です』
『母上の具合は悪くなる一方です』
『母上とはあまり会っていませんからわかりません』
『母上は・・・・・・』

「母上は、この度の休暇の旅行に喜んで送り出してくれました」

 妾は・・・・・・嘘をついた。

「そうか」

 ヘデス王の灰色の目を妾をしっかりと見返していた。
 やはり何を考えているのかわからぬ表情をしている。
 王はそれ以上訊かなかった。
 今度はジョーに視線を向ける。

「ジュリア、良き友ができたな。色々と案内して差し上げるのだぞ」
「はい、伯父様おじさま
「それでいつまでの滞在の予定だ?」
「お二人にはわたくしの家で一週間過ごしていただきます。天候が良ければ遠出もできるでしょう」
「そうだな。くれぐれも安全には気を配るんだぞ」
「はい」

 ジョーが立ち上がり、妾とシェン君を振り返った。
 ヘデス王に退出の挨拶をして、来た時同様ぞろぞろと出て行く。
 しかし、妾の背中をヘデス王が呼び止めた。

「バーミリオン姫。一つ聞き忘れていたがーーー」
「はい、何でしょう?」

 足を止めて振り返る。
 嫌な予感がした。
 またあの冷たい曇り空のような灰色の瞳にさらされる。

「呪いについて貴殿の父君は何らかの対処を見つけたのか?」
「・・・・・・」

 なぜ今ここでその話をするのか、主旨がわからなかった。
 それにドラゴニア皇帝陛下のことを、軽々しく『貴殿の父君』などと言い換えたことに、妾ははっきりとした意図を感じ取った。
 謁見の間は静まり返っていた。
 ヘデス王と妾の間にピント張り詰めた糸が見える。

「閣下」

 妾の声は自分でも驚くほど冷ややかだった。

「父上は妾の身に巣食う恐ろしい呪いを何度となく打ち払おうとしてきました。けれど、これは玉座に染みついた血のように簡単には洗い流せないようです。古来の呪術は年月と共に複雑化していきます。ただ、帝国の魔術師たちは大陸中から集められた精鋭ばかり。彼らによって少しずつ絡まった糸も解けています。妾が鳥籠から出ることを父上が許した理由を、閣下ならご推察できることと思います」

 語り終えると、妾は口をキュッと閉じた。
 もう何も話す気にはなれない。

あいわかった」

 王の返答にきびすを返すと、妾はまじまじとこちらを見ているジョーを見返した。
 ジョーが慌てて廊下へと歩き出す。
 シェン君も重苦しそうな顔をしていた。
 妾は二人の後について行きながら、手首のブレスレットに触れた。
 友だちの家に遊びに来たなんて浮かれていた気持ちは吹き飛んでいた。
 呪いを解くためにここに来たことを、妾は痛烈に思い出していた。
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