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雪国でハリネズミになる part1
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ヤンヤンにしこたま叱られた妾は、せっかく手に入れた最新刊を没収されてしまった。
わかっておる。
妾が悪い・・・・・・。
読み耽ってしまって寝坊したからの。
本は計画的に! と思っても誘惑に負けてしまうのじゃ~。
開いたが最後、やめられない止まらない。
眠いままフェニックスとアカネに「じゃあ、またの~」と軽く挨拶して別れると、妾たちは馬車に乗り込み、ヘデス王国へと出発した。
向かうはジョーの実家。
そして、妾の母上の暮らしていた王城じゃ。
端的に説明しておこう。
妾の母上、マシロ・ヘデス・ドラゴニアはヘデス王国の第三王女だった。
でもって、ジョーことジュリア・ウエストウッドの母親がマシロの姉。
つまり、ジョーと妾の母親同士は姉妹なのじゃ。
ジョーと妾は従姉妹にあたる。
見た目はまったく違うので、親戚には見えないかもしれぬが。
妾は真紅の髪と目をしておるが、ジョーは薄いグレーの髪と目、それに肌も雪のように白い。
ヘデス王国の者は白竜の血が濃いといわれておるから、そのせいじゃろう。
妾の母上も肌と髪が真っ白で、瞳はガラスのように透き通っておる。
本当に美しいのじゃ。
父上が見染めたのも当然だと思う。
まあ、そのせいで母上の親戚筋には嫌われておるがの。
皇帝の九番目の子どもが呪われると知っていて、子どもを産ませたと、ヘデス王家は激おこなのじゃ。
妾ももれなく嫌われておるらしい。
しょんぼりじゃ・・・・・・。
そんなヘデス王家の方々に会いに行くのじゃから、妾は気を引き締めなければならぬ。
帝国に戻ったら母上にもご家族の近況をお伝えしたいからの。
「なんとかなるのじゃ」
馬車に揺られて半分寝ぼけたまま呟くと、向かいでジョーが「なにがよ?」と聞いてきた。
「アレやコレやの問題が」
ぼんやりしつつ答える。
「・・・・・・そうね。今考えたって仕方ないわよ。起こってから考えましょう。わたし、いつもそうしてるわ」
確かにジョーは事件が起こってから思考を始めるタイプかもしれぬ。
そして、妾の隣ではミンミンが爆睡していた。
なんでも、昨日はジョーと同じ部屋に泊まったが、誰かさんの歯軋りがひどくて眠れなかったらしい。
ジョーは「そんなこと知らないわよ!」と言っておったが。
気の毒なので寝かせておくのじゃ。
「あなたも少し寝たら? 眠いんでしょ?」
「うむ」
せっかくなので妾もゆっくりと目を閉じた。
雪の街道を馬車がガタゴトと揺れながら進んで行く。
ヘデス王国までは半日以上かかる。
雇われの御者の調子っぱずれの鼻歌がかすかに聞こえる中、眠りについた。
肩を揺すられて目覚めると、ミンミンが妾の髪を丁寧に梳っていた。
鼈甲の櫛を手に、顔を覗き込んでくる。
「着きましたよ、ひめ様。しゃんとしてくださいね。これから挨拶ですよ」
どうやらヘデス王国どころか、中央の王都に着いていたらしい。
停止した馬車の窓から外を見たかったが、ミンミンに首を戻され、口に香料の入った紅を塗られた。
よく見ると、ジョーの服装も裾がふんわりした正装のドレスに変わっている。
馬車の中で準備を済ますと、ミンミンに端から端までチェックされた。
「完璧です!」
やり遂げて満足げなミンミンと共に馬車を降りる。
外はすでに夕暮れ時で、王都を囲う城壁の中だった。
起きたばかりで気づかなかったが、馬車の周囲に人だかりができている。
見たことのない軍服の兵士たちと、甲冑を着用した騎士、それに王家の紋章の入ったローブ姿の者たち。
魔術師かの?
妾が馬車から出てくると、まず近づいてきたのは護衛の騎士シュミットだった。
後ろにクラウゼンを連れている。
「バーミリオン殿下、お疲れ様でした。お身体はいかがですか?」
「うむ。休んでおったから大丈夫じゃ」
シュミットとクラウゼンだけが妾の宮の騎士服である濃い燕脂色のサーコートなので周囲からは目立っていた。
「まずは王城でヘデス王に謁見することになります。あちらの方々が案内人らしく、殿下にご挨拶を申し上げたいと来ております。いかがいたしますか?」
「うむ。連れてきて良い」
シュミットが一礼して下がると、後ろから声がかかった。
「ミリィ、ようやく起きたか?」
シェン君じゃ。
振り返った妾はその服装を見て「おお」と感嘆した。
アラガンの正装をしたシェン君は紺色の袴姿だった。
冬用の綿の入った厚い羽織りで少しモコモコしている。
「良いのぉ! 妾も着てみたいのじゃ」
「これは男性用だから、ミリィは着物がいいんじゃないか?」
「ああ、そういえばアラガンの着物は色も模様も素敵じゃな」
王宮のパーティーで何度か見かけたが、華やかでみんなの目を惹いていた。
着るのが大変そうじゃが、今度シェン君に教えてもらおう。
そこに、シュミットが案内人を連れて戻って来たので、妾たちはぞろぞろと王城の中へ歩いて行った。
長い廊下を進みながら周りを見回す。
帝国の王宮とはまったく違った意匠の城だった。
床には乾きやすいようにかゴワゴワした硬い絨毯が敷かれ、歩くとザクザクと音が鳴った。
それに柱や壁に一切の装飾がない。
帝国の華美で豪奢な雰囲気とは真逆で、余計なものを取り払ったすっきりとした様相だった。
素朴というか、質素というか。
それとなくこの城の主の性格が見て取れる。
父上と合わなそう・・・・・・。
眩いばかりに黄金色に光り輝く玉座に腰かけたドラゴニア皇帝を思い出してしまった。
謁見の間の両開きの扉はすでに開いていた。
妾たちが入って行くと、部屋の奥の数段高いだけの場所に短髪の男性が座っていた。
玉座というには簡素で木材を削り出したままのような椅子じゃ。
そこに座る人物も灰色と黒の動きやすそうな軍服を着ていた。
玉座に座っていなければ王とは思わなかっただろう。
真っ白な髪だが、歳は妾の父上よりも若く見える。
三十代か四十そこそこといったところじゃ。
「陛下、客人がお着きになりました」
妾たちを先導してきた案内人が告げると、ヘデス王が全員を順に見た。
ジョーがまず跪き、シェン君がその後ろで同じく片膝をついた。
妾は二人とは違い突っ立ったままヘデス王を見返す。
「バーミリオン」
隣からシェン君が小声で促してきたが、妾は聞こえなかったふりをした。
ヘデス王国はドラゴニア帝国の属国だ。
一国の王と、皇女ではさすがに立場に差があると思う者もいるじゃろうが、そこは外交の目的によって異なってくる。
妾がヘデス王国を訪ねることを皇帝である父上が許可したのなら、今は妾が父上の代理も兼ねているということなのじゃ。
不敬だと騒ぐようならそのことを説明するだけじゃ。
そう思っておると、ヘデス王が玉座から立ち上がった。
妾の方へ歩み寄ってくる。
「よく来た。帝国の若き炎、バーミリオン姫」
にこりともせず、ヘデス王が妾を正面から見下ろす。
手を差し出すわけでもなく、灰色の目には何の感情も見えなかった。
「初にお目にかかります、閣下。バーミリオンとお呼びください」
服の裾をそっと摘んで軽くお辞儀する。
あえて陛下と呼ばなかったのは、そう呼ぶ相手が父上だけだからじゃ。
しかし、間近で相対するとヘデス王は目元が母上に似ていた。
涼しげな切長の目をしている。
ヘデス王はじっと妾を観察するように見た後、シェン君に視線を移した。
「アラガンの王子も遠いところからよく来られた。名はなんと言う」
シェン君が顔を落としたまま答える。
「アラガンの神龍、ダイナムの二の息子シェン・ウーイェと申します。お見知り置きを」
ヘデス王はそれだけ聞くと背を向けて玉座に戻った。
妾たちにあまり興味がないように見える。
しかし、玉座に掛けるなり、王は妾に言った。
「バーミリオン。我が妹マシロは元気か?」
「・・・・・・」
一瞬、時間が止まったように妾は硬直した。
王の灰色の瞳は鋭く、この国のように凍てついていた。
わかっておる。
妾が悪い・・・・・・。
読み耽ってしまって寝坊したからの。
本は計画的に! と思っても誘惑に負けてしまうのじゃ~。
開いたが最後、やめられない止まらない。
眠いままフェニックスとアカネに「じゃあ、またの~」と軽く挨拶して別れると、妾たちは馬車に乗り込み、ヘデス王国へと出発した。
向かうはジョーの実家。
そして、妾の母上の暮らしていた王城じゃ。
端的に説明しておこう。
妾の母上、マシロ・ヘデス・ドラゴニアはヘデス王国の第三王女だった。
でもって、ジョーことジュリア・ウエストウッドの母親がマシロの姉。
つまり、ジョーと妾の母親同士は姉妹なのじゃ。
ジョーと妾は従姉妹にあたる。
見た目はまったく違うので、親戚には見えないかもしれぬが。
妾は真紅の髪と目をしておるが、ジョーは薄いグレーの髪と目、それに肌も雪のように白い。
ヘデス王国の者は白竜の血が濃いといわれておるから、そのせいじゃろう。
妾の母上も肌と髪が真っ白で、瞳はガラスのように透き通っておる。
本当に美しいのじゃ。
父上が見染めたのも当然だと思う。
まあ、そのせいで母上の親戚筋には嫌われておるがの。
皇帝の九番目の子どもが呪われると知っていて、子どもを産ませたと、ヘデス王家は激おこなのじゃ。
妾ももれなく嫌われておるらしい。
しょんぼりじゃ・・・・・・。
そんなヘデス王家の方々に会いに行くのじゃから、妾は気を引き締めなければならぬ。
帝国に戻ったら母上にもご家族の近況をお伝えしたいからの。
「なんとかなるのじゃ」
馬車に揺られて半分寝ぼけたまま呟くと、向かいでジョーが「なにがよ?」と聞いてきた。
「アレやコレやの問題が」
ぼんやりしつつ答える。
「・・・・・・そうね。今考えたって仕方ないわよ。起こってから考えましょう。わたし、いつもそうしてるわ」
確かにジョーは事件が起こってから思考を始めるタイプかもしれぬ。
そして、妾の隣ではミンミンが爆睡していた。
なんでも、昨日はジョーと同じ部屋に泊まったが、誰かさんの歯軋りがひどくて眠れなかったらしい。
ジョーは「そんなこと知らないわよ!」と言っておったが。
気の毒なので寝かせておくのじゃ。
「あなたも少し寝たら? 眠いんでしょ?」
「うむ」
せっかくなので妾もゆっくりと目を閉じた。
雪の街道を馬車がガタゴトと揺れながら進んで行く。
ヘデス王国までは半日以上かかる。
雇われの御者の調子っぱずれの鼻歌がかすかに聞こえる中、眠りについた。
肩を揺すられて目覚めると、ミンミンが妾の髪を丁寧に梳っていた。
鼈甲の櫛を手に、顔を覗き込んでくる。
「着きましたよ、ひめ様。しゃんとしてくださいね。これから挨拶ですよ」
どうやらヘデス王国どころか、中央の王都に着いていたらしい。
停止した馬車の窓から外を見たかったが、ミンミンに首を戻され、口に香料の入った紅を塗られた。
よく見ると、ジョーの服装も裾がふんわりした正装のドレスに変わっている。
馬車の中で準備を済ますと、ミンミンに端から端までチェックされた。
「完璧です!」
やり遂げて満足げなミンミンと共に馬車を降りる。
外はすでに夕暮れ時で、王都を囲う城壁の中だった。
起きたばかりで気づかなかったが、馬車の周囲に人だかりができている。
見たことのない軍服の兵士たちと、甲冑を着用した騎士、それに王家の紋章の入ったローブ姿の者たち。
魔術師かの?
妾が馬車から出てくると、まず近づいてきたのは護衛の騎士シュミットだった。
後ろにクラウゼンを連れている。
「バーミリオン殿下、お疲れ様でした。お身体はいかがですか?」
「うむ。休んでおったから大丈夫じゃ」
シュミットとクラウゼンだけが妾の宮の騎士服である濃い燕脂色のサーコートなので周囲からは目立っていた。
「まずは王城でヘデス王に謁見することになります。あちらの方々が案内人らしく、殿下にご挨拶を申し上げたいと来ております。いかがいたしますか?」
「うむ。連れてきて良い」
シュミットが一礼して下がると、後ろから声がかかった。
「ミリィ、ようやく起きたか?」
シェン君じゃ。
振り返った妾はその服装を見て「おお」と感嘆した。
アラガンの正装をしたシェン君は紺色の袴姿だった。
冬用の綿の入った厚い羽織りで少しモコモコしている。
「良いのぉ! 妾も着てみたいのじゃ」
「これは男性用だから、ミリィは着物がいいんじゃないか?」
「ああ、そういえばアラガンの着物は色も模様も素敵じゃな」
王宮のパーティーで何度か見かけたが、華やかでみんなの目を惹いていた。
着るのが大変そうじゃが、今度シェン君に教えてもらおう。
そこに、シュミットが案内人を連れて戻って来たので、妾たちはぞろぞろと王城の中へ歩いて行った。
長い廊下を進みながら周りを見回す。
帝国の王宮とはまったく違った意匠の城だった。
床には乾きやすいようにかゴワゴワした硬い絨毯が敷かれ、歩くとザクザクと音が鳴った。
それに柱や壁に一切の装飾がない。
帝国の華美で豪奢な雰囲気とは真逆で、余計なものを取り払ったすっきりとした様相だった。
素朴というか、質素というか。
それとなくこの城の主の性格が見て取れる。
父上と合わなそう・・・・・・。
眩いばかりに黄金色に光り輝く玉座に腰かけたドラゴニア皇帝を思い出してしまった。
謁見の間の両開きの扉はすでに開いていた。
妾たちが入って行くと、部屋の奥の数段高いだけの場所に短髪の男性が座っていた。
玉座というには簡素で木材を削り出したままのような椅子じゃ。
そこに座る人物も灰色と黒の動きやすそうな軍服を着ていた。
玉座に座っていなければ王とは思わなかっただろう。
真っ白な髪だが、歳は妾の父上よりも若く見える。
三十代か四十そこそこといったところじゃ。
「陛下、客人がお着きになりました」
妾たちを先導してきた案内人が告げると、ヘデス王が全員を順に見た。
ジョーがまず跪き、シェン君がその後ろで同じく片膝をついた。
妾は二人とは違い突っ立ったままヘデス王を見返す。
「バーミリオン」
隣からシェン君が小声で促してきたが、妾は聞こえなかったふりをした。
ヘデス王国はドラゴニア帝国の属国だ。
一国の王と、皇女ではさすがに立場に差があると思う者もいるじゃろうが、そこは外交の目的によって異なってくる。
妾がヘデス王国を訪ねることを皇帝である父上が許可したのなら、今は妾が父上の代理も兼ねているということなのじゃ。
不敬だと騒ぐようならそのことを説明するだけじゃ。
そう思っておると、ヘデス王が玉座から立ち上がった。
妾の方へ歩み寄ってくる。
「よく来た。帝国の若き炎、バーミリオン姫」
にこりともせず、ヘデス王が妾を正面から見下ろす。
手を差し出すわけでもなく、灰色の目には何の感情も見えなかった。
「初にお目にかかります、閣下。バーミリオンとお呼びください」
服の裾をそっと摘んで軽くお辞儀する。
あえて陛下と呼ばなかったのは、そう呼ぶ相手が父上だけだからじゃ。
しかし、間近で相対するとヘデス王は目元が母上に似ていた。
涼しげな切長の目をしている。
ヘデス王はじっと妾を観察するように見た後、シェン君に視線を移した。
「アラガンの王子も遠いところからよく来られた。名はなんと言う」
シェン君が顔を落としたまま答える。
「アラガンの神龍、ダイナムの二の息子シェン・ウーイェと申します。お見知り置きを」
ヘデス王はそれだけ聞くと背を向けて玉座に戻った。
妾たちにあまり興味がないように見える。
しかし、玉座に掛けるなり、王は妾に言った。
「バーミリオン。我が妹マシロは元気か?」
「・・・・・・」
一瞬、時間が止まったように妾は硬直した。
王の灰色の瞳は鋭く、この国のように凍てついていた。
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