不吉な九番目の子だろうと、妾が次代のドラゴニア皇帝に決まっておろう!

スズキヒサシ

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会議は踊る、あらぬ方へ

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 学園に戻った妾は翌日からまた通常授業に戻っていた。
 芋掘り大会は王宮行事なので公務になっている。
 欠席扱いにはならないらしい。
 久しぶりに宮に戻ってリフレッシュもできたことだし、妾は元気いっぱいじゃ。
 ただし呪いの問題が前より頭を占めている。
 授業中も、早く放課後にならないかと、そわそわしてしもうた。

いているのはわかったから、落ち着いてくれ」

 何度目かわからぬがシェン君が呆れた顔で言った。

「わかっておる!」
「いや、わかってないだろ。どう見ても」

 妾の手には部室の鍵。
 足はすこぶる絶好調の競歩の選手並みに進んでいる。
 廊下は走っちゃダメらしいからな。
 放課後になったので、部室でポーキュリと会長のシルマリア・アレイスターと話さねばならぬ。
 そしてなぜか妾とシェン君を追ってくる女生徒。
 そう、新しく入部したジュリア・ウエストウッドじゃ。
 彼女は妾の従姉妹で、呪いを解く手助けをしてくれるというので仲間になった。
 ちなみに、シェン君は友だちじゃが、ジョーは部活仲間で友だちではないというのが妾の認識なのじゃ。
 ジョーというのはジュリアのあだ名で、彼女がそう呼んでと言うのでホラ研では、みなそう呼ぶことになった。

「そんなに急いだって会長も副会長もまだ来てないわよ、きっと」

 早歩きの妾について来るジョーがぶつくさ言うので、振り返って言い返した。
 もちろん足は止めない。

「今日は早く来てるかもしれぬぞ」
「たまにそういうこともあるけど、そんなに急ぐなんて何の用なのよ」

 そこで妾はハッとした。
 ジョーにはまだ図書館でのことを話していなかった。
 シェン君には休憩時間にささっと話しておいたが、ジョーは別のクラスなので忘れていた。

「呪いについて新たなことがわかったのじゃ」
「何ですって!? それを先に言いなさいよ」

 突如、ジョーが妾を追い抜いた。
 廊下は走っちゃダメなのに、あっという間に部室棟のある体育館へ走って行く。

「おい、ジョー!」

 シェン君の声も聞こえないのか、さっさと行ってしまった。

「鍵は妾が持っているのに、せっかちな従姉妹じゃ」

 呟く妾に、隣からシェン君がため息をついた。

「血筋か?」
「どう言う意味じゃ」

 案の定、妾たちが部室へ着くとジョーがドアの前でヤキモキしながら立っていた。

「遅いじゃないの」
「いや、走っちゃダメじゃろ」
「そうだよ。先生に見つかったら怒られるぞ」

 妾とシェン君を順に見て、ジョーは腰に手を当てたまま、フンと鼻息を荒くした。

「怒られるぐらい何よ! マシロ様のためなら平気だわ。あなたこそもっと強い決意と使命感を持つべきよ」

 ジョーがなぜ会ったこともない母上にここまで心酔しているのか聞いてみたが、自分の母ーーーつまりマシロの姉ーーーが妹を溺愛していて娘に色々吹き込んでいたのがわかった。
 母上が皇帝に見初められて王宮に連れて行かれたことを、とんでもない悪事だと思っているらしい。
 まあ、初っ端のジョーとの出会いを思い出すと、ヘデス家の人たちがどう噂しているかは明白じゃ。
 妾はこの厄介な問題を棚上げすることにして、ジョーの放つ父上や皇帝一族への恨みはしばしの間、適当に流すことにした。
 ふむふむ、そうだねそうだね、と頷いておけば、ジョーもすぐに落ち着いて静かになるからの。
 妾ってば大人!


 部室へ入って半刻。
 ようやく会長がやって来た。
 副会長のポーキュリも一緒じゃ。
 都合の良いことに、ポーキュリは簡単にことの次第を会長に話しておいてくれたらしい。
 集まった五人が部屋の中央に置いたテーブルを囲んで座っている。
 妾はシェン君とジョーに挟まれておる。
 会議の始まりじゃ。

「それで、君の呪いを解くためにわたしも協力するわけだが」

 会長のシルマリアはまじまじと妾を見た。

「君に覚悟はあるのかな?」
「もちろんです!」
「君じゃない」

 なぜか力強く返答したのはジョーだった。
 苦笑するシェン君と妾に、ジョーが不満そうに顔をしかめる。

「もちろん妾も大変なことはわかっておる」

 妾は真面目に話し出した。

「図書館の禁書に書かれていたことが本当なら、呪いの発生元は異界にあるのじゃからな」
「でも、それって本当かなぁ?」

 ジョーの疑問にシェン君も頷く。

「確かに異界なんて伝説とか伝承のたぐいだからな」

 二人は胡散臭いと言いたげだ。
 黙っていたポーキュリが、ぽそりと「異界はあるよ」と呟いた。

「ぼく、異界の入り口を見たことがあるんだ」
「ええっ!?」
「本当ですか?」

 ジョーとシェン君が驚いているが、妾はまったく驚かなかった。
 なぜなら、呪いが存在するからだ。
 呪いも見たことがない人の間では、疑念を持って捉えられている。
 誰よりも呪いの存在を理解している妾は、異界の存在も納得して受け入れられる。
 禁書を読んで、今まで解けなかった問題の糸口を見つけたからには、絶対に食らいつくと決めたのじゃ。
 ポーキュリが説明する。

「古い建物や死者が眠る場所には、異界と繋がる入り口があることがあるんだ。ぼくはたくさんの廃墟を巡って来たから何度か目撃したんだよ」
「死者が眠る場所って・・・・・・」
「すげぇ」

 妾は三人が異界の話で盛り上がる中、少し怖くなっていた。
 本当に入り口があるとして、妾は異界に行って、呪いをかけたという吸血蛾に会って、どうすればいいんじゃ?
 闘う? 話し合う?
 どちらもかなり難易度が高くないか?
 そのとき、会長がひたと妾を見据えて言った。

「バーミリオン、ひとまず君がやるべきことは一つしかない」

 嫌な予感・・・・・・。

「今ここで、呪いを発動するんだ」

 やっぱり~~~!

「禁書の内容が正しいなら、君が呪いを発動したとき吸い取った魔力は異界に流れるはず。わたしとポーキュリならその流れを突き止めることができるかもしれない」

 妾は大真面目な会長と、いつもの無表情なままのポーキュリ、そして心配げなシェン君と、なぜか目をぎらつかせて「早くやりなさいよ」と心の声が漏れまくっているジョーに囲まれて、小さくうなだれるしかなかった。
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