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王宮図書館にて

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 王宮図書館。
 そこは、このだだっ広い帝国の中でも許されし者だけが入館できる特別な図書館じゃ。
 数多あまたある図書館の中でも秘宝とされる古書や貴重な資料が集められた至高の館。
 もちろん国立魔導学園にも図書館はあるが、学問に特化しているので、この王宮図書館とはおもむきが異なる。
 王宮図書館には一般の帝国民がおいそれと閲覧できない本が収められているのじゃ。
 皇帝になった者だけが入れる書庫もあるらしい。
 妾はまだそこには入れぬが、もちろんいずれはそこで秘密の本を読むつもりじゃ。
 前にも書いたが、妾はこれでも読書家なのでな。
 知識欲というのは、我ら竜族の特性でもある。
 まだ知らぬこと、誰も知り得ぬことを知りたいと思うのは大事なことじゃ。

 さて、妾は静まり返った図書館に見事侵入した。
 手には畑の泥がついたブーツを持ち、裸足でメインホールに入ると、圧巻とも思えるほどの本棚に迎えられる。
 四階建ての吹き抜けのホールの壁一面に並ぶ本。
 そして迷路のように入り組んで立つ背の高い棚! 棚! 棚!
 すべてにぎっしりと本が詰まっておる。
 妾は勝手知ったる道順で目当ての場所に向かう。
 王宮図書館は、学園に通うようになるまでの孤独ボッチな妾にとってなくてはならない場所の一つだった。
 どこにどの本が置かれているか、分類場所をしっかりと把握しておる。
 当然ながら今日は受付のカウンターにも人はいなかった。
 開館日なら常時三人は司書がいるが、休館日じゃからな。
 明かりは付いていなかったし、本を日焼けから守るための黒い緞帳どんちょうのようなカーテンも下りていて館内は薄暗い。
 妾は視界を赤外線視に切り替えた。

 ふむ。確かこの辺りに・・・・・・。

 呪いについての本は魔術に分類されているはずじゃ。
 実際には呪いが魔術なのかはわからない。
 呪いとは、解明できていない現象を指すことが多い。
 妾にかかっている〝皇帝の九番目の子の呪い”についても、解くことができないのは、それが何なのか誰にもわからないからなのじゃ。

 妾は壁際の首が痛くなるほど見上げても、まだまだ上に続いている本棚の前に立った。
 古めかしい変色した背表紙の本がぎゅっと詰まっておる。
 ほとんどの本の背表紙には文字がなく、一目見て何の本なのか判別することは不可能だ。

「うぐぐ。これは時間がかかりそうじゃな」

 覚悟はしていたが、芋掘り大会の終了までに帰れるじゃろうか?
 まあ、最悪帰れなかったとしても、ヤンヤンとミンミンと鬼のような侍女頭のセレスティに泣くほど叱られるだけじゃ。

 未来を思い描き憂鬱な気分になりながら、妾は本を引っ張り出して探し始めた。

『魔術となかよくなる本』
『一億人のための魔術』
『心が整う魔導の世界』
『実践、竜族の役立つ魔術』
『武器になる魔術』

 なんか違うのじゃ。
 棚を移動する。

『禁止された魔術で消えた町』
『異国の魔術』
『一冊でわかる世界の魔術史』
『大陸の偉人』

 違うのぉ。
 隣の棚に移動。

『魔術的戦略思考』
『魔術脳の作り方』
『起業したい! 魔術で儲ける方法』

 う、ううむ。
 これは・・・・・・。
 興味深い。
 思わず本を開いてしまった。

「やはり魔術は金になるのぉ」

 帝国の竜族がみな魔術を使えるかというと、実際には魔力量や生まれ持った資質によってそれぞれ異なる。
 あとは質の良い教師について学べるかも大きな差になってくる。
 ドラゴニア帝国では貧民でも学校には通える。
 偉大なる先代のそのまた先代の皇帝が帝国民全員の識字率を上げ、義務教育を発布したからじゃ。
 でも悲しいかな全員が学校に通えているかというと、そうでもない。
 家が貧しいと子供でも働かなくてはならなかったりするからの。
 とはいえ、竜族であれば誰かに習わなくても多少の魔術は使えるようになる。
 特性によるが、火属性なら明かりをつけたり、風属性なら洗濯物を乾かしたり。
 当然みな、それを使って仕事をしている。
 だから魔術は金に直結しておるのじゃ。

 ちなみに妾は火属性の魔術を使えるが、同様に風の魔術もちょっと使える。
 火と風は六大魔術では縁が深い関係にあるかららしい。
 まあ、そこら辺は魔術理論の話なので今は省くとしよう。
 妾は火属性の魔術でお勧めの職業を読み漁った。
 起業するならレストランがいいかもしれぬ。
 美味しいものをたくさん食べられるからの。
 一章読み終わった妾は満足して本を閉じた。
 そこでハッとする。

 そうじゃった!
 呪いの本!

 慌てて本棚に飛びつき、次々と引っ張り出すが、呪いについての本はほとんど見当たらなかった。
 多少あったものの、役には立たなさそうじゃ。

『呪いという病』
『呪われたかな? と思ったら読む本』
『呪われないための人間関係』

 あまり深刻さを感じない本ばかりでタイトルだけで読む気が失せるのじゃ。
 それでも何冊か手に取って読んでみた。

「呪いとは・・・・・・ストレスが原因となっていることが多いので、まずは病院に行ってみましょう。だと!? 医者が治せたらこちとら苦労してないのじゃ!」

 次の本、次の本。

「呪われたかな? と思っても大丈夫。まずは深呼吸しましょう。悪夢を見ても、それは現実ではありません。つまり呪いはあなたの気のせいです・・・・・・ふざけとるのか?」

 イライラしてきた妾はいつもなら絶対にしないが本を放り出した。
 次の本を手に取る。
 しかし、タイトルだけで全身の力が抜けてしまった。

『呪いの九割は嘘!』

 嘘ならどれだけ良かったか。
 涙がちょちょ切れそうじゃ。
 まともな呪いについての本などないではないか。
 まったく魔術研究者たちは何をしておるのか。
 腹立たしく思いながら本を棚に戻していく。
 そこでふと思い出した。
 副会長はこう言ってなかったか?

「その呪いは古代の契約に基づくものだろう。契約を解除すれば君は呪われた子じゃなくなる」

 とかなんとか。
 さらにーーー。

「ぼくは君のことをよく知っているんだ。王宮図書館の禁書を読んだからね」

 とか言っていたような・・・・・・。
 つまり、妾が読むべき本はここメインホールの物ではなく、禁帯出の書庫の本ということになる。
 妾は床に置いていたブーツを再び手に取ると、ペタペタと裸足でカウンターに戻って行った。
 書庫の鍵があれば入れるはずじゃ。
 しかし、本棚の間からカウンターの前へと出て行くと、なんとそこには人影があった。

「なぜここにいるの? バーミリオン」

 妾と似た鮮やかな炎の色をした瞳がこちらをじろりと見据えた。
 いるはずがない人物に妾は息を呑んだ。
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