上 下
28 / 70

消えない灰色の雪のように

しおりを挟む
 ショックで固まってしまった妾の代わりにシェン君が言い返した。

「おい、おまえ何言ってんだよ」
「関係ない人は黙ってて」

 女生徒が妾をまっすぐに指差す。

「あなたのせいでマシロ様は一生治らないって聞いたわ。快活な方だったのに。わたしの母さんが言ってたんだから。皇帝の四番目の妻にされたとき、すでに八人の子がいて、側妃として子を産むなら絶対に産まれるのは九番目だったって。それって、呪われた子をわざとマシロ様に産ませたってことじゃない」
「わ、妾は・・・・・・」

 呪いたくて母上を呪ったわけではない、と言おうとしたが声が詰まってしまった。

「しかも、あなたがお腹の中にいた時から呪いが始まっていたんでしょ。何度も呪われたせいでマシロ様は起き上がることも難しいそうじゃない。ヘデスの家の者はみんなあなたのこと認めてないから」

 頭が真っ白じゃ。
 恐ろしくて手が震えてきた。

「あなたなんかヘデスを名乗る資格ないわ」

 一方的な女生徒の怒りに返す言葉もない。

「もうやめろって! 出てけ!」

 シェン君が妾の前に立ち塞がり、女生徒を廊下の方へ強引に押し出した。

「ちょ、痛いじゃない!」
「さっさと出てけ!」

 二人が怒鳴り合っているのを妾は止めた。

「ま、待つのじゃ」

 ようやく声が出たけれど震えていた。

「その通りなのじゃ。妾のせいで、母上は病気になってしもうた」
「ミリィ・・・・・・」

 シェン君が振り返った。
 女生徒もきつい眼差しで見ている。

「母上は体調が良くないから、妾は滅多に会うことができないけれど、会うといつも優しくしてくれるのじゃ。妾のせいなのに・・・・・・。申し訳ない思いでいっぱいじゃ。でも、わ、妾は母上が・・・・・・大好きなのじゃ」

 なんとか言えたものの、ぽろぽろ涙が溢れてきた。

「ちょ、ちょっと、泣かないでよ」
「母上が治るのなら何でもするが、どうしたら良いのか妾にはわからぬ。呪いを解けば母上が治るかもしれぬ。だから、妾はここでがんばってみようと思おておる」

 ここは呪術同好会じゃ。
 妾にかかっている皇帝の九番目の子の呪いがなぜかけられたのか、どうすれば解けるのか、探す手掛かりが得られるかもしれない。
 女生徒も気づいたように部屋を見回した。

「それでここに・・・・・・」

 妾が泣いてしまったからか、部屋が不気味だったからかわからぬが、女生徒は気が削がれた様子で帰って行った。

「大丈夫か、ミリィ?」
「わ、妾は平気じゃ。こんなのへっちゃらじゃ」

 シェン君が心配そうにしておるが、妾は涙を拭いて笑い返した。

「ミリィ・・・・・・」
「宮でも同じようなことを言う者はいたからの。慣れておる」

 それでもシェン君は眉毛がへんにょりしてしまっている。
 妾は明るい調子でシェン君を促した。

「さてと、今日はもう帰ろうかの。妾、ちょっと客が多くて疲れてしもうた」
「・・・・・・ああ」


 メディア寮に戻ると、ヤンヤンが落ち込んでいる妾に気づいてしまった。

「まあ、どうしたのです? ひめ様」
「何でもないのじゃ」

 ヤンヤンに話すと事が大きくなってしまうかもしれぬ。
 それはダメじゃ。
 あの子が言ったことは何も間違ってないからの。
 妾は母上のために一刻も早く呪いを解きたいという気持ちをさらに大きくしたのじゃ。


 翌日の放課後、呪術同好会につくと、ドアの前に従姉妹が待っていた。

「おまえ、懲りもせずまた・・・・・・」

 シェン君が妾を庇うように前に出る。

「バーミリオン!」

 女生徒がシェン君の後ろの妾に声をかけてくる。

「わたし決めたわ!」
「な、何をじゃ?」
「わたしもマシロ様のために、あなたに協力してあげるわ」
「・・・・・・えっ?」
「わたし、ジュリア・ウエストウッドは呪術同好会に入ってあなたの呪いを解くことにしたわ」
「えええええッッ!?」

 な、なんでそうなるんじゃ?
 この子、昨日まで妾を憎んでたはずじゃないのか?
 さっぱりわからぬが、「ふふん」と鼻息荒く不敵な笑みを浮かべておる。

「ええっと・・・・・・? ど、どうするんだ、ミリィ?」

 さしものシェン君も困惑げじゃ。
 妾はグレーの髪のウエストウッドをまじまじと見た。
 誰かに似ていると思ったのは母上だったのじゃ。
 灰色の目も白い肌も、薄いグレーの髪も、北方の領地の竜族の特徴を表している。
 何よりウエストウッドの少し上がり気味の目元は母上にそっくりだった。

「本当に協力してくれるのか?」
「ええ。わたしとあなたの望みは同じみたいだもの」
「・・・・・・わかったのじゃ」

 妾は大きく頷いた。
 だが、シェン君は納得できないらしい。

「いいのか、ミリィ? こいつ、信用できないぞ」
「失礼ねぇ。昨日も言ったけど、関係ないあなたこそ黙っててよ」
「はぁ? おれは関係なくない。ミリィの・・・・・・」
「ミリィの何よ?」
「・・・・・・だ、だからおれは、ミリィの、その・・・・・・友だちだから」

 なぜか最後の方は小声になっていったが、どうしてなのじゃ?
 急にもじもじしているシェン君をウエストウッドが怪訝そうに睨んでおった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。

猫菜こん
児童書・童話
 私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。  だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。 「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」  優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。  ……これは一体どういう状況なんですか!?  静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん  できるだけ目立たないように過ごしたい  湖宮結衣(こみやゆい)  ×  文武両道な学園の王子様  実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?  氷堂秦斗(ひょうどうかなと)  最初は【仮】のはずだった。 「結衣さん……って呼んでもいい?  だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」 「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」 「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、  今もどうしようもないくらい好きなんだ。」  ……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。

剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?ただいまお相手募集中です!

月芝
児童書・童話
国の端っこのきわきわにある辺境の里にて。 不自由なりにも快適にすみっこ暮らしをしていたチヨコ。 いずれは都会に出て……なんてことはまるで考えておらず、 実家の畑と趣味の園芸の二刀流で、第一次産業の星を目指す所存。 父母妹、クセの強い里の仲間たち、その他いろいろ。 ちょっぴり変わった環境に囲まれて、すくすく育ち迎えた十一歳。 森で行き倒れの老人を助けたら、なぜだか剣の母に任命されちゃった!! って、剣の母って何? 世に邪悪があふれ災いがはびこるとき、地上へと神がつかわす天剣(アマノツルギ)。 それを産み出す母体に選ばれてしまった少女。 役に立ちそうで微妙なチカラを授かるも、使命を果たさないと恐ろしい呪いが……。 うかうかしていたら、あっという間に灰色の青春が過ぎて、 孤高の人生の果てに、寂しい老後が待っている。 なんてこったい! チヨコの明日はどっちだ!

がらくた屋 ふしぎ堂のヒミツ

三柴 ヲト
児童書・童話
『がらくた屋ふしぎ堂』  ――それは、ちょっと変わった不思議なお店。  おもちゃ、駄菓子、古本、文房具、骨董品……。子どもが気になるものはなんでもそろっていて、店主であるミチばあちゃんが不在の時は、太った変な招き猫〝にゃすけ〟が代わりに商品を案内してくれる。  ミチばあちゃんの孫である小学6年生の風間吏斗(かざまりと)は、わくわく探しのため毎日のように『ふしぎ堂』へ通う。  お店に並んだ商品の中には、普通のがらくたに混じって『神商品(アイテム)』と呼ばれるレアなお宝もたくさん隠されていて、悪戯好きのリトはクラスメイトの男友達・ルカを巻き込んで、神商品を使ってはおかしな事件を起こしたり、逆にみんなの困りごとを解決したり、毎日を刺激的に楽しく過ごす。  そんなある日のこと、リトとルカのクラスメイトであるお金持ちのお嬢様アンが行方不明になるという騒ぎが起こる。  彼女の足取りを追うリトは、やがてふしぎ堂の裏庭にある『蔵』に隠された〝ヒミツの扉〟に辿り着くのだが、扉の向こう側には『異世界』や過去未来の『時空を超えた世界』が広がっていて――⁉︎  いたずら好きのリト、心優しい少年ルカ、いじっぱりなお嬢様アンの三人組が織りなす、事件、ふしぎ、夢、冒険、恋、わくわく、どきどきが全部詰まった、少年少女向けの現代和風ファンタジー。

剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?二本目っ!まだまだお相手募集中です!

月芝
児童書・童話
世に邪悪があふれ災いがはびこるとき、地上へと神がつかわす天剣(アマノツルギ)。 ひょんなことから、それを創り出す「剣の母」なる存在に選ばれてしまったチヨコ。 天剣を産み、これを育て導き、ふさわしい担い手に託す、代理婚活までが課せられたお仕事。 いきなり大役を任された辺境育ちの十一歳の小娘、困惑! 誕生した天剣勇者のつるぎにミヤビと名づけ、共に里でわちゃわちゃ過ごしているうちに、 ついには神聖ユモ国の頂点に君臨する皇さまから召喚されてしまう。 で、おっちら長旅の末に待っていたのは、国をも揺るがす大騒動。 愛と憎しみ、様々な思惑と裏切り、陰謀が錯綜し、ふるえる聖都。 騒動の渦中に巻き込まれたチヨコ。 辺境で培ったモロモロとミヤビのチカラを借りて、どうにか難を退けるも、 ついにはチカラ尽きて深い眠りに落ちるのであった。 天剣と少女の冒険譚。 剣の母シリーズ第二部、ここに開幕! 故国を飛び出し、舞台は北の国へと。 新たな出会い、いろんなふしぎ、待ち受ける数々の試練。 国の至宝をめぐる過去の因縁と暗躍する者たち。 ますます広がりをみせる世界。 その中にあって、何を知り、何を学び、何を選ぶのか? 迷走するチヨコの明日はどっちだ! ※本作品は単体でも楽しめるようになっておりますが、できればシリーズの第一部 「剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?ただいまお相手募集中です!」から お付き合いいただけましたら、よりいっそうの満腹感を得られることまちがいなし。 あわせてどうぞ、ご賞味あれ。

昨日の敵は今日のパパ!

波湖 真
児童書・童話
アンジュは、途方に暮れていた。 画家のママは行方不明で、慣れない街に一人になってしまったのだ。 迷子になって助けてくれたのは騎士団のおじさんだった。 親切なおじさんに面倒を見てもらっているうちに、何故かこの国の公爵様の娘にされてしまった。 私、そんなの困ります!! アンジュの気持ちを取り残したまま、公爵家に引き取られ、そこで会ったのは超不機嫌で冷たく、意地悪な人だったのだ。 家にも帰れず、公爵様には嫌われて、泣きたいのをグッと我慢する。 そう、画家のママが戻って来るまでは、ここで頑張るしかない! アンジュは、なんとか公爵家で生きていけるのか? どうせなら楽しく過ごしたい! そんな元気でちゃっかりした女の子の物語が始まります。

小学生魔女アリス

向浜小道
児童書・童話
「――実はわたし、魔女なんです」 両親の仕事の都合で人間界の小学校へ通うことになったアリスは、母親からの言いつけを破り、クラスの自己紹介で正体を明かしてしまう。  そんな、バカ正直者の「小学生魔女アリス」の小学校生活が、今ここに始まる――。  *** ※表紙画像は、「かんたん表紙メーカー」様からお借りしました。 ※「NOVEL DAYS」にも同作品を掲載しております。 ●第9回「小学館ジュニア文庫小説賞」第一次選考通過作品を加筆修正したものです。 *** 【更新予定リスト】 ・「自己紹介」11/8(水)18:00 ・「第1話 人間界の小学校へ」11/8(水)18:00 ・「第2話 魔女の自己紹介(1)」11/15(水)18:00 ・「第2話 魔女の自己紹介(2)」11/16(木)18:00 ・「第3話 カエルとトカゲ事件(1)」11/22(水)18:00 ・「第3話 カエルとトカゲ事件(2)」11/23(木)18:00 ・「第4話 確かに感じた魔法の力(1)」11/29(水)18:00 ・「第4話 確かに感じた魔法の力(2)」11/30(木)18:00 ・「第5話 雪ちゃんの過去(1)」12/6(水)18:00 ・「第5話 雪ちゃんの過去(2)」12/7(木)18:00 ・「第6話 「美味しくな~れ」の魔法(1)」12/13(水)18:00 ・「第6話 「美味しくな~れ」の魔法(2)」12/14(木)18:00 ・「第7話 二人を繋いだ特別なマフィン(1)」12/20(水)18:00 ・「第7話 二人を繋いだ特別なマフィン(2)」12/21(木)18:00 ・「第7話 二人を繋いだ特別なマフィン(3)」12/22(金)18:00 ・「第8話 パパとママのお仕事って……?(1)」12/27(水)18:00 ・「第8話 パパとママのお仕事って……?(2)」12/28(木)18:00

【完結】魔法道具の預かり銀行

六畳のえる
児童書・童話
昔は魔法に憧れていた小学5学生の大峰里琴(リンコ)、栗本彰(アッキ)と。二人が輝く光を追って最近閉店した店に入ると、魔女の住む世界へと繋がっていた。驚いた拍子に、二人は世界を繋ぐドアを壊してしまう。 彼らが訪れた「カンテラ」という店は、魔法道具の預り銀行。魔女が魔法道具を預けると、それに見合ったお金を貸してくれる店だ。 その店の店主、大魔女のジュラーネと、魔法で喋れるようになっている口の悪い猫のチャンプス。里琴と彰は、ドアの修理期間の間、修理代を稼ぐために店の手伝いをすることに。 「仕事がなくなったから道具を預けてお金を借りたい」「もう仕事を辞めることにしたから、預けないで売りたい」など、様々な理由から店にやってくる魔女たち。これは、魔法のある世界で働くことになった二人の、不思議なひと夏の物語。

はだかの魔王さま

板倉恭司
児童書・童話
あなたの願い、僕がかなえます。ただし、その魂と引き換えに……この世に未練を持つ者たちの前に突如として現れ、取引を申し出る青年。彼はこの世のものとも思えぬ美しい顔をしていたが、残念な格好をしていた。

処理中です...