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アンタッチャブルな先輩たち

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 料理部でお茶を楽しんだ後、妾はシェン君と呪術同好会に向かった。
 サクラとその友人たちに、とんでもない話を聞かされたが、それで入部をやめる妾ではないのだ。

 体育館の二階の部室に行くと、部員二人がなぜかドアに向かって椅子に腰かけ待っていた。

「よく来たわね」
「だ、誰じゃ?」

 話しかけてきた女子は山羊の被り物をしていなかった。
 すみれ色の髪に、縁なしのメガネの奥に同じ色の瞳。
 ストレートの長い髪の美人さんじゃ。
 まつ毛が長く、顔立ちがはっきりしておる。

 化粧映えしそうな顔じゃ。
 ミンミンが見たら喜ぶじゃろう。
 他人を着飾るのが好きだからの。

 もう一人はもさっとした男子だった。
 鳥の巣のようなもじゃもじゃの黄緑色の髪に、細い垂れ目で、全体的に細長い。
 手足が長くてひょろりとしている。
 やる気がなさそうに無感情にこちらを見ていた。
 どちらも高等科の制服を着ている。

「わたしがこの同好会の会長よ。昨日会ったでしょう」
「昨日・・・・・・あの山羊の・・・・・・」

 シェン君が戸惑ったように呟く。

「それで、あなたたち入部するの? しないの?」

 一見まともそうに見えるが、昨日のアレを見てしまった以上、彼女が普通ではないのは確かじゃ。
 シェン君も対面して思い出したらしく、妾の耳にこそっと聞いてきた。

「おい、ミリィ。やっぱやめた方がよくないか?」
「イヤじゃ。やめたいのならシェン君だけやめればいい」
「・・・・・・」

 妾は鞄から紙を取り出すと、会長に差し出した。

「入部届けを持ってきたのじゃ」

 渋々、シェン君も同じように入部届けを提出する。

「ふぅん。本当にこの呪術同好会に入りたいんだ? 変人なの?」

 おぬしに言われたくないんじゃ。
 じゃが、妾は分別があるのでな。
 反論はしなかった。

「ま、いいわ。わたしはシルマリア・アレイスター。高等科の二年よ。で、こっちがーーー」
「ぼくはエドガー・ポーキュリだ。そちらのひめ様は覚えていないだろうが、何度か王宮で会ったことがある」

 それを聞いて、妾より先に会長が反応した。

「ひめ様?」
「見ればわかるだろう。こんなに鮮やかな真紅の髪をしているのは皇帝一族しかいない」
「そうなの?」

 会長が妾に訊ねてくる。
 妾はいつものように胸を張って顎をちょっとクイっと上げて答えた。

「そうじゃ。妾がドラゴニア帝国皇帝の第四皇女バーミリオン・ヘデス・ドラゴニアじゃ」
「へえ」
「そ、それだけかの?」

 思ったよりあっさりしておる。
 なんかこう、印籠を見せたみたいに「はは~」って恐縮したりするかと思うたが。
 ちょっとガッカリしておると、入部届けを見た会長がシェン君を驚いた顔で見た。

「ちょっとあなた、アラガンの龍人族なの? しかも、第二王子!」
「えっ? マジで? ああ、でも確かに髪が黒いし、ツノがあるな」

 なんか妾よりシェン君の方が目立ってない?
 会長と副会長の視線を独り占めしているシェン君に、妾ちょっと嫉妬!
 しかし、シェン君は冷めた感じで「そっす」と答えていた。
 なんかダウナーな方がカッチョいいみたいになってない?
 むむむむむ、と妾が不満げにしていると、座っていた副会長が席を立った。
 そして、妾に近づいてくる。

「第四皇女ってことは、もしかして九番目の子?」

 真正面に来ると、副会長が妾の顔を覗き込んできた。

「そ、そうじゃ・・・・・・」
「呪われてるよね、君」

 あまりに直球すぎて息が止まりそうになった。
 すると、隣からシェン君の腕がスッと伸びた。
 副会長の胸元を掴んで、睨みつける。

「おい、ケンカ売ってんのか?」

 いやいやいや、ケンカ売ってんのおぬしの方じゃから~~。
 すぐにブチ切れるのはよくないぞぉ。

「まあまあ」

 妾は二人の間に手を差し出した。

「確かに妾はご存知の通り呪われておる。じゃが安心するがいい。これがある!」

 ブレスレットを見せつける。
 すると、なぜか副会長だけでなく、会長まですっ飛んできて、二人してブレスレットをマジマジと見始めた。

「あ、あのぅ」

 そんな熱心に見るものでもないのじゃが。
 金のブレスレットの表面に書かれた魔術文字を二人が同時に読み上げる。

『ルナ✳︎クオア ハ✳︎チーカー』

 さすがに高等科の生徒じゃ。
 魔術文字は通常の言語より複雑なのに、意味がわかったらしい。
 ふむふむ、と納得している。
 そういえば、教室でブレスレットが発動したとき、シェン君も解読できていた。
 みな優秀なのじゃな~。
 感心しておったのもここまでだった。

「ねえ、ちょっと呪ってみてよ」
「・・・・・・は?」
「それはいい!」

 会長がトンチキなことを言い出したと思ったら、副会長も喜んで賛成している。
 こ、こやつら大丈夫かの?

「皇帝の九番目の子なら、あなたは他人を呪うことができるらしいじゃない」

 会長がなぜかワクワクしながら妾を見ている。

「い、いや、それはちょっと・・・・・・」
「どうしてよ」
「危険なのじゃ。そんなことはできぬ」

 人によっては死ぬかもしれない。
 妾は宮で起こった出来事のいくつかを思い出した。
 母上から始まり、赤ん坊の頃から三年前までの間に妾は何人かの侍従や侍女、教育係に呪いという害を与えてしまった。
 もちろん、妾が望んだわけではない。
 それでも、呪いは妾の感情によって発動する。
 そこに意志は介在しない。
 喜怒哀楽の昂り、激痛、時には睡眠時の悪夢で発動するときもあった。
 もちろん条件はある。
 相手に触れていることだ。
 宮にいた頃、何人かの魔術師や医師を集めて妾の呪いについて調べたことがある。
 治すことはできなくとも、知っていれば回避できることもある。
 その実験のおかげで、妾はそれ以来誰のことも呪っていない。

「じゃあ、ちょっとだけ」
「ブレスレットをしたままなら大丈夫なんだろう?」

 会長と副会長にしつこく迫られて、妾は後ずさった。

「ちょっとも、いっぱいもないのじゃ!」

 ジリジリと詰め寄られ、妾がさらに後ずさる。
 シェン君が突如、妾の腕を掴んだ。

「こいつらヤバいぞ。逃げよう!」

 さしもの妾も頷いた。

「あっ、待って!」
「おい!」

 二人の変人のいる部室から飛び出して行こうとすると、副会長が後ろから言った。

「その呪いは古代の契約に基づくものだろう。契約を解除すれば君は呪われた子じゃなくなる」

 思わず足を止めると、さらに副会長が続けた。

「ぼくは君のことをよく知っているんだ。王宮図書館の禁書を読んだからね」
「王宮図書館の・・・・・・禁書?」

 シェン君が妾の腕を引っ張って逃げようとしていたが、止まった足は頑として動かなかった。
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