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夜は密会ぐらいするじゃろ

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 妾じゃ! ドラゴニア帝国の臣民たちよ!
 なんとかメディア寮に戻ってきたぞ。
 そう、あれからなんやかんやあって、妾は呪術同好会とやらに入会することにした。

 え? やめた方がいい?

 シェン君と同じことを言うではないわ!
 帰り道もずっと説得されたが、妾はあの同好会に入らねばならぬ。
 あの山羊人間、ふざけた格好はしておったが見た目に反してーーーは、いないかーーーとにかく呪術に詳しいらしい。
 あの者に色々聞きたいことがあるのじゃ。
 今日はもう用があるとかで山羊人間に部室を追い出されてしもうたが、明日また放課後に行くことになった。
 明日が楽しみなのじゃ。
 なぜかシェン君が明日もついて来ると言っておったが、やっぱり呪術同好会に入りたいのかもしれぬ。
 山羊人間に勧誘されたのは妾だけなので、言い出しにくかったのじゃろう。

 寮に戻った妾はヤンヤンに手首を診てもらい、初日にあったことを報告した。
 ヤンヤンの驚いたり怒ったり、心配そうな顔を見て、妾はなんだかホッとしたのじゃ。

「ひめ様、その追ってきたという女生徒についてはこちらで調べておきますから気をつけてくださいね」
「わかっておる。じゃが教室に突撃して来たらどうしようもないのぅ」
「そのときは裏方がーーー」

 ハッとしたようにヤンヤンが口をつぐんだ。

「うらかた?」
「い、いえ、なんでもございません。とにかく身の回りには注意なさってください」
「うむ」
「それと、その・・・・・・呪術同好会ですが」
「なんじゃ?」
「本当に大丈夫でしょうか? その、山羊の被り物の女生徒はかなりの変質しゃ・・・・・・いえ、変わり者のようですが」
「そうじゃの。変わってはいるが、妾の知りたいことを教えてもらえるかもしれぬ」

 ヤンヤンはなぜか目を伏せて呟いた。

「あまり良いこととは思えません」
「なぜじゃ?」
「ひめ様の呪いは皇帝陛下にも解けないものなのですよ。一介の女生徒がどうにかできるものではないはずです」
「じゃが、何か知っておるやも」
「・・・・・・わたしとしましては、ひめ様にはもっとふさわしい部活動があると思います。テニス部とか、合唱部とか。そうです! サクラ様が在籍されているという料理部などはいかがです?」
「妾、料理にはあまり興味がないのじゃ」

 なぜって、絶対自分が作るより妾の宮のシェフが作る方が美味いからの。

「で、では刀剣部はどうですか? 兄君様たちが在籍していますし女生徒も多いようですよ」

 顔を渋くして妾は首を横に振る。
 刀剣部にはアカネとフェニックスがいるらしい。
 何が悲しゅうて学園まで来て兄じゃたちとつるまねばならぬのか。
 ああだこうだと言われて剣を放り出す自分が見えそうじゃ。
 それに妾、あまり運動は得意ではないのでな。

「妾、呪術同好会に入ると決めたのじゃ」

 きっぱりと言うと、ヤンヤンは目に見えてガッカリした。
 仕方ないじゃろ。
 変な山羊人間は気になるが、自分にかけられた呪いのことを妾はほとんど知らぬのじゃ。
 なぜって王宮の者たちに訊ねても教えてくれぬし。

「ヤンヤンは妾の呪いのことをあまり知らないのじゃろ?」
「そうですね。みんなが知っていることぐらいです」

 実を言うと、妾もなのじゃ。
 一番詳しいはずの父上も、妾が子供だからと言ってかいつまんだ部分しか話してくれなんだ。
 兄姉たちもじゃ。

 ここは妾の心の内を書くところ。
 そう、日記なので誰にも遠慮せず言おう。

 妾はいつか呪いを解きたいのじゃ!

 皆がブレスレットさえしていれば、激情しなければ、他人と関わらなければ、妾の呪いなど他愛もないことだと思っていたとしても、この呪いを解きたいのじゃ。
 そしていずれドラゴニアの皇帝になって、母上に喜んでもらいたい。
 呪いを解いて皇帝にもなれば、母上をもっと元気にできる気がするんじゃ。
 もしかしたら、呪いを解けば母上の病も治るかもしれぬ。
 父上が母上をないがしろにしておるとは思わぬが、皇帝には妻が四人いて、一番最後に入内した母上はあまり顧みられておらぬ。
 病のこともあって、母上の宮に父上は滅多に来ないらしい。

 それに、何よりこの呪いが妾は憎い。
 全ての元凶はこの呪いじゃ。
 母上が病に苦しんでおるのも、妾が痛いブレスレットをせねばならぬのも、このにっくき呪いのせい。
 これさえなければーーー。
 つまるところ、この呪いさえどうにかすれば、妾は向かうところ敵なしということじゃ。

「ぐふふふふふ」
「ど、どうかしましたか?」
「ヤンヤンよ、妾はこの学園生活で必ずや一角ひとかどの成功を収めてみせるぞ」
「そ、そうですか。ですが、無理はしないでくださいね。それと、まずはお勉強ですよ。忘れないでくださいね」
「むぐっ! べ、勉強か。うむ」

 寮の食堂で夕食を済ませると、妾は小一時間ほどもらったばかりの教科書を眺め、早々に布団に入ったのじゃ。


 そして深夜一時ーーー。
 妾がすっかり寝入って、夢の中で彼Pとカフェデートをしておる頃。
 メディア寮の四階のとある一室では、ヤンヤンがこっそりと密会をしていた。

「夜分にすみません。どうしてもお耳に入れておきたいことがありまして」

 平身低頭のヤンヤンに、ソファに腰かけた寝巻き姿のサクラが微笑む。
 隣には侍女のシーナも立っている。

「構わないわ。それと、まずはシーナに話を通したのはよかったわね。わたしは突然の訪問は好きではないの」
「は、はい」

 桃色のネグリジェの上に白いカーディガンを羽織ったサクラは、シーナを見つめて後を託す。
 妹の近侍とはいえ、身分差のある侍女と直接話すことはあまりしないのだ。
 ヤンヤンが今日の出来事をシーナに細かく話すと、シーナは困ったように主人を窺った。
 侍女ではらちがあかないようなので、サクラが答える。

「そうね、あの子が自分の呪いに興味を持つのは仕方がないことだけれど、呪術同好会は良くないわ。あそこは変人の巣窟だもの。おかしな影響を受けるのは避けるべきよ」
「ですが、バーミリオン様は入部すると決めてしまわれたようでして・・・・・・」

 少し考えた後、サクラは大きく頷いた。

「わかったわ。そちらはわたしがなんとかします。あなたたちには、あの子を付け狙っている女生徒を捕まえてもらいましょう。対処は任せます」
「「御意に」」

 ヤンヤンが退室すると、サクラはため息をついた。

「ふぅ、初日からいろいろやってくれるわね。でもーーー」

 ガラリと雰囲気を変え、口の端で笑みを浮かべる。

「そうでなくてはね」
 
 心底楽しそうな表情の主人に、シーナは彼女が日々退屈していたことを知っていたので、おそるおそる一言だけ。

「くれぐれもやりすぎないようにお願いします」

 可憐に微笑んでいると誰もが忘れがちだが、サクラはイタズラ好きなアカネと双子だった。
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