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祝入学にてんてこまい

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 ドラゴニア帝国の臣民たちよ、妾じゃ!
 母の日から三ヶ月。
 妾も誕生日を過ぎて十三才になった。
 そしてこの度、国立魔導学園の中等科に入学が決まったのじゃ。
 まあ、学校へ行ってみたいな~とちょっぴり思っていたので、今回のことは内心とても嬉しいことではある。

 父上は妾が自分の宮から出ることを良しとはしない方だったので、ようやく妾の学業への熱意が父上に届いたのかと思いきや、実は侍女頭のセレスティが何度も陳情に行ってくれたらしい。
 ヤンヤンに後から聞かされて、妾もびっくりしたのじゃ。
 やはり持つべきものは乳母よ!
 赤子の頃からの付き合いで互いに信頼しておるからの。

 ちなみに学園には一人しか付き人を連れて行けないので、妾のともはヤンヤンに決まった。
 ミンミンは騎士の彼氏といちゃつくのに忙しそうじゃし、セレスティは妾の宮を管理するために残らなくてはならないからの。
 今までヤンヤンについてはあまり触れてこなかったが、彼女は十才で侍女として王宮に入り、歳は十八。
 艶のあるストレートの鳶色とびいろの髪の美少女じゃ。
 本人は目元がきついのを気にしておるが、笑うと片頬にえくぼができて可愛さ爆発。
 男なら大抵は撃沈できるはずなのじゃが・・・・・・。
 なにぶん妾といると男性と出会う機会がそうそうないのでな。
 そこらの侍従や騎士は、ヤンヤンにとっては勤務先の仕事仲間。
 仕事関係者と恋仲になると面倒だから嫌なのじゃと。
 ミンミンとは大違いじゃ。
 そんなちょっとお堅いヤンヤンと、妾は新しい生活に一歩踏み出すことになった。

        ✴︎

 さて、国立魔導学園について簡単に説明しておこう。
 ここはドラゴニア帝国の北西にあり、帝都から列車で片道四時間ほどの所にある。
 しかもとんでもなく田舎なので、ほとんどの生徒は寮に入るしかなく、皇帝の子である妾も兄姉たちも例外ではない。
 海に面しているため海の幸、山の幸どちらも楽しめる風光明媚な所でもあるが、まあそれはいい。
 学園は初等科、中等科、高等科、そして専門を学ぶ大学まで揃っていて、研究機関も周囲に立ち並んでいるため、生涯ここで暮らすという稀有けうな者もいるらしい。

 妾はそんなの勘弁じゃが・・・・・・。

 学園に入れる者は平民から貴族まで幅広く、入学にはテストが不可欠となっておる。
 もちろん妾も中等科に入学するためテストを受けたぞ。
 高得点だったに違いないが、採点結果は公表されないので合格がそのあかしとなる。
 学園には一学年に三つのクラスがあり、入学前のテストで組み分けがなされる。
 赤がシンボルカラーのメラギア、青のサイレス、そして黄のルナビス。
 ちなみに妾は赤のメラギアクラスじゃ。
 まあ、わかっておったけどな。
 皇帝一族は皆メラギアなのじゃ。
 なんでかは知らぬが。
 そして寮は学年に関係なく六つ存在する。
 六つもあったら名前なんか覚えてられぬ。
 とりあえず自分の寮だけ覚えたぞ。
 メディア寮じゃ。
 高名な魔術師メディアの名を冠した茶色い煉瓦れんが建ての建物で、四階建て。
 妾の部屋は三階。
 続きの部屋にヤンヤンがおるので安心安全。
 当然、寮母もいて夜間は警備も就くから、これまた安心安全。
 しかもじゃ!
 なんとメディア寮の四階には妾の姉サクラも住んでおる。
 優しくておっとりしていて、頼りがいのある姉が一緒で妾も嬉しいが、サクラの方も喜んでくれていてもっと嬉しいのじゃ。

        ✴︎

 入学式当日ーーー。
 長い夏休みを終え、メディア寮は戻ってきたり、新しく入ってきた生徒で朝から騒がしい。
 部屋では、今まさにヤンヤンがやり切った満足げな顔で妾を上から下まで眺めておる。

「ひめ様、これからは絶対絶対、髪は乾かしてから寝ましょうね」

 朝起きたら爆発していた妾の髪をくしとお湯と腕力でなんとか押さえ込んだヤンヤンに言われる。

「うむ。昨日はうっかりしておった。お互いに疲れていたからの」
「そうですね」

 入学式の一週間前には寮に入る予定だったのに、なぜか宮での準備に手間取り、結局三日前に入寮。
 そして引っ越し作業にまた手間取り、丸一日つぶれてしまった上に、翌日は学園のあらゆる者たちが挨拶に来て、妾もヤンヤンも疲れ切ってしまったのじゃ。
 学園長やら副長やら、担任教師やらに続いて、親に言われたのであろう貴族の中でも高位貴族の子息子女たちが挨拶に来るわ、なぜか妾の兄姉まで順々に来訪。
 お茶を淹れるヤンヤンは目まぐるしく動いておるし、妾は愛想笑いで顔が強張ってしもうたわ。
 夜には二人して夕食も食べずに、お風呂だけ入って寝て、そしてこの朝よ!
 まあ、よく寝たので頭はスッキリしておる。

「ヤンヤン、朝食は階下で摂るから運ばなくていいからの」
「よろしいのですか?」
「うむ」

 今日から妾も学園生。
 他の生徒にも慣れておかぬとな。
 寮の一階には朝と夜用の食堂がある。
 妾のようにお付きがいる者は部屋まで運んでもらえるのじゃが、今日は下で食べることにした。
 学園の制服を着て、ヤンヤンと一階に降りていく。
 制服は紺色の襟付きワンピースにブレザー。白いリボンが付いておる。
 まあまあ可愛いのではなかろうか。
 妾は何でも着こなせるファッショニストな上に、ヤンヤンが完璧に整えてくれるから、きっと一番かわゆいのじゃ。
 真紅の髪には制服とお揃いの白のリボンを結んでおる。
 妾の髪はちょっとーーー本当にちょっぴりなーーー癖っ毛なので結んで広がりを抑えることが大事なのじゃ。

 一階の食堂に行くと、すでに十人以上の生徒が食事をしておった。
 ちらりとテーブルを見る。
 食パン、ジャム、スクランブルエッグ、サラダ、ヨーグルト。
 どこも朝食は変わり映えないのぉ。
 ヤンヤンが端の空いている席を見つけて妾を座らせ、朝食を取りに行ってくれる。
 手持ちぶさたの妾は周囲を観察した。
 初等科の女子が三人。
 中等科の女子が五人。
 高等科の女子が二人。
 それぞれ制服を着て同じテーブルに固まっている。
 そして、ぽつんと端に座る妾。
 ええっと、ここは中等科らしき女子五人のテーブルに話しかけに行くべきなのか?
 それともずうずうしいかもしれぬし、おとなしくしておくべきなのか?
 だいたいよくよく気づいたら、友だちというものを作ったことがないぞ。
 王宮のパーティーで会う同じ年頃の子どもたちは「ご機嫌いかが?」程度しか話さなかったし、宮にこもっておったから、どうしたらいいのかわからぬな。
 妾って、完全に引きこもりの世間知らずじゃなかろうか?
 こんなんで友だち作れるのか?
 うむむむ、と唸っておると、朝食のトレイを手にヤンヤンが戻ってきた。

「ひめ様、どうされました?」
「いやな、妾あそこの女子に話しかけていいものかと考えておった」
「・・・・・・あの子たちですか?」
「うむ。これから同じ寮に住むわけじゃから、名前ぐらい聞いてもと思ったのじゃ」
「それは結構ですね。では、わたくしが先に声をかけてきましょう」
「えっ?」
「ひめ様が話しかけるに値する子どもたちかどうか選別しないといけませんから」

 ヤンヤンが何か物騒なことを言い出したので、妾は慌てて止めようとした、その時ーーー。

「おやめなさい」

 やんわりと、だがキッパリとした声が聞こえた。
 横のドアから入ってきたばかりのサクラと、お付きのシーナが立っている。
 サクラは呆れた顔でヤンヤンに注意した。

「バーミリオンのやるべきことを取ってはダメよ。付き人は最低限の生活を補助するためにいるの。学園生活の大半は自分でやらなければ身にならないわ」
「サ、サクラ様。申し訳ありません」

 ヤンヤンが恐縮しきって頭を下げる。
 妾もサクラの意見に同意するように頷いた。

「友だちは自分で作るつもりじゃ」

 作り方はまだわからぬがな。
 とりあえず声をかけるといいということはわかっておるし、なんとかなるじゃろう。

 しかし、この時まだ、妾は友だち作りが如何に厳しく難しいかということをまったく理解していなかったのじゃ!

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