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犬ぞりレース part4
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前を走るのは残り二人。
一番目の兄ホムラと四番目の兄アカネじゃ。
困ったことに、あれから大分進んだのじゃが、二人のそりは見えてこなかった。
後ろからスキー板を付けて犬の紐を手に引っ張ってもらっているレッカが話しかけてくる。
「やあやあ、困ったね。バーミリオン。やっぱもう二人ともゴールしちゃったんじゃない? 誰もいないのがその証拠っていうかさぁ」
妾、ガン無視しとるのに、この男まったく懲りずにずっと話しかけてくる。
「まあ、三位でもすごいって。初めての大会でしょ。ぼくにもフェニックスにも勝ったんだから」
隣に並んできて、妾の不機嫌な顔に満面の笑みで話し続ける。
「ぼくもターボを付けたりして今年こそはと思ってたんだよ。でも思ったよりスピードが出ちゃった。犬より速くかっ飛んで行ったからさぁ。犬の紐を外すしかなかったんだよぉ」
それは本末転倒ではなかろうか?
犬より速いそりって、犬ぞりじゃないじゃろ。
つっこみたいが、妾はお利口なので口を閉じておく。
「それにホムラには絶対追いつけないよぉ。あいつのスピード、ぼくのターボ全開の走りでなんとか並べるくらいだったから。すっごい速さで参ったよぉ」
あの筋肉でできた兄ならあり得る。
ホムラと、ホムラの強そうな犬たちを思い出す。
華奢でかわゆい妾と真逆の存在じゃな。
レッカのお喋りを聞いておると前の方に何か見えてきた。
アカネのそりが転倒でもしたんじゃろうか? と思った妾は速度を上げる。
しかし、凸凹の雪道に現れたのは細面のシュッとした顔の犬二頭だった。
「イケメン犬が置いて行かれてるんじゃが」
「あ、この犬・・・・・・」
レッカがホムラの犬だと指摘する。
追い抜きざまに見たら、疲れ切って座り込んでおった。
そりゃ全力疾走で三キロはきつかろう。
さらに進むとまた二頭。
今度はもじゃもじゃの犬。
悲壮な顔で座り込んでいるのを見ると、さすがに気の毒じゃ。
「脳筋は怖いのお。三キロ全力疾走なんて普通はできんじゃろ」
「ホムラ兄上は自分ができることは他人もできると信じてるからねぇ。この間も三日寝ないで仕事してたけど、侍従たちも三日寝られなかったらしくて兄上の宮は死屍累々だったらしいよぉ。鬼畜だよね」
呆れているレッカに妾も同意しかない。
絶対上司にしたくない男ナンバーワンじゃの。
しかし犬四頭が脱落ということは、さすがのホムラもアカネに追い抜かれてしまったのではなかろうか。
ところがーーー。
「どうなっておるんじゃ?」
道の真ん中で侍従に抱えられたアカネを発見!
そりは半壊、犬は丸めたしっぽを尻の下に。
犬の言葉はわからぬが、ぶるぶる体を震わせておるのを見ればとてつもない恐怖を味わったことは伝わってくる。
「な、何があったのじゃ?」
思わずそりを止めて侍従に訊ねる。
アカネは気を失っておるらしい。
「ホムラ様がアカネ様のそりに自分のそりをぶつけたのですよ!」
憤った侍従が鼻息荒く教えてくれた。
「あやつならやりそうじゃ」
「むしろ嬉々としてやってるのが目に浮かぶよねぇ」
「いくらなんでもやりすぎです! アカネ様は大怪我をするところでしたよ!」
アカネの侍従は怒りで顔が真っ赤になっておる。
「でもほら、これはレースだからさぁ」
「限度ってものがあるでしょう。しかも一回りも大人なんですよ! ホムラ様は弟君にひどすぎます」
確かにひっくり返ったそりは何度もぶつけられたらしく凹んでおるし、犬は震え上がってかわいそうなほどじゃ。
しかし、よく見るとそれ以外に損傷はない。
「ホムラ兄じゃは魔術を使わなかったのか?」
「魔術・・・・・・」
なぜか黙ってしまう侍従に、妾はピンときた。
ホムラはカッとなると魔術ではなく、腕力で相手を叩き伏せる習性があるのじゃ。
生意気盛りのアカネのことじゃ。
先に何か仕掛けたに違いない。
前例もあることだしの。
妾は氷の棘で覆われた雪道を思い出す。
「アカネ兄じゃは何をしたんじゃ? これほどやられるとは、あのホムラ兄じゃを相当怒らせたんじゃないのか?」
「そ、それは・・・・・・」
聞いてみると、侍従が言うにはーーー。
『ドカーーン!!』
後ろを走るアカネのそりから黒い球体が次々に飛んでくる。
ホムラは魔術で一メートルほどのバリアを張って背後を防いでいたが、魔力には限界がある。
アカネはただ持っている爆弾を投げるだけでいいのだ。
先ほどまで雪道を氷の棘に変えられ、即座に溶かすために魔力をそこそこ使ってしまっていたホムラはバリアを張り続けるのがキツくなっていた。
「いい加減にしろ! アカネ!」
「アハハハハハッ」
「やめないと本当に怒るぞ!」
「アハハッ、まだまだあるから次いくよー!」
『ドカーーン!!』
ついにアカネの投げた爆弾がホムラのバリアを貫通する。
直後、強烈なアンモニア臭にそりが包まれ、五頭の犬たちがキャンキャン鳴き喚いた。
「ぐゥッ、く、臭いッ! やめんかーー!!」
「アハハハハハハッ」
今まで全力で走らされていた犬たちもついに足を緩める。
まずシュッとした顔の二頭が脱落し、仕方なくホムラは首輪から縄を魔術で外した。
続いてさらに二頭。
犬たちは馬番が回収するか自力で宮に戻れるので大丈夫だ。
「まだまだあるよ~!」
アカネはそりに大量のアンモニア爆弾を積んでいるらしい。
どうにかせねばと思ったホムラは、スピードが落ちてしまった一頭引きのそりをアカネのそりの横に近づけた。
そしてーーー。
「ホムラ兄じゃがブチ切れてアカネを抹殺することにしたのじゃな」
「言い方・・・・・・」
気絶したアカネと悔しさに歯ぎしりしている侍従を置いて、妾たちはホムラを追っていた。
そろそろゴール地点が近いからか、騎士や侍女、侍従の姿がポツポツ雪道に現れている。
「バーミリオン様! がんばって~~」
「おお、バーミリオン様! 追いつけるかもしれませんよ!」
「ふぁいとーー! バーミリオン様!!」
「いや~ん、レッカ様! 今日も素敵!」
ん? なんか余計な声も聞こえた気がしたが。
まあ、いいじゃろう。
「次のカーブを曲がったらゴールですよ!」
騎士の声が聞こえて、妾は犬たちに声をかける。
「ハイヤーハイヤー! 急ぐのじゃあ~~!」
カーブを曲がった直後、一直線の木立の前に大きな背中が見えた。
「あ、兄上!」
レッカが妾の横を滑りながら「見て見て!」と叫んでおるが、もちろん見えておるわ。
じゃが、距離は百メートル以上離れておるし、ゴールはもうホムラの目の前じゃ。
さしもの妾もこれ以上はなす術もない。
そのとき、レッカが胸元から杖を取り出した。
「✳︎レーナク・ヤハ✳︎」
ワンワン隊に向けて魔術の白い光がキラキラ降り注ぐ。
途端に、妾のそりが前へ引っ張られた。
すでに疲労困憊しておった犬たちが、力を取り戻したかのようにぐんぐん走り出す。
「レッカ兄じゃ!」
「ふふふ、あの脳筋に勝たせるものか。今年こそ追い落としてふんぞり返ったバカ面を完膚なきまでに叩き潰してくれるわ。ヒッヒッヒッ」
なんか、レッカが悪い魔女みたいな顔で笑っておったが、大丈夫かの?
しかし、妾の戸惑いと共にレッカを置き去りにして、凄まじい速さでワンワン隊が走っていく。
まさに一陣の風となった妾は、ワンワン隊とそりと一体化したようにーーーというかそりにしがみついてーーーあっという間にホムラに追いついた。
「なぁにぃッッ!? バーミリオンではないかあ!!」
「声がでかいんじゃ」
「よく追いついてきたな! リトルシスターよ!!」
「だから声がでかすぎなんじゃ」
ホムラの声が大きくてゴール前に集まった騎士や侍従、侍女の声援が聞こえぬくらいじゃ。
「勝負勝負勝ぶ~~~うぅぅぅ!!」
「鼓膜がぁ」
うるさいホムラと妾のそりが並び、ゴールとなる庭園の門まで後二十メートル。
妾のそりはレッカの魔術がかけられた五頭の犬が、ホムラは足の短いずんぐりした大きな熊みたいな犬が一頭引いている。
そしてついにーーー。
「ゴーーーーーールッッッ!!」
並んでホムラと妾のそりが門を潜る。
そりが止まり、妾は周りを見渡した。
ホムラも同じく、判定を待っている。
門の左右に立っていた騎士二人が声を揃えて告げた。
「勝者!!
バーミリオン・ヘデス・ドラゴニア!!」
その瞬間、群衆の中から二人の侍女が飛びついてきた。
「やったわ~~! バーミリオン様!」
「勝ちましたよ、バーミリオン様!」
ミンミンとヤンヤンじゃ。
勝った、のか?
放心しておると、ザッザッと足音荒く巨体が近づいてきた。
「感服したぞ、バーミリオンよ!!」
「ホムラ兄じゃ。接戦じゃったな。運良く妾が勝てたようじゃ」
「うむ!! 一番弱そうなおまえが勝つとはな! おれも信じられん!!」
声が大きいし、デリカシーもないんじゃ。
「しかし、ホムラ兄じゃ。妾はレッカ兄じゃの魔術のおかげで勝ったわけで、よかったのかの?」
「何を言ってる! 支援を受けられたのはおまえだったからだ! レッカが他の兄弟に魔術を使うところなど初めて見たぞ!」
ようやく追いついてきたレッカが頷く。
「そうだよ、バーミリオン。他の兄弟になんて微塵も力を貸す気はないからねぇ。かわいい末の妹のためならぼくはなんでもしてあげるよぉ。来年のそりに困っているなら、ぼくが手を貸してあげてもいいぐらいさ」
「それは遠慮しておくのじゃ」
改造されたそりに乗って爆発炎上したくないからの。
というわけで、今年の犬ぞりレースは、なんとなんと! 妾の優勝で終わったのじゃ。
やはり次代の皇帝となる者は、いつでも勝利者になる運命にあるようじゃ。
この様子なら来年も再来年もずっとずっと妾が勝ってしまうかもしれぬな。
ふゎっはっはっはぁっ!
それでは、またの~~。
一番目の兄ホムラと四番目の兄アカネじゃ。
困ったことに、あれから大分進んだのじゃが、二人のそりは見えてこなかった。
後ろからスキー板を付けて犬の紐を手に引っ張ってもらっているレッカが話しかけてくる。
「やあやあ、困ったね。バーミリオン。やっぱもう二人ともゴールしちゃったんじゃない? 誰もいないのがその証拠っていうかさぁ」
妾、ガン無視しとるのに、この男まったく懲りずにずっと話しかけてくる。
「まあ、三位でもすごいって。初めての大会でしょ。ぼくにもフェニックスにも勝ったんだから」
隣に並んできて、妾の不機嫌な顔に満面の笑みで話し続ける。
「ぼくもターボを付けたりして今年こそはと思ってたんだよ。でも思ったよりスピードが出ちゃった。犬より速くかっ飛んで行ったからさぁ。犬の紐を外すしかなかったんだよぉ」
それは本末転倒ではなかろうか?
犬より速いそりって、犬ぞりじゃないじゃろ。
つっこみたいが、妾はお利口なので口を閉じておく。
「それにホムラには絶対追いつけないよぉ。あいつのスピード、ぼくのターボ全開の走りでなんとか並べるくらいだったから。すっごい速さで参ったよぉ」
あの筋肉でできた兄ならあり得る。
ホムラと、ホムラの強そうな犬たちを思い出す。
華奢でかわゆい妾と真逆の存在じゃな。
レッカのお喋りを聞いておると前の方に何か見えてきた。
アカネのそりが転倒でもしたんじゃろうか? と思った妾は速度を上げる。
しかし、凸凹の雪道に現れたのは細面のシュッとした顔の犬二頭だった。
「イケメン犬が置いて行かれてるんじゃが」
「あ、この犬・・・・・・」
レッカがホムラの犬だと指摘する。
追い抜きざまに見たら、疲れ切って座り込んでおった。
そりゃ全力疾走で三キロはきつかろう。
さらに進むとまた二頭。
今度はもじゃもじゃの犬。
悲壮な顔で座り込んでいるのを見ると、さすがに気の毒じゃ。
「脳筋は怖いのお。三キロ全力疾走なんて普通はできんじゃろ」
「ホムラ兄上は自分ができることは他人もできると信じてるからねぇ。この間も三日寝ないで仕事してたけど、侍従たちも三日寝られなかったらしくて兄上の宮は死屍累々だったらしいよぉ。鬼畜だよね」
呆れているレッカに妾も同意しかない。
絶対上司にしたくない男ナンバーワンじゃの。
しかし犬四頭が脱落ということは、さすがのホムラもアカネに追い抜かれてしまったのではなかろうか。
ところがーーー。
「どうなっておるんじゃ?」
道の真ん中で侍従に抱えられたアカネを発見!
そりは半壊、犬は丸めたしっぽを尻の下に。
犬の言葉はわからぬが、ぶるぶる体を震わせておるのを見ればとてつもない恐怖を味わったことは伝わってくる。
「な、何があったのじゃ?」
思わずそりを止めて侍従に訊ねる。
アカネは気を失っておるらしい。
「ホムラ様がアカネ様のそりに自分のそりをぶつけたのですよ!」
憤った侍従が鼻息荒く教えてくれた。
「あやつならやりそうじゃ」
「むしろ嬉々としてやってるのが目に浮かぶよねぇ」
「いくらなんでもやりすぎです! アカネ様は大怪我をするところでしたよ!」
アカネの侍従は怒りで顔が真っ赤になっておる。
「でもほら、これはレースだからさぁ」
「限度ってものがあるでしょう。しかも一回りも大人なんですよ! ホムラ様は弟君にひどすぎます」
確かにひっくり返ったそりは何度もぶつけられたらしく凹んでおるし、犬は震え上がってかわいそうなほどじゃ。
しかし、よく見るとそれ以外に損傷はない。
「ホムラ兄じゃは魔術を使わなかったのか?」
「魔術・・・・・・」
なぜか黙ってしまう侍従に、妾はピンときた。
ホムラはカッとなると魔術ではなく、腕力で相手を叩き伏せる習性があるのじゃ。
生意気盛りのアカネのことじゃ。
先に何か仕掛けたに違いない。
前例もあることだしの。
妾は氷の棘で覆われた雪道を思い出す。
「アカネ兄じゃは何をしたんじゃ? これほどやられるとは、あのホムラ兄じゃを相当怒らせたんじゃないのか?」
「そ、それは・・・・・・」
聞いてみると、侍従が言うにはーーー。
『ドカーーン!!』
後ろを走るアカネのそりから黒い球体が次々に飛んでくる。
ホムラは魔術で一メートルほどのバリアを張って背後を防いでいたが、魔力には限界がある。
アカネはただ持っている爆弾を投げるだけでいいのだ。
先ほどまで雪道を氷の棘に変えられ、即座に溶かすために魔力をそこそこ使ってしまっていたホムラはバリアを張り続けるのがキツくなっていた。
「いい加減にしろ! アカネ!」
「アハハハハハッ」
「やめないと本当に怒るぞ!」
「アハハッ、まだまだあるから次いくよー!」
『ドカーーン!!』
ついにアカネの投げた爆弾がホムラのバリアを貫通する。
直後、強烈なアンモニア臭にそりが包まれ、五頭の犬たちがキャンキャン鳴き喚いた。
「ぐゥッ、く、臭いッ! やめんかーー!!」
「アハハハハハハッ」
今まで全力で走らされていた犬たちもついに足を緩める。
まずシュッとした顔の二頭が脱落し、仕方なくホムラは首輪から縄を魔術で外した。
続いてさらに二頭。
犬たちは馬番が回収するか自力で宮に戻れるので大丈夫だ。
「まだまだあるよ~!」
アカネはそりに大量のアンモニア爆弾を積んでいるらしい。
どうにかせねばと思ったホムラは、スピードが落ちてしまった一頭引きのそりをアカネのそりの横に近づけた。
そしてーーー。
「ホムラ兄じゃがブチ切れてアカネを抹殺することにしたのじゃな」
「言い方・・・・・・」
気絶したアカネと悔しさに歯ぎしりしている侍従を置いて、妾たちはホムラを追っていた。
そろそろゴール地点が近いからか、騎士や侍女、侍従の姿がポツポツ雪道に現れている。
「バーミリオン様! がんばって~~」
「おお、バーミリオン様! 追いつけるかもしれませんよ!」
「ふぁいとーー! バーミリオン様!!」
「いや~ん、レッカ様! 今日も素敵!」
ん? なんか余計な声も聞こえた気がしたが。
まあ、いいじゃろう。
「次のカーブを曲がったらゴールですよ!」
騎士の声が聞こえて、妾は犬たちに声をかける。
「ハイヤーハイヤー! 急ぐのじゃあ~~!」
カーブを曲がった直後、一直線の木立の前に大きな背中が見えた。
「あ、兄上!」
レッカが妾の横を滑りながら「見て見て!」と叫んでおるが、もちろん見えておるわ。
じゃが、距離は百メートル以上離れておるし、ゴールはもうホムラの目の前じゃ。
さしもの妾もこれ以上はなす術もない。
そのとき、レッカが胸元から杖を取り出した。
「✳︎レーナク・ヤハ✳︎」
ワンワン隊に向けて魔術の白い光がキラキラ降り注ぐ。
途端に、妾のそりが前へ引っ張られた。
すでに疲労困憊しておった犬たちが、力を取り戻したかのようにぐんぐん走り出す。
「レッカ兄じゃ!」
「ふふふ、あの脳筋に勝たせるものか。今年こそ追い落としてふんぞり返ったバカ面を完膚なきまでに叩き潰してくれるわ。ヒッヒッヒッ」
なんか、レッカが悪い魔女みたいな顔で笑っておったが、大丈夫かの?
しかし、妾の戸惑いと共にレッカを置き去りにして、凄まじい速さでワンワン隊が走っていく。
まさに一陣の風となった妾は、ワンワン隊とそりと一体化したようにーーーというかそりにしがみついてーーーあっという間にホムラに追いついた。
「なぁにぃッッ!? バーミリオンではないかあ!!」
「声がでかいんじゃ」
「よく追いついてきたな! リトルシスターよ!!」
「だから声がでかすぎなんじゃ」
ホムラの声が大きくてゴール前に集まった騎士や侍従、侍女の声援が聞こえぬくらいじゃ。
「勝負勝負勝ぶ~~~うぅぅぅ!!」
「鼓膜がぁ」
うるさいホムラと妾のそりが並び、ゴールとなる庭園の門まで後二十メートル。
妾のそりはレッカの魔術がかけられた五頭の犬が、ホムラは足の短いずんぐりした大きな熊みたいな犬が一頭引いている。
そしてついにーーー。
「ゴーーーーーールッッッ!!」
並んでホムラと妾のそりが門を潜る。
そりが止まり、妾は周りを見渡した。
ホムラも同じく、判定を待っている。
門の左右に立っていた騎士二人が声を揃えて告げた。
「勝者!!
バーミリオン・ヘデス・ドラゴニア!!」
その瞬間、群衆の中から二人の侍女が飛びついてきた。
「やったわ~~! バーミリオン様!」
「勝ちましたよ、バーミリオン様!」
ミンミンとヤンヤンじゃ。
勝った、のか?
放心しておると、ザッザッと足音荒く巨体が近づいてきた。
「感服したぞ、バーミリオンよ!!」
「ホムラ兄じゃ。接戦じゃったな。運良く妾が勝てたようじゃ」
「うむ!! 一番弱そうなおまえが勝つとはな! おれも信じられん!!」
声が大きいし、デリカシーもないんじゃ。
「しかし、ホムラ兄じゃ。妾はレッカ兄じゃの魔術のおかげで勝ったわけで、よかったのかの?」
「何を言ってる! 支援を受けられたのはおまえだったからだ! レッカが他の兄弟に魔術を使うところなど初めて見たぞ!」
ようやく追いついてきたレッカが頷く。
「そうだよ、バーミリオン。他の兄弟になんて微塵も力を貸す気はないからねぇ。かわいい末の妹のためならぼくはなんでもしてあげるよぉ。来年のそりに困っているなら、ぼくが手を貸してあげてもいいぐらいさ」
「それは遠慮しておくのじゃ」
改造されたそりに乗って爆発炎上したくないからの。
というわけで、今年の犬ぞりレースは、なんとなんと! 妾の優勝で終わったのじゃ。
やはり次代の皇帝となる者は、いつでも勝利者になる運命にあるようじゃ。
この様子なら来年も再来年もずっとずっと妾が勝ってしまうかもしれぬな。
ふゎっはっはっはぁっ!
それでは、またの~~。
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