6 / 71
無人島漂流編
ふざけんな
しおりを挟む
『では天馬さん。いくらかこちらから説明がありますので、そのまま聞いてください』
「あの、その前にひとつ聞いてもいいですか?」
胸から取り出したタブレットの画面は、ビデオチャットのようなものになっており、ディーの顔が映し出されている。
天馬は、画面越しに対峙するディーの話を遮り、問いかけた。
『はい、私にお答えできることでしたら。それで、なんでしょうか?』
天馬はタブレットを持ったまま、山頂に鎮座する一つの岩に腰掛けた。
ゆっくりと視線を自分の胸に向けながら、天馬は口を開く。
「その、なんで俺の胸……こんなにでかくしたんですか? これじゃ少し邪魔というか、重くて動きづらいというか……」
天馬は、片手で自分の胸を持ち上げてみた。
すると、ずしりと重たい物を持った時と同じようなの感触が、手に伝わってくる。
実際ここに来るまでにも、この胸のせいで重心が前に傾き、危うく転倒しそうになったことが何回もあった。
これでは、この先の生活にすら支障があるのではと、天馬は危惧せざるを得なかった。
『それは大地の母たる地母神の象徴です。みだりに邪魔などとは口にしないように』
途端、ディーの顔が若干不機嫌なものに変化する。
しかし天馬はそれに気付かず、話を進めてしまう。
「いや、それにしたって大きすぎますって。何カップあるんですかこれ?」
『……いいではないですか、大きな胸……ないよりかはずっとマシだと思いますが……』
「それにしたって限度が……」
『(ぴきっ)……うるさいですね。そんなに邪魔なら今すぐにその脂肪の塊をもぎり取りますよ……』
「え……?」
急にドスの利いた声を出すディーに、天馬は思わず困惑する。
「あ、あの、ディーさん?」
『いいことを教えて差し上げます天馬さん。私、今では転生を担当しておりますが……こう見えても、以前は戦いを司る女神の一人だったんですよ』
口角を上げて凄みのある笑みを浮かべるディーに、天馬は背中から嫌な汗が吹き出てくるのを感じた。
「あの、それが胸の話と、どう関わりが……」
『私は、戦いに身をおく戦士としての側面を持って創造された女神です。ですので、動くのに邪魔な胸は必要ないということで、こんな『ちっぱい』として生まれたんですよ……』
「あ、これは触れたらあかんヤツや……」と思い至るも、時既に遅し。
ディーは自分の胸に手を当てて、気味の悪い嗤い声を漏らし始めた。
『ふふ……他の女神は皆してバインバインなのに、私だけ大平原ですよ、絶壁ですよ、真っ平らですよ! ええ確かに動くのには邪魔になりません。ええそうです、なりませんとも! 狭い通路ですれ違うときも皆は胸がお互いに邪魔で通りずらそうにしているのに、一人だけするりと通り抜けられちゃうんですよ、笑えますよね?!』
「う…………」
ひとり自虐大会が始まってしまったディーを前に、天馬は何も言ってやることができない。
『あんなもの脂肪の塊ですよ、そうですよ。あろうとなかろうと女の価値はそこじゃないですよ、心なんですよ。でも周りの男神共は皆して胸の大きな女神にいやらしい目を向けて、私が近くを通りがかるとまるで保護者のような慈愛に満ちた視線を送ってくるんですよ! なんなんですか? なんなんですかこれは?! やはり胸がない女は女じゃないとでも?! あの子供を見るような視線の意味はなんなんですか?! 子供ですか?! そのまま私を子供だと言いたいんですか?!』
徐々に意味不明なことを口走り始めたディーに、天馬はかなりドン引いていた。
タブレットの画面をできるだけ自分から遠ざけ、捲くし立てる彼女から少しでも距離を取ろうと試みる。
『それで天馬さん、あなたは先程なんて言ってましたかね? 大きすぎる胸が邪魔? そうですよね邪魔ですよね? でしたらそれ、私に下さい。ぶちりともぎ取って私専用の胸パッドにしますから。ええそれはもう一思いに……盛大にぶっちん、してやりますよ……』
「ごめんなさい、二度と邪魔なんて言いませんので、ぶっちんはやめてください」
天馬は出っ張った岩にタブレットを立て掛け、画面に向かって全力で土下座した。
「女神様よりいただいたこのお胸様を大事にし、慈しみを持って接することをここに誓います。ですのでどうか、ぶっちんだけはご容赦ください」
『……そうですか。胸の重要性をご理解いただけたようで何よりです。ですが、次にまた胸の件でごねた場合は、容赦なくぶっちんしますので、そのつもりで』
「わ、分かりました……」
ディーの前で、胸の話が禁句であることを、天馬は今日この時、しっかりと学んだ。
『コホン。では、話を戻します。まず、天馬さんが転生したその世界は、地球と同じような歴史の歩み方をしています。時代はだいたい……中世、という感じでしょうか』
「中世……まるっきりファンタジーの時代設定ですね」
『まぁ、設定というよりは、ちょうどそれくらいの時代に天馬さんが転生した、とうだけの話なんですけどね』
その他にも、この世界では人・森精霊・土精霊・獣人といった、人族に分類される者たちや、魔族とよばれる亜人種たちが暮らしていることが説明された。
『ちなみに、その世界には魔力と呼ばれる魔法を使う為の燃料はあるのですが、あえて魔法は普及させていません』
「え? そうなんですか?」
ディーの説明に、天馬は思わず聞き返してしまった。
森精霊なんて種族がいるのだから、てっきり魔法が盛んな世界なのだと勝手に思っていたのだが。
『はい。それというのも、魔法文明を発展させ過ぎると、今度は科学文明が全く進歩しなくなってしまうのです。魔法は非常に便利で、生活を豊かにしてくれるのですが、例えば火はなぜ燃えるのか、といった知識が広がらないまま、ただ漠然と『火が着くと燃える』、程度の認識しか世間に広まらないのです』
逆もまた然りなのですが、とディーは苦笑を浮かべ、天馬が元いた地球は、科学技術ばかりが発展してしまい、魔法という存在が完全に空想の産物と化してしまった、と言っていた。
「それって、地球でも魔法は使えたってことですか?」
『その通りです。と言っても、大分昔の話ですがね。近代に入り、殆どの人間からは魔法を扱える適性が消失しているので、実際に現代の地球上で魔法が使える人間は、ほぼ皆無と言っていいでしょう』
「……そうなんですか」
もしかしたら、向こうの世界でも魔法が使えたのかも、という淡い期待は、ディーの言葉で霧散した。
だが、結局は既にその世界から旅立ってしまった天馬には、もう関係のない話だと思い至る。
ただ、天馬は今に話で、ひとつ疑問に思ったことがあった。
「ディーさん、ちょっとした疑問なんですけど、この世界でも魔法を発展させなかったら、地球と同じ歴史を辿るのでは?」
『そうですね……ですがそこは、もう少しこの世界の住人が、科学の知識を持ち始めた頃にでも、天恵として知恵を与えようと考えています。それに、その世界には魔法適正の高い森精霊がいますので、一部の者は奇跡の御業として、密かに魔法を自己研鑽しているようですから、いきなり廃れるといった心配はないでしょう』
これから数百年という時間を掛け、少しずつ科学の知識を身に付けさせ、その基礎を元に魔法を使ってほしい、というのが、あの堕女神の世界に関する方針のようだ。
自堕落なように見えて、しっかり世界のことを考えていたと知り、内心で少し、評価を改める。
『他の異世界では、精霊に願うことで、魔法が発動すると思っている所もありましたが、精霊は事象そのものであって、意志はありません。なので、いくら彼らに願おうが、十分な効果を発揮する魔法は使用できません。魔法は使用者がどれくらいその魔法を発現させるイメージを明確にできるかで、効果や持続時間が向上します。それ故に、科学の基礎を身に付けさせることは、魔法の知識を十分に発展させる礎となりえるのです』
ただし、魔法の使用に当たっては、個人が体内に内包する魔力の総量、発現をより明確にするためのイメージ力、応用を利かせるための創造性や独創性といったセンスも、とても重要らしい。
しかし、日常的に使用するレベルの魔法であれば、飛び抜けた素養がなくとも、魔法は使えるという話だ。
だが、そのためには魔力というものを自覚できなければいけないということらしいが。
『私達の目標は、いまだ成功例がない、【現代魔法】を生み出すことです。地球の発展した科学技術と、魔法の融合。それが成ったとき、世界がどう進化するのか……それを観測し、新たな世界創造のモデルとしたいのです』
「ず、随分とスケールが大きな話ですね。そんな大役、俺で大丈夫なんですか? 今からかなり不安になってきたんですが……」
ディーの話を聞き、天馬は胃がずんと重くなる程のプレッシャーを感じた。
これまで一介の平社員に過ぎなかった天馬に、世界の行く末を導くことなどできるのだろうか。
今から不安に押し潰されそうである。
『そこは私たち先輩女神がフォローします。色々と助言もしますので、頑張ってください』
「簡単に言ってくれますねぇ……」
しかし、ここでグダグダと悩んでも前には進まない。
天馬は小さくため息を吐きながらも、できることだけでもやってみよう、と覚悟を決めた。
どうせ一度は無くした命。それなら、むしろ怖いものはない、と自分を奮い立たせる。
経緯はどうあれ、転生させもらったことに天馬は感謝していた。あのまま放置されていれば、消滅していた可能性ものあるのだ。
自分という存在が消えて無くなることを思えば、多少の無茶ぶりを許容してもいいだろう。
……ただ、世界の管理を押し付けられることが、多少、であるか否かは、賛否が分かれそうな所ではあるが。
『無理そうですか?』
「……いえ、分かりました。できる範囲で、やってみます」
『ありがとうございます。そう言っていただけて、私も一安心です……とはいえ、天馬さんはまずご自身の体に慣れなくてはいけません。それにともない、天馬さんにひとつ、ご協力頂きたいことがあります』
さっそくか、と天馬は気を引き締めた。
「ええ、俺のできる範囲でなら、いくらでも協力しますよ。それで、いったい何をすればいいんですか?」
少しくらい無茶な要求でも、快く引き受けよう、と天馬は笑顔で頷いて見せた。
『いい返事ですね、それではさっそくお願いしましょうか。とりあえず――そこの崖から『飛び降りて』みてください』
「ふざけんな」
即答で拒否であった。
「あの、その前にひとつ聞いてもいいですか?」
胸から取り出したタブレットの画面は、ビデオチャットのようなものになっており、ディーの顔が映し出されている。
天馬は、画面越しに対峙するディーの話を遮り、問いかけた。
『はい、私にお答えできることでしたら。それで、なんでしょうか?』
天馬はタブレットを持ったまま、山頂に鎮座する一つの岩に腰掛けた。
ゆっくりと視線を自分の胸に向けながら、天馬は口を開く。
「その、なんで俺の胸……こんなにでかくしたんですか? これじゃ少し邪魔というか、重くて動きづらいというか……」
天馬は、片手で自分の胸を持ち上げてみた。
すると、ずしりと重たい物を持った時と同じようなの感触が、手に伝わってくる。
実際ここに来るまでにも、この胸のせいで重心が前に傾き、危うく転倒しそうになったことが何回もあった。
これでは、この先の生活にすら支障があるのではと、天馬は危惧せざるを得なかった。
『それは大地の母たる地母神の象徴です。みだりに邪魔などとは口にしないように』
途端、ディーの顔が若干不機嫌なものに変化する。
しかし天馬はそれに気付かず、話を進めてしまう。
「いや、それにしたって大きすぎますって。何カップあるんですかこれ?」
『……いいではないですか、大きな胸……ないよりかはずっとマシだと思いますが……』
「それにしたって限度が……」
『(ぴきっ)……うるさいですね。そんなに邪魔なら今すぐにその脂肪の塊をもぎり取りますよ……』
「え……?」
急にドスの利いた声を出すディーに、天馬は思わず困惑する。
「あ、あの、ディーさん?」
『いいことを教えて差し上げます天馬さん。私、今では転生を担当しておりますが……こう見えても、以前は戦いを司る女神の一人だったんですよ』
口角を上げて凄みのある笑みを浮かべるディーに、天馬は背中から嫌な汗が吹き出てくるのを感じた。
「あの、それが胸の話と、どう関わりが……」
『私は、戦いに身をおく戦士としての側面を持って創造された女神です。ですので、動くのに邪魔な胸は必要ないということで、こんな『ちっぱい』として生まれたんですよ……』
「あ、これは触れたらあかんヤツや……」と思い至るも、時既に遅し。
ディーは自分の胸に手を当てて、気味の悪い嗤い声を漏らし始めた。
『ふふ……他の女神は皆してバインバインなのに、私だけ大平原ですよ、絶壁ですよ、真っ平らですよ! ええ確かに動くのには邪魔になりません。ええそうです、なりませんとも! 狭い通路ですれ違うときも皆は胸がお互いに邪魔で通りずらそうにしているのに、一人だけするりと通り抜けられちゃうんですよ、笑えますよね?!』
「う…………」
ひとり自虐大会が始まってしまったディーを前に、天馬は何も言ってやることができない。
『あんなもの脂肪の塊ですよ、そうですよ。あろうとなかろうと女の価値はそこじゃないですよ、心なんですよ。でも周りの男神共は皆して胸の大きな女神にいやらしい目を向けて、私が近くを通りがかるとまるで保護者のような慈愛に満ちた視線を送ってくるんですよ! なんなんですか? なんなんですかこれは?! やはり胸がない女は女じゃないとでも?! あの子供を見るような視線の意味はなんなんですか?! 子供ですか?! そのまま私を子供だと言いたいんですか?!』
徐々に意味不明なことを口走り始めたディーに、天馬はかなりドン引いていた。
タブレットの画面をできるだけ自分から遠ざけ、捲くし立てる彼女から少しでも距離を取ろうと試みる。
『それで天馬さん、あなたは先程なんて言ってましたかね? 大きすぎる胸が邪魔? そうですよね邪魔ですよね? でしたらそれ、私に下さい。ぶちりともぎ取って私専用の胸パッドにしますから。ええそれはもう一思いに……盛大にぶっちん、してやりますよ……』
「ごめんなさい、二度と邪魔なんて言いませんので、ぶっちんはやめてください」
天馬は出っ張った岩にタブレットを立て掛け、画面に向かって全力で土下座した。
「女神様よりいただいたこのお胸様を大事にし、慈しみを持って接することをここに誓います。ですのでどうか、ぶっちんだけはご容赦ください」
『……そうですか。胸の重要性をご理解いただけたようで何よりです。ですが、次にまた胸の件でごねた場合は、容赦なくぶっちんしますので、そのつもりで』
「わ、分かりました……」
ディーの前で、胸の話が禁句であることを、天馬は今日この時、しっかりと学んだ。
『コホン。では、話を戻します。まず、天馬さんが転生したその世界は、地球と同じような歴史の歩み方をしています。時代はだいたい……中世、という感じでしょうか』
「中世……まるっきりファンタジーの時代設定ですね」
『まぁ、設定というよりは、ちょうどそれくらいの時代に天馬さんが転生した、とうだけの話なんですけどね』
その他にも、この世界では人・森精霊・土精霊・獣人といった、人族に分類される者たちや、魔族とよばれる亜人種たちが暮らしていることが説明された。
『ちなみに、その世界には魔力と呼ばれる魔法を使う為の燃料はあるのですが、あえて魔法は普及させていません』
「え? そうなんですか?」
ディーの説明に、天馬は思わず聞き返してしまった。
森精霊なんて種族がいるのだから、てっきり魔法が盛んな世界なのだと勝手に思っていたのだが。
『はい。それというのも、魔法文明を発展させ過ぎると、今度は科学文明が全く進歩しなくなってしまうのです。魔法は非常に便利で、生活を豊かにしてくれるのですが、例えば火はなぜ燃えるのか、といった知識が広がらないまま、ただ漠然と『火が着くと燃える』、程度の認識しか世間に広まらないのです』
逆もまた然りなのですが、とディーは苦笑を浮かべ、天馬が元いた地球は、科学技術ばかりが発展してしまい、魔法という存在が完全に空想の産物と化してしまった、と言っていた。
「それって、地球でも魔法は使えたってことですか?」
『その通りです。と言っても、大分昔の話ですがね。近代に入り、殆どの人間からは魔法を扱える適性が消失しているので、実際に現代の地球上で魔法が使える人間は、ほぼ皆無と言っていいでしょう』
「……そうなんですか」
もしかしたら、向こうの世界でも魔法が使えたのかも、という淡い期待は、ディーの言葉で霧散した。
だが、結局は既にその世界から旅立ってしまった天馬には、もう関係のない話だと思い至る。
ただ、天馬は今に話で、ひとつ疑問に思ったことがあった。
「ディーさん、ちょっとした疑問なんですけど、この世界でも魔法を発展させなかったら、地球と同じ歴史を辿るのでは?」
『そうですね……ですがそこは、もう少しこの世界の住人が、科学の知識を持ち始めた頃にでも、天恵として知恵を与えようと考えています。それに、その世界には魔法適正の高い森精霊がいますので、一部の者は奇跡の御業として、密かに魔法を自己研鑽しているようですから、いきなり廃れるといった心配はないでしょう』
これから数百年という時間を掛け、少しずつ科学の知識を身に付けさせ、その基礎を元に魔法を使ってほしい、というのが、あの堕女神の世界に関する方針のようだ。
自堕落なように見えて、しっかり世界のことを考えていたと知り、内心で少し、評価を改める。
『他の異世界では、精霊に願うことで、魔法が発動すると思っている所もありましたが、精霊は事象そのものであって、意志はありません。なので、いくら彼らに願おうが、十分な効果を発揮する魔法は使用できません。魔法は使用者がどれくらいその魔法を発現させるイメージを明確にできるかで、効果や持続時間が向上します。それ故に、科学の基礎を身に付けさせることは、魔法の知識を十分に発展させる礎となりえるのです』
ただし、魔法の使用に当たっては、個人が体内に内包する魔力の総量、発現をより明確にするためのイメージ力、応用を利かせるための創造性や独創性といったセンスも、とても重要らしい。
しかし、日常的に使用するレベルの魔法であれば、飛び抜けた素養がなくとも、魔法は使えるという話だ。
だが、そのためには魔力というものを自覚できなければいけないということらしいが。
『私達の目標は、いまだ成功例がない、【現代魔法】を生み出すことです。地球の発展した科学技術と、魔法の融合。それが成ったとき、世界がどう進化するのか……それを観測し、新たな世界創造のモデルとしたいのです』
「ず、随分とスケールが大きな話ですね。そんな大役、俺で大丈夫なんですか? 今からかなり不安になってきたんですが……」
ディーの話を聞き、天馬は胃がずんと重くなる程のプレッシャーを感じた。
これまで一介の平社員に過ぎなかった天馬に、世界の行く末を導くことなどできるのだろうか。
今から不安に押し潰されそうである。
『そこは私たち先輩女神がフォローします。色々と助言もしますので、頑張ってください』
「簡単に言ってくれますねぇ……」
しかし、ここでグダグダと悩んでも前には進まない。
天馬は小さくため息を吐きながらも、できることだけでもやってみよう、と覚悟を決めた。
どうせ一度は無くした命。それなら、むしろ怖いものはない、と自分を奮い立たせる。
経緯はどうあれ、転生させもらったことに天馬は感謝していた。あのまま放置されていれば、消滅していた可能性ものあるのだ。
自分という存在が消えて無くなることを思えば、多少の無茶ぶりを許容してもいいだろう。
……ただ、世界の管理を押し付けられることが、多少、であるか否かは、賛否が分かれそうな所ではあるが。
『無理そうですか?』
「……いえ、分かりました。できる範囲で、やってみます」
『ありがとうございます。そう言っていただけて、私も一安心です……とはいえ、天馬さんはまずご自身の体に慣れなくてはいけません。それにともない、天馬さんにひとつ、ご協力頂きたいことがあります』
さっそくか、と天馬は気を引き締めた。
「ええ、俺のできる範囲でなら、いくらでも協力しますよ。それで、いったい何をすればいいんですか?」
少しくらい無茶な要求でも、快く引き受けよう、と天馬は笑顔で頷いて見せた。
『いい返事ですね、それではさっそくお願いしましょうか。とりあえず――そこの崖から『飛び降りて』みてください』
「ふざけんな」
即答で拒否であった。
0
お気に入りに追加
98
あなたにおすすめの小説
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
30年待たされた異世界転移
明之 想
ファンタジー
気づけば異世界にいた10歳のぼく。
「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」
こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。
右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。
でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。
あの日見た夢の続きを信じて。
ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!
くじけそうになっても努力を続け。
そうして、30年が経過。
ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。
しかも、20歳も若返った姿で。
異世界と日本の2つの世界で、
20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。
【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。
お馬鹿な聖女に「だから?」と言ってみた
リオール
恋愛
だから?
それは最強の言葉
~~~~~~~~~
※全6話。短いです
※ダークです!ダークな終わりしてます!
筆者がたまに書きたくなるダークなお話なんです。
スカッと爽快ハッピーエンドをお求めの方はごめんなさい。
※勢いで書いたので支離滅裂です。生ぬるい目でスルーして下さい(^-^;
王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません
きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」
「正直なところ、不安を感じている」
久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー
激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。
アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。
第2幕、連載開始しました!
お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。
以下、1章のあらすじです。
アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。
表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。
常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。
それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。
サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。
しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。
盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。
アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?
凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる