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おちょくられるエルフ
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「カイト、これで全部だけど、なにかわからないこととかあった?」
「いや、これと言ってとくには。話の途中ですまなかったな」
「ううん。別にいいわよ。カイトはまだここに慣れていないんだもの。これからも、なにかあったらすぐに訊いてね」
「ああ。そうさせてもらう」
そうして、一通りに説明を受けた海斗の正面で、エリスが海斗に訝しげな視線を向けていた。
「……まぁ、わからないことがあるのは致し方ありませんが……いくら田舎の出自だと言いましても、管理異宝くらいは知っているのでなくて? どんなところに住んでいれば、そんな無知な状況ができあがりますの?」
と、アルフとは違い、このエリスは海斗の田舎出身の設定を疑っているようだった。
海斗は涼しい顔でそれを受け止めるが、となりに座るイズナは目が泳ぎまくっている。
……もう少しこの女は、ポーカーフェイスというものを覚えたほうがいいな。
海斗はでまかせの上に、さらなる嘘を重ねることにした。
「ああ、それはな、俺たちは基本――裸族なんだ」
「「へ?」」
二人の少女が声を被せる。イズナもエリスも驚愕の表情を海斗に向けるが、かまわず先を続けた。
「村の男も女も、衣服などというものは一切身に着けない。老いも若いも関係なく、みんな葉っぱのみで急所を隠している。木を削いで作った槍で獲物を狩り、しなる枝で弓を作り打ち落とす。そんな原始の生活を今も伝統的に守っている。それが、俺たちだ。なんなら、今からここで服を脱ぐか?」
そう口にすると、海斗は椅子から僅かに腰を浮かせ、ズボンを脱ぐジェスチャーをする。
「いいっ、いいえっ、結構ですわ! わ、わかりましたわっ、信じます! 信じますから、ズボンに手をかけるのはおやめくださいな!」
長く尖った耳の先まで真っ赤に染めながら、慌てて海斗を止めにかかるエリス。その近くではイズナまでもが顔を朱に染めて海斗の下半身を凝視していた。
もちろん海斗とて、この場で裸になるような誰得かもわからないストリップを披露するつもりは毛頭ない。
というか、イズナはこれがでたらめだと知っているだろうに。
なぜエリスと一緒になって顔を赤くしているんだ……。
「そうか、残念だ」
「残念!? 貴方、そういう趣味がおありなのですか!?」
「冗談だ、本気にするな」
「なっ――!?」
このエリスという少女も、イズナに似たり寄ったりでバカ正直なところがあるようだ。
しかし、海斗にしては珍しく、相手をからかって面白がっているふしがある。表情にこそ出さないが、エリスの悔しそうな顔を見ていて、気分が高揚しているようだ。
「~~~~~~っ、イズナ様っ、今すぐにこの方と別れることを提案いたしますわ! このままでは、いずれ襲われてしまうかもしれませんよ! もちろん、性的に!」
「せ、せい――?!」
「よさないか、こんな場所で下ネタなど、はしたない」
「もとはと言えば貴方が脱ぐとか言い出したせいではありませんの!」
顔を上気させながら声を荒立てるエリス。見た目の幼さも手伝って、非常に嗜虐心をそそられる。
「せ、性的……せ、せ――ぷしゅ~~」
「ああ、イズナ様!?」
なにを想像したのか、イズナは頭から煙を出して目を回していた。
そんなイズナの様子に慌てたエリスは、彼女の肩を掴むなり、ガクガクと揺さ振った。
周りの客たちからは、好奇の目が向けられているが、なぜかその温度は冷たいものと生温かいものとが同居していた。
海斗は、こっそりと周囲に目を向けてみる。冷ややかな視線は主に男性から。ぬるい視線は、すべて女性客からであった。
男連中の視線の先には、海斗と二人の少女が映っている。見てくれはいい二人だ。回りの男共が注目するのもわかる。海斗のことは、おおかた女二人を侍らせた軟派男だとでも思っているのだろう。
「――はっ、あたしは、なにを? うぐ、首が痛い……」
エリスに無理に揺さ振られたせいで首を痛めたらしい。
まぁ、その甲斐あってか、すぐに目を覚ましたようだが。
「も、申し訳ありませんわ。ですが、それこれもみんな、この男のせいですわよ!」
「いや、そっちが一人で勝手に勘違いして暴走したのだろうが」
「って! 誤解させるような冗談を言ったのは、貴方ではありまんか!」
今にもテーブルを超えて飛び掛ってきそうなエリス。椅子の上に立ち上がり、手を付いた前傾姿勢で海斗を睨みつけてくる。だが、いかんせん見た目の幼さなさのせいで迫力に欠ける。
ヘルメスにいたときは多少なりとも大人びて見えていたのに、プライベートになった途端、随分と子供っぽく見えてしまう。
ある意味、オンとオフの切り替えがうまいのだろうが、これを羨むことはできそうもない。
「もう本当になんなんですかっ? なんなんですかっ、貴方は!?」
エリスがさらに海斗に詰め寄ろうとしたときだ、
「――エリスさん、少々うるさいですよ。ここは動物園ではないのですから、他のお客様に配慮して、もう少し静かにしてください」
そう口にしたのは、黒のワンピースに白のエプロンドレス――ようはメイド服――姿の、
妙齢の女性だった。
「いや、これと言ってとくには。話の途中ですまなかったな」
「ううん。別にいいわよ。カイトはまだここに慣れていないんだもの。これからも、なにかあったらすぐに訊いてね」
「ああ。そうさせてもらう」
そうして、一通りに説明を受けた海斗の正面で、エリスが海斗に訝しげな視線を向けていた。
「……まぁ、わからないことがあるのは致し方ありませんが……いくら田舎の出自だと言いましても、管理異宝くらいは知っているのでなくて? どんなところに住んでいれば、そんな無知な状況ができあがりますの?」
と、アルフとは違い、このエリスは海斗の田舎出身の設定を疑っているようだった。
海斗は涼しい顔でそれを受け止めるが、となりに座るイズナは目が泳ぎまくっている。
……もう少しこの女は、ポーカーフェイスというものを覚えたほうがいいな。
海斗はでまかせの上に、さらなる嘘を重ねることにした。
「ああ、それはな、俺たちは基本――裸族なんだ」
「「へ?」」
二人の少女が声を被せる。イズナもエリスも驚愕の表情を海斗に向けるが、かまわず先を続けた。
「村の男も女も、衣服などというものは一切身に着けない。老いも若いも関係なく、みんな葉っぱのみで急所を隠している。木を削いで作った槍で獲物を狩り、しなる枝で弓を作り打ち落とす。そんな原始の生活を今も伝統的に守っている。それが、俺たちだ。なんなら、今からここで服を脱ぐか?」
そう口にすると、海斗は椅子から僅かに腰を浮かせ、ズボンを脱ぐジェスチャーをする。
「いいっ、いいえっ、結構ですわ! わ、わかりましたわっ、信じます! 信じますから、ズボンに手をかけるのはおやめくださいな!」
長く尖った耳の先まで真っ赤に染めながら、慌てて海斗を止めにかかるエリス。その近くではイズナまでもが顔を朱に染めて海斗の下半身を凝視していた。
もちろん海斗とて、この場で裸になるような誰得かもわからないストリップを披露するつもりは毛頭ない。
というか、イズナはこれがでたらめだと知っているだろうに。
なぜエリスと一緒になって顔を赤くしているんだ……。
「そうか、残念だ」
「残念!? 貴方、そういう趣味がおありなのですか!?」
「冗談だ、本気にするな」
「なっ――!?」
このエリスという少女も、イズナに似たり寄ったりでバカ正直なところがあるようだ。
しかし、海斗にしては珍しく、相手をからかって面白がっているふしがある。表情にこそ出さないが、エリスの悔しそうな顔を見ていて、気分が高揚しているようだ。
「~~~~~~っ、イズナ様っ、今すぐにこの方と別れることを提案いたしますわ! このままでは、いずれ襲われてしまうかもしれませんよ! もちろん、性的に!」
「せ、せい――?!」
「よさないか、こんな場所で下ネタなど、はしたない」
「もとはと言えば貴方が脱ぐとか言い出したせいではありませんの!」
顔を上気させながら声を荒立てるエリス。見た目の幼さも手伝って、非常に嗜虐心をそそられる。
「せ、性的……せ、せ――ぷしゅ~~」
「ああ、イズナ様!?」
なにを想像したのか、イズナは頭から煙を出して目を回していた。
そんなイズナの様子に慌てたエリスは、彼女の肩を掴むなり、ガクガクと揺さ振った。
周りの客たちからは、好奇の目が向けられているが、なぜかその温度は冷たいものと生温かいものとが同居していた。
海斗は、こっそりと周囲に目を向けてみる。冷ややかな視線は主に男性から。ぬるい視線は、すべて女性客からであった。
男連中の視線の先には、海斗と二人の少女が映っている。見てくれはいい二人だ。回りの男共が注目するのもわかる。海斗のことは、おおかた女二人を侍らせた軟派男だとでも思っているのだろう。
「――はっ、あたしは、なにを? うぐ、首が痛い……」
エリスに無理に揺さ振られたせいで首を痛めたらしい。
まぁ、その甲斐あってか、すぐに目を覚ましたようだが。
「も、申し訳ありませんわ。ですが、それこれもみんな、この男のせいですわよ!」
「いや、そっちが一人で勝手に勘違いして暴走したのだろうが」
「って! 誤解させるような冗談を言ったのは、貴方ではありまんか!」
今にもテーブルを超えて飛び掛ってきそうなエリス。椅子の上に立ち上がり、手を付いた前傾姿勢で海斗を睨みつけてくる。だが、いかんせん見た目の幼さなさのせいで迫力に欠ける。
ヘルメスにいたときは多少なりとも大人びて見えていたのに、プライベートになった途端、随分と子供っぽく見えてしまう。
ある意味、オンとオフの切り替えがうまいのだろうが、これを羨むことはできそうもない。
「もう本当になんなんですかっ? なんなんですかっ、貴方は!?」
エリスがさらに海斗に詰め寄ろうとしたときだ、
「――エリスさん、少々うるさいですよ。ここは動物園ではないのですから、他のお客様に配慮して、もう少し静かにしてください」
そう口にしたのは、黒のワンピースに白のエプロンドレス――ようはメイド服――姿の、
妙齢の女性だった。
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