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♯1
難を逃れて……
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ヴァイスリザードが大樹に押し潰されてから数十秒後。
二人は互いに身を硬くし、イズナは海斗の身体を守るかのように、抱きしめていた。
海斗は、ちょうどの彼女の胸に顔を埋めた状態で、頭を完璧にロックされている。
「た、助かった?」
硬く閉じられていた瞳を開き、辺りを確認するイズナ。
先ほどまでの喧騒は完全になりを潜め、周囲は耳が痛いくらいに静まり返っていた。
「………………もご」
「助かったのよ、ね?」
「………………………………む~」
胸元に抱きしめる海斗に向かって問いかけるが、返事はない。
「ちょ、ちょっと、大丈夫っ? あ、あたし達、助かったのよ!」
歓喜に沸き立つイズナの声。それを聞きつつ、海斗は苦しそうに身をよじらせた。
「……………せ」
もごもごとなにかを口にする海斗。
「え? なに? 聴こえないよ?」
「……なせ」
「うん?」
海斗を抱きしめたまま、さらに耳を近づけるイズナ。
「――放せと言ってるんだ、このドアホウが!」
「わぁ!」
いきなりの大きな声に、イズナは慌てて海斗の頭を解放した。
「ぜぇ――ぜぇ――ぜぇ――」
先ほどまでのイズナと同様か、それ以上に呼吸が乱れまくっている海斗。
「――ま、まさか最後に、貴様に、殺され、かけるとは……」
今のいままでイズナの胸に顔を埋めていた海斗は、呼吸器官をすべてその柔肉にふさがれてしまい、危うく窒息する一歩手前であった。
ようやく危機を脱したというのに、これでは締まらないどころの話ではない。
「あ、ははは……ご、ごめん、なさい」
イズナは、力なく笑いながら謝ってきた。
「……まぁ、いい」
「うん。ごめんなさい」
「だから、いいと言っている。それ以上謝るなら、今度は許さんぞ」
「……うん」
「? おい、どうした?」
海斗は、イズナの様子がどこおかしいことに気づいた。
頬が上気し、目の焦点も合っていない。その身体は、まるで案山子のようにユラユラと揺れている。
「……たぶん、スキルを、使いすぎた――」
「っ、おい!」
ゆっくりと、イズナが地面に崩れ落ちた。
「……大丈夫。少ししたら……回復、するから」
とても大丈夫そうには見えなかった。
試しに額に手を当ててみたがとても熱い。運動した直後にしてもこれは異常だ。
海斗は周囲を見渡すが、深い森が広がるばかりで、助けなど期待できそうもない。
仮に、助けを呼ぼうにもどっちに向かっていいのかもわからないありさまだった。
「くそっ。おい、寝るのはかまわんが、その前にどっちに向かえばかいいかだけ答えろ」
「え……?」
「いいから、答えろ!」
イズナの瞼は既に半分以上落ちてきている。一刻も早く意識のブレーカーを落とさせろと訴えているようだ。
そのため、海斗は捲くし立てるようにイズナに返答を急がせた。
「た、ぶん、あっ……ち……――――――」
力なく、森の奥に指をさすと、イズナは意識を失った。
「……わかった」
彼女が指さした方角を見つめて、海斗は一つ息を吐いた。
「……この件は、これでチャラだ」
すると、汗に濡れて血の滲むイズナの身体を気にすることもなく、海斗は、彼女を背負った。
イズナの身体は、とても軽かった。とても、今まで海斗を抱きかかえて、あの化け物から逃げ回っていたとは思えないほどに。
「すぅ……すぅ……」
ひどい熱があるにも拘らず、穏やかな寝息を立てるイズナ。
海斗は、どこか居心地悪そうにため息をつくと、彼女が示した方角に向かって、ゆっくりと歩き出した。
二人は互いに身を硬くし、イズナは海斗の身体を守るかのように、抱きしめていた。
海斗は、ちょうどの彼女の胸に顔を埋めた状態で、頭を完璧にロックされている。
「た、助かった?」
硬く閉じられていた瞳を開き、辺りを確認するイズナ。
先ほどまでの喧騒は完全になりを潜め、周囲は耳が痛いくらいに静まり返っていた。
「………………もご」
「助かったのよ、ね?」
「………………………………む~」
胸元に抱きしめる海斗に向かって問いかけるが、返事はない。
「ちょ、ちょっと、大丈夫っ? あ、あたし達、助かったのよ!」
歓喜に沸き立つイズナの声。それを聞きつつ、海斗は苦しそうに身をよじらせた。
「……………せ」
もごもごとなにかを口にする海斗。
「え? なに? 聴こえないよ?」
「……なせ」
「うん?」
海斗を抱きしめたまま、さらに耳を近づけるイズナ。
「――放せと言ってるんだ、このドアホウが!」
「わぁ!」
いきなりの大きな声に、イズナは慌てて海斗の頭を解放した。
「ぜぇ――ぜぇ――ぜぇ――」
先ほどまでのイズナと同様か、それ以上に呼吸が乱れまくっている海斗。
「――ま、まさか最後に、貴様に、殺され、かけるとは……」
今のいままでイズナの胸に顔を埋めていた海斗は、呼吸器官をすべてその柔肉にふさがれてしまい、危うく窒息する一歩手前であった。
ようやく危機を脱したというのに、これでは締まらないどころの話ではない。
「あ、ははは……ご、ごめん、なさい」
イズナは、力なく笑いながら謝ってきた。
「……まぁ、いい」
「うん。ごめんなさい」
「だから、いいと言っている。それ以上謝るなら、今度は許さんぞ」
「……うん」
「? おい、どうした?」
海斗は、イズナの様子がどこおかしいことに気づいた。
頬が上気し、目の焦点も合っていない。その身体は、まるで案山子のようにユラユラと揺れている。
「……たぶん、スキルを、使いすぎた――」
「っ、おい!」
ゆっくりと、イズナが地面に崩れ落ちた。
「……大丈夫。少ししたら……回復、するから」
とても大丈夫そうには見えなかった。
試しに額に手を当ててみたがとても熱い。運動した直後にしてもこれは異常だ。
海斗は周囲を見渡すが、深い森が広がるばかりで、助けなど期待できそうもない。
仮に、助けを呼ぼうにもどっちに向かっていいのかもわからないありさまだった。
「くそっ。おい、寝るのはかまわんが、その前にどっちに向かえばかいいかだけ答えろ」
「え……?」
「いいから、答えろ!」
イズナの瞼は既に半分以上落ちてきている。一刻も早く意識のブレーカーを落とさせろと訴えているようだ。
そのため、海斗は捲くし立てるようにイズナに返答を急がせた。
「た、ぶん、あっ……ち……――――――」
力なく、森の奥に指をさすと、イズナは意識を失った。
「……わかった」
彼女が指さした方角を見つめて、海斗は一つ息を吐いた。
「……この件は、これでチャラだ」
すると、汗に濡れて血の滲むイズナの身体を気にすることもなく、海斗は、彼女を背負った。
イズナの身体は、とても軽かった。とても、今まで海斗を抱きかかえて、あの化け物から逃げ回っていたとは思えないほどに。
「すぅ……すぅ……」
ひどい熱があるにも拘らず、穏やかな寝息を立てるイズナ。
海斗は、どこか居心地悪そうにため息をつくと、彼女が示した方角に向かって、ゆっくりと歩き出した。
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