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99.野望のためにリハビリを頑張ります。

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「お嬢様、ちゃんと手を動かそうと真剣に思っていますか?」
「思っているわよ、失礼ね。」
「アーサー様に甘えようと思っているのではありませんか?」
「思っている訳ないでしょう。こんなの緊張して味がよく分からないわよ。」
「そうですか、疑って失礼しました。」

口は動く、首も動く、目も動かせるわ。でも動かせるのはそこまで、指ですらぴくりとも動かないの。生まれたばかりの赤ちゃんだってもう少し動かせるわ。もちろん座るのも一人では無理で、もたれかからないと倒れてしまうの。仕方なくアーサーのお膝の上にちょこんと座り、アーサーに支えてもらいながら、私の手を動かしてもらって感覚をつかむ練習中。本当に心臓がやばいんですってば。朝は大好きな人の寝顔を間近で見ちゃったし、いまはお膝にちょこんよ。ちょこん。この状況に耐えてるだけでも褒めて欲しいくらいだわ。これはもう、メンタルのリハビリだわ。もう少し恋愛初心者を優しく扱って下さい…。誰か助けて。

食事がなんとか終わり、いまは手をあげる練習中。椅子に座らされ倒れないようにクッションを挟んでなんとか座りながら、テーブルの上に置いてもらった手に、上がってって頼んでいるところ。ほんの少しでいいから上がって、お願いよ上がってよ。アーサーはにこにこしながら私を見ているけど、なにかアドバイスとかないのかしら?そんなことを思っていたら、お兄様がお部屋に入ってきたわ。
「マリー頑張っているね。どんな感じ?」
「お兄様、手が全く動かないんです。」
「マリーはどうやって動かそうと思っているの?」

「えっと、魔法の時のように、念じる感じです。動け~って。」
「うーん、もっとこう細かくイメージしてみたら、例えば最初から上げるんじゃなくて指先だけそれも小指だけとかやってみたらどうかな?」
私の欲しかったのはこれよ、これ。こういうアドバイスよ。お兄様流石ですわ。
「お兄様、私のリハビリの先生になって下さい。お願いします。」

「いいけどアーサーじゃだめなの?」
「だってアーサーは見ているだけなんですもの。」
あれ、アーサーが泣きそうになっちゃったわ。
「マリーごめんね。僕も一生懸命考えるからマルクと一緒に手伝わせて。」
「仕方ないわね。ちゃんと考えてよ。」
「うん、約束するから。」

「それじゃあ、さっき言ったように、まずは小指だけ動かそうとしてみて。」
「はい、分かりましたわ。」
小指さん少しだけ動いてね。
「あら、ちょっとだけど動いた気がします。」
「そうだね、少し動いたね。上手だよ僕の天使!」

「サリーそこの羽根ペン貸して。」
「そんなものどうするんですか?」
「指に教えてあげるの。この指だよって。」
お兄様が羽根ペンで小指を触るとぴくっと小指を動かせた。
「お兄様小指がはっきり動きました。感動です。見ましたか?」
「うん、凄いよマリー!その調子だよ。」
結局この日はお兄様のおかげで指を動かす感覚を取り戻すことができたわ。でも想像以上に時間がかかりそうね。まだぴくっと指を順番に動かせただけだもの。

明日も続けて練習したかったけど、明日はリハビリはお休みして、アーサーのお家にご挨拶に行くことになったの。まだ全然体が動かないのに大丈夫かしら?でもブルサンダー公爵家の皆さまがどうしても早く会いたいと言ってくださってるみたいだし、アーサーもせっかく誤解が解けたのに一度も帰ってないって言うし行くしかないわよね。アーサーにもアーサーのお母様とお父様とも仲良くしてもらいたいもの。

それに小さい頃のアーサーの事も沢山教えてあげたいわ。泣き虫だった事。剣が上手だったこと。好き嫌いないとか言ってるけど、からいのと酸っぱいのが苦手なこととか…。私のできることといったらこれくらいだものね。喜んでくれたら嬉しいな。

それにしてもどうしてこんな事になってしまったのかしら。右にお父様、左にお母様、これって川の字ってやつよね。私、17歳よね…。きっかけは夕食の時に、お父様とお母様に、もっと甘えて欲しいって言われて、とくに思いつかなくて、逆にどんな事が甘えることになるんでしょうか?って聞いたのよね。そうしたらじゃあ一緒に寝てあげようって言われて、余りにも嬉しそうなお父様の顔を見ていたら断れなくなってしまったのよね。たしかに動けないけど精神年齢は赤ちゃんじゃないわ。二度とお父様に意見は聞かないわ。


せっかくだから目の保養でもさせて頂くわ。お父様ったら相変わらずカッコいいわね。元々優しい顔立ちのお父様だけど、ブロッサがカッコいいっていうのも頷けるわ。前世で言うアイドルにいそうな顔立ちよね。お母様もいつまでも綺麗ね。こんなに近くで見ても毛穴はどこかしら?スタイルもどうして崩れないのかしら?

だけど親孝行できた気がするわ。寝ているのにこんなに幸せそうな顔して、お父様もお母様も手まで繋いでくれて…。お父様、お母様、私を愛してくれてありがとうございます。

起きた時にお母様に抱きしめられており、お母様の見事な胸の谷間に私の顔が入り込み、窒息しかけたのは三人の内緒のお話です。おかげで今日から川の字で寝ることはなくなりました…。
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