上 下
37 / 123

37.ブロッサside

しおりを挟む
【ブロッサside】~前世を思い出して~

村で唯一のお祭りの日、私は仮病をつかって家にいた。みんな、よく働くわね。私の母さんも、父さんが魔獣に殺されてから一人で私を育ててくれているから感謝はしているけど、ほんとに口うるさくて。でも本当は、私が病気した時とかすごく優しいから、普段は文句ばかり言っているけど大好きなのよね。シングルマザーって本当に大変よね。あれ?ちょっと待って、シングルマザーって何だっけ?ああ、そういう事。色々と納得だわ。ずっと違和感があったのよね。ピンクの髪とか、魔法とか。私は突然前世の日本人の記憶を思い出した。そしてすんなり受け入れた。

前世の私は日本の高校三年生の女の子だった。そこまでしか記憶がないから、たぶんあの大地震で死んじゃったのね。私には一つ下の妹がいて、美少女姉妹何て言われてたけど、私にとって、唯一心を許せるのが妹だった。前世も家はシングルマザーで、ママは忙しかったから、私は散々告白されてモテまくっていたけど正直あんまり男の子と遊んだ記憶はない。いつも私は妹と二人で家事を分担して生活していた。妹はちょっと変わっていて、テレビも見ずにいつも家でゲームばかりしていた。それもママの友達が作ったとかいう乙女ゲーム。お金がないからゲームなんてそれくらいしかなかったけど、『ラブリー魔法学園のハッピーマジック』一回目は一緒にやったわ。流石に何回もやる気にはなれなかったけど。あみちゃん(妹)は飽きずにいつもやってたわね。

だけど、あみちゃんは攻略対象者に興味がなくて、何故かヒロインの肩にいつも乗っていた金色の小りすが好きで。あみちゃんに会いたいな。お姉ちゃん大好きっていつも言ってくれて、どんなにご飯を失敗しても美味しいって食べてくれてた。何回もお姉ちゃんはヒロインみたいに優しいねって言ってくれたけどそんなことないんだよ…。他の友達みたいに遊びに行って、家事なんてしたくないっていつも思っていたし、男の子に微笑んで掃除当番何回も変わってもらって早く帰ってきてたし、昼ご飯も何度もご馳走してもらったっけ。本当は結構ずるいお姉ちゃんだったんだよ。それでもあみちゃんなら許してくれそうだけど。

そのゲームのヒロインの名前がブロッサだったわ。どう見たって、私がブロッサじゃない。見た目そのものだもの。ふわふわのピンクの髪に、ピンクの瞳…。ゲームの内容もイベントもバッチリ覚えているわ。母さんには適当に説明して、平民街に行かなくっちゃ。私はもう十五歳だから、はやり病が流行っているはず。早く治しに行って、攻略対象者に会って、母さんをお金持ちにしてあげるわ。村長さんが貴族の人は何もしてくれないって言ってたからその人たちからお金を取ってきて、この村の人にも贅沢をさせてあげるわ。だってここの村の人達は本当にいい人達なんだもの。父さんが死んでからもすごくよくしてくれて…。そうと決まれば急がないと。

何だか外がうるさいわね。
「ブロッサ、大変だ。魔獣が出て、お前の母さんが重傷だぞ!」
私は慌てて母さんのところまで行った。初めてだけど、光魔法を使おうと思ったのに、間に合わなかった。
母さんは私にいつもうっとうしいくらいの愛情をいっぱいくれた。死なないでよ。
最後に母さんは、
「必ず、幸せになるのよ。ブロッサが生まれてきてくれて嬉しかったよ。」
って笑顔で私に言って息絶えた。

母さんと一緒に幸せになりたかったのに。母さんの葬式が終わって、私は母さんのお墓の前で誓った。
「母さん、安心して、私はヒロインのブロッサなの。だからあなたの娘は必ず幸せになれるのよ。どれだけでも贅沢できるし、愛情だってもらいたい放題よ。母さん、私出かけるね。幸せになって、必ず母さんに報告するから待っててね。」
私は平民街の中にある救護院を目指して歩き出した。


ゲームで見たことのある建物の前にきた。今まで字なんて読めなかった気がするけど、今は、はっきり分かる。
「救護院…ここだわ。」
中に入ろうとすると、門番のおじさんに止められた。

「お嬢さん家族に会いたいのかい?中には入れないんだよ。」
「違うわ。私は光魔法が使えるから、お手伝いに来たの?」
「お嬢さん、嘘はいけないよ。」
「本当よ。おじさん、これを見ていて。」

もともと簡単に信じてもらえるなんて思っていなかったから、ちゃんと花を摘んで、用意してきた。いい具合に萎れているわ。花に手をかざすときらきらと光って、花が元気をとりも出した。
「すごい。」
練習してきて良かったわ。
「これで信じてくれます?」
「ああ、すまなかった。ちょっと待っていておくれ。」

ここに来るまでに、何度か練習してみた。一度目から成功していたけど、最初よりも輝きが強くなっているわ。
その後はとんとん拍子に話が進んで、その日のうちに治療が開始になった。二日目にはなんと王太子殿下と宰相の息子が救護院に来たと聞いた。本当にこの世界はゲームの中なんだと確信した。とりあえず、はやり病が終息してくれないと、ラブ学での話は始まらないから光魔法を頑張った。三日目には私に王太子殿下と宰相の息子が会いに来た。
王宮にでも行くのかと少し浮かれたけど、まぼろしの薬?を作るように言われた。ゲームで出てきた偶然できたとかいう薬を思い出した。やっぱり、ゲームの世界なんだわ。

そう言えば昨日おばあさんがこんな感じの液体を飲ませていたわね。ご丁寧に一人ずつ声をかけて。薬が足りないのかしら。まぁいいわ。私はヒロインなんだから作れるに決まっているじゃない。一滴、手のひらに垂らして、同じものを作りたいって思っただけで薬は簡単にできてしまった。本当に何でもありね。
すぐに作ってあげたのに、お礼だけ言って帰ってしまった。ゲームだから一つずつクリアーしないと進まないのかしら?ゲームでもこんなに早く王宮には行ってなかったしね。

えーと、まずは治療をして、薬を作って、次はチェリー男爵に会って、養女になるのよね。ちょっと面倒くさいわね。とっとと王宮に連れて行ってよ。まぁシンデレラストーリーって分かっているんだからすべてのイベントを楽しまないと損かしら?大変なのは最初だけだしね。ラブ学入っちゃえば、あとは楽しいイベントだらけだったわよね。だってゲームはそこから始まるんですもの。いまはまだプロローグの内容だもの、我慢ね。母さん、私、うーんと贅沢できる人と結婚して、母さんが愛した村もよくしてあげるからね。

本当は苦労知らずの、裕福な貴族の令嬢や令息なんて大っ嫌いだけど仕方ないわ。前世でも、ちょっと私が微笑めば大抵の男の子は優しくしてくれたし、私はヒロインなんだから簡単よね。貧しいあの村の人たちを助けてあげたら、絶対に天国の母さんは喜んでくれるもの。私頑張るから母さん天国から見ていてね。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

お飾り公爵夫人の憂鬱

初瀬 叶
恋愛
空は澄み渡った雲1つない快晴。まるで今の私の心のようだわ。空を見上げた私はそう思った。 私の名前はステラ。ステラ・オーネット。夫の名前はディーン・オーネット……いえ、夫だった?と言った方が良いのかしら?だって、その夫だった人はたった今、私の足元に埋葬されようとしているのだから。 やっと!やっと私は自由よ!叫び出したい気分をグッと堪え、私は沈痛な面持ちで、黒い棺を見つめた。 そう自由……自由になるはずだったのに…… ※ 中世ヨーロッパ風ですが、私の頭の中の架空の異世界のお話です ※相変わらずのゆるふわ設定です。細かい事は気にしないよ!という読者の方向けかもしれません ※直接的な描写はありませんが、性的な表現が出てくる可能性があります

至って普通のネグレクト系脇役お姫様に転生したようなので物語の主人公である姉姫さまから主役の座を奪い取りにいきます

下菊みこと
恋愛
至って普通の女子高生でありながら事故に巻き込まれ(というか自分から首を突っ込み)転生した天宮めぐ。転生した先はよく知った大好きな恋愛小説の世界。でも主人公ではなくほぼ登場しない脇役姫に転生してしまった。姉姫は優しくて朗らかで誰からも愛されて、両親である国王、王妃に愛され貴公子達からもモテモテ。一方自分は妾の子で陰鬱で誰からも愛されておらず王位継承権もあってないに等しいお姫様になる予定。こんな待遇満足できるか!羨ましさこそあれど恨みはない姉姫さまを守りつつ、目指せ隣国の王太子ルート!小説家になろう様でも「主人公気質なわけでもなく恋愛フラグもなければ死亡フラグに満ち溢れているわけでもない至って普通のネグレクト系脇役お姫様に転生したようなので物語の主人公である姉姫さまから主役の座を奪い取りにいきます」というタイトルで掲載しています。

悪役令嬢に転生したので、やりたい放題やって派手に散るつもりでしたが、なぜか溺愛されています

平山和人
恋愛
伯爵令嬢であるオフィーリアは、ある日、前世の記憶を思い出す、前世の自分は平凡なOLでトラックに轢かれて死んだことを。 自分が転生したのは散財が趣味の悪役令嬢で、王太子と婚約破棄の上、断罪される運命にある。オフィーリアは運命を受け入れ、どうせ断罪されるなら好きに生きようとするが、なぜか周囲から溺愛されてしまう。

どうして私が我慢しなきゃいけないの?!~悪役令嬢のとりまきの母でした~

涼暮 月
恋愛
目を覚ますと別人になっていたわたし。なんだか冴えない異国の女の子ね。あれ、これってもしかして異世界転生?と思ったら、乙女ゲームの悪役令嬢のとりまきのうちの一人の母…かもしれないです。とりあえず婚約者が最悪なので、婚約回避のために頑張ります!

闇黒の悪役令嬢は溺愛される

葵川真衣
恋愛
公爵令嬢リアは十歳のときに、転生していることを知る。 今は二度目の人生だ。 十六歳の舞踏会、皇太子ジークハルトから、婚約破棄を突き付けられる。 記憶を得たリアは前世同様、世界を旅する決意をする。 前世の仲間と、冒険の日々を送ろう! 婚約破棄された後、すぐ帝都を出られるように、リアは旅の支度をし、舞踏会に向かった。 だが、その夜、前世と異なる出来事が起きて──!? 悪役令嬢、溺愛物語。 ☆本編完結しました。ありがとうございました。番外編等、不定期更新です。

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

私は幼い頃に死んだと思われていた侯爵令嬢でした

さこの
恋愛
 幼い頃に誘拐されたマリアベル。保護してくれた男の人をお母さんと呼び、父でもあり兄でもあり家族として暮らしていた。  誘拐される以前の記憶は全くないが、ネックレスにマリアベルと名前が記されていた。  数年後にマリアベルの元に侯爵家の遣いがやってきて、自分は貴族の娘だと知る事になる。  お母さんと呼ぶ男の人と離れるのは嫌だが家に戻り家族と会う事になった。  片田舎で暮らしていたマリアベルは貴族の子女として学ぶ事になるが、不思議と読み書きは出来るし食事のマナーも悪くない。  お母さんと呼ばれていた男は何者だったのだろうか……? マリアベルは貴族社会に馴染めるのか……  っと言った感じのストーリーです。

完結 「愛が重い」と言われたので尽くすのを全部止めたところ

音爽(ネソウ)
恋愛
アルミロ・ルファーノ伯爵令息は身体が弱くいつも臥せっていた。財があっても自由がないと嘆く。 だが、そんな彼を幼少期から知る婚約者ニーナ・ガーナインは献身的につくした。 相思相愛で結ばれたはずが健気に尽くす彼女を疎ましく感じる相手。 どんな無茶な要望にも応えていたはずが裏切られることになる。

処理中です...