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8・デビュタント(初めての夜会)です②
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「ねぇ、マリー。ちょっとアーサー遅くない?大体アーサーは僕たちの家族だよね?今さら何の用事だろうね?マリーだってアーサーのこと、兄だって思うでしょう?」
お兄様はアーサーに対して酷いことをしたブルサンダー公爵家が嫌い。私だって好きじゃないけど、たぶんあの人は優しい人な気がするのよ。後悔しているような、とても寂しそうな表情だったもの。それと、お兄様にちゃんと伝えておきたいことがあるの。
「お兄様、前々から言おうと思っていたのですが、私はアーサーのことを、お兄様と同じくらい大切だけど、兄だと思ったことはありませんよ。」
「えっ!じゃあやっぱり、侍従とか護衛とか、もしかして、召し使い?!酷いよ、マリー!」
「そんなこと、一言も言っていませんし、思ってもいませんわ。」
「そ、そうだよね。普通に考えたら友達枠だよね。びっくりしちゃった。」
「どうしてそうなるんですか。もういいです。少し疲れました。お兄様食べましょう。」
あれ、聞いてないわね?私の後ろを見てどうしたの?
「アーサー良かったね。友達枠だって!」
えー!もしかして聞かれていたの?どこから?今はとても後ろを振り向く勇気がないわ。やっぱりお兄様が危険人物に見えてきたわね。後ろからアーサーの声が…、
「お兄様と同じくらい大切な人。嬉しい…。もういつでも死ねる…友達枠。」
いつでも死ねるとか怖い言葉が聞こえたけど、とりあえず、恋心はばれたの?ばれてないの?ちょっと冷静になる時間が欲しいわ。こんなの恥ずかしすぎるでしょ!
私は珍しくプチパニックになっていたから、お兄様に、
「とにかく、料理を食べようか。お兄様が食べさせてあげるよ。ほらマリーの好きなイチゴムースだよ。」
って言われて、いつもなら十五歳にもなって絶対にありえないのだけど、思わず口を開けてしまったの。するとアーサーが、慌ててお兄様からスプーンを取り上げて私に優しく微笑んだの。
私の頭の中でプシューと音がして、たぶん湯気も出ていたんじゃないかしら?私の頭は完全にショートしてしまって、私はしばらく心ここにあらずで、ただひたすらアーサーにひな鳥のように食べさせてもらっていたわ。
イチゴムースを食べ終わる頃に、ようやく私の頭は正常に動き始め、その後はもちろん、なにもなかったように自分でしっかり食べたわ。
究極に恥ずかしい体験を一日に何度もしたせいか?王宮の料理が美味しすぎたのか?それとも私の精神的回復力が早いだけか?分からないけど、その後は普通に王宮の素晴らしい料理を三人で楽しむことができたの。
それから、アーサーが
「マリー踊らない?」
って誘ってくれた。すごく嬉しかったけど、口を開くとまた上から目線の言葉が出てきそうで怖かったから、にっこり笑って、大きく頷いて、アーサーの手を取ったの。今はこれが精いっぱい。アーサーとのダンスは、いつも一緒に練習をしているから息はピッタリね。
「マリー、僕はマリー以外何もいらない。僕みたいな男に、ずっと隣にいていいって言ってくれてありがとう。」
夢でも見ているのかしら?幸せすぎて現実か心配になってきちゃったわ。
前世を思い出したから余計でしょうけど、身体が不自由だった私が、憧れていたアーサーとダンスをして、私以外いらないって言ってもらえたなんて…。
でもアーサーの心には、まだ子供の頃に起こした魔力暴走のことや、実のお母様の言葉や行動が傷として残っているのかしら?僕みたいな男って言葉がすごく気になったから。いつも嬉しそうな顔の後にちょっと寂しそう顔をするもの。すでに、魔力のコントロールでは、この国では、この若さでナンバーワンと言われているのに…。心の傷は重いわね。
中央で踊っていたからか、アーサーがカッコいいからか、ご令嬢たちのアーサーに対する声が聞こえてきたわ。
「アーサー様が踊っているのを初めて見ましたわ。」
「次は私と踊ってくださらないかしら。」
「なんて素敵な笑顔なのかしら…。」
「凛々しくて、さわやかで、素敵。」
などなど、目と耳がいいので、顔も会話もしっかりとチェックさせていただいたわ。だけど、私のアーサーなんだからね。それに、アーサーは意外と泣き虫よ。
もちろん私たちはその後、誰とも踊らなかったわ。お兄様は少し拗ねていたけど、無事にブラックリリー公爵家に帰ってきたの。
私はデビュタントであったことを、忘れない為にペンを走らせている。本当はくたくたですぐにでも横になりたいのだけど、寝ちゃうと忘れそうだもの。
・魔力暴走はしなかった
・王太子殿下と関わらなかった
・シルバー様はなんと、お兄様の魔道具のファンだった。それもあのどくろ型をカッコいいと言っていた。殆どお兄様と話していたけれど、お兄様に頼まれて、ポケットからどくろ型魔道具を出して見せてあげた。ものすごく嬉しそうだったから、今度学園であげる約束をした。
・レッド様はなんと、アーサーの剣術のファンだった。アーサーは魔法だけじゃなくて、剣もすごいから。アーサーは最近まで、レッド様と一緒に騎士団の朝練に参加していた。
書き出すのはこれくらいかな。
それにしても、アーサーはあんまり、他の人としゃべらないわね。レッド様の時もほとんど話を聞いてあげてるだけだったし。それでもアーサーがレッド様のことを信用しているのは分かったわ。表情が優しかったもの。
そういえば、レッド様が相手の動きに素早く反応できるようになる練習はないかってアーサーに質問したのよね。その時のアーサーの答えにはびっくりしちゃったわ。だってマリーとカエルを捕まえるって言ったのよ。何とも言えない空気になったわ…。アーサーは説明するのが苦手なのかしら?たしかに、池のカエルは半端なく早いけど。
サリーの怒った顔思い出しちゃったじゃない。
よし、今日のところはこれくらいかしら。今は三月下旬。あと一週間くらいでラブリー魔法学園に入学する。今まで全くやらずにさぼってきた勉強と魔法の訓練、少しはやっておいた方がいいわよね。お馬鹿さんって言われるなんて、いまの私のプライドが許さないわ。
お兄様はアーサーに対して酷いことをしたブルサンダー公爵家が嫌い。私だって好きじゃないけど、たぶんあの人は優しい人な気がするのよ。後悔しているような、とても寂しそうな表情だったもの。それと、お兄様にちゃんと伝えておきたいことがあるの。
「お兄様、前々から言おうと思っていたのですが、私はアーサーのことを、お兄様と同じくらい大切だけど、兄だと思ったことはありませんよ。」
「えっ!じゃあやっぱり、侍従とか護衛とか、もしかして、召し使い?!酷いよ、マリー!」
「そんなこと、一言も言っていませんし、思ってもいませんわ。」
「そ、そうだよね。普通に考えたら友達枠だよね。びっくりしちゃった。」
「どうしてそうなるんですか。もういいです。少し疲れました。お兄様食べましょう。」
あれ、聞いてないわね?私の後ろを見てどうしたの?
「アーサー良かったね。友達枠だって!」
えー!もしかして聞かれていたの?どこから?今はとても後ろを振り向く勇気がないわ。やっぱりお兄様が危険人物に見えてきたわね。後ろからアーサーの声が…、
「お兄様と同じくらい大切な人。嬉しい…。もういつでも死ねる…友達枠。」
いつでも死ねるとか怖い言葉が聞こえたけど、とりあえず、恋心はばれたの?ばれてないの?ちょっと冷静になる時間が欲しいわ。こんなの恥ずかしすぎるでしょ!
私は珍しくプチパニックになっていたから、お兄様に、
「とにかく、料理を食べようか。お兄様が食べさせてあげるよ。ほらマリーの好きなイチゴムースだよ。」
って言われて、いつもなら十五歳にもなって絶対にありえないのだけど、思わず口を開けてしまったの。するとアーサーが、慌ててお兄様からスプーンを取り上げて私に優しく微笑んだの。
私の頭の中でプシューと音がして、たぶん湯気も出ていたんじゃないかしら?私の頭は完全にショートしてしまって、私はしばらく心ここにあらずで、ただひたすらアーサーにひな鳥のように食べさせてもらっていたわ。
イチゴムースを食べ終わる頃に、ようやく私の頭は正常に動き始め、その後はもちろん、なにもなかったように自分でしっかり食べたわ。
究極に恥ずかしい体験を一日に何度もしたせいか?王宮の料理が美味しすぎたのか?それとも私の精神的回復力が早いだけか?分からないけど、その後は普通に王宮の素晴らしい料理を三人で楽しむことができたの。
それから、アーサーが
「マリー踊らない?」
って誘ってくれた。すごく嬉しかったけど、口を開くとまた上から目線の言葉が出てきそうで怖かったから、にっこり笑って、大きく頷いて、アーサーの手を取ったの。今はこれが精いっぱい。アーサーとのダンスは、いつも一緒に練習をしているから息はピッタリね。
「マリー、僕はマリー以外何もいらない。僕みたいな男に、ずっと隣にいていいって言ってくれてありがとう。」
夢でも見ているのかしら?幸せすぎて現実か心配になってきちゃったわ。
前世を思い出したから余計でしょうけど、身体が不自由だった私が、憧れていたアーサーとダンスをして、私以外いらないって言ってもらえたなんて…。
でもアーサーの心には、まだ子供の頃に起こした魔力暴走のことや、実のお母様の言葉や行動が傷として残っているのかしら?僕みたいな男って言葉がすごく気になったから。いつも嬉しそうな顔の後にちょっと寂しそう顔をするもの。すでに、魔力のコントロールでは、この国では、この若さでナンバーワンと言われているのに…。心の傷は重いわね。
中央で踊っていたからか、アーサーがカッコいいからか、ご令嬢たちのアーサーに対する声が聞こえてきたわ。
「アーサー様が踊っているのを初めて見ましたわ。」
「次は私と踊ってくださらないかしら。」
「なんて素敵な笑顔なのかしら…。」
「凛々しくて、さわやかで、素敵。」
などなど、目と耳がいいので、顔も会話もしっかりとチェックさせていただいたわ。だけど、私のアーサーなんだからね。それに、アーサーは意外と泣き虫よ。
もちろん私たちはその後、誰とも踊らなかったわ。お兄様は少し拗ねていたけど、無事にブラックリリー公爵家に帰ってきたの。
私はデビュタントであったことを、忘れない為にペンを走らせている。本当はくたくたですぐにでも横になりたいのだけど、寝ちゃうと忘れそうだもの。
・魔力暴走はしなかった
・王太子殿下と関わらなかった
・シルバー様はなんと、お兄様の魔道具のファンだった。それもあのどくろ型をカッコいいと言っていた。殆どお兄様と話していたけれど、お兄様に頼まれて、ポケットからどくろ型魔道具を出して見せてあげた。ものすごく嬉しそうだったから、今度学園であげる約束をした。
・レッド様はなんと、アーサーの剣術のファンだった。アーサーは魔法だけじゃなくて、剣もすごいから。アーサーは最近まで、レッド様と一緒に騎士団の朝練に参加していた。
書き出すのはこれくらいかな。
それにしても、アーサーはあんまり、他の人としゃべらないわね。レッド様の時もほとんど話を聞いてあげてるだけだったし。それでもアーサーがレッド様のことを信用しているのは分かったわ。表情が優しかったもの。
そういえば、レッド様が相手の動きに素早く反応できるようになる練習はないかってアーサーに質問したのよね。その時のアーサーの答えにはびっくりしちゃったわ。だってマリーとカエルを捕まえるって言ったのよ。何とも言えない空気になったわ…。アーサーは説明するのが苦手なのかしら?たしかに、池のカエルは半端なく早いけど。
サリーの怒った顔思い出しちゃったじゃない。
よし、今日のところはこれくらいかしら。今は三月下旬。あと一週間くらいでラブリー魔法学園に入学する。今まで全くやらずにさぼってきた勉強と魔法の訓練、少しはやっておいた方がいいわよね。お馬鹿さんって言われるなんて、いまの私のプライドが許さないわ。
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