愛されたくて悪役令嬢になりました ~前世も今もあなただけです~

miyoko

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7.デビュタント(初めての夜会)です①

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 私は両手に花?状態でホールに続く階段を下りている。みんなこちらを見ているわ。こんなにも素敵な男性を二人も連れていますからね。本当なら幸せの絶頂?って、ところかもしれないけど、今はそれどころではないわね。馬車を降りる時のお兄様の発言で、私は怒り心頭なんですもの。意外とお兄様が危険人物かもしれないわね。お兄様に悪気がないのは分かるんだけど、そういうのは余計にやっかいなのよね。
 冷静にならなくっちゃ。もしかしたら、私の聞き違いとか勘違いがあるのかも?そう思って確かめたら逆効果で…、やりすぎちゃったわ。

 馬車を降りる時、お兄様はアーサーに、
「アーサー、今日もご令嬢たちのことよろしくね。僕が挨拶回りを担当するから、アーサーはご令嬢に微笑んでいてね。どうしても苦手なんだよね。あの香水の匂いも、ぐいぐい来る感じも、思い出しただけで鳥肌が立っちゃうよ。アーサーがご令嬢を惹き付けてくれてるおかげで、すごく安心できるよ。」

 許すまじ、お兄様!アーサーに何させてるの!いっきに頭に血が上っちゃったけど、もしかしたら、ご令嬢に錯覚を起こさせる魔法でもあるのかもしれないわね。
「お兄様、それはどういうことですか?」
「あのね、前は必ず夜会に行くと、僕はご令嬢に囲まれて怖かったんだ。それでアーサーに相談したの。そうしたら僕も頑張るよって言ってくれて。なにをするのかな?って思っていたんだけど、いつも無表情のアーサーが、僕の周りにいたご令嬢たちに少しだけ微笑んでくれたんだ。そのとたん僕の周りにいたご令嬢が、アーサーをうっとりと見はじめて、アーサーの虜になっちゃったんだよ。そのおかげで、僕はご令嬢の恐怖から救われたんだ。アーサーは本当にすごいよ。」

 ・・・頭の中でブチっと音がした。許すまじ、お兄様!!
「お兄様は今後アーサーに頼らずに、ご自分で何とかしてください。アーサーは私以外のご令嬢に二度と微笑んではだめ!!分かった?ずっと私の隣にいるの!大体アーサーの癖に生意気なのよ!!」
 ああ、やってしまった。上から目線の嫌な子よね。悪役令嬢みたいね、今度こそ嫌われたわよね。
 でも、アーサーが他の令嬢に微笑むなんて、考えただけで嫌だもの。絶対にだめ!
 もう、色々な意味でどうにかなりそうよ。

 お兄様も私に言われて焦っているようで、
「アーサー以外、誰に助けてもらえばいいの。」
 とぶつぶつ言っている。助けてほしいのは私の方よ、お兄様。

 その時、アーサーがそれはそれは嬉しそうに私に向かって微笑んできた。えっ、うそ、なんで…。

「マリー。僕は今日からマリーにだけ微笑むよ。それに、マリーの隣にずっといると約束するよ。」

 あれ、私、悪役令嬢みたいだったのに、嫌われてない?!それどころか、私にだけ微笑むとか、隣にずっといるとか、私が言わせたんだけど、嬉しすぎて顔がにやけてしまうわ。どうしよう…。
 これから大事なデビュタントなのにドキドキが止まらない。

 そして今に至る。アーサーは階段を下りながらも、ずっと微笑みかけてくれているし、いつもより距離が近い気がする。
 お兄様は立ち直りが早いのか、まっ、何とかなるよね。今日はマリーがいるんだから…と、若干失礼な発言も聞こえたけど、流石は公爵家の令息。アーサーに負けないくらい堂々と、笑顔を張り付けて歩いている。
 やっと、ホールに着いたわ…。まずは王族の皆様に挨拶をするのだけど、挨拶の列に並ぼうとすると、すっと道があけられたの。

「えっ?」
「どうぞ、公爵家のご令息ご令嬢、お先にお並びください。」
 と、サンドリー伯爵が私たちに向かっておっしゃった。嫌よ、目立ちたくなんかないんだから、ここは遠慮して…。そう思ってお兄様たちを見ると、明らかに好きにしていいよと顔に書いてある。頼りになるのか、ならないのか。仕方ないわね。
「伯爵様、お気持ちだけで…。」

 私がそう言いかけると、了解、とでも言うように、お兄様が話を引き継いでくれた。
「サンドリー伯爵、私のような若輩者に対してもお優しいお心遣い感謝します。ですが私共は大丈夫ですので、ここで並ばせていただく間、あなた様の領地で話題のブドウ酒の話を、是非聞かせていただけないでしょうか?」
 お兄様流石だわ。サンドリー伯爵めちゃくちゃ嬉しそうだもの。優しいだけのお兄様ではなかったのね。お兄様のこと、頼りにならないなんて思ってごめんなさい。お兄様は私の意見を尊重してくれたのね。

 王族の挨拶の列に並んだ時は、相当時間がかかると覚悟していたのに、あっという間に自分たちの順番がきたわ。お兄様とアーサーが挨拶をして、それから私を紹介してくれたの。
「マリー・ブラックリリーでございます。本日デビュタントを迎えることができました。」
 私は無難な挨拶のみをしたわ。もともと王太子殿下に興味はないから、目立たず静かに記憶から削除してもらいましょう。
「おお、その方がマリー嬢か、美しいな。ルドと同じ年だったな。学園では関わることもあろう。その時はよろしく頼む。」
「恐れ多いことです。よろしくお願いします。」
 私は心の中で、よろしく頼まれたくないけどね…。なんて不敬なことを考えていたから、王太子殿下の方を全く見ないというとんでもなく失礼なことをして、逆に王太子殿下の印象に残ってしまったことに気付きもしなかった。

 王族への挨拶のあとは、宰相様や騎士団長様、アーサーのお父様のブルサンダー公爵様など沢山の方に挨拶し、もちろん攻略対象者の方にもお会いして、もうくたくただわ…。
「お兄様、疲れましたわ。」
「うん、もういいんじゃないかな。これであいさつも大方終わったし、あとは料理でも食べようか。」
「はい、賛成です。アーサーも行きましょう。」
 私は嬉しくなって、二人の腕をひっぱった。

 その時、後ろから先程挨拶したばかりの優しそうなアーサーのお父様の声がしてきた。
「アーサー、すまない…。ちょっとだけ二人で話さないかい?」
「父上すみません。僕はマリー嬢の隣から離れるわけにはいかないんです。ずっと隣にいないと。」
 え~!断っちゃうの?隣にいてって言ったけど、用事がある時はいいのよ。って、後で説明するとして、今はアーサーのお父様がしゅんってなちゃってるから、
「アーサー、私はお兄様と、あそこで、アーサーの分も料理をとっておくから、安心してお父様とお話をしてきて。」

 未来のお父様には好印象を持ってもらわないとね。それから、アーサーへの私の気持ちだけど、少しも伝わってなかったみたいね。きっと、護衛騎士枠?か何かと勘違いしちゃったのね。だから少しも目を離せない、そばから離れられないみたいな考え方になっちゃったのね。それも仕方がないかもしれないわね…。今まで散々上から目線で話しちゃったし、さっきもアーサーの癖に生意気とか言っちゃったしね。色々とアーサーに聞きたいことはあるけど、それは家に帰ってからね。

「マリーが言うなら…。ちょっと行ってくるね。すぐに帰ってくるからね。」
「マリー嬢ありがとう。」
 アーサーのお父様から素敵な笑顔をいただきました。
「じゃあマリー、お兄様と向こうに行こうか。」
 私はお兄様の言葉に頷いて、三人の好きな物を皿に載せ、窓際の小さなテーブルとソファーで休憩することにしたの。


     
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