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第8章 冬のはじめ頃に

第26話 お泊り(前編)

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「修ちゃん。暖かい……♪」

 ふにゃふにゃした声で甘えてくるのは百合。
 場所はベッドの中。
 授業を終えて家に帰った百合は
 「お泊りの準備してくるね」
 そう言って一時間後、俺の家に上がってきた。

 で、部屋に上がったかと思えばベッドにごろり。
 
「修ちゃんも一緒にごろごろしよ?」

 なんて俺を誘って来たのだった。
 本当に奔放な娘だ。

「そうだな。暖かいな」

 最初はドキっとした俺。
 ただ、本当に一緒にゴロゴロしたいだけらしい。
 というわけで、抱きしめつつ同衾している。

「ん……」

 強く抱きしめたかと思うと唇が迫ってくる。
 水音がくちゅくちゅとする。

「ぷはぁ」

 キスをした百合は蕩けたような表情だ。

「あのさ。それされると我慢出来なくなるんだけど」

 据え膳食わぬはなんとやらという言葉がある。
 それにしても、私服に着替えた百合は可愛い。
 セーターを脱いだシャツからは柔らかな膨らみの感触。

「言ったでしょ?抱いて欲しいって」

 少し頬を染めながらも、素直に意思を伝えてくる。
 とても可愛い。なんだけど。
 
「まだ四時頃だぞ。ちょっとそーいうの早くないか?」

 窓の外を見るとようやく日が西に傾き始めた頃合いだ。
 
「普段する時も、このくらいの事が多いでしょ?」

 うぐぐ。それはそうなんだけど。

「その。お泊りなわけだし、お風呂入った後とかさあ」

 なんで百合がこんなに押してくるんだろう。

「別に修ちゃんがしたければ、二度でも大丈夫だよ?」

 いや、その気持ちは嬉しいんだけど。

「一日に二度も出来る自信が……ていうか」
「?」

 不思議そうな表情をしないでくれ。
 でも、今俺が消極的な理由は大したことじゃない。
 ムードが、とか、どうせなら夜にとか。
 それだけの話だ。

「修ちゃんが夜の方が良いって言うなら……」

 少し不満そうだ。

「あーもう!」

 我慢してるのがアホらしくなってきた。
 ベッドに押し倒して上から押さえつける。

「やっぱり、修ちゃんもしたかったんだ?」

 何ニコニコしてるのか。この娘さんは。

「本当にいいのか?止まれないぞ?」

 一応確認する。

「だからいいよ。遠慮しないで?」

 きっと、朝の余韻という奴なんだろう。
 それにしても奔放だと思うけど。
 とても可愛らしいのはたしかで。

 一時間くらい色々してしまった。

◇◇◇◇

「気持ち良かった?」

 服を整えた百合が聞いてくる。

「ゴムの中見りゃわかるだろ」
「確かに。んふふ」
「なんだよ」
「嬉しいなって思っただけ」

 本当に嬉しそうなんだから。

「百合は気持ち良かったか?」
「もちろん。今日は激しかったし」
「まあ。お前が誘ってくるから」
「別に誘ったつもりはないけど?」
「白々しい」

 むにーと白い頬を引っ張ってみる。

「照れ隠しが丸わかりなんだけど」
「ええい。なんとでも言え」

 今日はすっかり主導権を握られたのが悔しい。
 だから、あえて不機嫌を装ってみる。

「あ、そうだ!DVD持ってきたんだー」

 ゴソゴソとスポーツバッグから取り出したのはDVDケース。
 
「DVD?」
「お父さんが、よく私達の動画撮ってたでしょ?」
「ああ、そういえば。思い出話ってとこか」
「そういうこと」

 一枚のDVDをブルーレイプレイヤーに挿入。
 すると、百合の家の庭で俺と百合が遊んでいる。

『敵はほんのうじにあり!』

 何やら棒きれを掲げて宣言している百合。

「明智光秀?」

 何故か不明だけど、百合はそのモノマネをしているらしい。

「あ、これ。昔、信長と光秀ごっこしたときの……」

 微妙にバツが悪そうな百合を見て思い出した。

「ああ。そんなこともあったな……」

 小学校低学年にして信長の野望をプレイしていた俺たち。
 そこから、信長と光秀のごっこ遊びをしようとなったのだ。
 なんでそんな珍妙なごっこになったのかは覚えていない。

「しかし。可愛い光秀だな。ウケる……」

 なんていうか、もう爆笑だ。
 とても可愛らしい声での宣言は威厳もへったくれもない。

「もう。修ちゃんだってやってたのに。ひどいよー」

 口をとがらせて抗議してくる百合。
 さらに映像が進むと、

『ぜひにおよばず!』

 小さな頃の俺が言いながら百合の家に入っていく。
 カメラが俺を追いかけていくと。

『にんげんごじゅうねん。げてんのうちをくらぶれば~』

 子どもの頃の俺が敦盛を舞っている。
 非常に、非常に気まずい。

「ふふふ。修ちゃんだって、可愛い信長だよー」

 百合も大爆笑していた。
 最後に、棒をお腹を突き刺すフリをして動画は終了。

 動画を見終わった俺たちはお互いに大爆笑。

「なんで、こんなごっこやってたんだろうな。俺たち」
「ほんとに。変なの!」

 子どもの頃の俺たちは予想以上に変な子だったらしい。

「でも、そっか。修ちゃんとこんなことしてたんだね」

 懐かしそうに目を細める百合。

「昔から馬鹿なことしてたんだな。俺たち」

 元はと言えば百合のお父さんが原因。
 とはいえ、ハマった俺たちも同罪だけど。

「でも、なんで昔の私はこんなこと思いついたのかな?」
「百合のことだし、気分じゃないか?」
「そうかもだけど……うーん」

 夕食までしばらく二人で考え込んだのだった。
 そして、百合を囲んで四人での夕食。

「あー、おいし!カレーに納豆もあうよねー」
「母さん、別に百合のためにここまでしなくても」

 確かに、カレーは俺も百合も好きだし。
 我が子の交際相手のご馳走として悪くはない。
 ただ、納豆トッピングが問題だ。

「いずれお嫁さんになるわけだし。これくらいはね」
「また、母さんはそういうことを」
「じゃあ、百合ちゃんとはその場の付き合い?」
「う……そりゃあ、いずれ結婚したい、けど」

 と何やらとんでもないことを白状させられていた。

「ふーん。良かったわねえ。百合ちゃん?」

 完全に目が笑っている。

「はい。おばさん!」

 確かに受験が終わったらプロポーズする約束だった。
 しかし、こんな場でそれに近いことをするなんて。

「まあ、母さんのからかいはともかくとしてだ」

 横で様子を見ていた父さん。

「実際問題、どうなんだ?」

 父さんはといえば真剣な眼差しだ。
 確かに、堀川家とのつながりは昔から深い。
 お互いの家に預けられたこともしばしばだ。
 だから、どのくらい本気か問うているんだろう。

「あー、もう。本気だよ。紛れもない本気」

 ここで中途半端な答えをしたら百合が悲しむだろう。
 隣を見ると予想通り幸せいっぱいという表情だ。

「ならいいんだ。百合ちゃんもうちの息子をよろしく頼む」
「はい。おじさん……!」

 ええと。もう完璧に婚約の流れになってるけど。
 完全にフライングもいいところだ。

「いや、百合。俺は本気だけど、おばさんとかは……」
「前も言ったけど、お母さんは割と本気だよ?」
「なんか、ドンドン外堀埋められてる気がするな」
「修ちゃんは嫌?」
「嫌じゃないから困るんだよ」

 もはや逃げる道が全くなくて笑ってしまう。
 
「まさか、これを狙ってたわけじゃないよな」
「狙っては居ないけど。なったらいいなって」
「あー、はいはい。幸せにしますよ」
「気持ちが籠もってない!」
「だから。気がちょっと早すぎるだろ」

 こうして外堀埋められまくりの夕食は過ぎて行ったのだった。
 あー、これ。今度は百合のとこに挨拶に行く流れだな。
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