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冒険の旅

番外編2 エリーとの絆?(プリウス)

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 エリー達一行の旅立ちを、陰ながら見送った後、我は帰路へとつく為に馬車に乗り込んだ。
 街門に着くと、警備兵より、エリーよりの手紙を預かって居ると、手渡されたそれを見て、驚く。
 何だ、これは、羊皮紙では無いが、間違いなく紙だ、これはエリーの話の中に時折出て来た植物紙と言う奴か。
 こんなに白い物が出来るのか、これが量産出来るようになれば羊皮紙など誰も使わないようになるだろうな・・・
 そんな事を考えながら読むと、何だか、赤い蜘蛛のような魔道具で私達を送ってくれると言うではないか。
 何の事かと思って居ると、外壁に寄せるように、本当に蜘蛛型の何かデカい魔物にも見えるそれが我々を待ち受けていた。
「これが、クリムゾンスパイダーとか言う魔道具か?」
「その様ですね・・・」
「本当に魔物のように見えるが、馬車が丸ごと中に乗れるようになって居るようだし、使わせて頂くとするか・・・」
 馬車をスロープに乗せ、搭乗すると、AIの音声案内が馬車のホールド機能についての説明をしている。
 御者が、光って居る停車位置まで馬車を進めて停車させると、自動で固定され、馬は馬房へ移せと言うアナウンスが始まる。
 言う通りに馬房へと馬を移動すると、飼い葉等も自動で用意されるようだ。
 騎士の騎獣の房まで用意されて居る上に、房の隣には騎士隊と御者の部屋も仮設されている。
 そして、皇帝たる我の部屋と宰相の部屋は別に用意されて居るようだ。
 床に光る矢印に沿って移動すると、我用に用意された部屋と宰相用に用意された部屋、トイレ、風呂、食堂、ブリッジ、砲塔と、行きたい所へと案内がされるようになっている。
「何か、私はとんでもない物に乗っているのではないか?」
 それは我だけでなく、全員の揃った印象だった。
 皇帝である我の部屋は他より多少広い程度で、大した広さでは無かったが、尋常では無い清潔感の垣間見える部屋で、何より天蓋付きベッドのクウォリティーと来たら完全に別次元であった。
 個室のそこかしこにはエリーの字で張り紙がいくつか貼ってあり、どんな設備なのか、どう使うのかが細かく書かれていた。
「な!? 部屋で食事が出ると言うのか? それと、我の部屋には専用のトイレが付いておるらしい・・・」
 しかも、トイレは新たな城に設置されていた物と同じで、尻を洗う機能が付いて居った。
 この手のトイレを始めて見た時には驚いたものだな・・・
 ---回想中---
「何だこのトイレは、致した後に尻が洗える・・・だと?」
「陛下、私が試して見ましょう、危険が有るといけませんから。」
「ああ、しかしエリーのする事であるから危険は無いと思うが・・・」
 そして、下半身を陛下の前でさらけ出した宰相は、座ると尻を洗うボタンを押す。
「ひゃあっ!?おほほほほ!!」
「ど、どうした!?」
 停止ボタンを押した宰相は冷静に戻り返答をする。
「こ、これは・・・陛下、是非お試し下され、これはたまりませぬぞ。」
「そ、そうか、では・・・」
 トイレの戸の向こうでは、プリウス陛下の、先程の宰相とほぼ同じような叫びが・・・
「サイよ・・・あれは何と言うか・・・」
「で、御座いましょう?陛下・・・」
「うむ、何とも言葉に形容し難い物だな。」
 こうして、お尻洗いの中毒患者が二名・・・
 ---------
 あの時の衝撃が思い出されるような、我の知らない設備が盛りだくさんであった。
 物珍しい物が多すぎてつい、夢中になってしまった、帰る為にこの乗り物を動かさねばならんのだった。
 ブリッジと言われる所で動かせと書いてあったな。
 行先表示が光る床の通りに進み、城にも付けられていた妙な箱部屋、エレベーターに乗り、この行先を押すとあっと言う間に到着である。
 ブリッジに到着すると、突然、無機質な物言いの声が聞こえる。
『ようこそ、皇帝陛下。
 本機は、クリムゾンスパイダー8号機です。
 既に行先の設定は出来て居ます。
 移動を開始しますか?』
「ああ、出してくれ。」
『畏まりました、発進します。』
 ゆっくりと動き始めた。
 そして徐々に加速して行く。
 気が付いたら、馬車を緊急時の最高速度で走らせて居る時よりも景色の流れが早くなったように感じる速度になって居た。
 声で質問したら答えるだろうか、出してくれと言ったら走り出したし、試して見よう。
「今の速度は、馬車の通常の速度とどの位違うのだ? 判りやすく教えてくれないか?」
『畏まりました、お答えいたします。
 通常、馬車を走らせる時の巡航速度は15km/h~20km/hとされます、現在の速度は、70km/hとなって居ます。
 従って、15km/hで換算して、約4,33倍、20㎞/hで換算して3.5倍です。
 更に、本機の最大速度は120㎞/h、20㎞/h換算で6倍となります。』
 答えたよ、凄いな、これ・・・
 しかもそんなに速く移動出来るのか、一つ欲しいな。
 しかも城の我の部屋のベッドと同じで素晴らしい物が備えられていたので、とても気に入った。
 今乗ってるコレで良いから私の物にしてくれないだろうか、エリーの書置きの説明では私を領地で降ろしたらエリーの居る所へ帰るとされて居るしな・・・
 イヤしかし、それこそそんなに都合良く行く筈は無い、多分駄目だろう。
 半ば諦めて部屋へ戻る事にした。
 それにしても快適だ、あんな速度で移動して居ると言うのに揺れを一切感じない。
 正直、我は馬車が苦手で、良く馬車酔いになってしまう為、何度も休憩を挟まないと移動出来ないのだ。
 馬車なら既に一度は休憩を挟まないとダメな時間は十分に経ったが、全くそのような気配が無い。
 それどころかこうして部屋で茶を嗜んでおる始末だ。
 そんな折、突然、アナウンスが流れた。
『これより帝国領へ入ります。』
 え?もう?いくらなんでも早すぎないか?
 ブリッジへ向かうと、確かに帝国領へ入って居るようだ。
 が・・・
 何故だか帝都の方角に砂埃と言うか、何やら靄が掛かったようになって居るのが気になる。
「帝都付近の様子が確認できるか?」
『はい、間もなく光学ズームによって映像を出せる距離になります。
 映像、出ます。』
 まだ遠いようで拡大されたと思われる映像とやらで何かが動き回っている様子だけはわかった。
『状況が判明しました。
 現在、帝都付近で戦闘らしいものが起こっているようです。』
「なんだと!? 何処が攻めて来たと言うのだ?」
『前皇帝軍の様です。
 帝都防衛軍が辛うじて進軍を阻んで居るようです。』
「く、こんなタイミングで! 介入は出来るか?」
『可能ですが、マザー・エリーよりその指示は受けて居りません。』
「だが可能とはどう言う事だ?」
『緊急事態発生プログラムを発動しますか?』
「それを発動するとどうなる?」
『本機の命令権限が皇帝へと譲渡されます。』
 エリーはこのような事態をある程度想定してくれて居たと言う事か・・・心より感謝する。
「では、緊急事態発生だ。」
『了解しました、緊急事態発生プログラム起動、本機の命令権限と所有権が、マザー・エリーより、プリウス皇帝へと移行します。
 書き換え完了まで、5秒、4、3、2、1、終了。
 プリウス皇帝陛下、命令どうぞ。』
「現在発生しておる戦闘へ介入する、前皇帝軍を攻撃せよ。」
『イェス、ボス。』
 更に速度が上がるのが判った、これ程の急加速が出来るのに我々の為に初めはゆっくり加速して居ったのか、どこまで凄い魔道具なのだ、これは・・・
『有効射程へと捉えました、超電磁砲、発射します。』
 その直後、又拡大したと思われる映像が開く。
 今発射した物が着弾したようだ。凄まじい威力のようで、我は言葉を失った。
『命中、効力射続けます、主砲三連射、発射します。』
 今度は着弾した弾が炸裂して居るようだ。
 あっと言う間に前皇帝軍が瓦解を始めた。
 そして、あっと言う間に肉眼でも戦闘が見る事が出来るようになった。
 エリーがやって居たような大きな声が届かせる事が出来るのでは無いだろうか、と思い、聞いて見ると、すぐに答えが返ってくる。
『外部スピーカーをオンにすれば可能な距離です、オンにしますか?』
「ああ、してくれ。」
『了解しました、どうぞ。』
「我は、プリウス・ラ・クラウン・フォン・レクサスである!
 ランクル帝国改め、レクサス帝国皇帝である!
 即刻戦闘を停止せよ、さもなくば今一度主砲を撃ち込む用意がある!」
 歓声の上がる我が防衛軍、そして逃げ惑う前皇帝軍。
 逃げ帰る将軍、前皇帝側に就いたカローラ伯爵を発見、その後を追う事にした。
 このクリムゾンスパイダーの速度なら、全力で走る騎獣にも負ける道理は無い。
 精々逃げて、父の居る仮設陣へと案内して貰おう。
 今度は内部に伝令をしたいと言うと、内部スピーカーをオンにすると言うアナウンスが流れる。
 我の護衛をしていた騎士長レビンに命令をする。
「今、帝都付近で戦闘が行われて居て、介入した。
 現在、旧皇帝軍の将軍として出張って居たカローラ伯爵が退却をして居ってそれを追っている。
 陣を見つけたら少数精鋭で前皇帝を生きて捕らえるのだ。兵力は既に削いで居るのでお主ら三名の実力で有れば出来るであろう。
 直ぐに支度をせよ。」
 すると、騎士長の声もこちらに帰って来た。
「畏まりました、お任せあれ。」
 暫くして、陣が見えたので、ハッチを開けて騎士隊3名を騎獣と共に降車させ、我は背後を塞ぐべく大きく迂回し、裏に回り込む事にした。
 陣の裏側で様子をうかがって居ると、一寸した戦闘が始まったようだ。
 そして父が捕らえられたのを確認した。
 しかし、第二皇子、我が愚弟コルサが、ボクシー男爵に連れられて陣から逃げるように出て来たので、我はこれを捕らえた。
 これで戦闘は終わる事と思われたが、ヴィッツ子爵、スターレ男爵が思いの外抵抗を続けて居る様だったので、我はそちらの戦場へクリムゾンスパイダーを走らせた。
 いかんせん威力が強すぎた超電磁砲と主砲は使う気に成れず、ガトリングガンと言う奴を撃って見る事にしたのだが、これも凶悪過ぎた。
 右から左へと薙ぐように撃って居ると、片っ端からバタバタと兵士達が倒れていく。
 慌てて撃ち方を辞めさせると、外部スピーカーで降伏勧告をする事にした我は、砲塔の上へと出た。
「我はプリウスなるぞ! そこに居るのはヴィッツ子爵軍並びにスターレ男爵軍と見受ける!
 前皇帝並びにコルサは既にこちらの手中にある!
 無駄な抵抗を辞めよ!」
 すると、戦闘は一時中断、暫くすると伝令がこちらへ走って来た。
「伝令を申し上げる! 第一皇子プリウスを語る魔族には屈しない! 繰り返す!
 第一皇子プリウスを語る魔族には屈しない! 以上である!」
「愚か者共、良く聞くが良い、この蜘蛛のような物は魔物では無い! これは戦闘用のアーティファクトである!
 伝説のゴーレムとはこれの事だ!
 我は魔族では無い、繰り返す、我は魔族では無い!」
 伝説のゴーレムなどと言うのはハッタリだが、過去の有名な作家であるシェイク・マクドゥーネルのノベルを読んで居る可能性を考えればうまく行くのでは無かろうか。
 私はさらに続ける。
「ヴィッツ子爵、スターレ男爵と会う用意がある、検討されたし。」
 我の話を聞いた伝令が帰って行く。
 伝令が殺されずに帰った時点で此方の目的が蹂躙する事等では無い事は明白になるので、この交渉は成立するであろう。
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 数分後、騎獣に跨った子爵と男爵がこちらへと走って来るのが見える。
 半ば信用し切れては居らぬのだろう、何れも10騎程の護衛騎士に囲まれて居るようだ。
 此方の戦場への途中回収した、旧皇帝確保班の騎士長、レビンが、子爵の護衛騎士の中に従弟のトレノが混ざって居ると気が付き、進言してきた。
「陛下、私が出迎えに向かいます、子爵の護衛に従弟が混じって居りましたので、信用を得る為にも単騎で向かいます。」
「判った、だがお主に死なれると我は近衛に取り立てたい者を一人失ってしまう事となる、騎獣では無く、このゴーレムの子機とされて居るバイクなる物に乗って行くが良い、お主が興味を持って説明文を読んで居った事位は知って居るよ、乗れるのだろう?」
「は、大変凄い物でありました、使わせて頂きます。」
 敬礼をして格納庫へと向かうレビンを見送り、外部スピーカーをオンにした。
「そこで停まってしばし待つが良い、迎えを寄こす。」
 此方の申し出を受け、全隊が停止した。
 そこへ、レビンのバイクが走って行くのが見える。
 子爵、男爵の一団は、その様子を見てどよめいて居るように窺える。
 レビンが子爵軍付近で停止すると、子爵側からも騎士が一人、出張って来て居るようだ。
 あの者がトレノで有ると思われる。
 しばし会話をして居るようだが、交渉はどうやら成ったらしい。
 一度戻ったトレノと思われる騎士が隊へ戻ると、子爵と男爵が、一騎づつ従え、出張って来た。それを確認し、レビンが先導する形で此方へ向かってゆっくり走りだした。
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 我も格納庫へと出張る事にした。我が側近として、宰相のサイ公爵が、このゴーレムの白兵戦用武器として搭載して居たアサルトライフルとやらを構えて先導する。
 いつの間にか使い方を憶えたらしい。
 きっと私がのんびりと部屋で茶を嗜んで居った合間に色々弄り倒して居ったのだろう。
 格納庫へ着いてすぐ、レビンも帰って来た。
 レビンに連なる様にして、子爵と男爵も騎士を一人づつ連れだって格納庫へと入って来た。
「これはどんな魔道具なのだ? 見た事も無いような設備では無いか、この照明はどうやって光って居るのだ、火が灯されて居らぬのに光って居る・・・」
 子爵よ、その疑問は我も感じたものであった、その心中察するぞ・・・
「良くぞ我の呼びかけに答えてくれた、礼を言うぞ、ヴィッツよ。」
「本当に本物のプリウス様でありましたか、御無礼を働きました事をお許し下さい。」
 ヴィッツとスターレが傅いた。
「よい、大方父の口車に乗せられて居ったのであろう?
 穏健派のお主ら迄が帝都に攻め込むなど、大方奪われた帝都を奪還するなどと言われての事であろうからな。」
「おっしゃる通りに御座います、しかもプリウス様は殺されたと迄伺って居りましたので。」
「どこまで私を愚弄する気なのだ、旧皇帝め。」
「どう言う事で御座いますか?」
「ショーン子爵とチック騎士の策略でお主ら穏健派の居ない席での国策会議で隣国に攻め込むとの決定がなされ、敗戦し、第二波第三波を危惧したシーマ辺境伯軍が攻め入って参った、そして無血開城に至ったのだ。
 そして投降した我を新皇帝として起てる事を約定として国は生かされる事となったのだ。
 父は逃げだし、我は新皇帝となり、終戦処理の為にグローリーへ赴き、謁見して参った。
 そして、友好を約定し、国の名をランクルからレクサスへと変える事に成った。
 そこまで一切を済ませて戻って参ったのだ。
 所が戻って見ればこの有様、全く持って父は本当にクズへとなり下がってしまったらしいな。
 まさかご自分が引き起こした戦争の責任も取らずにこのような事態を起こすとは。」
「全く知りませんでした、攻められ陥落した帝都を取り返すので挙兵せよと、ただそれだけを陛下からは・・・」
「ならばお主達は何方に就く、我に従うか?
 とは言ってもすでに父とコルサは捕らえて居るのだがな。
 我に従うのであれば一つづつ、爵位を格上げする用意がある、今ではモイヤー伯がグローリーに所属する事となってしまった上に父側に就いた貴族共は処分対象に成ったのでな、少しでも新興貴族となった者達を寄子として教育出来る者が欲しいのだ。」
「畏まりました、元よりお跡目争いの起きた際には知恵者であるプリウス殿下に就く積りでありましたので、我々二家はこの場を持ってプリウス皇帝の従貴族となりましょう。」
 これで戦争は終結した事となる。
 後日、父と弟、父に従って居た好戦的貴族は一同にギロチンに掛けられる事と成ったのであった。
 そして、このクリムゾンスパイダーであるが・・・我が呼びかけに答えて異空間より現れる守護神のような存在と崇められる事に成ってしまった。
 帝都の中央広場の精霊の泉と呼ばれる噴水では、先日、帝国初の精霊魔導士が生まれたのだった。
 エリーは一体この噴水に何をしたと言うのだろうか・・・
 しかし、これはエリーの私への気持ちだと思い、いつか再会を果たし今一度求婚をする事を心に誓った我であった。
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