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学院編

第二十四話 番い※

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 テオドールに押し倒されたまま、静かな時間が続く。熱のこもった瞳から目が離せず、お互いの呼吸音だけが部屋に響いた。
「クラウス師匠」
 呼ばれただけなのに心臓が破裂しそうだ。普段は爽やかで明朗な声が、色気を含んだ甘いものに変わっている。この声は番いである俺だけのものだ。ほのかに芽生えた独占欲と優越感に身体を震わせた。

 大きな手が優しく頬に触れる。それだけでテオドールが何をしたいのか伝わった。そっと目を閉じると、唇に柔らかな感触が重なる。角度を変えながら何度も唇を合わせていたら濡れた舌が入ってきた。
「ん……」
 口を少し開いて受け入れると、肉厚の舌が歯列をなぞった。吐息も、舌も、何もかもが熱い。
 もっと熱を感じたくて恐る恐る舌を差し出すと、奪われるように絡みついてきた。

 口内を舌でかき回されながら唾液を交換する。番いの体液は特別なものだ。甘く感じる液体が粘膜に触れるたび、根源的な快楽を引き出されたような心地になる。
「ふ……ぁ」
 身体の疼きが止まらない。奥底に燻っている熱を解放させたくて内腿をすり合わせる。
「あ、すみません。服脱ぎましょうか」
 衣擦れの音が聞こえたのだろう。テオドールが気まずそうに目を逸らしている。
「なんか、難しいな。流れとか」
「同感です」
 向かい合わせに座って服を脱がせ合う。不器用な手つきが愛おしくて、思わず笑ってしまった。不服そうな顔をしたテオドールに理由を説明すると、お互い様だと笑われた。

 再び押し倒され、肌に当たるシーツの冷たさに気を取られていると、陰茎を撫でられた。
「あっ」
 不意の刺激に声が出る。唇を噛んで快感に耐えていると、テオドールが俺の陰茎を口に含んだ。
「……んっ」
 テオドールの舌が触れたところから、ゾクゾクとした快感が生まれる。番いの体液が媚薬のように作用して、感覚が鋭くなっていく。
 視線を下に向けると、テオドールが見せつけるように舌を出し、ゆっくりと裏筋を舐め上げた。声が出そうになり慌てて口を押さえる。

「声聞かせてください」
「そこ、やめ」
 尿道口を舌先で小刻みに刺激される。そこがこんなに気持ちいいなんて、知りたくなかった。
 俺の言葉が届いたのかテオドールは尿道口への愛撫を止め、陰茎全体を口に含んだ。
 温かくて蕩けてしまいそうだと思った。先走りが出るわずかな刺激で、尿道口がくすぐられ、じわじわと快感が広がる。
 先走りだけでこうなるなら、もっと粘度の高い精液が出たらどうなってしまうのか。
「あっ」
 想像だけで軽くイキそうになった。目を固く閉じて絶頂感をやり過ごす。

「師匠、気持ちいいですか?」
「きもちいいから、もう終わらせろ」
「よかった。もっと気持ちよくなってくださいね」
 テオドールが舌と唇を使って亀頭を吸いながら、手で竿全体を刺激する。射精を促すように舌で裏筋を舐め、強弱をつけながら扱きあげてきた。
「でるから、やめっ」
 テオドールは俺の陰茎から口を離さなかった。むしろ早く出してくれと主張するように、敏感になった尿道口を絶妙な力で吸い上げた。

「ん……あ、ぁ」
 耐えきれず、テオドールの口の中で射精してしまった。
 精液が尿道を通っていく体感がたまらなく気持ちいい。陰茎の外と内が同時に刺激される初めての感覚に、戸惑いよりも多幸感が勝った。

「師匠かわいい」
「飲むなよ。汚いだろ」
「大丈夫、汚くないです」
 呆れていると、テオドールの陰茎が目に入った。太くて長いものが腹に届きそうなくらい屹立している。
「早く挿れろ。お前も辛いだろうし」
 膝裏を抱えて挿入をせかすと、テオドールは困ったように首を振った。
「師匠に痛い思いをさせたくありません」
「自分でほぐしてきたから平気だ」
「だめです」
「もう充分だから」
「足りません。師匠の気持ちよさそうな顔、もっと見せてください」

 テオドールが指に香油をまとわせ、後孔の縁を丁寧になぞってきた。なんとも言えない感覚に思わず腰が揺れる。
「いいから、早く指入れろ」
「はい。痛かったら言ってくださいね」
 テオドールの指が中に入っていく。事前にほぐしていたおかげか、特に違和感はなかった。
「苦しくないですか?」
「ああ、平気だ」
 テオドールが慎重に指を動かし始めた。剣ダコのあるゴツゴツした指が、繊細な手つきで中を探る。腰から生まれる感覚が快感なのかよくわからないまま、二本目の指を挿入された。

「んっ、ぁ」
 香油が足され、指を出し入れされるたびにくちゅくちゅと音を立てる。身体の熱が上がっていくのを感じて手で口を覆った。そのおかげで声が漏れることはなくなった。
「できれば手をどかしてほしいです」
「いやだ」
 テオドールには悪いが、どうしても恥ずかしさが勝ってしまう。自分の口から鼻にかかったような甘い声が出ることに戸惑いを覚える。

 しばらくして圧迫感に慣れてくると、自然と力が抜けていった。テオドールはそれを察して指を三本挿入した。痛くはないが、未知の感覚に備えて呼吸が浅くなる。
 早くこのもどかしさから解放されたいと思っていると、テオドールが中に入れた指を腸壁に密着させた。
「あっ!」
 気持ちいいわけではない。だが確実に刺激を拾っていた。おそらく、ここが前立腺なのだろう。知識はあっても感覚が追いついていないから、言葉で表現することが難しい。

「んぅ……ぁ」
「違和感ありますか?」
「わか、らない」
 テオドールが丁寧に後孔から指を抜いた。
「挿れます」
「ん」
 大きく張ったテオドールの亀頭が、穴の縁を押し広げながら侵入していく。指とは比べものにならない質量に息が詰まった。
 よく見るとテオドールも辛そうに眉を寄せていた。少しでも力を抜くため深呼吸を繰り返す。

「痛いですか?」
「くるしい、だけだ」
 不思議と痛みはなかった。不快ではない圧迫感をごまかすため、テオドールに右手を伸ばす。するとテオドールが手を取って指を絡めてきた。
 顔の横に手を置かれ、そこに目線を移すと、大きさの違いに顔が熱くなる。

 次第にテオドールの質量にも慣れ、中の感覚がわかるようになってきた。カリ首が腸壁をなぞる刺激に反応して、中が収縮する。指の時とは明らかに違う、熱のこもった痺れが腹の奥から迫り上がってくる。
「そこはいいから、もっと奥に」
「でも」
「はやく」
「師匠? どうかしましたか?」
 番いの優しさが今だけは少し憎らしかった。俺は出来る限り足をテオドールの腰に回し、奥へ促すため足に力を込める。
「そこ、お前の先走りが染みて」
 気持ちよすぎるからとは言えなかった。体液の作用が凄まじくて、声を我慢するのが辛くなってきた。

「ここですか?」
「ああっ!」
 突然、テオドールが腰を動かして前立腺を擦り上げた。強烈な刺激に足先がぎゅっと丸まる。
 俺の反応に満足したのか、テオドールは奥に陰茎を埋めていった。深く繋がるにつれて身体が密着する。鍛えられた肉体に見惚れていると、テオドールの動きが止まった。
「全部入りました」
「うん」
 至近距離で見つめ合っていると、口付けをされた。
「んっ……」
 一瞬、陰茎を舐められた記憶が蘇って微妙な気持ちになる。だけど、粘膜の交わりが気持ちよくて、すぐにどうでもよくなった。
 俺の精液が舌にのった影響で敏感になったのか、舌の表面を擦り合わせると、テオドールの陰茎がビクビクと震える。その反応を引き出したくて舌を夢中で動かした。

 唇が離れて顔を覗くと、テオドールの頬は紅潮していた。余裕のない吐息が色気を醸し出していて、顔に熱が集まる。
「動きますね」
 繋いでいた手が離れた。なんとなく、言葉を伝えるなら今しかないと思った。
「テオドール」
「はい」
「好きだ」
 テオドールが目を見開く。そこまで驚かれるとは思っていなかった。そういえば、言葉にして伝えたのはこれが初めてかもしれない。
「俺も大好きです」
「んっ」
 鎖骨の辺りに、ちりっとした小さな痛みが広がる。
「ごめんなさい。なるべく優しくします」
 ギラギラとした目つきが、これから与えられる快楽を予感させる。それだけで後孔が勝手にひくついた。

 テオドールの陰茎がゆっくりと引き抜かれる。待ち望んでいた刺激に、声を抑えることができなかった。
「そこ、やめ。あっ、んん」
 前立腺を撫でられるだけで軽く達してしまいそうになる。ギリギリまで引き抜かれた陰茎が、今度は突き上げるように奥まで押し込まれる。
 番いの体液が腸壁に快楽を刻んでいく。カリ首が前立腺を擦り上げるたびに、中が収縮して奥へ誘い込む。奥を突かれるとテオドールの陰茎を締め付けて、意図せず前立腺が圧迫された。

「んっ、ぅあ……ぁ」
 テオドールの顔から余裕が消えて、抽送が早くなる。快感に悶えてテオドールの背中に回した手に力が入る。
 テオドールがそのまま俺に覆い被さって至近距離で目が合う。潤んだ瞳に気を取られていたら耳元に吐息を感じた。
「クラウス」
 今まで聞いたことがない低い声に、思わず顔を逸らす。テオドールは頬に軽く口付けて奥を突いた。

「うあっ……んっ……!」
 頭が真っ白になるほどの快感に背中が仰け反る。息を詰まらせたテオドールの動きが止まり、腹の中にじんわりとした温もりを感じた。
 息を荒げて余韻に浸っていると、テオドールが亀頭を奥に擦り付けるように腰を揺らす。
「やめっ。なんか、変だから」
「ああ、師匠出さないでイったから身体が敏感になってるかもしれないですね」
 すみません、と微塵も申し訳ない気持ちが伝わらない表情で謝られた。
「さっさと抜け」
「すみません。もう少しだけ」
「わかった。これ以上動くなよ」
 絶頂してなお硬さを保っていることに感心してしまい、つい許可してしまった。
 中に出されたせいで、腹の中の深いところからじわじわと快楽が湧いてくる。それを無視してテオドールの頭を撫でると、嬉しそうに笑ってくれた。

「俺、すごく幸せです」
 遠征実習の帰り道に似たような言葉を聞いた気がする。あの時は照れくさくてそっけない返しをしたけど、今は自然と笑みが溢れた。
「俺も幸せ」
 笑い合うと視線が絡まって、テオドールの顔が近づいていく。口付けを待ち望んで目を閉じていると、胸に刺激を感じた。驚いて自分の胸に目を向けると、テオドールが乳首に口付けていた。

「お前何やってんの?」
「素直な師匠が可愛らしくて思わず」
 乳首から口を離して真面目な顔で言い訳をする番いの姿がおかしくて声を上げて笑う。腹筋に力が入ったことで、中に入りっぱなしだったテオドールの陰茎が完全に硬さを取り戻していることに気づいた。
「あー……もう一回する?」
「お願いします」
 気まずそうに顔を伏せるテオドールの首に手を回して、顔を引き寄せる。舌を出すと俺の意図が伝わったようで、舌を伸ばして絡みついてきた。

 舌を擦れ合わせていると、奥に留まっていたテオドールの陰茎がゆっくりと引き抜かれた。張り出したカリ首が精液をかき出し、腸壁に塗り込まれる。それだけの動きで、今後訪れるであろう快感に口角が緩んだ。
「あっ……あぁ、ぅ」
「師匠、かわいい」
 八歳も年上の男にそんなことを言うなんて変わったやつだと思う。でも、本当に愛おしそうな顔だから、反論する気が失せた。
 今はこの気持ちよさに身を委ねよう。舌に残るテオドールの唾液を飲み込んで、よがり声を上げる。唾液や先走りよりも濃い体液がもたらす快感に頭がいっぱいになって、やがてテオドールのことしか考えられなくなった。
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