薬師の俺は、呪われた弟子の執着愛を今日もやり過ごす

ひなた

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学院編

第三話 衝撃の告白

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 先ほど、テオドールは、なんと言ったのだろう。
 ——だって俺の番いは師匠だから。
 なんとか話を切り出そうとしたが何も言葉が浮かばない。先走って開いた口が、もごもごと動くだけだ。

「師匠も回復薬飲みます?」
 声を失い、首を激しく上下に振って回復薬の瓶を受け取る。俺は今、ものすごく情けない姿を晒しているのではないだろうか。
 手渡された中級回復薬を一気に飲み干す。さすが俺特製の薬。喉越しがよく、舌に乗るほのかな甘みと鼻に抜ける爽やかな香りが素晴らしい。

 喉が潤ったおかげか、落ち着きを取り戻した。回復薬は精神の疲労にも効くのかもしれない。新発見だ。今度、薬師ギルドに報告してやろうか。
「えーっと、テオドールくん?」
「なんですか。その他人行儀な呼び方は」
「あっ、すまない。それで、ほら……あれだ。俺がお前の番いというのは、どういう意味だ?」
「初めて顔を合わせた時から、師匠に何かを感じていましたが、先ほどの話を聞いて確信しました。師匠は俺の番いです」
 テオドールが神妙な面持ちで俺の返事を待っている。普段と違う声の響きが本気を感じさせた。だからこそ、きちんと伝えなければならない。

「それは早計ってやつだ。よく考えて結論を出せ」
「俺の番いは師匠なのになんで否定するの? 俺のこと男として見れない? 俺は師匠のこと好きだよ。番いのことがなくても、俺は成人したら師匠に求婚するつもりだった。俺のどこがだめ? 言ってくれたら直すから教えてください。まさか、恋人がいるとかそういう話ですか? 俺が知ってる人ですか? 今度会わせてください。いろいろとお話がしたいです」
 俺の弟子が怖い。突然口調と纏う雰囲気が豹変したことに驚きを禁じ得ない。
 それでも師匠として、弟子の道を正してやらねばなるまい。俺は気を取り直して口を開いた。

「俺に恋人がいないのはお前も知ってるだろ」
「じゃあ、なんで俺の言葉を信じてくれないんですか。師匠は俺の番いなのに」
「俺だって、お前の未来を真剣に考えている。番いの契約はやり直しがきかない。生涯で一回きりだ。身近な人物への友愛を情愛と取り違えている可能性もあるのに、軽率に契約を交わすべきではない。結論を急ぐのはやめろ」
 テオドールの傷ついた顔から目が離せない。それでも、テオドールが大切な存在だからこそ、ここで俺が揺らいではいけない。

「そんなことありません! 俺は本気で」
「少しでも友愛の可能性があるなら、それは恋に似た何かだ。考えてみろ。番いっていうのは、四百年の歳月を共に過ごす存在なんだぞ。生半可な気持ちで決めることじゃない。これは師匠として、人生の先輩としての忠告だ」
「学院に……」

 テオドールは考え込むように俯いた。しばらくそうしていたかと思うと、今度は顔を上げてまっすぐこちらを見つめてくる。
 その表情には、決意のようなものが見え隠れしていた。

「学院に行って、たくさんの人と交流して、それでも師匠が好きだったら? 番いだって信じてくれますか」
「そうだな。そしたら考えてやるよ」
「わかりました」

 晴れやかな笑顔のテオドールを見て、納得してくれたのだと安堵した。
 その直後、雷鳴が轟いた。ああ、そういえば今日は朝から曇っていたな。窓から外の様子をうかがうため、椅子から立ち上がり、向かいに座るテオドールの横を通り過ぎる。
 ところが、テオドールに腕を掴まれて動けなくなった。不思議に思って黙ったままの弟子に向き直ると、真剣な顔で俺を見据えている。

「俺、この気持ちは本物だと思ってますから。もちろん学院での交流も頑張りますけど、これからはより一層、精一杯、わかりやすく、師匠に気持ちを伝えていきますので、よろしくお願いします」
「え? もしかして怒ってる?」
「いえ。己の不甲斐なさに腹が立っているだけです」

 それ、怒ってるってことだよな。仕方ない。ここは特別に俺特製の中級体力回復薬を飲ませてやるか。なんかシュワシュワしてるから飲んでたら落ち着くだろ。
 薬品棚に移動するため腕を離してもらおうと、様子のおかしい弟子に声をかける。
 テオドールはそれを無視して俺の手を取り、手の甲に唇を落とした。

「俺、頑張りますから。覚悟してくださいね。クラウス師匠。あ、畑の様子見てきます」
 誰だよ、可愛い弟子にこんなこと教えたやつ。今度会わせてほしい。いろいろと話がしたいから。
 一人リビングに取り残された俺は、不覚にも鼓動が早まった胸を押さえ、今後予想される展開に背筋を震わせるのであった。
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