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番外編
ダンジョンへ⑦ハッピーハロウィン※
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アキラのダンジョンを去ってからしばらく経ち、兄さんとのんびりフランディン共和国を楽しんでいたら季節は秋になっていた。家も借りたから春にもう一度アキラのところに遊びに行くのもいいかもしれない。
借家のリビングで夕ご飯を食べ終えた僕たちは、デザートを食べながらとりとめのない話をしていた。
「今日で秋の一の月も終わるね」
「そうだな。俺としてはようやく来たかという感じだが」
「何かあったっけ?」
「いや、別に」
「変なの……あれ? もう食べ終わったの?」
「まだ足りないからあるだけ食べてもいいか?」
「いいよー」
最近は鍛えてるから甘いものは控えると言っていたのに珍しい。ふたり用の小さなテーブルの上にデザートが所狭しと並ぶ。
今回借りた家はあまり広くない。リビングと寝室が一部屋あるだけだ。マンションの一室で同棲している気分になれるからこれはこれで好きだったりする。
「この家も物が増えたな」
「そうだね。でも、ドラゴンを解体してもらったおかげで無限収納に余裕があるから大丈夫だよ」
「無限収納に甘いものはあるのか?」
「まだ食べる気? 非常用にたくさんあるけど」
「いや、確認しただけだ」
「怪しいなぁ」
僕の視線から逃れるように兄さんが目を逸らす。これは明らかに様子が少しおかしい。なんというか、妙にそわそわしてる。まるでサプライズを用意している人みたいだ。
デザートを完食して紅茶に口をつける。兄さんも遅れて完食したかと思うと、いたずらを仕掛けた子どものように笑った。
「兄さん、どうしたの?」
「ルカ」
兄さんが満面の笑みで僕の名前を呼ぶからドキドキした。今日は珍しいことばかりだ。僕が返事をすると、兄さんは再び口を開いた。
「トリックオアトリート」
「えっ! なっ? は?」
驚きすぎてカップを放り投げるところだった。前世で聞いた言葉が兄さんの口から出ると衝撃がすごい。信じられなくて頭の中で何回か反芻したけど、間違いなく前世の言葉だ。
「今から無限収納は禁止で」
「なんで?」
「とにかく禁止で頼む。アキラから前世の祭事についていろいろ教えてもらってな。驚かせようと思って今まで黙っていた」
「あのメモ書きしてた時?」
「そうだ。特にハロウィンというのは素晴らしい祭事だな」
アキラに直接文句を言いたくなってきた。兄さんはメトゼナリア教徒だからそういった行事はあえて教えなかったのに。理由はそれだけではないけど、兄さんに余計なことを吹き込まないでほしい。
「ちなみにアキラからどんな説明されたの?」
「仮装をして騒ぐ祭事だと聞いた。子どもは仮装をして近隣を訪ね菓子をねだる。大人も仮装をするが、それは恋人と親交を深めるためと説明された。違ったか?」
一部当たっているけどそれは本来の趣旨ではない。都合のいい行事に改変されている。
大方、鬼丸さんにコスプレさせるためにアキラがでっち上げたのだろう。兄さんも鬼丸さんも前世のことを知らないから疑うはずもない。
「あのね、兄さん」
真実を告げようとした瞬間、兄さんと目が合った。キラキラした、期待に満ちた純粋な光がそこにあった。前にダンジョンで魔物について語った時と同じ目だ。
これを今から曇らせるのか? 兄さんは今日という日を心待ちにしていたみたいなのに? もう戻れない前世のために義理立てする必要などあるのだろうか。
「合ってるよ。正確すぎてびっくりしちゃった」
「そうか!」
兄さんが嬉しそうに笑う。その笑顔に心を痛めながら、これでよかったのだと自分に言い聞かせた。
「それで、兄さんにお菓子をあげたらいいの?」
「あるのか?」
「今はないけど」
そのためにデザートを平らげたのか。無限収納まで禁止にしてるし、兄さんが小学生みたいで可愛い。
「それなら着てほしいものがある」
張り切った様子の兄さんが立ち上がり、寝室に移動した。いつのまに衣装を用意したのだろう。全く気がつかなかった。
程なくして兄さんが戻ってきた。手には黒い布が握られている。
「これは?」
「ローブだ」
広げて見せてもらったそれは、何の装飾もないシンプルな黒ローブだった。
「魔女の仮装ってこと? なんでこれを選んだの?」
「アキラから黒いローブは魔法を使う者の象徴だと聞いた。ここだと魔法を使えることは当たり前だから、わざわざ衣装でアピールすることはないだろう? 興味深いと思ってな」
言われてみれば確かに不思議だ。
この世界での魔法使いは、魔法で魔物を討伐できるほどの実力者を指す。魔法を使えるだけの人物はただの一般人だ。この世界の感覚だと一般人の仮装という扱いになるのか。
前世で例えるとハロウィンの仮装なのにスーツを着るだけって感じなのかな。よくわからなくなってきた。
「これを着ればいいんだよね?」
ローブに腕を通そうとしたら兄さんに止められた。
「ローブの下に何も着ないでほしい」
「何言ってんの。絶対やだよ」
「そこをなんとか!」
前にもこんなことあったな。あの時は勢いに任せて裸エプロンを着たけど、連続で受け入れるのは不公平だ。
「前世のハロウィンでもローブの下に服は着てたって!」
「アキラが裸同然の仮装をすることもあると言っていた」
今すごくアキラに電気ショックとか食らわせたくなった。
「するかもしれないけど、健全な仮装のほうが多かったよ。ほら、魔女になって癒してあげようか? 魔法でマッサージとかするよ」
「もちろんそれも魅力的ではあるが……」
今さらだけど僕は兄さんのしょんぼりした顔に弱いみたいだ。でも一方的に恥ずかしい思いをするのは納得いかない。
「じゃあさ、来年は兄さんが仮装してくれるならいいよ」
「俺が?」
「うん」
「需要あるのか?」
「あるある。僕にすごくある」
兄さんが怪訝な顔をするので力強く肯定しておいた。僕の迫力に押されたのか、兄さんは渋々といった様子で頷いた。
「それなら……まあ」
「やった! 約束ね!」
言質は取ったけどそれだけでは不安なので、兄さんに承諾を得て魔法も使う。
「誓約の魔法まで使うとは……」
「念のためだから。じゃあ、着替えてくるから僕が呼ぶまでここにいてね」
兄さんの熱い視線に見送られながら寝室に引っ込む。
ローブは少し厚手で手触りのいい生地だ。兄さんって素材からこだわるよなぁと思いながら服を脱いでローブを羽織る。
一般的なローブよりも丈が短い。だけど短すぎるわけでもなく、膝上くらいの長さだ。
ひんやりとした生地が肌に直接触れて粟立つ。
まさか今世でハロウィンの仮装をすることになるとは思わなかった。
兄さんの反応はだいたい予想できるが、いざとなると恥ずかしい。
ドアを少しだけ開けて隙間から兄さんに呼びかける。
「着替えたよー」
「入るぞ」
早いって。もうちょっと心の準備がほしかった。
「どうかな?」
見えていないとわかっていても、ローブの中がスースーする不安感から裾を伸ばすように引っ張ってしまう。
「……いい」
「ありがとう」
「黒もいいな。白がよく映える」
兄さんの手が僕の髪に触れ、耳をなぞる。恍惚とした目で見つめられて身体が熱くなってくる。
我ながら単純だと思いながら、顔を上に向けそっと目を閉じる。予想を裏切ることなく兄さんの唇が重なった。
「んっ……」
肉厚の舌が口内に入り、受け入れると絡みついてくる。
「ふっ……ん、ぁ」
歯列をなぞり、上顎を舐められる。一つ一つの動作が丁寧でゆったりしていて、いつものような激しさはない。
気持ちいいのに少しだけ物足りない。そう思っていると、ローブの裾に手が入り込んだ。
「んんっ!」
言葉を封じるように舌を強く吸われ、両手で腰からお尻にかけて撫でさすられる。ぞわぞわした心地よさに抵抗する気も起きず、身を委ねることしかできない。
舌の動きが激しくなるのと連動して手の動きも大胆になっていく。尻臀を揉みしだかれ、内股をくすぐるようになぞられる。
「可愛い」
「あっ」
ようやく唇が離れたと思ったら、ベッドに押し倒された。慈しむような穏やかな表情とは裏腹に、性急な手つきで四つん這いにされる。
いつもと違う兄さんの余裕のない様子にドキドキする。
次は何をされるのか期待と不安が入り混じる中、引き出しを開ける音が聞こえたきり兄さんは動きを止めた。
「兄さん?」
「悪い。香油が……」
そういえば何日か前になくなって今日買ったばかりだ。
「無限収納にあるよ」
「よかった」
あからさまに安心した兄さんが可愛らしくて、ちょっとだけいじわるしたくなった。
「でも、禁止だったよね?」
振り返るとムッとした顔と目が合った。でもそれは一瞬だけで、兄さんはニヤリと口を歪めた。
「問題ない」
どういうことかと問いかける前に、尻臀を左右に広げられた。そして、空気に晒された肛門にぬるっとしたものが触れる。
「んぁっ……ばかばかばか! 何やってんの!」
兄さんは僕を無視して丁寧にそこを舐め始めた。
表面の皺をなぞるようにねっとり舐られ、ひくつく穴に舌が差し込まれる。
「うあっ……あっ、んんぅ」
内側を舐められる初めての感覚にただ喘ぐことしかできない。
ぞわぞわするのに気持ちいい。陰茎を触った時とは違う、小さな快感の波が絶え間なく続く感じ。
「やだぁ、止め……あっ、あっ」
兄さんが舌を尖らせてさらに深いところをなぞる。もどかしさに身体を揺らすとローブが肌を撫で、それさえも快感として拾ってしまう。
魔法で綺麗にしたとはいえ、早く止めないといけないのに未知の快楽に抗えない。
どれくらいの時間が経っただろうか。舐られ続けた穴はすっかり柔らかくなっていた。
「あぁぁっ……もう、だめっ……ぅあ」
内壁に唾液を塗り込むように高速でピストンされ、声が止まらない。時折縁を吸われて腰が跳ねる。
「んんっ、あっ……もういくっ、あっ」
射精そうになって身体に力を入れると、兄さんが穴から口を離した。
「なん、で」
「なんとなく」
兄さんの目がわずかに笑っていて、なにか計画していることは明らかだ。でも今はそんなことどうでもいい。
僕は身体を起こして兄さんの口に指を突っ込んで清浄の魔法をかけた。
「こら、さすがに乱暴」
指を引き抜くとすぐに兄さんが注意してきた。それを遮ってあるものを兄さんの目の前に突きつける。
「これは、香油か?」
必死に頷いて兄さんの両肩を掴む。
「もう限界だからぁ、奥、ついてほしい」
兄さんが喉を鳴らして唾を飲み込み、僕を押し倒した。正面から見る兄さんの顔は興奮を隠しきれない様子で、僕も同じように熱くなっていた。
服を脱いだ兄さんが香油を手に取り、手のひらをこすり合わせて温める。兄さんの気遣いだとわかっていても、その時間がじれったくて、僕は入れやすいように足を抱え兄さんを待った。
「入れるぞ」
「ああっ!」
頷く暇もなく、兄さんの指が僕の中に入ってくる。いきなり二本入れられたのに、柔らかくなった穴は簡単に兄さんの指を飲み込んでいく。
「あ、ふっ」
待ち望んでいた前立腺への刺激に身体が震える。兄さんは僕の感じるところを熟知していて、わざと外したり、かすめたりするように指を出し入れした。
「うねってる」
「だって、んんっ……ぅあっ!」
兄さんの指を締め付けてしまうのがわかって恥ずかしい。それでももっと刺激が欲しくて腰が勝手に動く。
足りない。もっと大きなもので、ガツガツ奥を突かれたい。
膝に置かれた兄さんの左手に触れる。薬指に光る指輪はお互いの熱ですぐに温くなった。
「あ、ん……っ。にいさん、も、ほしい」
もうずっとお預けを食らっているような状態が続いている。ねだるように兄さんを見つめると、その目はギラついていた。
「待て。もう少しだけ」
中に入る指が増えて刺激が増す。丁寧に解された後孔が疼いて、出し入れされるたびに締め付ける。指先が前立腺を掠めると絶頂感で膝が震えた。
「あっ……いくっ、ん……あッ!」
イキそうだったのに、突然兄さんの指が引き抜かれた。二度目の寸止めに、これは絶対なにかあると確信した。
「兄さ、ん」
「すまない。抜けてしまった」
「うそつき」
兄さんの意図が気になるけど、早く中に欲しくて、そのことは頭の隅に追いやった。
兄さんが僕の足を抱え、ひくつく穴に陰茎を擦り付ける。
「んっ……あぁぁ、はやくぅ」
「そんなにほしいのか?」
「ほしいから、おねがい」
足が自然と開いて受け入れる準備をする。兄さんは満足そうに頷いた後、僕の腰を掴んだ。
「あぁぁぁ~~!」
一気に奥まで突かれ、ずっと待ち望んでいた衝撃に声が上がる。
「中、熱いな」
「きもちいぃ……にいさんの、あっ、きもちいい……っ」
これだ。これがほしかったと身体が悦び、肉襞が収縮する。
ゆっくりと長いストロークが正確に前立腺を穿つ。兄さんが腰を動かす度に肌と肌がぶつかり合う音と粘着質な音が響き、それに僕のよがり声が混じる。
「はぁ……ぁ、おくっ……すごい」
恍惚と呟いていたら兄さんが僕の胸に手を当ててきた。
「ここ、ローブの上からでもはっきりわかる」
「やっ……ぅあ」
兄さんの親指が乳輪を撫でる。焦らすような手つきのせいで、そこは痛いくらいに尖っていた。
「あっ、あっ」
もどかしい刺激に身を捩らせていると、いきなり乳首を摘まれた。
「ああっ!」
親指と人差し指でぐにぐにと捏ねられる。胸の奥から痺れるような快感が昇り、連動して後孔が兄さんのものを締め付ける。
「……ふ」
目を細めて息を荒げる兄さんの顔は獣のように獰猛で、普段の優しい表情とのギャップに胸が高鳴った。
「んっ……あっ、はぁ」
兄さんの腰の動きも速くなり、僕の中はぐちゃぐちゃに掻き回される。
「もう限界か? ここも苦しそうだ」
兄さんの手が、ローブの裾が捲れて露出した僕の陰茎を握る。
「あッ! だめ、もうイくっ」
「ルカ、一緒にイこう」
前と後ろを同時に責め立てられ、一際大きい喘ぎ声が上がる。力強い手で陰茎を上下に擦られると頭が真っ白になった。
抽挿が激しくなり、奥をぐりぐり捏ね回されて背を逸らして喘ぐ。硬い亀頭が膨れ上がった前立腺を容赦なく抉った時、陰茎から勢いよく白濁が飛び出した。
「んんっ……ぁあ……っ! すごいぃ……はぁっ」
絶頂に達してびくびくと震える僕の中に、熱いものが注がれる。
散々寸止めされてようやく絶頂に至った僕は、余韻に浸りながら息を乱して天井を仰いでいた。
「ルカ、大丈夫か?」
兄さんの優しい声に小さく頷く。
「ん……気持ちよかった」
イったはずなのに兄さんは陰茎を抜くことなく、僕のお腹の辺りに触れた。
「やはり黒もいいな。白が際立つ」
陶酔したような兄さんの声に驚いてお腹に視線を向ける。
そこには、黒いローブに僕が出した精液が飛び散っていた。
「えっと、どういうこと?」
「黒には白が一番合うと思ってな。狙い通りだ」
兄さんはうっとりした顔で僕のお腹を優しく撫でている。
「つまり、意図的にやったってことでいいの?」
「ああ。我慢すればそれだけ飛びやすくなるから」
それで焦らしていたのか。気持ちよかったからそこは責めるつもりはない。でもどうしよう、兄さんがどんどんよくない方向に進んでいる気がする。
「兄さんの変態」
「……」
兄さんが顔を俯かせた。あまり深刻にならないよう明るく言ったつもりだったけど、傷つけてしまったかもしれない。
「あの、兄さん」
「ルカ、すまない」
「え、あ。なんで、おおきくなって」
ゆるゆると兄さんの腰が動き、中のものが完全に硬くなった。
「あとで、改めて謝るから」
「あ。や、だめ……にいさん」
兄さんの陰茎が奥を抉る。突然のことに戸惑いながらも確かに感じている自分がいた。
「あっ、あっ、んぅ」
「ルカ」
不安そうな表情で僕の顔を覗き込む兄さん。そんな恋人が愛おしくて、僕は兄さんの首に腕を回した。
唇を重ね舌を絡ませながら、結局ハロウィンらしいことはあんまりしてないよなぁ、と頭の片隅で思った。
兄さんに腕枕をされてくっついていたら、気遣わしげに声をかけられた。
「声は平気か? 無理をさせた」
「うん、大丈夫」
枯れた喉は魔法で回復させたので問題ない。気がついたら日付が変わり、ハロウィンは終わっていた。
最終的に汚れたローブも脱いだから普段と変わらないセックスだった。
気にしてないよと兄さんの胸に頬を擦り寄せる。質のいい筋肉に覆われたそこは、程よい弾力があって心地いい。
「来年もこうやって一緒に過ごそう」
見上げると兄さんが楽しそうに笑っていた。
「兄さんは前世の行事に抵抗ないの? 中には宗教的な意味を含むものもあるけど」
「特に何も。全然知らない世界の話だから普通に割り切れる」
そういうものなのかな。兄さんがいいならこれ以上何も言うつもりはないけど。
「俺も一つ聞いていいか?」
「なに? どうしたの?」
「俺に前世の祭事を教えなかった理由は? 食べ物は自発的に共有してくれたから疑問に思った」
「えーっと。ほら、やっぱり宗教が絡むと難しいかなって」
「ルカ」
兄さんの真っ直ぐな視線に身が竦む。答えたくないと言えば追及されないことはわかっているが、僕は兄さんのこの目に弱い。
「笑わない?」
「約束する」
「恥ずかしくって。僕にとって前世の行事は黒歴史を彷彿とさせるものだから」
「黒……よくわからないが、恥ずべき過去ということか?」
「そうだよ」
今思い出しただけでも顔から火が出そうだ。ここまで話しておいて黙っているのも申し訳ないから、話を続ける。
「前世でさ、たまたま用事がない日とハロウィンがかぶったことがあったんだ」
「学生時代は多忙だったと言っていたな」
「そうそう。本当に珍しいことで、真っ先に母に電話したんだ。今から実家に帰るって」
「ああ」
「そしたら『昼は家を空けているし、夜は子どもたちとパーティーをするから遠慮してほしい』って言われて」
「それは……」
兄さんの顔が険しくなる。ここだけ聞いたら悲しい過去を告白されたように感じるだろう。だがこれで終わりではない。
「要約するとお前は来るなってことなんだけど、当時の僕はその言葉を曲解してさ。それならパーティーが終わってから一緒に過ごせばいいと思って夜中に訪問したんだ。もちろん仮装して」
「……」
「不審者だと勘違いされて警察沙汰になったよ。両親の引き攣った顔が今でも忘れられない。振り返ると本当自分が恥ずかしいから話しにくかったというか。あ、他にも何個かエピソードが——」
話の途中で兄さんが僕の身体を抱き寄せた。
「今のところ笑える要素は一つもなかったな」
「そう?」
「ルカにとっては恥ずかしい過去なのかもしれないが、俺はそう思わなかった」
密着しすぎて兄さんの顔が見えないが、きっと痛ましい表情をしているのだろう。
「たぶん兄さんの意見が正解なんだと思う。客観的に考えると痛々しいんだけど、でも自分のことだと思うと恥ずかしくなるっていうか」
「気持ちはわかる。俺も忘れたい過去が山ほどあるから」
兄さんの声は固いままだ。
あの頃は両親の愛情が欲しくて欲しくてたまらなかった。あの人たちに見捨てられたことはわかっていたけど目を背けていた。
もし前世の僕に話しかけることができたら、何日かかってもいいから、求めることを諦めろと言い聞かせるだろう。
「まあ、そういうわけで。今まで黙っててごめんね」
「俺ではだめか?」
「え?」
思わず身体を起こして兄さんの方を見る。兄さんも遅れて身体を起こし、僕を抱きしめた。
「前世の家族との思い出を、俺で上書きすることはできないか?」
「それは……」
兄さんの胸に抱かれながら、僕は言葉を詰まらせる。
「親の代わりにはなれないが、俺だって血の繋がった家族だ」
兄さんの言葉に目を見開く。とめどない喜びが湧き上がり、笑い声になって飛び出した。
ああ、そうだ。僕は前世でほしかったものを、今世で全て手に入れているんだった。
しばらく笑っていた僕を、兄さんが心配そうに見つめる。
「ごめん、嬉しくって。そうだよね、兄さんは家族だもんね」
僕は兄さんの頬に手を添えた。兄さんは僕の手に自分の手を重ねると、そのまま優しく握る。
「こうやって触れ合ってると、たまに兄弟ということを忘れそうになる」
「それ! 不思議だよね」
微笑み合いながら、生涯忘れることのないハロウィンになったと強く思う。
「来年が楽しみだなぁ。兄さんに何着てもらおう? 今のところ候補はスーツかブーメランパンツなんだけど」
「覚えていたか……それはどんな衣装なんだ?」
「忘れるわけないじゃん。スーツは鬼丸さんが着てたやつだよ」
「あれか。俺には似合わないと思うが」
「絶対似合うよ! 保証する!」
「まあ、約束だからな。それで、ブーメランパンツというのは?」
「それはね——」
きっと、来年も再来年もその先もずっと、お互い相手に何を着せるかで言い合うのだろう。
幸せな予感に顔をほころばせながら、前世の苦々しい記憶が薄れていくのを感じた。
※ 約二ヶ月後、兄さんに「姫始めだな」と言われたルカがダンジョンへ殴り込みに行くことを決意する
借家のリビングで夕ご飯を食べ終えた僕たちは、デザートを食べながらとりとめのない話をしていた。
「今日で秋の一の月も終わるね」
「そうだな。俺としてはようやく来たかという感じだが」
「何かあったっけ?」
「いや、別に」
「変なの……あれ? もう食べ終わったの?」
「まだ足りないからあるだけ食べてもいいか?」
「いいよー」
最近は鍛えてるから甘いものは控えると言っていたのに珍しい。ふたり用の小さなテーブルの上にデザートが所狭しと並ぶ。
今回借りた家はあまり広くない。リビングと寝室が一部屋あるだけだ。マンションの一室で同棲している気分になれるからこれはこれで好きだったりする。
「この家も物が増えたな」
「そうだね。でも、ドラゴンを解体してもらったおかげで無限収納に余裕があるから大丈夫だよ」
「無限収納に甘いものはあるのか?」
「まだ食べる気? 非常用にたくさんあるけど」
「いや、確認しただけだ」
「怪しいなぁ」
僕の視線から逃れるように兄さんが目を逸らす。これは明らかに様子が少しおかしい。なんというか、妙にそわそわしてる。まるでサプライズを用意している人みたいだ。
デザートを完食して紅茶に口をつける。兄さんも遅れて完食したかと思うと、いたずらを仕掛けた子どものように笑った。
「兄さん、どうしたの?」
「ルカ」
兄さんが満面の笑みで僕の名前を呼ぶからドキドキした。今日は珍しいことばかりだ。僕が返事をすると、兄さんは再び口を開いた。
「トリックオアトリート」
「えっ! なっ? は?」
驚きすぎてカップを放り投げるところだった。前世で聞いた言葉が兄さんの口から出ると衝撃がすごい。信じられなくて頭の中で何回か反芻したけど、間違いなく前世の言葉だ。
「今から無限収納は禁止で」
「なんで?」
「とにかく禁止で頼む。アキラから前世の祭事についていろいろ教えてもらってな。驚かせようと思って今まで黙っていた」
「あのメモ書きしてた時?」
「そうだ。特にハロウィンというのは素晴らしい祭事だな」
アキラに直接文句を言いたくなってきた。兄さんはメトゼナリア教徒だからそういった行事はあえて教えなかったのに。理由はそれだけではないけど、兄さんに余計なことを吹き込まないでほしい。
「ちなみにアキラからどんな説明されたの?」
「仮装をして騒ぐ祭事だと聞いた。子どもは仮装をして近隣を訪ね菓子をねだる。大人も仮装をするが、それは恋人と親交を深めるためと説明された。違ったか?」
一部当たっているけどそれは本来の趣旨ではない。都合のいい行事に改変されている。
大方、鬼丸さんにコスプレさせるためにアキラがでっち上げたのだろう。兄さんも鬼丸さんも前世のことを知らないから疑うはずもない。
「あのね、兄さん」
真実を告げようとした瞬間、兄さんと目が合った。キラキラした、期待に満ちた純粋な光がそこにあった。前にダンジョンで魔物について語った時と同じ目だ。
これを今から曇らせるのか? 兄さんは今日という日を心待ちにしていたみたいなのに? もう戻れない前世のために義理立てする必要などあるのだろうか。
「合ってるよ。正確すぎてびっくりしちゃった」
「そうか!」
兄さんが嬉しそうに笑う。その笑顔に心を痛めながら、これでよかったのだと自分に言い聞かせた。
「それで、兄さんにお菓子をあげたらいいの?」
「あるのか?」
「今はないけど」
そのためにデザートを平らげたのか。無限収納まで禁止にしてるし、兄さんが小学生みたいで可愛い。
「それなら着てほしいものがある」
張り切った様子の兄さんが立ち上がり、寝室に移動した。いつのまに衣装を用意したのだろう。全く気がつかなかった。
程なくして兄さんが戻ってきた。手には黒い布が握られている。
「これは?」
「ローブだ」
広げて見せてもらったそれは、何の装飾もないシンプルな黒ローブだった。
「魔女の仮装ってこと? なんでこれを選んだの?」
「アキラから黒いローブは魔法を使う者の象徴だと聞いた。ここだと魔法を使えることは当たり前だから、わざわざ衣装でアピールすることはないだろう? 興味深いと思ってな」
言われてみれば確かに不思議だ。
この世界での魔法使いは、魔法で魔物を討伐できるほどの実力者を指す。魔法を使えるだけの人物はただの一般人だ。この世界の感覚だと一般人の仮装という扱いになるのか。
前世で例えるとハロウィンの仮装なのにスーツを着るだけって感じなのかな。よくわからなくなってきた。
「これを着ればいいんだよね?」
ローブに腕を通そうとしたら兄さんに止められた。
「ローブの下に何も着ないでほしい」
「何言ってんの。絶対やだよ」
「そこをなんとか!」
前にもこんなことあったな。あの時は勢いに任せて裸エプロンを着たけど、連続で受け入れるのは不公平だ。
「前世のハロウィンでもローブの下に服は着てたって!」
「アキラが裸同然の仮装をすることもあると言っていた」
今すごくアキラに電気ショックとか食らわせたくなった。
「するかもしれないけど、健全な仮装のほうが多かったよ。ほら、魔女になって癒してあげようか? 魔法でマッサージとかするよ」
「もちろんそれも魅力的ではあるが……」
今さらだけど僕は兄さんのしょんぼりした顔に弱いみたいだ。でも一方的に恥ずかしい思いをするのは納得いかない。
「じゃあさ、来年は兄さんが仮装してくれるならいいよ」
「俺が?」
「うん」
「需要あるのか?」
「あるある。僕にすごくある」
兄さんが怪訝な顔をするので力強く肯定しておいた。僕の迫力に押されたのか、兄さんは渋々といった様子で頷いた。
「それなら……まあ」
「やった! 約束ね!」
言質は取ったけどそれだけでは不安なので、兄さんに承諾を得て魔法も使う。
「誓約の魔法まで使うとは……」
「念のためだから。じゃあ、着替えてくるから僕が呼ぶまでここにいてね」
兄さんの熱い視線に見送られながら寝室に引っ込む。
ローブは少し厚手で手触りのいい生地だ。兄さんって素材からこだわるよなぁと思いながら服を脱いでローブを羽織る。
一般的なローブよりも丈が短い。だけど短すぎるわけでもなく、膝上くらいの長さだ。
ひんやりとした生地が肌に直接触れて粟立つ。
まさか今世でハロウィンの仮装をすることになるとは思わなかった。
兄さんの反応はだいたい予想できるが、いざとなると恥ずかしい。
ドアを少しだけ開けて隙間から兄さんに呼びかける。
「着替えたよー」
「入るぞ」
早いって。もうちょっと心の準備がほしかった。
「どうかな?」
見えていないとわかっていても、ローブの中がスースーする不安感から裾を伸ばすように引っ張ってしまう。
「……いい」
「ありがとう」
「黒もいいな。白がよく映える」
兄さんの手が僕の髪に触れ、耳をなぞる。恍惚とした目で見つめられて身体が熱くなってくる。
我ながら単純だと思いながら、顔を上に向けそっと目を閉じる。予想を裏切ることなく兄さんの唇が重なった。
「んっ……」
肉厚の舌が口内に入り、受け入れると絡みついてくる。
「ふっ……ん、ぁ」
歯列をなぞり、上顎を舐められる。一つ一つの動作が丁寧でゆったりしていて、いつものような激しさはない。
気持ちいいのに少しだけ物足りない。そう思っていると、ローブの裾に手が入り込んだ。
「んんっ!」
言葉を封じるように舌を強く吸われ、両手で腰からお尻にかけて撫でさすられる。ぞわぞわした心地よさに抵抗する気も起きず、身を委ねることしかできない。
舌の動きが激しくなるのと連動して手の動きも大胆になっていく。尻臀を揉みしだかれ、内股をくすぐるようになぞられる。
「可愛い」
「あっ」
ようやく唇が離れたと思ったら、ベッドに押し倒された。慈しむような穏やかな表情とは裏腹に、性急な手つきで四つん這いにされる。
いつもと違う兄さんの余裕のない様子にドキドキする。
次は何をされるのか期待と不安が入り混じる中、引き出しを開ける音が聞こえたきり兄さんは動きを止めた。
「兄さん?」
「悪い。香油が……」
そういえば何日か前になくなって今日買ったばかりだ。
「無限収納にあるよ」
「よかった」
あからさまに安心した兄さんが可愛らしくて、ちょっとだけいじわるしたくなった。
「でも、禁止だったよね?」
振り返るとムッとした顔と目が合った。でもそれは一瞬だけで、兄さんはニヤリと口を歪めた。
「問題ない」
どういうことかと問いかける前に、尻臀を左右に広げられた。そして、空気に晒された肛門にぬるっとしたものが触れる。
「んぁっ……ばかばかばか! 何やってんの!」
兄さんは僕を無視して丁寧にそこを舐め始めた。
表面の皺をなぞるようにねっとり舐られ、ひくつく穴に舌が差し込まれる。
「うあっ……あっ、んんぅ」
内側を舐められる初めての感覚にただ喘ぐことしかできない。
ぞわぞわするのに気持ちいい。陰茎を触った時とは違う、小さな快感の波が絶え間なく続く感じ。
「やだぁ、止め……あっ、あっ」
兄さんが舌を尖らせてさらに深いところをなぞる。もどかしさに身体を揺らすとローブが肌を撫で、それさえも快感として拾ってしまう。
魔法で綺麗にしたとはいえ、早く止めないといけないのに未知の快楽に抗えない。
どれくらいの時間が経っただろうか。舐られ続けた穴はすっかり柔らかくなっていた。
「あぁぁっ……もう、だめっ……ぅあ」
内壁に唾液を塗り込むように高速でピストンされ、声が止まらない。時折縁を吸われて腰が跳ねる。
「んんっ、あっ……もういくっ、あっ」
射精そうになって身体に力を入れると、兄さんが穴から口を離した。
「なん、で」
「なんとなく」
兄さんの目がわずかに笑っていて、なにか計画していることは明らかだ。でも今はそんなことどうでもいい。
僕は身体を起こして兄さんの口に指を突っ込んで清浄の魔法をかけた。
「こら、さすがに乱暴」
指を引き抜くとすぐに兄さんが注意してきた。それを遮ってあるものを兄さんの目の前に突きつける。
「これは、香油か?」
必死に頷いて兄さんの両肩を掴む。
「もう限界だからぁ、奥、ついてほしい」
兄さんが喉を鳴らして唾を飲み込み、僕を押し倒した。正面から見る兄さんの顔は興奮を隠しきれない様子で、僕も同じように熱くなっていた。
服を脱いだ兄さんが香油を手に取り、手のひらをこすり合わせて温める。兄さんの気遣いだとわかっていても、その時間がじれったくて、僕は入れやすいように足を抱え兄さんを待った。
「入れるぞ」
「ああっ!」
頷く暇もなく、兄さんの指が僕の中に入ってくる。いきなり二本入れられたのに、柔らかくなった穴は簡単に兄さんの指を飲み込んでいく。
「あ、ふっ」
待ち望んでいた前立腺への刺激に身体が震える。兄さんは僕の感じるところを熟知していて、わざと外したり、かすめたりするように指を出し入れした。
「うねってる」
「だって、んんっ……ぅあっ!」
兄さんの指を締め付けてしまうのがわかって恥ずかしい。それでももっと刺激が欲しくて腰が勝手に動く。
足りない。もっと大きなもので、ガツガツ奥を突かれたい。
膝に置かれた兄さんの左手に触れる。薬指に光る指輪はお互いの熱ですぐに温くなった。
「あ、ん……っ。にいさん、も、ほしい」
もうずっとお預けを食らっているような状態が続いている。ねだるように兄さんを見つめると、その目はギラついていた。
「待て。もう少しだけ」
中に入る指が増えて刺激が増す。丁寧に解された後孔が疼いて、出し入れされるたびに締め付ける。指先が前立腺を掠めると絶頂感で膝が震えた。
「あっ……いくっ、ん……あッ!」
イキそうだったのに、突然兄さんの指が引き抜かれた。二度目の寸止めに、これは絶対なにかあると確信した。
「兄さ、ん」
「すまない。抜けてしまった」
「うそつき」
兄さんの意図が気になるけど、早く中に欲しくて、そのことは頭の隅に追いやった。
兄さんが僕の足を抱え、ひくつく穴に陰茎を擦り付ける。
「んっ……あぁぁ、はやくぅ」
「そんなにほしいのか?」
「ほしいから、おねがい」
足が自然と開いて受け入れる準備をする。兄さんは満足そうに頷いた後、僕の腰を掴んだ。
「あぁぁぁ~~!」
一気に奥まで突かれ、ずっと待ち望んでいた衝撃に声が上がる。
「中、熱いな」
「きもちいぃ……にいさんの、あっ、きもちいい……っ」
これだ。これがほしかったと身体が悦び、肉襞が収縮する。
ゆっくりと長いストロークが正確に前立腺を穿つ。兄さんが腰を動かす度に肌と肌がぶつかり合う音と粘着質な音が響き、それに僕のよがり声が混じる。
「はぁ……ぁ、おくっ……すごい」
恍惚と呟いていたら兄さんが僕の胸に手を当ててきた。
「ここ、ローブの上からでもはっきりわかる」
「やっ……ぅあ」
兄さんの親指が乳輪を撫でる。焦らすような手つきのせいで、そこは痛いくらいに尖っていた。
「あっ、あっ」
もどかしい刺激に身を捩らせていると、いきなり乳首を摘まれた。
「ああっ!」
親指と人差し指でぐにぐにと捏ねられる。胸の奥から痺れるような快感が昇り、連動して後孔が兄さんのものを締め付ける。
「……ふ」
目を細めて息を荒げる兄さんの顔は獣のように獰猛で、普段の優しい表情とのギャップに胸が高鳴った。
「んっ……あっ、はぁ」
兄さんの腰の動きも速くなり、僕の中はぐちゃぐちゃに掻き回される。
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兄さんの手が、ローブの裾が捲れて露出した僕の陰茎を握る。
「あッ! だめ、もうイくっ」
「ルカ、一緒にイこう」
前と後ろを同時に責め立てられ、一際大きい喘ぎ声が上がる。力強い手で陰茎を上下に擦られると頭が真っ白になった。
抽挿が激しくなり、奥をぐりぐり捏ね回されて背を逸らして喘ぐ。硬い亀頭が膨れ上がった前立腺を容赦なく抉った時、陰茎から勢いよく白濁が飛び出した。
「んんっ……ぁあ……っ! すごいぃ……はぁっ」
絶頂に達してびくびくと震える僕の中に、熱いものが注がれる。
散々寸止めされてようやく絶頂に至った僕は、余韻に浸りながら息を乱して天井を仰いでいた。
「ルカ、大丈夫か?」
兄さんの優しい声に小さく頷く。
「ん……気持ちよかった」
イったはずなのに兄さんは陰茎を抜くことなく、僕のお腹の辺りに触れた。
「やはり黒もいいな。白が際立つ」
陶酔したような兄さんの声に驚いてお腹に視線を向ける。
そこには、黒いローブに僕が出した精液が飛び散っていた。
「えっと、どういうこと?」
「黒には白が一番合うと思ってな。狙い通りだ」
兄さんはうっとりした顔で僕のお腹を優しく撫でている。
「つまり、意図的にやったってことでいいの?」
「ああ。我慢すればそれだけ飛びやすくなるから」
それで焦らしていたのか。気持ちよかったからそこは責めるつもりはない。でもどうしよう、兄さんがどんどんよくない方向に進んでいる気がする。
「兄さんの変態」
「……」
兄さんが顔を俯かせた。あまり深刻にならないよう明るく言ったつもりだったけど、傷つけてしまったかもしれない。
「あの、兄さん」
「ルカ、すまない」
「え、あ。なんで、おおきくなって」
ゆるゆると兄さんの腰が動き、中のものが完全に硬くなった。
「あとで、改めて謝るから」
「あ。や、だめ……にいさん」
兄さんの陰茎が奥を抉る。突然のことに戸惑いながらも確かに感じている自分がいた。
「あっ、あっ、んぅ」
「ルカ」
不安そうな表情で僕の顔を覗き込む兄さん。そんな恋人が愛おしくて、僕は兄さんの首に腕を回した。
唇を重ね舌を絡ませながら、結局ハロウィンらしいことはあんまりしてないよなぁ、と頭の片隅で思った。
兄さんに腕枕をされてくっついていたら、気遣わしげに声をかけられた。
「声は平気か? 無理をさせた」
「うん、大丈夫」
枯れた喉は魔法で回復させたので問題ない。気がついたら日付が変わり、ハロウィンは終わっていた。
最終的に汚れたローブも脱いだから普段と変わらないセックスだった。
気にしてないよと兄さんの胸に頬を擦り寄せる。質のいい筋肉に覆われたそこは、程よい弾力があって心地いい。
「来年もこうやって一緒に過ごそう」
見上げると兄さんが楽しそうに笑っていた。
「兄さんは前世の行事に抵抗ないの? 中には宗教的な意味を含むものもあるけど」
「特に何も。全然知らない世界の話だから普通に割り切れる」
そういうものなのかな。兄さんがいいならこれ以上何も言うつもりはないけど。
「俺も一つ聞いていいか?」
「なに? どうしたの?」
「俺に前世の祭事を教えなかった理由は? 食べ物は自発的に共有してくれたから疑問に思った」
「えーっと。ほら、やっぱり宗教が絡むと難しいかなって」
「ルカ」
兄さんの真っ直ぐな視線に身が竦む。答えたくないと言えば追及されないことはわかっているが、僕は兄さんのこの目に弱い。
「笑わない?」
「約束する」
「恥ずかしくって。僕にとって前世の行事は黒歴史を彷彿とさせるものだから」
「黒……よくわからないが、恥ずべき過去ということか?」
「そうだよ」
今思い出しただけでも顔から火が出そうだ。ここまで話しておいて黙っているのも申し訳ないから、話を続ける。
「前世でさ、たまたま用事がない日とハロウィンがかぶったことがあったんだ」
「学生時代は多忙だったと言っていたな」
「そうそう。本当に珍しいことで、真っ先に母に電話したんだ。今から実家に帰るって」
「ああ」
「そしたら『昼は家を空けているし、夜は子どもたちとパーティーをするから遠慮してほしい』って言われて」
「それは……」
兄さんの顔が険しくなる。ここだけ聞いたら悲しい過去を告白されたように感じるだろう。だがこれで終わりではない。
「要約するとお前は来るなってことなんだけど、当時の僕はその言葉を曲解してさ。それならパーティーが終わってから一緒に過ごせばいいと思って夜中に訪問したんだ。もちろん仮装して」
「……」
「不審者だと勘違いされて警察沙汰になったよ。両親の引き攣った顔が今でも忘れられない。振り返ると本当自分が恥ずかしいから話しにくかったというか。あ、他にも何個かエピソードが——」
話の途中で兄さんが僕の身体を抱き寄せた。
「今のところ笑える要素は一つもなかったな」
「そう?」
「ルカにとっては恥ずかしい過去なのかもしれないが、俺はそう思わなかった」
密着しすぎて兄さんの顔が見えないが、きっと痛ましい表情をしているのだろう。
「たぶん兄さんの意見が正解なんだと思う。客観的に考えると痛々しいんだけど、でも自分のことだと思うと恥ずかしくなるっていうか」
「気持ちはわかる。俺も忘れたい過去が山ほどあるから」
兄さんの声は固いままだ。
あの頃は両親の愛情が欲しくて欲しくてたまらなかった。あの人たちに見捨てられたことはわかっていたけど目を背けていた。
もし前世の僕に話しかけることができたら、何日かかってもいいから、求めることを諦めろと言い聞かせるだろう。
「まあ、そういうわけで。今まで黙っててごめんね」
「俺ではだめか?」
「え?」
思わず身体を起こして兄さんの方を見る。兄さんも遅れて身体を起こし、僕を抱きしめた。
「前世の家族との思い出を、俺で上書きすることはできないか?」
「それは……」
兄さんの胸に抱かれながら、僕は言葉を詰まらせる。
「親の代わりにはなれないが、俺だって血の繋がった家族だ」
兄さんの言葉に目を見開く。とめどない喜びが湧き上がり、笑い声になって飛び出した。
ああ、そうだ。僕は前世でほしかったものを、今世で全て手に入れているんだった。
しばらく笑っていた僕を、兄さんが心配そうに見つめる。
「ごめん、嬉しくって。そうだよね、兄さんは家族だもんね」
僕は兄さんの頬に手を添えた。兄さんは僕の手に自分の手を重ねると、そのまま優しく握る。
「こうやって触れ合ってると、たまに兄弟ということを忘れそうになる」
「それ! 不思議だよね」
微笑み合いながら、生涯忘れることのないハロウィンになったと強く思う。
「来年が楽しみだなぁ。兄さんに何着てもらおう? 今のところ候補はスーツかブーメランパンツなんだけど」
「覚えていたか……それはどんな衣装なんだ?」
「忘れるわけないじゃん。スーツは鬼丸さんが着てたやつだよ」
「あれか。俺には似合わないと思うが」
「絶対似合うよ! 保証する!」
「まあ、約束だからな。それで、ブーメランパンツというのは?」
「それはね——」
きっと、来年も再来年もその先もずっと、お互い相手に何を着せるかで言い合うのだろう。
幸せな予感に顔をほころばせながら、前世の苦々しい記憶が薄れていくのを感じた。
※ 約二ヶ月後、兄さんに「姫始めだな」と言われたルカがダンジョンへ殴り込みに行くことを決意する
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最後までお読みいただきありがとうございました!嬉しい感想ありがとうございます!