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番外編
ダンジョンへ⑥前世
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気だるげな顔の男性が目の奥だけ光らせ、僕を見据える。
「まず、あの収納魔法について聞きたいんだけど」
「やり方なら今すぐ教えるよ」
「そうじゃなくて。あれ謎の存在に怒られなかった? あいつ、この世界に干渉しようとしたらすぐ止めるだろ?」
「なんで僕が知ってる前提なの」
「なんとなく、お前は俺と同類の気配がする」
なぜここまで自信満々な表情ができるのだろうか。アキラの予想が当たっているから余計に憎らしい。
「無限収納は怒られなかったよ。でも前に痛い目にあった」
「やっぱりな。いつ?」
「五年前。上空からこの世界を見てみようと思ってさ、人工衛星をイメージして魔力を飛ばしたら全身に激痛が走った」
「うわー! やってそう!」
ゲラゲラ笑うアキラにイラッとしながら話を進める。
「最初熱いと感じて、それから神経を直接刺されたみたいな激痛が……」
「そうそう! あれ信じられんくらい痛いよな! 鬼丸に説明しても全然伝わらないの」
「僕は兄さんが心配するから絶対言わない」
「愛だねぇ」
アキラはなぜかしみじみと頷いた。
「やっぱり謎の存在ってこの世界の創造神なのかな?」
「十中八九そうだろうな」
「前世の感覚が残ってるから直接介入されるの本当に恐ろしくて、関わるのも嫌なんだ。でもこの世界の住民って大体がメトゼナリア教徒だから下手なこと言えないし」
兄さんもメトゼナリア教徒だからなぁ。熱心なわけではないから忘れがちだけど、兄さんに初めて回復魔法を使った時女神様って言われたし。
「そりゃ大変だ。でも余計なことしなければ大丈夫だろ」
「こっちは余計の基準がわからないけどね」
「それな」
何の解決にもならなかったけど少し気持ちが軽くなった気がした。
「僕も質問していい?」
「おっ! 乗ってきたな」
「アキラの見た目は亡くなった当時のままなの?」
「そうそう、イケメンだろ? 髭は三日くらい剃り忘れてるけど」
「あー、うん。よくわからないけど髭は毎日剃ったほうがいいよ」
「冷たいなぁ」
アキラがイケメンかどうか判断できないから何とも言えない。本人の反応的にイケメンではない気がする。見た目は完全に街中でよく見る疲れたサラリーマンだ。
「俺からも質問だ」
アキラがわくわくした様子で聞いてくる。
「何?」
「医学部ってことはかなりモテただろ? 話聞かせろ」
「全くだよ。前世は誰とも付き合ったことなかったし」
「へぇ」
もう興味津々って顔だ。これは長くなるだろう。期待されても浮いた話なんて一つもないのに。
「不細工だったとか?」
どストレートな質問がきた。けっこう失礼じゃないかな。鬼丸さん、苦労してそうだ。
「さあ? よく覚えてないけど容姿は褒められたことしかないよ」
「顔はよかった、と。身長は? 今より低かった?」
「高かったよ。一八五センチくらいあったかな」
むしろ今の方が十センチ以上低いのが納得いかない。前世と同じくらいあれば戦闘面での苦労が減ったのに。
「顔が良くて、高身長で、実家金持ちなのになんで浮いた話がないの?」
アキラが呆れたように言う。
「時間がなかったからかな? 部活もバイトもしてたし」
「何部? 漫研とか?」
「テニス部」
「おい!」
いきなり大声を出されたからびっくりした。アキラは苦い顔をしてこちらを見ている。
「おかしいだろ! どうしてそれで彼女の十人や二十人できないんだよ!」
しつこいなぁ。興味がなかっただけなんだけど、それを言ったら面倒くさいことになりそうだ。
「本当に時間がなかったんだって。暇さえあれば実家に帰ってたから」
「なんでわざわざ? 家庭の事情?」
「関係を繋ぎ止めるためというか、見捨てられないためかな」
「ん?」
「片道二時間かけて実家に帰って、両親と五分だけ話して帰るとかザラだったなぁ」
「よし、嫌な予感がするから一回好きなラーメン屋の話とかしないか?」
昔を思い出して暗い気持ちになってきた。兄さんの前では滅多に出さない鏑木瑠夏の一面が溢れてくる。
「両親の怯えた顔に気づかないふりしてさ、バイト代もほとんど母の日と父の日につぎ込んだりして」
「バイトってやっぱ塾講師とか?」
アキラがあからさまに話題を逸らしてきた。
「飲食店が中心だったよ」
「俺は医学部のことよくわからないけど珍しいんじゃない?」
「塾講師って言っても三歳児の食いつき悪いでしょ?」
「なんでいきなり三歳児?」
アキラの疑問はもっともだけど、つらつらと思い出が蘇ってきて思考が整理されないまま言葉が出てくる。
「前世で十六歳下の双子の弟がいたんだ」
「あー、それは可愛いだろうな」
「だから必死で三歳児が食いつく話題を提供してた」
「それが飲食バイト?」
「塾講師よりアイスクリーム屋さんの方が『すごーい!』って言ってくれるから」
「うわぁ。俺そういう家族系の話弱いんだけど」
これは完全に痛ましいものを見る目だ。
「懐かしいなぁ。三ヶ月に一回だけ弟たちと話す権利が与えられてさ、応接間の大きなテーブルで弟たちと対面して。家政婦さんと父が両脇で警戒してたし、母は弟たちを常に抱きしめてたけど、あの時が一番家族の絆を感じたな」
「辛かったな」
鼻をすする音が聞こえる。アキラの顔を見ると涙を堪えている様子だった。普段の言動からはわかりにくいけど、根は優しい人なのだろう。
「ありがとう。こんな話、兄さんにはできないから」
「なんで? 恋人なんだから話してみたらいいだろ。アイザックなら受け入れてくれそうだけど」
「は?」
思ったより大きな声が出てしまった。兄さんと鬼丸さんも不穏な気配を察したのかこちらに向かって歩き出した。
「なんで僕たちが恋人ってわかったの?」
「あ、いや、これは盗み見したとかではなくて。ダンジョンマスターならではの事情というか……とにかく信じてくれ!」
必死になったアキラが僕の両肩を掴む。鬼丸さんにこれ以上怒られたくないのだろう。
「とりあえずルカから離れてくれないか」
兄さんの威圧的な声にアキラが手を離す。すぐ後ろには笑顔の鬼丸さんがいて、正直そっちのほうが怖いなと思った。
「あの、軽率にふたりの関係を口走ったことは反省しているのでもう許してください」
正座をして反省した様子のアキラが僕たちに頭を下げる。僕としてはテントの中を盗み見されてなければ正直どうでもいい。
「どうして僕たちが恋人だってわかったのか聞いてもいい?」
「ああ。ダンジョンマスターは魂が見えるって話しただろ?」
「してたね」
それで僕が前世の記憶があると判別したみたいだし。
「俺の感覚だから説明は難しけど、魂って関わりが深ければ深いほど混じり合うんだよ。マーブル模様みたいな感じで」
「そうなんだ」
「お前らのそれはもうドロドロのぐっちゃんぐっちゃんに絡み合っててな。俺だってここまでは視たことねぇぞってぐらい」
「アキラ様!」
鬼丸さんの鋭い声が飛んできて、アキラがビクッと身体を揺らした。
「ドロドロの……」
兄さんはなんでちょっと照れているのか。
「まあ、テントの中見られてないならいいよ。むしろ気持ち悪くないの?」
僕の言葉にアキラが複雑な表情を浮かべるが、嫌悪感は一切感じられなかった。
「人間だった時は気にしてたかもしれないが、今はダンジョンマスターだから特に何も。違う種族…‥ペンギンとかの恋愛を遠くから眺めてる気分。なんか言ってて悲しくなってきた」
薄々気づいていたけど、アキラは前世が同じ日本人だっただけで、本質的には僕たちと違う生物だ。
そもそも僕たちの存在を最初から把握していたはずなのに、通常通り魔物を襲わせるのはおかしい。危険人物か確認するだけなら数フロアで十分なはずだ。
ダンジョンマスターの権限があればどのフロアからでも移動できると聞いたから、地下二十五階まで放置していたのは興味本位なのだろう。
普通に話している分には楽しいから問題ないが、距離感を誤るは危険だ。兄さんがいつにも増して無口だったのも警戒していたからだろう。
「元人間として、ルカに一つ言いたいことがある」
アキラが真剣な顔で立ち上がった。僕は頷いて話の続きを促す。
「俺はお前らの事情をほとんど知らないが、そこまで深く考えなくてもいいんじゃないか? 前世の記憶持ちってことを負い目に思わないで、もう少し自分に正直に生きてもバチは当たらないと思うけどね」
「そうだね、ありがとう」
声音から僕のことを心から思いやっていることが伝わる。アキラの言葉は、違う種族だとしても心に響くものだった。入れ込みすぎはよくないが、今後も彼らと付き合いを続けていけたらいいなと思った。
「どういたしまして。というわけでアイザック!」
「何だ?」
突然名前を呼ばれた兄さんが身構える。
「俺からもせめてものお詫びだ。ちょっとこっち来い。いいこと教えてやる」
「おい、引っ張るな」
アキラが兄さんを連れて離れたところに移動した。
それからふたりは熱心に話し込んでいるが、声が一切届かないので何を話しているか不明だ。兄さんは一心不乱にメモを取っているけど、何を書いているのだろう。
「アキラ様が誠に申し訳ございません」
鬼丸さんが言葉通り申し訳なさそうに謝ってきた。
「気にしてないから大丈夫」
「ご配慮いただきありがとうございます。あの、またお越しいただけますでしょうか。あんなに楽しそうなアキラ様を見るのは本当に久しぶりなのです」
「うん、また来るよ」
鬼丸さんはホッとした表情を浮かべる。
「これからもマスター共々、よろしくお願いいたします」
「こちらこそよろしくね」
その後、和やかな雰囲気で鬼丸さんとの会話が弾んだ。
兄さんとアキラの話が長すぎて鬼丸さんのドラゴン解体講座が終盤に入った頃、突然ふたりの声が辺りに響いた。
「貴重な情報、感謝する」
「今後も何かあったら頼ってくれ!」
兄さんとアキラが固く握手を交わしている。何を話していたのか知らないが、アキラの顔はにやけているし兄さんは満足げだ。
その様子に嫌な予感をひしひしと感じながら、兄さんと地上に戻るため、新しく出来た友人たちに別れの挨拶を交わすことにした。
「まず、あの収納魔法について聞きたいんだけど」
「やり方なら今すぐ教えるよ」
「そうじゃなくて。あれ謎の存在に怒られなかった? あいつ、この世界に干渉しようとしたらすぐ止めるだろ?」
「なんで僕が知ってる前提なの」
「なんとなく、お前は俺と同類の気配がする」
なぜここまで自信満々な表情ができるのだろうか。アキラの予想が当たっているから余計に憎らしい。
「無限収納は怒られなかったよ。でも前に痛い目にあった」
「やっぱりな。いつ?」
「五年前。上空からこの世界を見てみようと思ってさ、人工衛星をイメージして魔力を飛ばしたら全身に激痛が走った」
「うわー! やってそう!」
ゲラゲラ笑うアキラにイラッとしながら話を進める。
「最初熱いと感じて、それから神経を直接刺されたみたいな激痛が……」
「そうそう! あれ信じられんくらい痛いよな! 鬼丸に説明しても全然伝わらないの」
「僕は兄さんが心配するから絶対言わない」
「愛だねぇ」
アキラはなぜかしみじみと頷いた。
「やっぱり謎の存在ってこの世界の創造神なのかな?」
「十中八九そうだろうな」
「前世の感覚が残ってるから直接介入されるの本当に恐ろしくて、関わるのも嫌なんだ。でもこの世界の住民って大体がメトゼナリア教徒だから下手なこと言えないし」
兄さんもメトゼナリア教徒だからなぁ。熱心なわけではないから忘れがちだけど、兄さんに初めて回復魔法を使った時女神様って言われたし。
「そりゃ大変だ。でも余計なことしなければ大丈夫だろ」
「こっちは余計の基準がわからないけどね」
「それな」
何の解決にもならなかったけど少し気持ちが軽くなった気がした。
「僕も質問していい?」
「おっ! 乗ってきたな」
「アキラの見た目は亡くなった当時のままなの?」
「そうそう、イケメンだろ? 髭は三日くらい剃り忘れてるけど」
「あー、うん。よくわからないけど髭は毎日剃ったほうがいいよ」
「冷たいなぁ」
アキラがイケメンかどうか判断できないから何とも言えない。本人の反応的にイケメンではない気がする。見た目は完全に街中でよく見る疲れたサラリーマンだ。
「俺からも質問だ」
アキラがわくわくした様子で聞いてくる。
「何?」
「医学部ってことはかなりモテただろ? 話聞かせろ」
「全くだよ。前世は誰とも付き合ったことなかったし」
「へぇ」
もう興味津々って顔だ。これは長くなるだろう。期待されても浮いた話なんて一つもないのに。
「不細工だったとか?」
どストレートな質問がきた。けっこう失礼じゃないかな。鬼丸さん、苦労してそうだ。
「さあ? よく覚えてないけど容姿は褒められたことしかないよ」
「顔はよかった、と。身長は? 今より低かった?」
「高かったよ。一八五センチくらいあったかな」
むしろ今の方が十センチ以上低いのが納得いかない。前世と同じくらいあれば戦闘面での苦労が減ったのに。
「顔が良くて、高身長で、実家金持ちなのになんで浮いた話がないの?」
アキラが呆れたように言う。
「時間がなかったからかな? 部活もバイトもしてたし」
「何部? 漫研とか?」
「テニス部」
「おい!」
いきなり大声を出されたからびっくりした。アキラは苦い顔をしてこちらを見ている。
「おかしいだろ! どうしてそれで彼女の十人や二十人できないんだよ!」
しつこいなぁ。興味がなかっただけなんだけど、それを言ったら面倒くさいことになりそうだ。
「本当に時間がなかったんだって。暇さえあれば実家に帰ってたから」
「なんでわざわざ? 家庭の事情?」
「関係を繋ぎ止めるためというか、見捨てられないためかな」
「ん?」
「片道二時間かけて実家に帰って、両親と五分だけ話して帰るとかザラだったなぁ」
「よし、嫌な予感がするから一回好きなラーメン屋の話とかしないか?」
昔を思い出して暗い気持ちになってきた。兄さんの前では滅多に出さない鏑木瑠夏の一面が溢れてくる。
「両親の怯えた顔に気づかないふりしてさ、バイト代もほとんど母の日と父の日につぎ込んだりして」
「バイトってやっぱ塾講師とか?」
アキラがあからさまに話題を逸らしてきた。
「飲食店が中心だったよ」
「俺は医学部のことよくわからないけど珍しいんじゃない?」
「塾講師って言っても三歳児の食いつき悪いでしょ?」
「なんでいきなり三歳児?」
アキラの疑問はもっともだけど、つらつらと思い出が蘇ってきて思考が整理されないまま言葉が出てくる。
「前世で十六歳下の双子の弟がいたんだ」
「あー、それは可愛いだろうな」
「だから必死で三歳児が食いつく話題を提供してた」
「それが飲食バイト?」
「塾講師よりアイスクリーム屋さんの方が『すごーい!』って言ってくれるから」
「うわぁ。俺そういう家族系の話弱いんだけど」
これは完全に痛ましいものを見る目だ。
「懐かしいなぁ。三ヶ月に一回だけ弟たちと話す権利が与えられてさ、応接間の大きなテーブルで弟たちと対面して。家政婦さんと父が両脇で警戒してたし、母は弟たちを常に抱きしめてたけど、あの時が一番家族の絆を感じたな」
「辛かったな」
鼻をすする音が聞こえる。アキラの顔を見ると涙を堪えている様子だった。普段の言動からはわかりにくいけど、根は優しい人なのだろう。
「ありがとう。こんな話、兄さんにはできないから」
「なんで? 恋人なんだから話してみたらいいだろ。アイザックなら受け入れてくれそうだけど」
「は?」
思ったより大きな声が出てしまった。兄さんと鬼丸さんも不穏な気配を察したのかこちらに向かって歩き出した。
「なんで僕たちが恋人ってわかったの?」
「あ、いや、これは盗み見したとかではなくて。ダンジョンマスターならではの事情というか……とにかく信じてくれ!」
必死になったアキラが僕の両肩を掴む。鬼丸さんにこれ以上怒られたくないのだろう。
「とりあえずルカから離れてくれないか」
兄さんの威圧的な声にアキラが手を離す。すぐ後ろには笑顔の鬼丸さんがいて、正直そっちのほうが怖いなと思った。
「あの、軽率にふたりの関係を口走ったことは反省しているのでもう許してください」
正座をして反省した様子のアキラが僕たちに頭を下げる。僕としてはテントの中を盗み見されてなければ正直どうでもいい。
「どうして僕たちが恋人だってわかったのか聞いてもいい?」
「ああ。ダンジョンマスターは魂が見えるって話しただろ?」
「してたね」
それで僕が前世の記憶があると判別したみたいだし。
「俺の感覚だから説明は難しけど、魂って関わりが深ければ深いほど混じり合うんだよ。マーブル模様みたいな感じで」
「そうなんだ」
「お前らのそれはもうドロドロのぐっちゃんぐっちゃんに絡み合っててな。俺だってここまでは視たことねぇぞってぐらい」
「アキラ様!」
鬼丸さんの鋭い声が飛んできて、アキラがビクッと身体を揺らした。
「ドロドロの……」
兄さんはなんでちょっと照れているのか。
「まあ、テントの中見られてないならいいよ。むしろ気持ち悪くないの?」
僕の言葉にアキラが複雑な表情を浮かべるが、嫌悪感は一切感じられなかった。
「人間だった時は気にしてたかもしれないが、今はダンジョンマスターだから特に何も。違う種族…‥ペンギンとかの恋愛を遠くから眺めてる気分。なんか言ってて悲しくなってきた」
薄々気づいていたけど、アキラは前世が同じ日本人だっただけで、本質的には僕たちと違う生物だ。
そもそも僕たちの存在を最初から把握していたはずなのに、通常通り魔物を襲わせるのはおかしい。危険人物か確認するだけなら数フロアで十分なはずだ。
ダンジョンマスターの権限があればどのフロアからでも移動できると聞いたから、地下二十五階まで放置していたのは興味本位なのだろう。
普通に話している分には楽しいから問題ないが、距離感を誤るは危険だ。兄さんがいつにも増して無口だったのも警戒していたからだろう。
「元人間として、ルカに一つ言いたいことがある」
アキラが真剣な顔で立ち上がった。僕は頷いて話の続きを促す。
「俺はお前らの事情をほとんど知らないが、そこまで深く考えなくてもいいんじゃないか? 前世の記憶持ちってことを負い目に思わないで、もう少し自分に正直に生きてもバチは当たらないと思うけどね」
「そうだね、ありがとう」
声音から僕のことを心から思いやっていることが伝わる。アキラの言葉は、違う種族だとしても心に響くものだった。入れ込みすぎはよくないが、今後も彼らと付き合いを続けていけたらいいなと思った。
「どういたしまして。というわけでアイザック!」
「何だ?」
突然名前を呼ばれた兄さんが身構える。
「俺からもせめてものお詫びだ。ちょっとこっち来い。いいこと教えてやる」
「おい、引っ張るな」
アキラが兄さんを連れて離れたところに移動した。
それからふたりは熱心に話し込んでいるが、声が一切届かないので何を話しているか不明だ。兄さんは一心不乱にメモを取っているけど、何を書いているのだろう。
「アキラ様が誠に申し訳ございません」
鬼丸さんが言葉通り申し訳なさそうに謝ってきた。
「気にしてないから大丈夫」
「ご配慮いただきありがとうございます。あの、またお越しいただけますでしょうか。あんなに楽しそうなアキラ様を見るのは本当に久しぶりなのです」
「うん、また来るよ」
鬼丸さんはホッとした表情を浮かべる。
「これからもマスター共々、よろしくお願いいたします」
「こちらこそよろしくね」
その後、和やかな雰囲気で鬼丸さんとの会話が弾んだ。
兄さんとアキラの話が長すぎて鬼丸さんのドラゴン解体講座が終盤に入った頃、突然ふたりの声が辺りに響いた。
「貴重な情報、感謝する」
「今後も何かあったら頼ってくれ!」
兄さんとアキラが固く握手を交わしている。何を話していたのか知らないが、アキラの顔はにやけているし兄さんは満足げだ。
その様子に嫌な予感をひしひしと感じながら、兄さんと地上に戻るため、新しく出来た友人たちに別れの挨拶を交わすことにした。
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