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最終章トリフェの街編
予知
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「最後にもう一度聞くよ。ミゲル、君は本当に強くなりたい?」
まさかこんな漫画みたいなことを言うことになるとは、思ってもみなかった。
答えはわかりきっている。それでも友として聞かずにはいられなかった。
ミゲルの返答を待つわずかな時間すら煩わしくて、僕はこの話をすることになった経緯を思い返すことにした。
「五年前と同じ家を借りることになるなんて、おもしろい話っすね!懐かしいっす!」
「本当にね。書類を見た時は驚いたよ」
冒険者ギルドで再会を果たしてから数日後、『銀色の風』の休息日に合わせてミゲルを借家に招待した。
今からする話は誰にも聞かれたくないから、ギルド酒場ではなくここを選んだ。
僕と兄さんとミゲルの三人でダイニングテーブルにつくと、昔を思い出して少しだけ緊張が和らぐ。
「いやー、トールより先にルカの紅茶を飲むのは悪い気がするっす」
「そう言うと思って、昨日トールとお茶会したよ」
「あー、それで……トールが飲みを断ったから、ダリオが『珍しく上機嫌だった。女ができたに違いない。裏切り者め』ってうるさかったっす」
「すごくあいつらしいな」
しばらく雑談していると、やがて打ち合わせたかのように沈黙が降りる。
「あの、話って」
話を切り出したのはミゲルだった。緊張のせいか声が震えている。僕は覚悟を決めて口を開いた。
「ミゲルの予知を強化する方法、わかったかもしれない」
「本当っすか!それはどんな」
「その前にいくつか聞きたいことがある」
「なんでも聞いてほしいっす!」
「じゃあ一つ目、ミゲルは予知をする時に魔力を消費してるよね」
「してるっす。でもなんでそれを知って」
「予知の能力があると知ったのが、十二歳の属性判定の時だったって話してたから。一般的に属性がわかってからじゃないと、魔法は使えないからね。予知も広義の魔法なのかなと思って」
属性判定前に魔法を発動させることができるのは例外中の例外だ。魔法を発動させるためには想像力が重要となる。何も考えずに魔力を込めても、魔法は発動しない。
通常は属性判定を受けて、自分は火属性があるから火の魔法が使えると想像することで初めて火属性魔法が発動する。
だが僕は前世の記憶で科学という知識を得てしまった。この世界で起きる全ての現象が、前世と全く同じ仕組みとは思えない。しかし、共通点もある。
科学の知識を基に想像を働かせたら、たまたま魔法が発動できる条件と合致したおかげで、僕は属性判定前から魔法を使うことができた。偶然で片付けてしまうには、あまりに出来過ぎている気がするけど。
「二つ目。ミゲルの予知で見えるものって、視覚的な情報だけ?音や匂いを感じることがある?」
「目で見たものだけっす。重要な場面というか、結果が絵のようにドドンっと出てくるっす」
「それは道具を通して見るの?それとも頭の中に直接絵が見える?」
「頭の中っす」
「わかった。ありがとう。三つ目はこれを見て答えてほしい」
僕は場面が連続している複数の絵の束と一枚の絵をミゲルに見せた。
「ミゲルが予知で見ているのは、一枚絵のような感じ?それとも」
僕は絵の束の端を素早くめくって、アニメーションのように絵を動かした。パラパラ漫画というやつだ。
「今見せたような動く絵?」
「基本的に一枚絵っす。調子がいい時や、俺がどうしても知りたいって強く願った未来は動く絵になるっす」
「もしかしてミゲルの予知はこんな感じで見えてる?」
僕は魔紙をミゲルに見せた。そこに写っていたのは、兄さんとミゲルとダリオがギルド酒場で談笑している場面だ。
対象を近くで観察しているかのような視点で描かれた精巧な絵、まるでカメラで撮った写真そのものだ。
「これっす!というか、今この場面が予知で見えたから俺はルカに声をかけたっす」
「なるほど。僕が将来ミゲルの予知能力を強化するって言ってたのは、この絵を予知で見たからなんだね」
「その通りっす!」
「ああ、だからミゲルは久しぶりの対面なのに、一目見ただけで僕ってわかったんだね。他の人は最初、誰だかわからないって反応してたのにって不思議に思ってた。なんかすっきりした」
「一発でルカだーってわかるくらいには印象に残ってたっす!」
ミゲルの発言に場の空気が和んだ。僕は紅茶を一口飲んでから話しを続ける。
「おそらくミゲルの予知は、魔力を使った未来視だ」
「未来視?」
「未来に起こる出来事を予知する能力のこと。ミゲルの場合は未来を視覚できるんだと思う。ここで重要なのが、未来視で得た情報がミゲルの脳内、頭の中にあるってこと。あとミゲルが無属性持ちってことかな」
僕はミゲルに魔紙で写真が出来る仕組みを説明した。
魔紙写真は、目で見て脳に入ってくる情報を魔力に変換し、それを無属性魔法で魔紙に転写させることで出来る。
これの不便な点が、瞬きをすると視覚入力が遮断されるため目を開けていなければならないことだ。
さらに脳内で処理した画像を転写するので、無いものが写っていたり、あるはずのものが写っていなかったりする。
魔紙写真と命名したが、実際のカメラとは全く仕組みが違うものなのだ。
ミゲルの予知は頭の中に魔力で出来た画像が浮かんで、それを覗いて見える未来を予測するというものだ。だからその画像を無属性魔法で転写すれば、未来視で見ていたものが鮮明に写し出される。
「ミゲルの未来視って頭の中の絵が不鮮明だったり、断片的だったりしない?」
「ルカの言う通りっす。断片的すぎてどうしてその結果になったのかわからないことも多いっす」
それも魔紙で未来視を転写していけば、徐々に鮮明なものになっていくだろう。きっと今のミゲルは魔力の込め方をよく理解していない状態で、未来視を発動させている。
魔法は想像力が大事だから、一度発動のコツをつかんだら上達が早くなる。ミゲルは器用だからすぐにできるようになるはずだ。
予知による未来視も魔力が介在している時点で、魔法の一種だと言えるのでこの鍛練方法は理にかなっている。
今も断片的とはいえ、結果に至る過程を見ることが出来るのだから、鍛練すれば次第に断続的な情報も得られるようになるだろう。
魔法の能力を伸ばすには想像、魔力循環、発動を反復練習するのが大事だからね。
ミゲルは無属性魔法の才能があるから、未来視で見えたものを魔紙に転写するのは問題なくできるだろう。
一年ほど鍛練したら、わざわざ魔紙に転写しなくても未来視で得る情報が鮮明になるはずだ。
「ルカ、ありがとう。これで俺も……」
「本当にいいの?」
「え?」
僕の言葉にミゲルが目を見開く。これから話すことはミゲルを怒らせるかもしれない。
でもこれだけは、はっきりさせないといけない。そうしないと、きっといつか後悔してしまう。
「未来を知るっていいことばかりじゃないよね。僕が口出しするのは烏滸がましいかもしれないけど、友人として言わせてほしい。ミゲルは命を背負う覚悟があるの?」
「それは」
「大勢を救うために、数人の命に目をつぶることがあるかもしれない。未来視で誰かの秘密を知って、それをうっかり他人に話したらその人を自殺に追い込むかもしれない。大切な人の死を予知したのに、絶対にその死が回避できないとわかって、誰よりも深く絶望するしれない」
「たしかに俺は、亡くなった母に追いつきたい一心で予知を使った人助けをしてたっす。母は大災害や大事故を予知して大勢の人を救ったけど、切り捨てた命もたしかにあって、そのことを責められて心を病んで抜け殻になった。間近で見ていた俺は、誰よりもその恐ろしさを知ってるつもりっす」
「ミゲル……」
「でも、俺、知ってしまったから。死ぬはずだった子どもの命を救って、笑顔でお礼を言われて心の底から嬉しかった。その子の未来を見たらキラキラと輝いていて、ああ、これでよかったんだって胸にストンと落ちて……」
「最後にもう一度聞くよ。ミゲル、君は本当に強くなりたい?」
「俺は母から受け継いだ能力を人のために役立てたい。これは母に追いつくためではない、俺自身の望みっす。だからお願いします。俺の予知を強くするために協力してください」
ミゲルが勢いよく頭を下げたので、慌てて頭を上げるように言う。ミゲルの目は真っ赤になっていた。
「昔のこと覚えてる?絶対ミゲルの力になるって、約束したよね。友人として、魔法使いとして全力で協力する」
ミゲルの顔がパアっと明るくなった。満面の笑みで立ち上がり、手を広げて僕に抱きつこうと近づいてきた。
「ルカー!ルカは俺の大事な親友っすー!!」
「おい。抱きつくのはなしだ。握手で我慢しろ」
「げっ。アイザックさん、そういえばいましたね。普通このタイミングでそれ言います?」
「なんとでも言え。だめなものはだめだ」
「兄さん……」
なんだろう。このいたたまれない感じは。とりあえずよくわからないテンションのまま、ミゲルと友情の握手を交わした。
「本当……仲がいいっすよね」
「ミゲル?」
「だって、この俺とアイザックさんとダリオが描かれてる絵!アイザックさんはくっきりしてるのに、俺らぼんやりしてるっすもん。ルカはアイザックさんを見つめすぎっす!」
魔紙写真の悪いところが全部出てしまった。どうせバレないから見せてもいいかと思った過去の自分が恨めしい。
「えっ!なっ!返して!」
「面白くなりそうだから、ダリオに見せたいっす」
「いいぞ。存分に見せてやれ」
「兄さん!絶対だめ、返して」
「えー。残念だけど絵はお返しするっす!じゃあ、お邪魔しました!明日からよろしくお願いしますっすー」
ミゲルが元気よく去っていく。僕は恥ずかしくて、頭を抱えた体勢のまま固まっていた。兄さんは楽しそうに笑って僕の頭を撫でていた。
ミゲルが去った後の静かなリビングには、兄さんの忍び笑いが響いていた。
「ミゲルはよく見てるな。たしかにこれは……」
「やめて、見ないで、恥ずかしいから」
「俺はすごく嬉しい。ルカがこんなに俺のことを見つめていたなんて、気づかなかった」
「……仕方ないじゃん。どうしても目が離せないんだから」
僕は無限収納から魔紙の束を取り出し、兄さんに押し付けた。
「ちょっと庭で鍛練してくる!」
「ルカ?」
ミゲルに見せた写真が一番マシなやつだったこと、兄さんはすぐに気づいてくれるかな。こんなに見つめられているのに、全く気づいていない兄さんは鈍感すぎると思う。
兄さんの反応を直視できなくて、僕は逃げるように部屋を飛び出した。
まさかこんな漫画みたいなことを言うことになるとは、思ってもみなかった。
答えはわかりきっている。それでも友として聞かずにはいられなかった。
ミゲルの返答を待つわずかな時間すら煩わしくて、僕はこの話をすることになった経緯を思い返すことにした。
「五年前と同じ家を借りることになるなんて、おもしろい話っすね!懐かしいっす!」
「本当にね。書類を見た時は驚いたよ」
冒険者ギルドで再会を果たしてから数日後、『銀色の風』の休息日に合わせてミゲルを借家に招待した。
今からする話は誰にも聞かれたくないから、ギルド酒場ではなくここを選んだ。
僕と兄さんとミゲルの三人でダイニングテーブルにつくと、昔を思い出して少しだけ緊張が和らぐ。
「いやー、トールより先にルカの紅茶を飲むのは悪い気がするっす」
「そう言うと思って、昨日トールとお茶会したよ」
「あー、それで……トールが飲みを断ったから、ダリオが『珍しく上機嫌だった。女ができたに違いない。裏切り者め』ってうるさかったっす」
「すごくあいつらしいな」
しばらく雑談していると、やがて打ち合わせたかのように沈黙が降りる。
「あの、話って」
話を切り出したのはミゲルだった。緊張のせいか声が震えている。僕は覚悟を決めて口を開いた。
「ミゲルの予知を強化する方法、わかったかもしれない」
「本当っすか!それはどんな」
「その前にいくつか聞きたいことがある」
「なんでも聞いてほしいっす!」
「じゃあ一つ目、ミゲルは予知をする時に魔力を消費してるよね」
「してるっす。でもなんでそれを知って」
「予知の能力があると知ったのが、十二歳の属性判定の時だったって話してたから。一般的に属性がわかってからじゃないと、魔法は使えないからね。予知も広義の魔法なのかなと思って」
属性判定前に魔法を発動させることができるのは例外中の例外だ。魔法を発動させるためには想像力が重要となる。何も考えずに魔力を込めても、魔法は発動しない。
通常は属性判定を受けて、自分は火属性があるから火の魔法が使えると想像することで初めて火属性魔法が発動する。
だが僕は前世の記憶で科学という知識を得てしまった。この世界で起きる全ての現象が、前世と全く同じ仕組みとは思えない。しかし、共通点もある。
科学の知識を基に想像を働かせたら、たまたま魔法が発動できる条件と合致したおかげで、僕は属性判定前から魔法を使うことができた。偶然で片付けてしまうには、あまりに出来過ぎている気がするけど。
「二つ目。ミゲルの予知で見えるものって、視覚的な情報だけ?音や匂いを感じることがある?」
「目で見たものだけっす。重要な場面というか、結果が絵のようにドドンっと出てくるっす」
「それは道具を通して見るの?それとも頭の中に直接絵が見える?」
「頭の中っす」
「わかった。ありがとう。三つ目はこれを見て答えてほしい」
僕は場面が連続している複数の絵の束と一枚の絵をミゲルに見せた。
「ミゲルが予知で見ているのは、一枚絵のような感じ?それとも」
僕は絵の束の端を素早くめくって、アニメーションのように絵を動かした。パラパラ漫画というやつだ。
「今見せたような動く絵?」
「基本的に一枚絵っす。調子がいい時や、俺がどうしても知りたいって強く願った未来は動く絵になるっす」
「もしかしてミゲルの予知はこんな感じで見えてる?」
僕は魔紙をミゲルに見せた。そこに写っていたのは、兄さんとミゲルとダリオがギルド酒場で談笑している場面だ。
対象を近くで観察しているかのような視点で描かれた精巧な絵、まるでカメラで撮った写真そのものだ。
「これっす!というか、今この場面が予知で見えたから俺はルカに声をかけたっす」
「なるほど。僕が将来ミゲルの予知能力を強化するって言ってたのは、この絵を予知で見たからなんだね」
「その通りっす!」
「ああ、だからミゲルは久しぶりの対面なのに、一目見ただけで僕ってわかったんだね。他の人は最初、誰だかわからないって反応してたのにって不思議に思ってた。なんかすっきりした」
「一発でルカだーってわかるくらいには印象に残ってたっす!」
ミゲルの発言に場の空気が和んだ。僕は紅茶を一口飲んでから話しを続ける。
「おそらくミゲルの予知は、魔力を使った未来視だ」
「未来視?」
「未来に起こる出来事を予知する能力のこと。ミゲルの場合は未来を視覚できるんだと思う。ここで重要なのが、未来視で得た情報がミゲルの脳内、頭の中にあるってこと。あとミゲルが無属性持ちってことかな」
僕はミゲルに魔紙で写真が出来る仕組みを説明した。
魔紙写真は、目で見て脳に入ってくる情報を魔力に変換し、それを無属性魔法で魔紙に転写させることで出来る。
これの不便な点が、瞬きをすると視覚入力が遮断されるため目を開けていなければならないことだ。
さらに脳内で処理した画像を転写するので、無いものが写っていたり、あるはずのものが写っていなかったりする。
魔紙写真と命名したが、実際のカメラとは全く仕組みが違うものなのだ。
ミゲルの予知は頭の中に魔力で出来た画像が浮かんで、それを覗いて見える未来を予測するというものだ。だからその画像を無属性魔法で転写すれば、未来視で見ていたものが鮮明に写し出される。
「ミゲルの未来視って頭の中の絵が不鮮明だったり、断片的だったりしない?」
「ルカの言う通りっす。断片的すぎてどうしてその結果になったのかわからないことも多いっす」
それも魔紙で未来視を転写していけば、徐々に鮮明なものになっていくだろう。きっと今のミゲルは魔力の込め方をよく理解していない状態で、未来視を発動させている。
魔法は想像力が大事だから、一度発動のコツをつかんだら上達が早くなる。ミゲルは器用だからすぐにできるようになるはずだ。
予知による未来視も魔力が介在している時点で、魔法の一種だと言えるのでこの鍛練方法は理にかなっている。
今も断片的とはいえ、結果に至る過程を見ることが出来るのだから、鍛練すれば次第に断続的な情報も得られるようになるだろう。
魔法の能力を伸ばすには想像、魔力循環、発動を反復練習するのが大事だからね。
ミゲルは無属性魔法の才能があるから、未来視で見えたものを魔紙に転写するのは問題なくできるだろう。
一年ほど鍛練したら、わざわざ魔紙に転写しなくても未来視で得る情報が鮮明になるはずだ。
「ルカ、ありがとう。これで俺も……」
「本当にいいの?」
「え?」
僕の言葉にミゲルが目を見開く。これから話すことはミゲルを怒らせるかもしれない。
でもこれだけは、はっきりさせないといけない。そうしないと、きっといつか後悔してしまう。
「未来を知るっていいことばかりじゃないよね。僕が口出しするのは烏滸がましいかもしれないけど、友人として言わせてほしい。ミゲルは命を背負う覚悟があるの?」
「それは」
「大勢を救うために、数人の命に目をつぶることがあるかもしれない。未来視で誰かの秘密を知って、それをうっかり他人に話したらその人を自殺に追い込むかもしれない。大切な人の死を予知したのに、絶対にその死が回避できないとわかって、誰よりも深く絶望するしれない」
「たしかに俺は、亡くなった母に追いつきたい一心で予知を使った人助けをしてたっす。母は大災害や大事故を予知して大勢の人を救ったけど、切り捨てた命もたしかにあって、そのことを責められて心を病んで抜け殻になった。間近で見ていた俺は、誰よりもその恐ろしさを知ってるつもりっす」
「ミゲル……」
「でも、俺、知ってしまったから。死ぬはずだった子どもの命を救って、笑顔でお礼を言われて心の底から嬉しかった。その子の未来を見たらキラキラと輝いていて、ああ、これでよかったんだって胸にストンと落ちて……」
「最後にもう一度聞くよ。ミゲル、君は本当に強くなりたい?」
「俺は母から受け継いだ能力を人のために役立てたい。これは母に追いつくためではない、俺自身の望みっす。だからお願いします。俺の予知を強くするために協力してください」
ミゲルが勢いよく頭を下げたので、慌てて頭を上げるように言う。ミゲルの目は真っ赤になっていた。
「昔のこと覚えてる?絶対ミゲルの力になるって、約束したよね。友人として、魔法使いとして全力で協力する」
ミゲルの顔がパアっと明るくなった。満面の笑みで立ち上がり、手を広げて僕に抱きつこうと近づいてきた。
「ルカー!ルカは俺の大事な親友っすー!!」
「おい。抱きつくのはなしだ。握手で我慢しろ」
「げっ。アイザックさん、そういえばいましたね。普通このタイミングでそれ言います?」
「なんとでも言え。だめなものはだめだ」
「兄さん……」
なんだろう。このいたたまれない感じは。とりあえずよくわからないテンションのまま、ミゲルと友情の握手を交わした。
「本当……仲がいいっすよね」
「ミゲル?」
「だって、この俺とアイザックさんとダリオが描かれてる絵!アイザックさんはくっきりしてるのに、俺らぼんやりしてるっすもん。ルカはアイザックさんを見つめすぎっす!」
魔紙写真の悪いところが全部出てしまった。どうせバレないから見せてもいいかと思った過去の自分が恨めしい。
「えっ!なっ!返して!」
「面白くなりそうだから、ダリオに見せたいっす」
「いいぞ。存分に見せてやれ」
「兄さん!絶対だめ、返して」
「えー。残念だけど絵はお返しするっす!じゃあ、お邪魔しました!明日からよろしくお願いしますっすー」
ミゲルが元気よく去っていく。僕は恥ずかしくて、頭を抱えた体勢のまま固まっていた。兄さんは楽しそうに笑って僕の頭を撫でていた。
ミゲルが去った後の静かなリビングには、兄さんの忍び笑いが響いていた。
「ミゲルはよく見てるな。たしかにこれは……」
「やめて、見ないで、恥ずかしいから」
「俺はすごく嬉しい。ルカがこんなに俺のことを見つめていたなんて、気づかなかった」
「……仕方ないじゃん。どうしても目が離せないんだから」
僕は無限収納から魔紙の束を取り出し、兄さんに押し付けた。
「ちょっと庭で鍛練してくる!」
「ルカ?」
ミゲルに見せた写真が一番マシなやつだったこと、兄さんはすぐに気づいてくれるかな。こんなに見つめられているのに、全く気づいていない兄さんは鈍感すぎると思う。
兄さんの反応を直視できなくて、僕は逃げるように部屋を飛び出した。
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