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エルフの国と闘技大会編
素直が一番
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いつ来てもハンマーの音が響く店内に足を踏み入れると、整然と並べられた武器が目に飛び込む。店主の豪快さとは程遠いシンプルなカウンターの奥から「いらっしゃい」と野太い声が聞こえてきた。
「ドリー、おはよう。大剣が完成したって聞いて朝一番に来ちゃった」
「なんとなくそんな気がしたから準備しておいた」
さすがドリーだ。武器の手入れなどで何回もこの鍛冶屋にお世話になっているから僕達の行動はお見通しのようだ。
ドリーから許可を得たのでそのままカウンターの前で、兄さんが大剣を鞘から抜き握り心地などを確認する。剣身を眺めている目が心なしかうっとりしているように見えた。
「最高の出来だ。問題ない」
「おう!それはよかった!」
ドリー作の総魔銀大剣は素人の僕から見ても素晴らしい出来だった。兄さんも満足そうだし、ドリーに頼んで本当によかった。これは紹介してくれたウォーロックにも改めてお礼を言うべきだろう。
兄さんに金額がバレないように、大剣の代金を支払う。ドリーが隠れて硬貨を数えている間、兄さんと今後の予定を確認する。
「大剣を受け取ったし、獣人の国に移動するか」
「そうだね。ドワーフの国を経由するし早めにこの街を出ようか」
「ドワーフの国に行くのか?それなら紹介状書くからその大剣を改良してもらえばいい。魔力伝導率を良くする術式を刻むだけだからそこまで時間もかからないはずだ」
詳しく話を聞くと、ドリーの師匠さんが武器を強化する効果を付与できるらしい。師匠さんがいる街はちょうど獣人の国への通り道にあったので、紹介状を書いてもらうことにした。
ドワーフの国ガルデネガドは火山に面しており、金属加工が盛んだ。鍛冶や錬成の技術が高く、武具の質が高いため冒険者や傭兵たちから人気の国となっている。
火山に面しているということでもしかしてと思い調べてみると温泉があった。一緒に入ろうと誘って兄さんが素直に頷いてくれるかはわからないけど、今度お願いしてみよう。
ドリーの鍛冶屋を出て拠点に向かう。朝一番に鍛冶屋を訪ねたはずなのに、商店が並ぶ通りは多くの人で賑わっていた。大剣の出来を入念に確かめたり、ドリーに紹介状を書いてもらっている間にだいぶ時間が経っていたようだ。
拠点に向かう道中、兄さんはずっと機嫌が良くて鼻歌まで歌っていた。何人かすれ違った時に変な目で見られたが、気にしていない様子だった。
結局拠点の玄関を開けるまで鼻歌は続き、今はソファに座りながら鞘に入った大剣をずっと眺めている。
「最高の贈り物だ。ありがとう」
「喜んでくれて嬉しい。魔力通してみた?」
「ああ、さすが魔銀だ。通しやすさが段違いだった」
「兄さんの誕生日に間に合わなかったことだけは残念だったな。ゴーレムの件がなかったら当日に渡せたのに」
「俺は気にしてない。それに誕生日当日もいい思いができたからな」
そう言って笑う兄さんの表情を見て、誕生日のことを思い出す。
あの日は一日中兄さんを甘やかそうと決めて実行した。その日の食事は兄さんの好物だけを作って僕が全部手ずから食べさせたし、用事がない時は基本的にずっと兄さんが抱きついていたし、膝枕で耳かきしたり、魔法でドライヤーを再現して髪を乾かしながら兄さんの頭を撫でまくったりと、とにかく兄さんとべったりして過ごした。
兄さんも最初こそ恥ずかしそうにしてたけど、すぐにいつも通りになった。むしろいつも以上にくっついてきたような気がする。なんだかんだで嬉しそうな反応を見せてくれた。特にドライヤーがお気に入りだったみたいだ。
あれ以来兄さんは身を清めた後、僕の近くに寄って無言でアピールするようになった。濡れてペタンとなった髪のままじっとこちらを見つめてくる姿は、見るたびに抱きしめたくなる。
口を開くと「可愛い」としか言えなくなって兄さんが拗ねるから会話らしい会話はできないけど、それでもこの触れ合いがすごく幸せだ。
「兄さん」
「どうした?」
「今日もドライヤーしようか?」
「……ああ、頼む」
兄さんが恥ずかしそうに目を逸らしながら答える。やってほしいことを素直に言ってもらえると愛おしい気持ちでいっぱいになる。
人間、素直が一番だ。伝えたいことはきちんと言葉にしたほうがいい。もちろん大切な人にだからこそ言えないこともあるというのは理解できるけど、それでも兄さんの想いは隠さず伝えてほしいと思っている。
「ルカ」
「ん?」
「いつもありがとう。俺は今すごく幸せだ」
不意打ち気味に放たれた言葉に僕は一瞬呆気に取られてしまった。でもじわじわと胸に温かいものが広がって気づけば笑っていた。
やっぱり気持ちを言葉にするのは大事なことだ。だから僕もちゃんと自分の気持ちを伝えよう。
「僕も兄さんといることが何よりの幸せだよ」
そんな話をしながら幸せを共有しあった翌日、僕達はウォーロックの家を訪ねた。用件はもちろんこの街を経って獣人の国へ行くことを伝えるためだ。
いつも通り従者に案内されて応接室に入ると、すでにウォーロックが椅子に座っていた。挨拶もそこそこにさっそく本題に入る。
「3日後にこの街を経って獣人の国に行く予定。ドワーフの国を経由するけど冬の月には向こうに着いてると思う」
「寂しくなるな。私が獣人の国を訪れるのは闘技大会の直前になると思う。力になれず申し訳ない」
「気にしないで。旅には慣れてるから。ねえ、兄さん」
「ああ」
僕達の言葉にウォーロックが安堵したような表情を浮かべる。
「シアンは冬の3の月に獣人の国に向かうはずだ。お前達のことがバレないように気をつけてくれ」
「顔見られちゃったからね。髪と目の色変えただけでいけるかな?声も変える?」
「そこまでする必要はない。エルフ族は人族の顔の区別がつかないからな。髪と目の色を変えたら十分だ」
「了解。シアンくんは最近どう?」
「わからない。あの日以来口を聞いてくれないからな」
驚いた。あの日とはシアンくんが僕達の目の前で爆発系の魔法を使った日のことだろう。シアンくんに会ったのもあの時一回きりだし。
僕達の気まずそうな様子に気づいたのかウォーロックが話を続けた。
「お前達のせいではない。シアンが私に口を聞かないのはいつものことだ」
「ウォーロックはさ、普段からシアンくんと何気ない会話とかしてる?」
僕の言葉を受けてウォーロックの頬が引き攣った。彼は息子のことになると表情がわかりやすくなる。
「……それを言われると辛いものがあるな。最近は叱責ばかりであまり話ができていなかった」
「難しい年頃だしね。でも一度でいいから真剣にウォーロックの気持ちをぶつけてもいいと思うよ。これ以上は余計なお世話ってやつだからもう言わないけど」
「ああ、心配かけて申し訳ない。私達のことを気にかけてくれて感謝する」
そこからは話題を変えて今後の予定や、闘技大会のこと、ウォーロックが最近研究していることについて話をした。
「ルカにこれを。旅の暇つぶしにちょうどいいと思ってな。時間がある時でかまわないからぜひ、使い道を考えてほしい」
「紙?」
「これは魔紙という魔道具の一種だ。インクではなく魔力で文字を書く。最近開発されたのだが魔術式を刻んで弱い魔法を発動し続けるくらいしか使い道がなくてな。なんとなくだが、これにはもっと有効な使い道があるような気がして」
「たしかに可能性を感じるような……わかった。使い道を考えてみるよ」
「のんびりでいい。急ぐようなものでもないから」
ハイエルフがのんびりと言うとすごく気が長い話に感じる。僕が何の報告をしなくても30年くらいはひたすら待っていそうだ。
和やかな空気のまま時間が進み、最後に闘技大会前に一度会って話をしようと約束してウォーロックの家を後にした。
すっかり見慣れた帰り道を通って拠点に帰る。頬に当たる風が冷たくなったことで季節の移り変わりを感じる。兄さんと夕飯のメニューを相談しながら歩いていると、ふと話題が変わった。
「ルカはあの親子をずいぶん気にかけているな」
「そうかな?あんまり自覚がなかった。なんとなく放っておけないのかもね」
「そうか。首を突っ込むのもほどほどにな」
「うん、気をつけるね。ありがとう」
兄さんに指摘されるまで気づかなかった。たしかに僕らしくないけど、ウォーロックもシアンくんも不器用すぎて見ていられなかっただけかもしれない。
あの親子を見ると、もうちょっと素直になればあんなにすれ違うこともないのにと悲しい気持ちになる。
いつか分かり合える日が来るからと気長に待っていても、その機会が一瞬のうちに永遠に失われるかもしれないのに。でもそんな風に思ってしまうのは、僕に一度死んだ記憶があるからだろう。
前世を思い出すと心の内に占めるのは後悔ばかりだ。今の僕には兄さんがいるから他人事のように感じるけれど、それでもあの時ああしていればという気持ちが完全になくなるわけではない。
胸に広がる虚しさを飲み込んで顔を上げる。今はそんなことより旅のことを考えよう。
「兄さん」
「なんだ?」
「ドワーフの国には温泉があるらしいよ。貸切できるところ調べておいたから一緒に入ろうね」
「あ、ああ。そうだな」
兄さんの声が少しだけ上ずっているように聞こえた。そんなに温泉が苦手だったのかと少し残念な気持ちになる。
「嫌なら無理強いしないけど、そんなに?」
「嫌というか、耐えられるかが分からなくて……ルカの魔法を3回はくらう自信がある。ミヅホでは断るのが大変だった」
「あれそういうことだったの?頑なに拒否するから温泉が嫌いなのかと思った」
「別に好きでも嫌いでもない」
「僕はけっこう好き。楽しみだね」
「俺は今から不安で仕方ないんだが」
ふたりで顔を見合わせて笑う。旅への期待を胸に抱きながら、いつもの帰り道を兄さんと並んで歩いた。
「ドリー、おはよう。大剣が完成したって聞いて朝一番に来ちゃった」
「なんとなくそんな気がしたから準備しておいた」
さすがドリーだ。武器の手入れなどで何回もこの鍛冶屋にお世話になっているから僕達の行動はお見通しのようだ。
ドリーから許可を得たのでそのままカウンターの前で、兄さんが大剣を鞘から抜き握り心地などを確認する。剣身を眺めている目が心なしかうっとりしているように見えた。
「最高の出来だ。問題ない」
「おう!それはよかった!」
ドリー作の総魔銀大剣は素人の僕から見ても素晴らしい出来だった。兄さんも満足そうだし、ドリーに頼んで本当によかった。これは紹介してくれたウォーロックにも改めてお礼を言うべきだろう。
兄さんに金額がバレないように、大剣の代金を支払う。ドリーが隠れて硬貨を数えている間、兄さんと今後の予定を確認する。
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「俺は気にしてない。それに誕生日当日もいい思いができたからな」
そう言って笑う兄さんの表情を見て、誕生日のことを思い出す。
あの日は一日中兄さんを甘やかそうと決めて実行した。その日の食事は兄さんの好物だけを作って僕が全部手ずから食べさせたし、用事がない時は基本的にずっと兄さんが抱きついていたし、膝枕で耳かきしたり、魔法でドライヤーを再現して髪を乾かしながら兄さんの頭を撫でまくったりと、とにかく兄さんとべったりして過ごした。
兄さんも最初こそ恥ずかしそうにしてたけど、すぐにいつも通りになった。むしろいつも以上にくっついてきたような気がする。なんだかんだで嬉しそうな反応を見せてくれた。特にドライヤーがお気に入りだったみたいだ。
あれ以来兄さんは身を清めた後、僕の近くに寄って無言でアピールするようになった。濡れてペタンとなった髪のままじっとこちらを見つめてくる姿は、見るたびに抱きしめたくなる。
口を開くと「可愛い」としか言えなくなって兄さんが拗ねるから会話らしい会話はできないけど、それでもこの触れ合いがすごく幸せだ。
「兄さん」
「どうした?」
「今日もドライヤーしようか?」
「……ああ、頼む」
兄さんが恥ずかしそうに目を逸らしながら答える。やってほしいことを素直に言ってもらえると愛おしい気持ちでいっぱいになる。
人間、素直が一番だ。伝えたいことはきちんと言葉にしたほうがいい。もちろん大切な人にだからこそ言えないこともあるというのは理解できるけど、それでも兄さんの想いは隠さず伝えてほしいと思っている。
「ルカ」
「ん?」
「いつもありがとう。俺は今すごく幸せだ」
不意打ち気味に放たれた言葉に僕は一瞬呆気に取られてしまった。でもじわじわと胸に温かいものが広がって気づけば笑っていた。
やっぱり気持ちを言葉にするのは大事なことだ。だから僕もちゃんと自分の気持ちを伝えよう。
「僕も兄さんといることが何よりの幸せだよ」
そんな話をしながら幸せを共有しあった翌日、僕達はウォーロックの家を訪ねた。用件はもちろんこの街を経って獣人の国へ行くことを伝えるためだ。
いつも通り従者に案内されて応接室に入ると、すでにウォーロックが椅子に座っていた。挨拶もそこそこにさっそく本題に入る。
「3日後にこの街を経って獣人の国に行く予定。ドワーフの国を経由するけど冬の月には向こうに着いてると思う」
「寂しくなるな。私が獣人の国を訪れるのは闘技大会の直前になると思う。力になれず申し訳ない」
「気にしないで。旅には慣れてるから。ねえ、兄さん」
「ああ」
僕達の言葉にウォーロックが安堵したような表情を浮かべる。
「シアンは冬の3の月に獣人の国に向かうはずだ。お前達のことがバレないように気をつけてくれ」
「顔見られちゃったからね。髪と目の色変えただけでいけるかな?声も変える?」
「そこまでする必要はない。エルフ族は人族の顔の区別がつかないからな。髪と目の色を変えたら十分だ」
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僕達の気まずそうな様子に気づいたのかウォーロックが話を続けた。
「お前達のせいではない。シアンが私に口を聞かないのはいつものことだ」
「ウォーロックはさ、普段からシアンくんと何気ない会話とかしてる?」
僕の言葉を受けてウォーロックの頬が引き攣った。彼は息子のことになると表情がわかりやすくなる。
「……それを言われると辛いものがあるな。最近は叱責ばかりであまり話ができていなかった」
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「紙?」
「これは魔紙という魔道具の一種だ。インクではなく魔力で文字を書く。最近開発されたのだが魔術式を刻んで弱い魔法を発動し続けるくらいしか使い道がなくてな。なんとなくだが、これにはもっと有効な使い道があるような気がして」
「たしかに可能性を感じるような……わかった。使い道を考えてみるよ」
「のんびりでいい。急ぐようなものでもないから」
ハイエルフがのんびりと言うとすごく気が長い話に感じる。僕が何の報告をしなくても30年くらいはひたすら待っていそうだ。
和やかな空気のまま時間が進み、最後に闘技大会前に一度会って話をしようと約束してウォーロックの家を後にした。
すっかり見慣れた帰り道を通って拠点に帰る。頬に当たる風が冷たくなったことで季節の移り変わりを感じる。兄さんと夕飯のメニューを相談しながら歩いていると、ふと話題が変わった。
「ルカはあの親子をずいぶん気にかけているな」
「そうかな?あんまり自覚がなかった。なんとなく放っておけないのかもね」
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「うん、気をつけるね。ありがとう」
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あの親子を見ると、もうちょっと素直になればあんなにすれ違うこともないのにと悲しい気持ちになる。
いつか分かり合える日が来るからと気長に待っていても、その機会が一瞬のうちに永遠に失われるかもしれないのに。でもそんな風に思ってしまうのは、僕に一度死んだ記憶があるからだろう。
前世を思い出すと心の内に占めるのは後悔ばかりだ。今の僕には兄さんがいるから他人事のように感じるけれど、それでもあの時ああしていればという気持ちが完全になくなるわけではない。
胸に広がる虚しさを飲み込んで顔を上げる。今はそんなことより旅のことを考えよう。
「兄さん」
「なんだ?」
「ドワーフの国には温泉があるらしいよ。貸切できるところ調べておいたから一緒に入ろうね」
「あ、ああ。そうだな」
兄さんの声が少しだけ上ずっているように聞こえた。そんなに温泉が苦手だったのかと少し残念な気持ちになる。
「嫌なら無理強いしないけど、そんなに?」
「嫌というか、耐えられるかが分からなくて……ルカの魔法を3回はくらう自信がある。ミヅホでは断るのが大変だった」
「あれそういうことだったの?頑なに拒否するから温泉が嫌いなのかと思った」
「別に好きでも嫌いでもない」
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