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エルフの国と闘技大会編
武器の注文
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扉を開けるとシンプルなデザインのカウンターが僕達を出迎えてくれた。冒険者ギルドと違うところといえば、ハンマーが熱い鉄にぶつかる音が響き渡っているところか。
事前に話を通していたからか、カウンターにはすでに人がいた。
「おう!よく来たな!」
ドワーフの男性はそう言うと豪快に笑った。この店はウォーロックに紹介された鍛冶屋だ。目の前にいるドワーフの男性の名前はドリー、ウォーロックと旧知の仲らしい。紹介してもらった時も親しそうに話をしていたのが印象的だった。あの日、口を開けて大笑いするドワーフと口角を少しだけ上げて静かに笑うハイエルフというイメージ通りの光景を見て、僕は密かに感動していた。
「ドリー、今日はよろしく」
「よろしく」
「おう!で、どんな武器をご所望だ?」
「大剣をお願い。総魔銀で」
「それはまた随分と珍しいものを……」
「えっ?ルカの杖ではなかったのか」
兄さんのポカーンとした顔を見て思わず吹き出しそうになる。
「違うよ。この街を拠点にしたのは兄さんの武器を作るため。魔銀武器は魔力を通しやすいから硬化の魔法以外も付与できるかもと思って」
「ルカ!」
兄さんが両手を広げたので、目で制する。気持ちはわかるけどね。続きは借家に戻ってからだ。
「俺としてはありがたい話だけどよ、大剣ならガルデネガドの鍛冶屋に依頼したほうがよくないか?」
ガルデネガドはドワーフの国の名前だ。東大陸の南側は、北から獣人の国、ドワーフの国、エルフの国が連なっている。
この3つの国は同盟を組んでいて、長い間戦争も起こっていない平和な時代が続いている。異種族への差別意識も一部を除いてそこまでないようで、人族も普通に生活している。
「伝手もないのにドワーフの国の鍛冶屋で総魔銀の大剣を作ってと依頼しても門前払いされるだけだよ。ミスリルにしないなら帰れって言われるの簡単に予想つくし。それに……」
「それに?」
「ドワーフの国の鍛冶屋より、魔銀武器の扱いに長けているドリーにお願いしたほうが良い武器を作れると思うから」
「任せとけ!最高の武器を作ってやる!」
よかった。引き受けてくれなかったらどうしようかと思った。
この世界では、剣など刃がついた武器はミスリルが、杖などの魔法武器は魔銀が至高という考えが根付いている。総魔銀の剣も全くないわけではないが、製作を依頼しても嫌な顔をされることが多いと聞く。
「じゃあアイザックの希望に沿って作るとして、予算は?」
ドリーにだけ聞こえるように予算を伝える。兄さんに気を遣われるのも嫌だからね。
総ミスリルナイフ1本の値段よりこっちのほうが安いから兄さんが気にする必要は一切ないのだけど、念のためだ。
「それだけあれば十分だ。概算は後でルカにだけ伝えておく」
「ありがとう。よろしくね」
僕達の会話を見守っていた兄さんが心配そうな様子で口を開く。
「ルカ、手持ちは大丈夫なのか?」
「平気だよ。それに収入の見込みもあるし」
「見込み?」
「ウォーロックに素材の換金を頼もうかと思って」
「ああ、なるほど」
冒険者ギルドに報告できず無限収納に死蔵している魔物素材はたくさんある。それをウォーロックが換金してくれたらけっこうな金額になるはずだ。
その後、兄さんはドリーと話し合い新しい剣の形状などを決めた。完成するのは秋の2の月頃だと言われ残念に思ったが、そこは仕方ない。むしろ優先して作ってくれるだけありがたい話だ。それからしばらくドリーと雑談した後、僕達は工房を後にした。
借家の玄関を閉めた途端、兄さんに抱きしめられた。僕も兄さんの背中に手を回す。
「ルカありがとう」
「喜んでくれてよかった。本当は兄さんの誕生日に間に合わせたかったけど」
「本当に嬉しい。俺のこと考えてくれてありがとう」
「うん。でもちょっとやりすぎたかな」
「どういう意味だ?」
「兄さんがもっと強くなったら、かっこよすぎて戦闘に集中できないかも」
さすがに乙女思考すぎるかなと思うが、これは僕の本心でもある。
「……なにか言ってよ。反応がないのが一番心にくるんだけど」
「すまない……嬉しくて言葉が出なかった」
「あ、そっちか」
兄さんが身体を離し僕の肩を掴む。顔を上げて目を合わせると熱っぽい視線とぶつかった。
「そっちとは?」
「呆れて何も言えなくなったのかと思った」
「自覚がないのも恐ろしいな」
そう言うと兄さんは顔を近づけてきた。僕は目を閉じて受け入れる体勢を整える。唇に触れる柔らかい感触がもどかしい。口を軽く開いても待ち望んだものがやってくることはなかった。これは僕から求めろということだろうか。
躊躇うことなく自分から舌を出すと、口の中に招き入れられた。自分の舌を使って兄さんの舌を探り当てゆっくりと絡ませる。こちらへ招くように兄さんの舌を軽く吸い上げる。すると今度は向こうの方から強く吸われ、そのまま何度も角度を変えて貪られた。
いつの間にか夢中になってキスに応えていた。気持ち良くてもっと欲しくて頭がぼーっとしてくる。
どれくらいの時間こうしていただろう。ようやく解放されて呼吸を整えていると、兄さんに抱きしめられた。
「兄さん」
「どうした?」
「もう1回して」
兄さんは何も言わず、今度は噛み付くようなキスをしてくれた。
「ルカ」
再びキスを終えると名前を呼ばれた。その声に情事を思わせるような甘さが含まれている気がする。
熱情が灯る瞳を見つめながら兄さんの首筋に腕を巻き付けて引き寄せ、触れるようなキスをする。唇を離して魔法を発動すると兄さんが目を見張らせた。
「今のは?」
「清浄の魔法。ね、ベッド行こ?」
「……ああ」兄さんが僕を抱きかかえて歩き始めた。
「なんで?歩けるよ?」
「とにかく触れ合いたくて」
「手を繋ぐじゃだめだった?」
「それだと足りない」
そういうものなのか。よくわからないけど、返事の代わりに手を伸ばして兄さんの頬に触れる。微笑み合いながらこの後のことを期待して胸を高鳴らせた。
事前に話を通していたからか、カウンターにはすでに人がいた。
「おう!よく来たな!」
ドワーフの男性はそう言うと豪快に笑った。この店はウォーロックに紹介された鍛冶屋だ。目の前にいるドワーフの男性の名前はドリー、ウォーロックと旧知の仲らしい。紹介してもらった時も親しそうに話をしていたのが印象的だった。あの日、口を開けて大笑いするドワーフと口角を少しだけ上げて静かに笑うハイエルフというイメージ通りの光景を見て、僕は密かに感動していた。
「ドリー、今日はよろしく」
「よろしく」
「おう!で、どんな武器をご所望だ?」
「大剣をお願い。総魔銀で」
「それはまた随分と珍しいものを……」
「えっ?ルカの杖ではなかったのか」
兄さんのポカーンとした顔を見て思わず吹き出しそうになる。
「違うよ。この街を拠点にしたのは兄さんの武器を作るため。魔銀武器は魔力を通しやすいから硬化の魔法以外も付与できるかもと思って」
「ルカ!」
兄さんが両手を広げたので、目で制する。気持ちはわかるけどね。続きは借家に戻ってからだ。
「俺としてはありがたい話だけどよ、大剣ならガルデネガドの鍛冶屋に依頼したほうがよくないか?」
ガルデネガドはドワーフの国の名前だ。東大陸の南側は、北から獣人の国、ドワーフの国、エルフの国が連なっている。
この3つの国は同盟を組んでいて、長い間戦争も起こっていない平和な時代が続いている。異種族への差別意識も一部を除いてそこまでないようで、人族も普通に生活している。
「伝手もないのにドワーフの国の鍛冶屋で総魔銀の大剣を作ってと依頼しても門前払いされるだけだよ。ミスリルにしないなら帰れって言われるの簡単に予想つくし。それに……」
「それに?」
「ドワーフの国の鍛冶屋より、魔銀武器の扱いに長けているドリーにお願いしたほうが良い武器を作れると思うから」
「任せとけ!最高の武器を作ってやる!」
よかった。引き受けてくれなかったらどうしようかと思った。
この世界では、剣など刃がついた武器はミスリルが、杖などの魔法武器は魔銀が至高という考えが根付いている。総魔銀の剣も全くないわけではないが、製作を依頼しても嫌な顔をされることが多いと聞く。
「じゃあアイザックの希望に沿って作るとして、予算は?」
ドリーにだけ聞こえるように予算を伝える。兄さんに気を遣われるのも嫌だからね。
総ミスリルナイフ1本の値段よりこっちのほうが安いから兄さんが気にする必要は一切ないのだけど、念のためだ。
「それだけあれば十分だ。概算は後でルカにだけ伝えておく」
「ありがとう。よろしくね」
僕達の会話を見守っていた兄さんが心配そうな様子で口を開く。
「ルカ、手持ちは大丈夫なのか?」
「平気だよ。それに収入の見込みもあるし」
「見込み?」
「ウォーロックに素材の換金を頼もうかと思って」
「ああ、なるほど」
冒険者ギルドに報告できず無限収納に死蔵している魔物素材はたくさんある。それをウォーロックが換金してくれたらけっこうな金額になるはずだ。
その後、兄さんはドリーと話し合い新しい剣の形状などを決めた。完成するのは秋の2の月頃だと言われ残念に思ったが、そこは仕方ない。むしろ優先して作ってくれるだけありがたい話だ。それからしばらくドリーと雑談した後、僕達は工房を後にした。
借家の玄関を閉めた途端、兄さんに抱きしめられた。僕も兄さんの背中に手を回す。
「ルカありがとう」
「喜んでくれてよかった。本当は兄さんの誕生日に間に合わせたかったけど」
「本当に嬉しい。俺のこと考えてくれてありがとう」
「うん。でもちょっとやりすぎたかな」
「どういう意味だ?」
「兄さんがもっと強くなったら、かっこよすぎて戦闘に集中できないかも」
さすがに乙女思考すぎるかなと思うが、これは僕の本心でもある。
「……なにか言ってよ。反応がないのが一番心にくるんだけど」
「すまない……嬉しくて言葉が出なかった」
「あ、そっちか」
兄さんが身体を離し僕の肩を掴む。顔を上げて目を合わせると熱っぽい視線とぶつかった。
「そっちとは?」
「呆れて何も言えなくなったのかと思った」
「自覚がないのも恐ろしいな」
そう言うと兄さんは顔を近づけてきた。僕は目を閉じて受け入れる体勢を整える。唇に触れる柔らかい感触がもどかしい。口を軽く開いても待ち望んだものがやってくることはなかった。これは僕から求めろということだろうか。
躊躇うことなく自分から舌を出すと、口の中に招き入れられた。自分の舌を使って兄さんの舌を探り当てゆっくりと絡ませる。こちらへ招くように兄さんの舌を軽く吸い上げる。すると今度は向こうの方から強く吸われ、そのまま何度も角度を変えて貪られた。
いつの間にか夢中になってキスに応えていた。気持ち良くてもっと欲しくて頭がぼーっとしてくる。
どれくらいの時間こうしていただろう。ようやく解放されて呼吸を整えていると、兄さんに抱きしめられた。
「兄さん」
「どうした?」
「もう1回して」
兄さんは何も言わず、今度は噛み付くようなキスをしてくれた。
「ルカ」
再びキスを終えると名前を呼ばれた。その声に情事を思わせるような甘さが含まれている気がする。
熱情が灯る瞳を見つめながら兄さんの首筋に腕を巻き付けて引き寄せ、触れるようなキスをする。唇を離して魔法を発動すると兄さんが目を見張らせた。
「今のは?」
「清浄の魔法。ね、ベッド行こ?」
「……ああ」兄さんが僕を抱きかかえて歩き始めた。
「なんで?歩けるよ?」
「とにかく触れ合いたくて」
「手を繋ぐじゃだめだった?」
「それだと足りない」
そういうものなのか。よくわからないけど、返事の代わりに手を伸ばして兄さんの頬に触れる。微笑み合いながらこの後のことを期待して胸を高鳴らせた。
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