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アファルータ共和国編

撤収

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 グリーンドラゴン討伐から3日経った。その間ドラゴンと戦った場所を訪れ、戦闘の痕跡を完璧に消した。あの時丸太を運んでいた冒険者達は街の近くまで移動していたようで、さりげなく確認したところ僕達が森で戦闘をしていたことに気づいていなかった。

 さすがにグリーンドラゴンを銀級冒険者がふたりで討伐したとなれば、目立つどころの騒ぎではなくなってしまう。
 平穏な冒険者生活のためにも慎重すぎるに越したことはない。今日はどんな依頼を受けようかと冒険者ギルドの扉を開けると、普段と違う雰囲気に驚いた。
「何かあったのかな?」
「顔が険しいな。何かに警戒してるのか?」
 皆いつも通り依頼票を確認しつつ、その顔はどこか険しい。ただならない空気に呑まれ緊張しながら依頼票に手を伸ばし、受付カウンターに向かう。
 ちょうど担当の受付嬢がいたので、彼女に話を聞いてみることにした。


「どうしたの?ギルドの様子がおかしいけど」

「ルカさんおはようございます。実は、ここから少し離れた大きな都市でグリーンドラゴンに手を出して全滅した冒険者パーティーがいたようで。そのパーティーが逃したドラゴンが都市周辺の街に現れる可能性があるからと、大規模な調査隊が組まれることになりまして。1週間後に調査隊が来るみたいで、大慌てで受け入れの準備をしているところです」

「へぇ、ドラゴンが……。それで皆警戒して?」

「それもありますが、都市に所属している高位冒険者はプライドが高くて扱いが難しい方が多いので、皆さんそれを警戒されているようです。調査という名目で強引な手段に走る可能性もあるので、こちらも対策を練っているところです」

「目撃情報は出てるの?」

「それが全く出ていないので、困っているところです。報告を受けてから情報収集をしているのですが有力な情報は一つもありませんね。ルカさん達は心当たりありますか?」

「全く。今話を聞いて驚いてるくらいだよ」

「突然ドラゴンがと言われても困りますよね。金級以上の冒険者は調査隊に強制参加なのでそれも空気が悪い原因かもしれません」

「そうなんだ。何事もなければいいけど」

「本当にそうですね。今後を考えると今から頭が痛いです。ところでルカさん達は依頼ですか?」

「実は近々ここを離れることになってね。挨拶をしに来たんだ。そんな時にこの空気だから気になっちゃって。仕事の邪魔してごめんね」

「いえ。お気になさらず。寂しくなりますね」

「ありがとう。そう言ってもらえて嬉しいよ。街を発つ日にまた改めて声をかけるからよろしくね」

「ありがとうございます。忘れないでくださいね」

「もちろん。兄さん行こうか」

「ああ」


 話に上がったグリーンドラゴンは、ほぼ確実に僕達が討伐した個体だろう。
 兄さんに何の相談もせず話を進めたが、これは逃げの一択だ。調査隊がいる間、冒険者ギルドに行かないという選択肢もあるが何が起きるか全く予想できない。下手にトラブルに巻き込まれるくらいなら、この街から離れた方がましだ。
 ドラゴンは縄張り意識が強い生物なので移動することは滅多にない。調査隊も1週間ほど調査したら諦めて帰るだろう。グリーンドラゴンの死骸を元いた場所に放置するのもリスクが高い。間接的に多方面に迷惑をかけているが、自分達の身の安全を優先させてもらう。

「勝手に決めてごめん。この街から離れよう」
「その方がいい。下手に嗅ぎ回られても厄介だ。3日後でいいか?」
「大丈夫。それでいこう。とりあえず今日は帰って引越し準備だね」
「もう慣れたからな。今日1日で大体終わるだろう」
 悲しいことに兄さんの言う通りだ。無限収納のおかげもあって、僕達の撤収作業はかなり効率化されている。
 ちょうどギルドにリアムがいたので声をかけることにした。

「リアムおはよう」
「おはようございます。どうかされましたか?」
「実は3日後にこの街を発つことになってね」
「またいきなりですね!せっかく仲良くなれたのに寂しくなります。アイザックさん、明日時間があったら最後に手合わせしてくれませんか?」
「わかった。明日な」
「ありがとうございます!おふたりにはお世話になりました」
「こちらこそ。いろいろありがとう」
「いえいえ!ルカさんも最後に魔法の指導お願いします」
「わかった。教えたこと紙に書いてまとめておくから明日受け取って」
「助かります。嬉しいです!ありがとうございます!」
 その後リアムとしばらく話をしてから拠点に戻った。

 拠点で兄さんとどこの国に行くか話し合う。兄さんは西大陸に戻るのも手だと言っていたが、せっかく東大陸にきたのだからもう少し満喫したい。
 そこで僕達は、珍しい植物がたくさん栽培されていると噂されるエルフの国に行くことにした。

 3日後、僕達は冒険者ギルドで熱烈な見送りを受けた。別れ際、リアムから兄さんが頻繁に手合わせをしていた理由を教えてもらった。穴があったら入りたいとはこのことを言うのだろう。しばらく兄さんの顔をまともに見れそうにない。リアムには本当にお世話になった。

 この街は本当に居心地がいいところだった。必ずまた戻ってこよう。その時が今から楽しみだ。
 僕は別れの寂しさを埋めるように、皆と再会する未来を思い浮かべて胸をはずませた。
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