【本編完結】異世界まったり逃避行

ひなた

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アファルータ共和国編

初めての調査依頼⑤遺跡

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 あれから特に問題が起きないまま順調に目的地の遺跡まで辿り着いた。
 目の前に立ちはだかる巨大な存在を見上げため息をつく。ため息に混じる思いは、感動半分違和感半分といったところか。
 森林を抜けてだだっ広い草原にポツンと存在するそれは、一見すると神殿のような建物にも見える。

 学者達の話では、この神殿はもともと近隣の村民から緑に覆われた廃墟だと思われていたらしい。
 そこにたまたま冒険者が立ち寄り、これは古代文明の遺跡ではないかとギルドに報告したとか。それが学者の耳に入り今回の調査に至ったようだ。

 今回の目的は内部構造を把握することだと調査隊リーダーの学者から説明を受けた。数日前から先遣隊による調査が続いていて、建物内に入るだけなら今のところ危険はないという報告が上がったようだ。
 今回はいくつかのグループに分かれ内部を探索することになった。

 時間になったので内部に入る。学者達の護衛も兼ねているので兄さんとリアムが列の前、僕が列の後ろに配置されることになった。他の冒険者グループもそれぞれの持ち場で警戒している。
 この建物は地下1階と地上3階建だというのが今分かっている情報だ。もしかしたらもっと階層があるかもしれない。

 1階はすでに調査済みの箇所が多いこともあって、学者達含め和やかな雰囲気で歩を進めている。
「なんかすごい建物ですね!思ったより広くて迷ってしまいそうです!」
「あのっ、この辺りは落とし穴があったところなので気をつけてください。落ちてもクッションがあって怪我をすることはないですが、万が一ということもあるので」
「そうなんですか?気をつけます……うわっ」
 当然の流れかのようにリアムが落とし穴に落ちた。リアムに注意した学者も、心配そうな様子を出しつつ表情に呆れが入っている。

 結局1階の探索を切り上げて地下1階を探索することになった。幸いリアムとはすぐに合流できた。リアムは兄さんから怒られて、しょんぼりと項垂れている。
「リアム怪我はない?」
「大丈夫です……アイザックさんに怒られました」
「兄さん静かに怒るから怖いよね」
「そうそう!ルカさんも怒られることあるんですね」
「わりと頻繁に。主に魔法のことで」
「あぁー。ルカさん魔法のことになると熱くなりますもんね」
「自覚がないからよくわからないんだよね」
「だからよく怒られるのでは?」
「うるさい。もう魔法教えないよ」
「ごめんなさい!」
 冗談だと言うとリアムが表情を綻ばせる。近くで僕達の会話を聞いていた兄さんが複雑そうな顔をしていた。

 地下1階には4つの部屋があるようだ。学者達は分かれて部屋を探索することにしたらしい。冒険者達はそれぞれ配置について護衛をすることになった。
 兄さんと離れることになって寂しいなと思っていたら、周りがにわかに騒がしくなった。話を聞くと地下2階へ続く階段が発見されたらしい。
 地下2階の探索を進めることになったが、危険なので全員まとまって行動することに決まった。

 1階の探索と同じように兄さんとリアムは列の前、僕は列の後ろで護衛をすることになった。
 どんな罠があるかもわからない未知の場所の探索は想像以上に神経を使う。ピリピリとした空気が漂うなか、慎重に通路を歩いていくと部屋を見つけた。

 まずは先頭のグループが部屋に入る。その瞬間、部屋の入り口にあった扉が音を立てて閉まり出した。
 部屋にいた学者や冒険者が慌てて外に出る。兄さんとリアムも間に合いそうだと安心していると、ひとりの学者が転んでしまった。兄さんが学者の首根っこを掴み部屋の外へ放り投げた途端、扉が閉まるスピードが上がった。

「兄さん!」
 魔法でどうにかしようと動いたが遅かった。扉が完全に閉まってしまった。魔法でこじ開けようとしてもだめだった。
 悔しさと焦りから扉に拳をドンドンと叩きつけるがびくともしない。しばらく続けていたが、拳から血が滲む頃に冒険者達から止められてしまった。

 周囲に扉が開くための手がかりがないか探したが見当たらない。
 部屋の中から兄さんやリアムの声が聞こえないことに不安が倍増する。魔法を使えば中の様子がわかるようになるが、そのためには周りが邪魔だ。
 僕は学者と冒険者達にこの部屋から離れるように言った。何人かが僕と一緒に残ると言ってくれたがそれを拒否し、とにかくこの部屋の扉が開くための手がかりを探してほしいとお願いした。

 学者と冒険者達が完全に離れたことを確認した僕は、すぐに魔法を使い内部の状況を見澄ました。
 兄さんとリアムは脱出の手がかりを探すため壁面に沿って歩きながら、注意深く周囲を観察していた。

「アイザックさん、俺ら生きてここを出られますよね?」
「泣き言はいいから手がかりを探せ」
「だって俺怖いです」
「少し休むぞ。座れ」
 リアムが兄さんの服の裾を掴み、上目遣いで兄さんの顔を見つめた。泣きそうになっているのだろう。リアムの目は潤んでいた。
 兄さんはいつものように「近い、離れろ」と言わず、恐怖で青ざめているリアムを気遣っているようだ。

「俺、アイザックさんとルカさんに本当に感謝していて」

「そうか」

「俺リフケネから遠く離れた街の孤児院出身で、碌な戦闘経験もないまま12歳で冒険者になったんです。とにかくお金が欲しくて必死で。お荷物って馬鹿にされながらも銅級以上のパーティーを転々としてて。とある街で報酬の分配で揉めていづらくなって、リフケネまで逃げました。そんな時にアイザックさんとルカさんに出会ったんです」

「知らなかった」

「だってアイザックさんもルカさんも何も聞いてこないから。でもそれがすごく気楽でした。アイザックさんから剣を、ルカさんから魔法を教えてもらって。おふたりとも厳しいけど俺のために親身になってくれて。ルカさんの指導は特にキツかったけど俺のためにいろいろ魔法を考えてくれたのが嬉しくて」

「ルカは魔法に関して本当に厳しいからな」

「アイザックさんにもあんな感じなんですね。でも俺そのおかげで強くなれました。このままいけば成人前に銅級になれるかもってこの前言われて。なのにこんな……俺死にたくないです!!」

「落ち着け。大丈夫だから」

 リアムが本格的に泣き出した。兄さんはリアムを励ましながら言葉を掛ける。
「今頃、学者達が外から扉を開けられないかいろいろ試しているはずだ」
「それでもだめだったら?」
「俺の大剣で扉を壊せばいいだろう。貴重な文化財かもしれないから最終手段になるが」
 兄さんのあまりにも強引な解決手段にリアムが一瞬固まった後、爆笑し始めた。

「そんなこと思いつきもしなかったです。さすがアイザックさんですね!」
「うるさい。そんなに笑えるならもういいだろう。探索を続けるぞ」
「はいっ!俺頑張りますよ!」
「次泣き言を言ったら全力で蹴り飛ばすからな」
「げっ!やめてくださいよー」

 なぜだろう。見ていて辛くなってしまった。胸がモヤモヤする。
 ああ、そうか。僕はリアムに嫉妬しているのか。
 兄さんとよく手合わせをしていて、親しげに話をしていて、入り込めない仲の良さで。僕とは違う距離感だけどすごく楽しそうで。

 頭では分かっているのに止められない。ふたりは仲がいい先輩と後輩にすぎないのに、距離が近すぎじゃないかと思ってしまう。上目遣いで兄さんを見つめないでと思ってしまう。嬉しそうに笑わないでと思ってしまう。

 これ以上見ていられなくて魔法の発動を止めようとした瞬間、部屋の中央で何かが光った。あれは召喚陣というやつではないだろうか。
 召喚陣から現れたそれは汚れた包帯に包まれていて、光を捉えているのかわからない濁った目で兄さんとリアムを眺めていた。
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