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アファルータ共和国編
サンダーバード
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僕達が恋人同士になってから1月が経過した。冒険者生活も特に問題はなく、順調そのものだ。
僕達の関係を恋人と一言で片付けていいのかはよくわからないが、想いが通じ合っているのは事実なので恋人ってことでいいだろう。話したことはないが、兄さんもその認識のはずだ。
現在僕達は、討伐を終え手を繋ぎながら森を歩いている。
もちろん探知の魔法で、周囲に人や魔物の気配がないことを確認済みだ。
「兄さん、手を繋ぎながらだと重くない?」
「別に平気だ」
「キツくなったらいつでも言ってね。回復魔法かけるから」
「そこで魔法が出てくるのがルカらしいな」
申し訳ないけど魔法以外で協力できそうにない。兄さんが片手で引き摺りながら運んでいるのはグレートディアーという鹿型の魔物だ。
体長が4メートルある魔物の死骸なんて全力で引っ張っても動かせる気がしない。身体強化を使ったら可能だと思うが、両手で運ぶのがやっとだ。
少しでも長く兄さんと手を繋いでいたいから、僕が運ぶのは最終手段にしたい。
そうやって森林デート気分を楽しんでいると無視できない反応を探知してしまった。
グレートディアーの毛皮がなるべく傷つかないように、行きとは違う平坦な道が多いルートで帰ったことを後悔した。
「近くにサンダーバードの巣がある。親鳥が接近中」
「無視したらだめか?」
「してもいいけど討伐隊に強制参加だよ」
「やるしかないか」
サンダーバードは雷の魔法で周囲を巻き込みながら狩りをする習性がある鳥型の魔物だ。雷の性質上、魔法の範囲が広大なためかなり厄介だ。
強さは銅級パーティーが狩れる程度。ただし雷の対策を万全にした上での目安である。可能であれば見つけ次第、即討伐が推奨されている。討伐できない場合は報告の義務が生じ、後日討伐隊が結成される。
討伐隊といっても5人前後の少人数でさくっと討伐するだけだが、面倒なことに変わりはない。
とりあえずサンダーバードの巣に近づくと、卵を5つ発見した。僕が両腕で抱え込んでやっと運べるくらいの大きさだ。魔法で中身を確認すると、まだ生んでから日が浅い卵のようだ。よかった、後々美味しく頂くことにしよう。
無限収納に卵を全て入れた直後、サンダーバードが怒り狂いながら襲ってきた。すかさず無属性魔法《魔力防御》を発動する。
「雷はなんとかするからとどめをお願い!」
「わかった」
僕は魔力防御を発動しつつ水属性魔法《水生成》で純水を作り、それをサンダーバードの体に纏わせた。
魔力を相当消費するが、純水でないと電気を通してしまうため仕方ない。
サンダーバードは最初抵抗して大暴れしていたが、やがて力を失っていき最後には地面に吸い込まれるように落ちていった。
地面に引き摺り込めば後は兄さんの独擅場だ。見事にサンダーバードの首を切断して討伐が終わった。
怪我もなく無事討伐が終わったのに、この後を考えると気持ちが沈む。
「グレートディアーは僕が運ぶね」
「よろしく。せっかく手が繋げたのに残念だ」
「本当にね。買取額が下がらないなら細切れにしたのに」
「さすがに無視できない金額だから仕方ないな」
手を繋げなくて残念そうな兄さんを見て少しだけ気持ちが浮上した。
その後ひたすら魔物を運び、森の入り口まで来た。するとリフケネ支部に来てすぐ仲良くなったベテラン冒険者パーティーが話しかけてくれた。
「おお!すごいな。今から冒険者ギルドか?」
「うん。偶然サンダーバードの巣を見つけちゃって」
「災難だったなぁ。運ぶの手伝ってやろうか?報酬は酒場の代金で」
「3杯までって条件でいいならお願いしたいな」
「よし!交渉成立だ。お前ら!運ぶぞ!」
疲れていたから助かった。兄さんの分も運んでくれるようだ。
リフケネの街は年中穏やかな気候で魔物もそこそこいるが、凶悪な魔物が少ない。リスクが少ない割に安定した収入がある。しかしダンジョンが近くにないため、大金が手に入る機会は少ない。
そのためか、リフケネの街を拠点に活動してる冒険者は所帯持ちが多い。所属している冒険者の平均年齢が高いためか、リフケネ支部全体が酒場も含め落ち着いた雰囲気となっている。
もちろん若い冒険者もいるが、大体はベテランパーティーの下っ端として活動しているため粗暴なことをするやつらは極少数だ。
僕達がリフケネ支部にきた直後はベテラン勢に警戒されていたが、その態度もすぐに軟化し今のように親しげに話しかけてくれるようになった。
兄さんも妻帯者と話すだけなら文句はないようだ。距離が近いと怒られるけど、逆にそれさえ気をつければ何も言われない。
今までのところと比べると、リフケネ支部は穏やかに過ごすことができる。これからものんびり過ごせたらいいな。
兄さんにだけ聞こえる声量で話をする。
「兄さん、次はいつ森林デートしようか」
「ルカが望むならいつでも」
「じゃあ次の休息日の翌日ね。約束だよ」
「ああ」
指切りの代わりに、一瞬だけ兄さんの手を握る。兄さんが嬉しそうに笑うのを見ていたら、僕も自然と笑みがこぼれる。
幸せってこういうことなんだろうなぁ。
小春日和のような穏やかな晴天が僕達を柔らかく包んでいた。
僕達の関係を恋人と一言で片付けていいのかはよくわからないが、想いが通じ合っているのは事実なので恋人ってことでいいだろう。話したことはないが、兄さんもその認識のはずだ。
現在僕達は、討伐を終え手を繋ぎながら森を歩いている。
もちろん探知の魔法で、周囲に人や魔物の気配がないことを確認済みだ。
「兄さん、手を繋ぎながらだと重くない?」
「別に平気だ」
「キツくなったらいつでも言ってね。回復魔法かけるから」
「そこで魔法が出てくるのがルカらしいな」
申し訳ないけど魔法以外で協力できそうにない。兄さんが片手で引き摺りながら運んでいるのはグレートディアーという鹿型の魔物だ。
体長が4メートルある魔物の死骸なんて全力で引っ張っても動かせる気がしない。身体強化を使ったら可能だと思うが、両手で運ぶのがやっとだ。
少しでも長く兄さんと手を繋いでいたいから、僕が運ぶのは最終手段にしたい。
そうやって森林デート気分を楽しんでいると無視できない反応を探知してしまった。
グレートディアーの毛皮がなるべく傷つかないように、行きとは違う平坦な道が多いルートで帰ったことを後悔した。
「近くにサンダーバードの巣がある。親鳥が接近中」
「無視したらだめか?」
「してもいいけど討伐隊に強制参加だよ」
「やるしかないか」
サンダーバードは雷の魔法で周囲を巻き込みながら狩りをする習性がある鳥型の魔物だ。雷の性質上、魔法の範囲が広大なためかなり厄介だ。
強さは銅級パーティーが狩れる程度。ただし雷の対策を万全にした上での目安である。可能であれば見つけ次第、即討伐が推奨されている。討伐できない場合は報告の義務が生じ、後日討伐隊が結成される。
討伐隊といっても5人前後の少人数でさくっと討伐するだけだが、面倒なことに変わりはない。
とりあえずサンダーバードの巣に近づくと、卵を5つ発見した。僕が両腕で抱え込んでやっと運べるくらいの大きさだ。魔法で中身を確認すると、まだ生んでから日が浅い卵のようだ。よかった、後々美味しく頂くことにしよう。
無限収納に卵を全て入れた直後、サンダーバードが怒り狂いながら襲ってきた。すかさず無属性魔法《魔力防御》を発動する。
「雷はなんとかするからとどめをお願い!」
「わかった」
僕は魔力防御を発動しつつ水属性魔法《水生成》で純水を作り、それをサンダーバードの体に纏わせた。
魔力を相当消費するが、純水でないと電気を通してしまうため仕方ない。
サンダーバードは最初抵抗して大暴れしていたが、やがて力を失っていき最後には地面に吸い込まれるように落ちていった。
地面に引き摺り込めば後は兄さんの独擅場だ。見事にサンダーバードの首を切断して討伐が終わった。
怪我もなく無事討伐が終わったのに、この後を考えると気持ちが沈む。
「グレートディアーは僕が運ぶね」
「よろしく。せっかく手が繋げたのに残念だ」
「本当にね。買取額が下がらないなら細切れにしたのに」
「さすがに無視できない金額だから仕方ないな」
手を繋げなくて残念そうな兄さんを見て少しだけ気持ちが浮上した。
その後ひたすら魔物を運び、森の入り口まで来た。するとリフケネ支部に来てすぐ仲良くなったベテラン冒険者パーティーが話しかけてくれた。
「おお!すごいな。今から冒険者ギルドか?」
「うん。偶然サンダーバードの巣を見つけちゃって」
「災難だったなぁ。運ぶの手伝ってやろうか?報酬は酒場の代金で」
「3杯までって条件でいいならお願いしたいな」
「よし!交渉成立だ。お前ら!運ぶぞ!」
疲れていたから助かった。兄さんの分も運んでくれるようだ。
リフケネの街は年中穏やかな気候で魔物もそこそこいるが、凶悪な魔物が少ない。リスクが少ない割に安定した収入がある。しかしダンジョンが近くにないため、大金が手に入る機会は少ない。
そのためか、リフケネの街を拠点に活動してる冒険者は所帯持ちが多い。所属している冒険者の平均年齢が高いためか、リフケネ支部全体が酒場も含め落ち着いた雰囲気となっている。
もちろん若い冒険者もいるが、大体はベテランパーティーの下っ端として活動しているため粗暴なことをするやつらは極少数だ。
僕達がリフケネ支部にきた直後はベテラン勢に警戒されていたが、その態度もすぐに軟化し今のように親しげに話しかけてくれるようになった。
兄さんも妻帯者と話すだけなら文句はないようだ。距離が近いと怒られるけど、逆にそれさえ気をつければ何も言われない。
今までのところと比べると、リフケネ支部は穏やかに過ごすことができる。これからものんびり過ごせたらいいな。
兄さんにだけ聞こえる声量で話をする。
「兄さん、次はいつ森林デートしようか」
「ルカが望むならいつでも」
「じゃあ次の休息日の翌日ね。約束だよ」
「ああ」
指切りの代わりに、一瞬だけ兄さんの手を握る。兄さんが嬉しそうに笑うのを見ていたら、僕も自然と笑みがこぼれる。
幸せってこういうことなんだろうなぁ。
小春日和のような穏やかな晴天が僕達を柔らかく包んでいた。
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