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アファルータ共和国編
勢いが大事
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起きたら目の前に兄さんの寝顔があった。あー、そっか。あの後酸欠で気絶寸前になったら慌てた兄さんが無理やり僕を寝かしつけたんだ。
もちろんすぐに寝られるはずもなく、ポツリポツリと前世の話をしてたら夜が明けて、いつのまにか眠っていたらしい。
「えへへー」
変な声を出しながら思わずニヤけてしまう。
兄さんの寝顔を見ながら昨日のことを思い出す。恥ずかしいのにすごく幸せで、心臓がドキドキする。
何となくそうしたくなって、兄さんの頬をつつく。兄さんは眉間に皺を寄せたものの起きる気配がない。
寝顔もかっこいいなんて、ずるいなぁ。
しばらく兄さんの顔を眺めたり、頬をつついたりしていると急に不安が襲ってきた。
昨日の出来事は全部夢だったのではないか。あれは都合のいい妄想ではないか。
そんなことをぐるぐる考えていると、兄さんの目がうっすらと開いた。
兄さんはしばらくぼんやりとしていたが、やがて僕を視界に捉えると優しく微笑みかけた。
「おはよう」
寝起きの掠れた声にドキッとする。返事をするのを忘れて兄さんの声に聞き入ってしまった。
「ルカ?」
「……あ、おはようっ」
焦って上擦った声が出た。最悪だ。絶対変に思われた。
「あー、ルカだ。ルカがいる」
兄さんがふにゃっと笑った。その顔はかわいいなと見惚れていたら、兄さんの顔が目の前に迫っていた。そのまま唇を合わせるだけのキスをされる。思わず兄さんの唇に吸い付くと、唇が離れた時にちゅっと軽いリップ音が鳴った。
前世から数えても恋愛経験がないに等しい僕にとって、この一連の出来事は刺激が強すぎた。
ベッドの上を転げ回りたい衝動をすんでのところで抑える。
兄さんに声をかける勇気もなく静かに悶えていると、いきなり大声が響いた。
「ルカ!?現実!?」
兄さんは声を上げた勢いそのままに起き上がり、すかさず飛び退いた。止める間もなかった。
兄さんがベッドから落ちた。お手本のような落下だった。しかし、そこは現役冒険者。こんな状況でも見事な受け身を取っていた。
衝動に身を任せていたらこうなっていたのは僕だった。でもこれは、なるべくしてなったというやつだ。
だって僕達が寝ていたのはセミダブルのベッドだから。成人男性ふたりが並ぶには狭すぎる。並ぶというよりギチギチに詰まっていたという表現が正しいだろう。
「兄さん大丈夫?」
「なんとか」
「あのさ、」
「今日はベッドを買いに行こう。なるべく大きなやつを」
「僕もそれを言うつもりだった」
兄さんに手を貸すついでに体の状態を確認したが、特に怪我はないみたいだ。本当によかった。こんなことで回復魔法を使われたら、兄さんはしばらく立ち直れないだろうから。
体勢を整えた兄さんが寝室から出ようとドアノブに手をかける。
あ、そうだ。もう一つ言い忘れたことがあった。こういうのは勢いが大事だって前世の本で読んだ気がする。さっそく実践だ。
「兄さん」
「どうした?」
「好きだよ、だいすき」
兄さんが振り向いた体勢のまま、目を大きく開いて固まっている。
しまった。何か間違えてしまったようだ。昨日のことが夢だったのではと不安になったから、改めて気持ちを伝えたつもりだったのに。
表情に出さないように注意しながら内心焦っていると、兄さんが両手で顔を覆った。
急にどうしたのだろうと思い、兄さんを観察すると耳が赤くなっている。
兄さんは長い息を吐くと顔から手を外した。隠されていた瞳は涙で潤んでいた。
「俺もルカが大好きだ」
兄さんに優しく抱きしめられる。身体が密着しているから兄さんの鼓動が伝わってくる。通常よりも早めのリズムに心地よさを感じる。なぜなら僕も同じくらい心臓が高鳴っているから。
まるで心臓が兄さんと一緒になったような感覚がする。気持ち良くて身体が溶けてしまいそうだ。
もう少し、もう少しだけ。お互い何も言わず身を委ねる。
このまま一日が終わっても後悔はない。そう言い切れるくらいこの幸福に酔いしれていた。
結構長い間抱きしめ合っていたようだ。ベッドを購入するため外に出たら、昼はとっくに過ぎていた。
「ベッドを買ったはいいが、搬入することも部屋に入るかどうかも考えてなかったな」
「とりあえず家に入れたら無限収納が使えるから、それまでが問題だね」
「目立つが仕方ない。背負うか」
兄さんがベッドを背負って歩き出す。しっかりとした足取りの兄さんに思わず拍手を送る。
でもこのまま休み休み進んでいたら、家に着くのは夜になりそうだ。
僕は魔法で兄さんをサポートすることにした。違和感に気づいた兄さんが僕に声をかける。
「何かしたか?」
「兄さんに回復魔法をかけ続けてる。疲労しないから休みいらずだよ。筋肉に負荷がかからないから鍛練にならないけど、今回はいいでしょ」
「鍛練にならないのは惜しい気もするがそうだな。このまま魔法を続けてほしい」
「了解」
なんとか日が暮れる前にベッドを搬入することができた。問題は寝室だ。とりあえず本棚など備え付けの家具を全部無限収納にしまった。
家具も何もないガランとした部屋に、購入したキングサイズのベッドを置いた。ものすごい圧迫感だ。
それもそのはず、寝室の広さが5畳くらいしかないから。辛うじて小さなサイドテーブルが置けたくらいで他に家具を置くスペースが一切ない。
とりあえず寝室に入らない家具は、僕の寝室だった部屋に置くことにした。
改めてふたりの寝室を確認する。見れば見るほどベッドの存在感がすごい。
何というかあれだ。一緒に寝るためだけの部屋って感じが伝わって妙に生々しい。
ふたりとも気まずすぎて、寝る時間になっても寝室の入り口で立ち尽くしていた。
覚悟を決めて兄さんと一緒に寝室に入ったのは、夜も更けた頃だった。
せっかくのキングサイズなのに中央で抱き合って寝るからスペースが余っている。
今後もこのスペースが有効活用されることはないだろうなと思いながら、すんなり眠りについた。
もちろんすぐに寝られるはずもなく、ポツリポツリと前世の話をしてたら夜が明けて、いつのまにか眠っていたらしい。
「えへへー」
変な声を出しながら思わずニヤけてしまう。
兄さんの寝顔を見ながら昨日のことを思い出す。恥ずかしいのにすごく幸せで、心臓がドキドキする。
何となくそうしたくなって、兄さんの頬をつつく。兄さんは眉間に皺を寄せたものの起きる気配がない。
寝顔もかっこいいなんて、ずるいなぁ。
しばらく兄さんの顔を眺めたり、頬をつついたりしていると急に不安が襲ってきた。
昨日の出来事は全部夢だったのではないか。あれは都合のいい妄想ではないか。
そんなことをぐるぐる考えていると、兄さんの目がうっすらと開いた。
兄さんはしばらくぼんやりとしていたが、やがて僕を視界に捉えると優しく微笑みかけた。
「おはよう」
寝起きの掠れた声にドキッとする。返事をするのを忘れて兄さんの声に聞き入ってしまった。
「ルカ?」
「……あ、おはようっ」
焦って上擦った声が出た。最悪だ。絶対変に思われた。
「あー、ルカだ。ルカがいる」
兄さんがふにゃっと笑った。その顔はかわいいなと見惚れていたら、兄さんの顔が目の前に迫っていた。そのまま唇を合わせるだけのキスをされる。思わず兄さんの唇に吸い付くと、唇が離れた時にちゅっと軽いリップ音が鳴った。
前世から数えても恋愛経験がないに等しい僕にとって、この一連の出来事は刺激が強すぎた。
ベッドの上を転げ回りたい衝動をすんでのところで抑える。
兄さんに声をかける勇気もなく静かに悶えていると、いきなり大声が響いた。
「ルカ!?現実!?」
兄さんは声を上げた勢いそのままに起き上がり、すかさず飛び退いた。止める間もなかった。
兄さんがベッドから落ちた。お手本のような落下だった。しかし、そこは現役冒険者。こんな状況でも見事な受け身を取っていた。
衝動に身を任せていたらこうなっていたのは僕だった。でもこれは、なるべくしてなったというやつだ。
だって僕達が寝ていたのはセミダブルのベッドだから。成人男性ふたりが並ぶには狭すぎる。並ぶというよりギチギチに詰まっていたという表現が正しいだろう。
「兄さん大丈夫?」
「なんとか」
「あのさ、」
「今日はベッドを買いに行こう。なるべく大きなやつを」
「僕もそれを言うつもりだった」
兄さんに手を貸すついでに体の状態を確認したが、特に怪我はないみたいだ。本当によかった。こんなことで回復魔法を使われたら、兄さんはしばらく立ち直れないだろうから。
体勢を整えた兄さんが寝室から出ようとドアノブに手をかける。
あ、そうだ。もう一つ言い忘れたことがあった。こういうのは勢いが大事だって前世の本で読んだ気がする。さっそく実践だ。
「兄さん」
「どうした?」
「好きだよ、だいすき」
兄さんが振り向いた体勢のまま、目を大きく開いて固まっている。
しまった。何か間違えてしまったようだ。昨日のことが夢だったのではと不安になったから、改めて気持ちを伝えたつもりだったのに。
表情に出さないように注意しながら内心焦っていると、兄さんが両手で顔を覆った。
急にどうしたのだろうと思い、兄さんを観察すると耳が赤くなっている。
兄さんは長い息を吐くと顔から手を外した。隠されていた瞳は涙で潤んでいた。
「俺もルカが大好きだ」
兄さんに優しく抱きしめられる。身体が密着しているから兄さんの鼓動が伝わってくる。通常よりも早めのリズムに心地よさを感じる。なぜなら僕も同じくらい心臓が高鳴っているから。
まるで心臓が兄さんと一緒になったような感覚がする。気持ち良くて身体が溶けてしまいそうだ。
もう少し、もう少しだけ。お互い何も言わず身を委ねる。
このまま一日が終わっても後悔はない。そう言い切れるくらいこの幸福に酔いしれていた。
結構長い間抱きしめ合っていたようだ。ベッドを購入するため外に出たら、昼はとっくに過ぎていた。
「ベッドを買ったはいいが、搬入することも部屋に入るかどうかも考えてなかったな」
「とりあえず家に入れたら無限収納が使えるから、それまでが問題だね」
「目立つが仕方ない。背負うか」
兄さんがベッドを背負って歩き出す。しっかりとした足取りの兄さんに思わず拍手を送る。
でもこのまま休み休み進んでいたら、家に着くのは夜になりそうだ。
僕は魔法で兄さんをサポートすることにした。違和感に気づいた兄さんが僕に声をかける。
「何かしたか?」
「兄さんに回復魔法をかけ続けてる。疲労しないから休みいらずだよ。筋肉に負荷がかからないから鍛練にならないけど、今回はいいでしょ」
「鍛練にならないのは惜しい気もするがそうだな。このまま魔法を続けてほしい」
「了解」
なんとか日が暮れる前にベッドを搬入することができた。問題は寝室だ。とりあえず本棚など備え付けの家具を全部無限収納にしまった。
家具も何もないガランとした部屋に、購入したキングサイズのベッドを置いた。ものすごい圧迫感だ。
それもそのはず、寝室の広さが5畳くらいしかないから。辛うじて小さなサイドテーブルが置けたくらいで他に家具を置くスペースが一切ない。
とりあえず寝室に入らない家具は、僕の寝室だった部屋に置くことにした。
改めてふたりの寝室を確認する。見れば見るほどベッドの存在感がすごい。
何というかあれだ。一緒に寝るためだけの部屋って感じが伝わって妙に生々しい。
ふたりとも気まずすぎて、寝る時間になっても寝室の入り口で立ち尽くしていた。
覚悟を決めて兄さんと一緒に寝室に入ったのは、夜も更けた頃だった。
せっかくのキングサイズなのに中央で抱き合って寝るからスペースが余っている。
今後もこのスペースが有効活用されることはないだろうなと思いながら、すんなり眠りについた。
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