79 / 158
ラウリア王国編
冒険譚
しおりを挟む
誕生日の翌日、人生初の二日酔いを経験した。とにかく頭が痛い。解毒の魔法が使えて本当に助かった。
記憶も途中からなくなっていて、慌てて兄さんに尋ねた。兄さんは「すまなかった」と謝罪の言葉を口にした後、何を聞いても沈黙したままで恐ろしくなった。兄さんの目のくまもすごかった。
今後はできるだけお酒を控えようと心に決めた。
僕の誕生日からちょうど1週間後、今日は国王の即位15周年と第三王子の成人祝いのため、城周辺の警備をすることになっている。
依頼を受ける過程で一悶着あったが、引き受けたからには責任を持ってやり遂げなければならない。
警備の仕事は夜から始まるが、仕事内容や注意事項の説明を受けるために、昼過ぎに冒険者ギルドに立ち寄る必要がある。果たしてそれは当日に確認することなのか疑問が残るが、ギルドの方針なので従うしかない。
「今日は頑張ろうね」
「気乗りしないが仕方ない」
「それにしても暑いね。うんざりする」
「本当にな」
なんでこんな暑い日に祭りをするんだ時期を選べよ、と不敬極まりないことを思ってしまう。口に出さなければ罪にならないのでこれくらいの愚痴は許されるだろう。
冒険者ギルドに着いたので、担当のジュディに声をかける。
「おはようございます」
「おはようございます。おふたりとも早いですね。助かります。では依頼内容の確認をいたしますので、さっそく2階の個室へ移動をお願いします」
「わかりました。兄さん行こうか」
「ああ」
確認も終わり1階に降りると、ジュディが慌てたように大声をだした。
「すみません!うっかりしてました!アイザックさんの武器は長物だから追加で注意事項がありました。アイザックさんだけ2階の個室で確認をお願いします。お手数をおかけして申し訳ございません」
しっかり者の印象があるジュディがこんなに焦っているのは珍しい。
「ルカ、絶対にカウンター前から動かないように。人の目があるところにいてほしい。早めに終わらせてくる」
「わかった。待ってるね」
2階に行く兄さんの背中を見送る。兄さんが見えなくなったので、椅子があるところに移動しようと思ったらバーナデットが話しかけてきた。
「今日はよろしくな。強引な真似をして申し訳ない。アイザックは近くにいないのか?」
「兄さんは確認することがあるから2階にいるよ。気にしてないからいいよ。よろしくね」
「そう言ってもらえると助かる」
実際すごく根に持ってるけどね。今まで敬語を使ってたけどやめたし。まだバーナデットの目的も全然わからない。今日の依頼は何事もなく終わればいいんだけど。
挨拶をしたら立ち去るだろうと思っていたが、バーナデットは動こうとしない。会話もないから気まずい。
僕は思い切って以前から気になっていたことを聞くことにした。
「バーナデットってさ、女性に多い名前だよね」
「そうだな、見た目がこれだから勘違いされたことはないが。この名前は奴隷時代にある方からつけてもらったんだ」
顔だけ見ると割と中性的だけどね。年齢も30歳だと知った時は予想より上で驚いた。たしかに身長が高いから女性とは思わないけど。
「その名前、もしかして『槍の英雄バーナデットの冒険譚』が由来?」
「えっ?」
バーナデットが目を大きく開けてこちらを見た。彼のこの表情は初めて見る。
「違った?ごめんね。槍使いだし目と髪の色が一緒だからてっきり」
「初めて由来を当てられたから驚いた」
「やっぱりそうだったんだ!名付けた人は今どうしてるの?」
「亡くなった。15年前に。前国王時代の第三王子殿下だ」
「ごめん」
「謝らないでいい。しかしよく知ってたな。かなり古い冒険譚だぞ」
「故郷の教会で読んだ。王道のストーリーで面白かった記憶があって。殿下と話してみたかったな。本の趣味が合う人ってなかなかいないから」
「ああ……そうだな。ルカならきっと殿下と仲良くなれただろうな」
バーナデットは泣きそうな顔で笑っていた。その顔が印象的で頭から離れなかった。
それから少しして兄さんが2階から降りてきた。
「待たせてすまない。おい、さっさとルカから離れろ」
「はいはい。今日はよろしくな。お前がいたら彼らも手を出さないだろう」
バーナデットがちらっと後ろを見る。その視線を追うと、以前僕に絡んできた冒険者がいた。
だから挨拶が終わっても立ち去らなかったのか。お礼を言おうと思ったらバーナデットはすでに離れたところにいた。
「なんなんだあいつは。嫌なことはされてないか?」
「挨拶しただけだよ。知らないうちに助けてもらってたみたい。今度お礼を言わなきゃ」
「そうか」
兄さんの顔が険しい。バーナデットを警戒しているのだろう。
僕はなぜかバーナデットの泣きそうな笑顔を思い返していた。
なんだろう、嫌な予感がする。前国王の第三王子と繋がりがあったバーナデット。今日は現国王の息子である第三王子の成人を祝う宴がある。僕達はバーナデットの推薦でその宴の警備をすることになった。
そういえば兄さんは、バーナデットから水晶を託されていた。もしそれが前国王の第三王子との思い出の品だったら——
最悪のシナリオが頭に浮かぶ。まさかね。それは映画の見過ぎってやつだ。
頭を小さく振ってその考えを否定する。考えすぎだ。そんなこと起きるわけがない。
それでも不安が波のように押し寄せてくる。僕はそれに逆らうように、明るく声を出した。
「今日は頑張ろうね!報酬が出たらまた焼肉食べ放題しようか!」
「それはいいな。頑張ろう」
記憶も途中からなくなっていて、慌てて兄さんに尋ねた。兄さんは「すまなかった」と謝罪の言葉を口にした後、何を聞いても沈黙したままで恐ろしくなった。兄さんの目のくまもすごかった。
今後はできるだけお酒を控えようと心に決めた。
僕の誕生日からちょうど1週間後、今日は国王の即位15周年と第三王子の成人祝いのため、城周辺の警備をすることになっている。
依頼を受ける過程で一悶着あったが、引き受けたからには責任を持ってやり遂げなければならない。
警備の仕事は夜から始まるが、仕事内容や注意事項の説明を受けるために、昼過ぎに冒険者ギルドに立ち寄る必要がある。果たしてそれは当日に確認することなのか疑問が残るが、ギルドの方針なので従うしかない。
「今日は頑張ろうね」
「気乗りしないが仕方ない」
「それにしても暑いね。うんざりする」
「本当にな」
なんでこんな暑い日に祭りをするんだ時期を選べよ、と不敬極まりないことを思ってしまう。口に出さなければ罪にならないのでこれくらいの愚痴は許されるだろう。
冒険者ギルドに着いたので、担当のジュディに声をかける。
「おはようございます」
「おはようございます。おふたりとも早いですね。助かります。では依頼内容の確認をいたしますので、さっそく2階の個室へ移動をお願いします」
「わかりました。兄さん行こうか」
「ああ」
確認も終わり1階に降りると、ジュディが慌てたように大声をだした。
「すみません!うっかりしてました!アイザックさんの武器は長物だから追加で注意事項がありました。アイザックさんだけ2階の個室で確認をお願いします。お手数をおかけして申し訳ございません」
しっかり者の印象があるジュディがこんなに焦っているのは珍しい。
「ルカ、絶対にカウンター前から動かないように。人の目があるところにいてほしい。早めに終わらせてくる」
「わかった。待ってるね」
2階に行く兄さんの背中を見送る。兄さんが見えなくなったので、椅子があるところに移動しようと思ったらバーナデットが話しかけてきた。
「今日はよろしくな。強引な真似をして申し訳ない。アイザックは近くにいないのか?」
「兄さんは確認することがあるから2階にいるよ。気にしてないからいいよ。よろしくね」
「そう言ってもらえると助かる」
実際すごく根に持ってるけどね。今まで敬語を使ってたけどやめたし。まだバーナデットの目的も全然わからない。今日の依頼は何事もなく終わればいいんだけど。
挨拶をしたら立ち去るだろうと思っていたが、バーナデットは動こうとしない。会話もないから気まずい。
僕は思い切って以前から気になっていたことを聞くことにした。
「バーナデットってさ、女性に多い名前だよね」
「そうだな、見た目がこれだから勘違いされたことはないが。この名前は奴隷時代にある方からつけてもらったんだ」
顔だけ見ると割と中性的だけどね。年齢も30歳だと知った時は予想より上で驚いた。たしかに身長が高いから女性とは思わないけど。
「その名前、もしかして『槍の英雄バーナデットの冒険譚』が由来?」
「えっ?」
バーナデットが目を大きく開けてこちらを見た。彼のこの表情は初めて見る。
「違った?ごめんね。槍使いだし目と髪の色が一緒だからてっきり」
「初めて由来を当てられたから驚いた」
「やっぱりそうだったんだ!名付けた人は今どうしてるの?」
「亡くなった。15年前に。前国王時代の第三王子殿下だ」
「ごめん」
「謝らないでいい。しかしよく知ってたな。かなり古い冒険譚だぞ」
「故郷の教会で読んだ。王道のストーリーで面白かった記憶があって。殿下と話してみたかったな。本の趣味が合う人ってなかなかいないから」
「ああ……そうだな。ルカならきっと殿下と仲良くなれただろうな」
バーナデットは泣きそうな顔で笑っていた。その顔が印象的で頭から離れなかった。
それから少しして兄さんが2階から降りてきた。
「待たせてすまない。おい、さっさとルカから離れろ」
「はいはい。今日はよろしくな。お前がいたら彼らも手を出さないだろう」
バーナデットがちらっと後ろを見る。その視線を追うと、以前僕に絡んできた冒険者がいた。
だから挨拶が終わっても立ち去らなかったのか。お礼を言おうと思ったらバーナデットはすでに離れたところにいた。
「なんなんだあいつは。嫌なことはされてないか?」
「挨拶しただけだよ。知らないうちに助けてもらってたみたい。今度お礼を言わなきゃ」
「そうか」
兄さんの顔が険しい。バーナデットを警戒しているのだろう。
僕はなぜかバーナデットの泣きそうな笑顔を思い返していた。
なんだろう、嫌な予感がする。前国王の第三王子と繋がりがあったバーナデット。今日は現国王の息子である第三王子の成人を祝う宴がある。僕達はバーナデットの推薦でその宴の警備をすることになった。
そういえば兄さんは、バーナデットから水晶を託されていた。もしそれが前国王の第三王子との思い出の品だったら——
最悪のシナリオが頭に浮かぶ。まさかね。それは映画の見過ぎってやつだ。
頭を小さく振ってその考えを否定する。考えすぎだ。そんなこと起きるわけがない。
それでも不安が波のように押し寄せてくる。僕はそれに逆らうように、明るく声を出した。
「今日は頑張ろうね!報酬が出たらまた焼肉食べ放題しようか!」
「それはいいな。頑張ろう」
117
お気に入りに追加
1,076
あなたにおすすめの小説

ある日、人気俳優の弟になりました。2
雪 いつき
BL
母の再婚を期に、立花優斗は人気若手俳優、橘直柾の弟になった。穏やかで真面目で王子様のような人……と噂の直柾は「俺の命は、君のものだよ」と蕩けるような笑顔で言い出し、大学の先輩である隆晴も優斗を好きだと言い出して……。
平凡に生きたい(のに無理だった)19歳大学生と、24歳人気若手俳優、21歳文武両道大学生の、更に溺愛生活が始まる――。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。
主人公の兄になったなんて知らない
さつき
BL
レインは知らない弟があるゲームの主人公だったという事を
レインは知らないゲームでは自分が登場しなかった事を
レインは知らない自分が神に愛されている事を
表紙イラストは マサキさんの「キミの世界メーカー」で作成してお借りしています⬇ https://picrew.me/image_maker/54346

弟は僕の名前を知らないらしい。
いちの瀬
BL
ずっと、居ないものとして扱われてきた。
父にも、母にも、弟にさえも。
そう思っていたけど、まず弟は僕の存在を知らなかったみたいだ。
シリアスかと思いきやガチガチのただのほのぼの男子高校生の戯れです。
BLなのかもわからないような男子高校生のふざけあいが苦手な方はご遠慮ください。

ある日、人気俳優の弟になりました。
雪 いつき
BL
母の再婚を期に、立花優斗は人気若手俳優、橘直柾の弟になった。顔良し性格良し真面目で穏やかで王子様のような人。そんな評判だったはずが……。
「俺の命は、君のものだよ」
初顔合わせの日、兄になる人はそう言って綺麗に笑った。とんでもない人が兄になってしまった……と思ったら、何故か大学の先輩も優斗を可愛いと言い出して……?
平凡に生きたい19歳大学生と、24歳人気若手俳優、21歳文武両道大学生の三角関係のお話。

愛され末っ子
西条ネア
BL
本サイトでの感想欄は感想のみでお願いします。全ての感想に返答します。
リクエストはTwitter(@NeaSaijou)にて受付中です。また、小説のストーリーに関するアンケートもTwitterにて行います。
(お知らせは本編で行います。)
********
上園琉架(うえぞの るか)四男 理斗の双子の弟 虚弱 前髪は後々左に流し始めます。髪の毛の色はご想像にお任せします。深い赤みたいなのアースアイ 後々髪の毛を肩口くらいまで伸ばしてゆるく結びます。アレルギー多め。その他の設定は各話で出てきます!
上園理斗(うえぞの りと)三男 琉架の双子の兄 琉架が心配 琉架第一&大好き 前髪は後々右に流します。髪の毛の色はご想像にお任せします。深い緑みたいなアースアイ 髪型はずっと短いままです。 琉架の元気もお母さんのお腹の中で取っちゃった、、、
上園静矢 (うえぞの せいや)長男 普通にサラッとイケメン。なんでもできちゃうマン。でも弟(特に琉架)絡むと残念。弟達溺愛。深い青色の瞳。髪の毛の色はご想像にお任せします。
上園竜葵(うえぞの りゅうき)次男 ツンデレみたいな、考えと行動が一致しないマン。でも弟達大好きで奮闘して玉砕する。弟達傷つけられたら、、、 深い青色の瞳。兄貴(静矢)と一個差 ケンカ強い でも勉強できる。料理は壊滅的
上園理玖斗(うえぞの りくと)父 息子達大好き 藍羅(あいら・妻)も愛してる 家族傷つけるやつ許さんマジ 琉架の身体が弱すぎて心配 深い緑の瞳。普通にイケメン
上園藍羅(うえぞの あいら) 母 子供達、夫大好き 母は強し、の具現化版 美人さん 息子達(特に琉架)傷つけるやつ許さんマジ。
てか普通に上園家の皆さんは顔面偏差値馬鹿高いです。
(特に琉架)の部分は家族の中で順列ができているわけではなく、特に琉架になる場面が多いという意味です。
琉架の従者
遼(はる)琉架の10歳上
理斗の従者
蘭(らん)理斗の10歳上
その他の従者は後々出します。
虚弱体質な末っ子・琉架が家族からの寵愛、溺愛を受ける物語です。
前半、BL要素少なめです。
この作品は作者の前作と違い毎日更新(予定)です。
できないな、と悟ったらこの文は消します。
※琉架はある一定の時期から体の成長(精神も若干)がなくなる設定です。詳しくはその時に補足します。
皆様にとって最高の作品になりますように。
※作者の近況状況欄は要チェックです!
西条ネア

兄たちが弟を可愛がりすぎです
クロユキ
BL
俺が風邪で寝ていた目が覚めたら異世界!?
メイド、王子って、俺も王子!?
おっと、俺の自己紹介忘れてた!俺の、名前は坂田春人高校二年、別世界にウィル王子の身体に入っていたんだ!兄王子に振り回されて、俺大丈夫か?!
涙脆く可愛い系に弱い春人の兄王子達に振り回され護衛騎士に迫って慌てていっもハラハラドキドキたまにはバカな事を言ったりとしている主人公春人の話を楽しんでくれたら嬉しいです。
1日の話しが長い物語です。
誤字脱字には気をつけてはいますが、余り気にしないよ~と言う方がいましたら嬉しいです。

推しの完璧超人お兄様になっちゃった
紫 もくれん
BL
『君の心臓にたどりつけたら』というゲーム。体が弱くて一生の大半をベットの上で過ごした僕が命を賭けてやり込んだゲーム。
そのクラウス・フォン・シルヴェスターという推しの大好きな完璧超人兄貴に成り代わってしまった。
ずっと好きで好きでたまらなかった推し。その推しに好かれるためならなんだってできるよ。
そんなBLゲーム世界で生きる僕のお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる