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太陽の国ミヅホ編
船上での暇つぶし
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夏と秋の間、創造神と女神の月のある日。僕達はラウリア王国行きの船に乗り込もうとしていた。
「道中お気をつけて。私は今後も修行に励みます。いつか師匠の一番弟子を名乗れるように頑張ります!」
「頑張れ」
「はい!」
もうヒスイの師匠呼びは諦めた。人の目があるところでは名前で呼ぶのでよしとする。
「オボロから港に来るの大変だったでしょ。帰りは大丈夫?」
「巫女の付き添いで来たので大丈夫です」
「それならよかった。じゃあ、元気でね。ヒスイなら癒しの巫女になれるよ」
「ありがとうございます!師匠、アイザックさんお元気で。また会いましょう」
「またね」
「ああ」
ちょっと変わってるけどいい子だったな。これからもコハルと仲良く頑張ってほしい。コハルは茶店があるから見送りに行けないことを最後まで悔しがっていた。
次はいつになるかわからないが、またオボロに寄れたらなと思う。
港がだんだん小さくなっていく。僕は港が完全に見えなくなるまで手を振った。
すっかり忘れていた。船上での暇つぶしを全く考えてなかった。
どうしようかなと考えていると、兄さんが意を決するように口を開いた。
「俺に魔法を教えてくれないか」
「兄さんが魔法?」
「俺の体質では難しいと思うが」
「そんなことないよ。すごく大変だけどいいの?」
「問題ない。乗り越えてみせる」
なぜ兄さんはそんなに覚悟を決めているのだろう。
でもいい機会かもしれない。実は僕も兄さんの魔法について考えていた。
兄さんは魔力が外に放出できない体質だ。そのため身体強化しか魔法を使っていない。もし他の魔法も使えるようになったら兄さんはもっと強くなる。
「まず兄さんの魔力の流れを確認したいから、生活魔法の光球を目の前に浮かせるイメージで使ってみて」
「わかった」
兄さんが光球を使うと光が目の前に浮くことなく指についたまま止まっていた。
「5分そのままで。常に光球を浮かせるイメージでね」
「ああ」
「もういいよ。お疲れ」
「何かわかったのか?」
今のでだいぶわかった。兄さんは魔力が放出できないだけで発動は続けられる。
どんなに身体から離れて発動することをイメージしてもそこに止まり続ける。つまり身体から離れなければ、魔法を使い続けることができる。
「兄さんの適性は土と無だったよね」
「そうだ」
「なら大剣に土属性魔法《硬化》を付与できるようにしよう」
「そんなことができるのか?」
「出来ると思う。身体強化と併せるなら、魔法の同時発動になるからかなり難易度は上がるけど」
「まずは付与をやってみる」
兄さんが大剣に硬化を付与しようとするが魔法が発動できないまま終わった。
「昔試したことがある。その時も上手くいかなかった」
「それは兄さんが大剣を自分の身体の外だと思ってるからだよ」
「身体の外?」
「恐らく兄さんは刃先から硬化されるイメージで魔法を使ってる」
「その通りだ」
「それだと身体から離れた場所に魔法を放出したことになる。だから大剣を自分の腕の一部だと思い込んで。ほら身体強化の魔法って心臓から末端に魔力が広がるイメージで使ってるでしょ?」
「そうだな。たしかにそのイメージで身体強化を使っている」
「硬化も同じだよ。心臓から腕、指先、持ち手そして刃元から刃先」
魔力の流れを確認するように手の平で兄さんの身体をなぞる。指先をなぞった時に兄さんの指がピクリと動いた気がした。
「わかった?」
「試してみる」
「難しいな」
「指先から持ち手に魔力を流す時に途切れちゃってる」
「やはりそうか。指先から魔法が霧散した気がした」
「ちょっと大剣借りるよ。兄さんは僕の右手を握って」
「わかった」
右手で持ち手を握る。兄さんはその上から覆うように僕の右手を握った。
「土属性魔法《硬化》」
よかった。一発で上手くいった。ここで失敗したら格好悪いからね。
今兄さんは指先から持ち手へ魔力が流れる感覚を体感しているはずだ。
魔力の相性が悪いと手を握っていられないくらい気持ち悪くなる。兄さんにだからできる指導方法だ。
「どう?感覚は掴めた?」
「今なら出来る気がする」
兄さんが硬化の魔法を使う。成功だ。前から思っていたが兄さんは魔法の才能もある。何日かかかる気がしたが、コツを掴んだらすぐ再現できた。
「できた!」
「おめでとう!すごい!何日かかかると思ってた。普段から身体強化の使い方が上手いから、魔力の流れを掴むのも早いね。さすがだ」
「褒めすぎだ」
「思ったことを言っただけなのに」
兄さんにそっぽを向かれた。褒めるって難しいな。思ったことを言っただけでは心に響かないみたいだ。
「兄さんを見てたら僕も燃えてきた」
「え?」
「硬化を発動させて」
「ああ」
「いいね!じゃあそれを魔力切れ直前まで繰り返すよ。目標は息をするように硬化の魔法を使うこと。硬化の発動をやめてから1秒以内で再発動が出来るまで頑張ってね」
「それは難しいかと」
「大丈夫!慣れたら寝ながらでも発動出来るようになるから!」
「寝ながら?」
「魔力が切れそうになったら、魔力制御の鍛練に切り替えよう。身体強化と硬化を同時発動させるには繊細な魔力制御が必要になるからね」
「俺は大剣の鍛練もあるからそこまでは」
「むしろ都合がいい。大剣振りながら硬化の魔法を発動させて。その間身体強化禁止ね」
「ルカも俺に付き合うのは大変じゃないか?」
「僕は兄さんを監督しながら、難しすぎて諦めていた魔法の研究を続けることにする。魔法漬けの毎日だけど船旅は暇だからちょうどいいや」
「……俺はやるぞ。やりきってみせる」
「一緒に頑張ろう!」
暇な船旅になると思ったがそんなことはなさそうだ。この難題を乗り越えた時、僕達はもっと強くなっていることだろう。
「兄さん!発動が乱れてる。速さは一度忘れて、確実に硬化の魔法を発動できるようにまずは意識して」
「わかった」
ラウリア王国まであと10日。兄さんの魔法はどれくらい上達するのだろう。
頬を撫でる風が心地よい。鍛練に集中しすぎてその場から一歩も動かない兄さんを揶揄うように、海鳥達が空を自由に舞っていた。
「道中お気をつけて。私は今後も修行に励みます。いつか師匠の一番弟子を名乗れるように頑張ります!」
「頑張れ」
「はい!」
もうヒスイの師匠呼びは諦めた。人の目があるところでは名前で呼ぶのでよしとする。
「オボロから港に来るの大変だったでしょ。帰りは大丈夫?」
「巫女の付き添いで来たので大丈夫です」
「それならよかった。じゃあ、元気でね。ヒスイなら癒しの巫女になれるよ」
「ありがとうございます!師匠、アイザックさんお元気で。また会いましょう」
「またね」
「ああ」
ちょっと変わってるけどいい子だったな。これからもコハルと仲良く頑張ってほしい。コハルは茶店があるから見送りに行けないことを最後まで悔しがっていた。
次はいつになるかわからないが、またオボロに寄れたらなと思う。
港がだんだん小さくなっていく。僕は港が完全に見えなくなるまで手を振った。
すっかり忘れていた。船上での暇つぶしを全く考えてなかった。
どうしようかなと考えていると、兄さんが意を決するように口を開いた。
「俺に魔法を教えてくれないか」
「兄さんが魔法?」
「俺の体質では難しいと思うが」
「そんなことないよ。すごく大変だけどいいの?」
「問題ない。乗り越えてみせる」
なぜ兄さんはそんなに覚悟を決めているのだろう。
でもいい機会かもしれない。実は僕も兄さんの魔法について考えていた。
兄さんは魔力が外に放出できない体質だ。そのため身体強化しか魔法を使っていない。もし他の魔法も使えるようになったら兄さんはもっと強くなる。
「まず兄さんの魔力の流れを確認したいから、生活魔法の光球を目の前に浮かせるイメージで使ってみて」
「わかった」
兄さんが光球を使うと光が目の前に浮くことなく指についたまま止まっていた。
「5分そのままで。常に光球を浮かせるイメージでね」
「ああ」
「もういいよ。お疲れ」
「何かわかったのか?」
今のでだいぶわかった。兄さんは魔力が放出できないだけで発動は続けられる。
どんなに身体から離れて発動することをイメージしてもそこに止まり続ける。つまり身体から離れなければ、魔法を使い続けることができる。
「兄さんの適性は土と無だったよね」
「そうだ」
「なら大剣に土属性魔法《硬化》を付与できるようにしよう」
「そんなことができるのか?」
「出来ると思う。身体強化と併せるなら、魔法の同時発動になるからかなり難易度は上がるけど」
「まずは付与をやってみる」
兄さんが大剣に硬化を付与しようとするが魔法が発動できないまま終わった。
「昔試したことがある。その時も上手くいかなかった」
「それは兄さんが大剣を自分の身体の外だと思ってるからだよ」
「身体の外?」
「恐らく兄さんは刃先から硬化されるイメージで魔法を使ってる」
「その通りだ」
「それだと身体から離れた場所に魔法を放出したことになる。だから大剣を自分の腕の一部だと思い込んで。ほら身体強化の魔法って心臓から末端に魔力が広がるイメージで使ってるでしょ?」
「そうだな。たしかにそのイメージで身体強化を使っている」
「硬化も同じだよ。心臓から腕、指先、持ち手そして刃元から刃先」
魔力の流れを確認するように手の平で兄さんの身体をなぞる。指先をなぞった時に兄さんの指がピクリと動いた気がした。
「わかった?」
「試してみる」
「難しいな」
「指先から持ち手に魔力を流す時に途切れちゃってる」
「やはりそうか。指先から魔法が霧散した気がした」
「ちょっと大剣借りるよ。兄さんは僕の右手を握って」
「わかった」
右手で持ち手を握る。兄さんはその上から覆うように僕の右手を握った。
「土属性魔法《硬化》」
よかった。一発で上手くいった。ここで失敗したら格好悪いからね。
今兄さんは指先から持ち手へ魔力が流れる感覚を体感しているはずだ。
魔力の相性が悪いと手を握っていられないくらい気持ち悪くなる。兄さんにだからできる指導方法だ。
「どう?感覚は掴めた?」
「今なら出来る気がする」
兄さんが硬化の魔法を使う。成功だ。前から思っていたが兄さんは魔法の才能もある。何日かかかる気がしたが、コツを掴んだらすぐ再現できた。
「できた!」
「おめでとう!すごい!何日かかかると思ってた。普段から身体強化の使い方が上手いから、魔力の流れを掴むのも早いね。さすがだ」
「褒めすぎだ」
「思ったことを言っただけなのに」
兄さんにそっぽを向かれた。褒めるって難しいな。思ったことを言っただけでは心に響かないみたいだ。
「兄さんを見てたら僕も燃えてきた」
「え?」
「硬化を発動させて」
「ああ」
「いいね!じゃあそれを魔力切れ直前まで繰り返すよ。目標は息をするように硬化の魔法を使うこと。硬化の発動をやめてから1秒以内で再発動が出来るまで頑張ってね」
「それは難しいかと」
「大丈夫!慣れたら寝ながらでも発動出来るようになるから!」
「寝ながら?」
「魔力が切れそうになったら、魔力制御の鍛練に切り替えよう。身体強化と硬化を同時発動させるには繊細な魔力制御が必要になるからね」
「俺は大剣の鍛練もあるからそこまでは」
「むしろ都合がいい。大剣振りながら硬化の魔法を発動させて。その間身体強化禁止ね」
「ルカも俺に付き合うのは大変じゃないか?」
「僕は兄さんを監督しながら、難しすぎて諦めていた魔法の研究を続けることにする。魔法漬けの毎日だけど船旅は暇だからちょうどいいや」
「……俺はやるぞ。やりきってみせる」
「一緒に頑張ろう!」
暇な船旅になると思ったがそんなことはなさそうだ。この難題を乗り越えた時、僕達はもっと強くなっていることだろう。
「兄さん!発動が乱れてる。速さは一度忘れて、確実に硬化の魔法を発動できるようにまずは意識して」
「わかった」
ラウリア王国まであと10日。兄さんの魔法はどれくらい上達するのだろう。
頬を撫でる風が心地よい。鍛練に集中しすぎてその場から一歩も動かない兄さんを揶揄うように、海鳥達が空を自由に舞っていた。
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