【本編完結】異世界まったり逃避行

ひなた

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太陽の国ミヅホ編

目の毒

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 早いものでもう夏だ。暑すぎて茶屋から足が遠のいている。
 あれからヒスイはかなり頑張っているらしい。だいぶ前にコハルが嬉しそうに教えてくれた。

「外でこの格好は珍しいな」
「暑いから着てみた。浴衣は涼しいね」
「似合ってる」
「ありがとう」
 あまりの暑さに浴衣を着てみたが正解だった。
 帯の部分以外締め付けがないので足元や袖から風が入ってきて涼しい。
 兄さん用の浴衣もあるが、身長が高すぎて丈が足りなかったので室内用だ。

 今日は休息日で特にやることもない。暑いので河原沿いを散歩することにした。
「ルカは髪がかなり伸びたな」
「切る気になれなくて」
「暑くないか?」
「暑いけど切るのはまだいいかな」
 兄さんから貰った髪紐があるし。1年前の誕生日に貰ってからずっと使っている。僕もそろそろ15歳だ。

 そんな話をしたから髪紐が気になって、いじっていると取れてしまった。結びが甘かったようだ。
 立ちながら結び直すのは上手くいかない気がしたので、久しぶりにコハルがいる茶屋に寄ることにした。

「久しぶりね!」
「暑くてなかなかね」
「ちょうどいい時に来たね!今日は冷やしたスイカがあるから食べてってよ!」
「ありがとう」
「あれ?髪どうしたの?」
「髪紐が取れちゃって。今から結び直す」
「ちょっと待ってて。ルカに似合いそうなのあるから!取ってくる!」

 僕に似合いそうなもの?いったいなんだろう。
「はい。使い方教えるからさ、つけてみてよ!」
「かんざし?」
「慣れたら楽だよ!今の時期にちょうどいいし。これルカにあげるね」
 それ男がつけていいのかな。断れなくて受け取ってしまったけど。

 コハルの説明を聞きながら髪をまとめてみる。コツを掴むまでが大変だった。
 上手く出来たけど棒一本で髪がまとまるのが不思議でそわそわする。
「どう?出来てる?」
「出来てるよ!似合ってる!あ、スイカと麦茶持ってくるね」

「兄さんどう?似合ってる?」
「ああ……いいんじゃないか」
 なんとなく兄さんの目線が下にいってるような。下というか首元?確かに髪を伸ばしてから首を完全に晒すのは久しぶりかもしれない。
 そう思うと浴衣との組み合わせもあってより涼しく感じてきた。普段は髪紐で暑い日はかんざしでもいいかも。

「お待たせしました!」
 スイカと麦茶がきた。前世で味の記憶はあるがこの世界では初めてスイカを食べる。
 食べてみると全然甘くない。前世の味を想像するとびっくりするかも。
 でも暑い日に食べる冷えたスイカは美味しく感じる。井戸水で冷やしたのだろうか?外で冷たいものを食べられるのは嬉しい。
 今日はすごく暑かったので助かった。少ししたら首元にかいた汗も引くだろう。

「見て。赤いところ全部食べた」
「綺麗に食べたな」
「でしょ?」
 あまりお行儀はよくないがスイカを綺麗に食べられたことに感動して、思わず兄さんに見せた。
 初めてのスイカにはしゃいだのがいけなかった。手が滑って皮を地面に落としてしまった。

「あ、いけない」
 縁台から腰を浮かして、落とした皮の手前でしゃがんだ。スイカの皮に土がついていて、せっかく綺麗に食べたのにと思わずしゃがんだまま眺めてしまった。すると背後から影が差した。
「兄さんどうしたの?」
 振り向かずに聞いてみたが応えてくれない。どうしたんだろうと思っていたら、兄さんも僕のすぐ近くにしゃがんだ。そしていきなり、かんざしを引き抜いた。
 かんざしが無くなったことで髪が首元を覆って暑くなった。

「えっ?本当にどうしたの?」
「目の毒だ」
「は?」
「首の防御力がなさすぎて心配になった。外ではそれを付けないでくれ」
「わかった……?」
 なぜ首の防御力に言及したのかはわからないが、兄さんの気迫に思わず返事をしてしまった。

 その後なぜかコハルから貰ったかんざしは没収された。
 そして15歳の誕生日にかんざしを貰った。綺麗な緑色の石がついたかんざしだ。

 前世の知識のせいで受け取る時にすごく緊張してしまった。兄さんにそんな意図がないことはわかっている。後で調べたらこの世界では特にそういった意味はないみたいだ。

 だから僕だけが勝手に緊張しているのだ。前世のことを話すわけにはいかないので、これは誰にも相談することができない。
 あれは男性から女性に贈った場合の意味だからと自分に言い聞かせる。

 貰ったかんざしを日の光にかざす。飾りの石がキラキラ光ってとても綺麗だ。透き通った緑が何を意味するのかは考えないことにした。
 一方的に気まずい思いをするからとこのかんざしをつけないのは、もったいない気がする。
 何回かつけたら慣れるだろう。それまでの辛抱だ。ますます髪を切る機会が遠ざかったが、まあいいか。

 兄さんに言ったらどんな顔をするんだろう。まさか前世でかんざしを贈る意味が求婚だなんて思ってもいないだろう。
 ありえない未来を想像したら可笑しくなった。
 もしいつかその意味を教えることができたら、その時は思いっきり揶揄ってやろう。

 密かに夢想する僕を後押しするように夏の日差しが今日も眩しく降り注いでいた。
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